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ひなたとなずな

「本国からの視察が、また来てるんだ。」
 グライダーの羽を畳みながら、なずなは言った。
「いくら視察に来たところで、やる気もないなら何も変わらないっての。」
 憎まれ口のような口調の中にも、まんざらでもない声色が見える。
「本国の穢土から見れば、シマは浄土も同じだからな。エキザカムも、今となっては惜しいものを手放したと悔いてるだろうよ。」
「ちがいない」
 手際良くグライダーを片づけて、車へ放り込んだ。
「乗れよ。送ってく。」
「さんきゅ」
 機嫌がいいときは、そりゃあいいもんだ。普段なら自分だけ乗って「じゃあな」だろう。
「なつめなんか浮かれてるんだぜ。ハネの運用や管理計画は、もっぱらあの子がやってるから。誇らしいんだろう。」
 そういう口とは別に、ハンドルをひねるなずなの手は、機械の手入れはあたしが受け持ってるんだ、と主張していた。
「浮かれてンのは、お前もだろ?誇らしいのも。」
「……ちがいない」
 頭を掻きながら苦笑いしている。
「インフラから除外されたときはどうなるかと思ったけど、親父は正しかったわけだ。親父が人生をかけて守ったものが、本国どころか今や世界中の注目を集めてる。」
 滅多に何かを鼻にかけたりしないなずなが、珍しい。
「造ったのと、決めたのとは親父さんかも知れないが、守ったのと、続けたのとはお前となつめさんだろう。あの口下手な親父さんの交渉より、美人姉妹管理者のコマーシャルの方がよほど効果はあったと思うけどな。お前は黙って座ってただけだったが。」
「それはお前が『なずなはしゃべるな』っつったから……!」
 そうだっけか?
 記憶にはないが、まあ、昔の僕は正しいことを言ったらしい。
「なんにせよ」
 さっき買ったばかりなのにもう温くなりはじめているコーラを口に含んで、なずなに言う。こいつはいつも、言葉にして誰かにそうだと言って貰わない限り実感しない奴だから。
「あのハネはお前の功績でもあるんだ。もっと喜んでもいいだろう。」
「……ありがと」
 それからは、互いにぽつりぽつりと言葉を口にするだけだった。