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【美鈴・咲夜】幻想散華③

久しぶりの。
相変わらずの倒錯具合なのでお勧めできません。
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「……私がそんなことに協力すると思っているの?」

 玉座で足を組み頬杖を突いて霊夢を見下すのは、その尊大な態度とは裏腹に幼い風貌の少女。

「やっぱり、だめ?」
「霊夢が私のものになってくれるなら、未来永劫私がやってあげてもいいけれど。そうよ、霊夢。私に血を捧げれば、そんな憂いからは解放されるわよ?」

 悪戯っぽく笑うレミリア。本気で言っているのかどうなのか、よく分らない。こいつはいつもそうだ。幻想郷全体を紅い霧で覆ったから何事かと思えば、外に出易くなるかもしれない、とは。そもそも人間ではない者達の思考のとっぴさと規模の巨大さは、自分の常識の物差しでは計り知れないのだ。だから逐一頭を抱える。レミリアや萃香のやってくれることは、本当に理解の範疇を超えている。……紫も、そうだった。

「あいにく私は、人間でいたいの。」
「……誰かと同じことを言う」

 きっとメイドのことだろう。ただ、私の願いは咲夜のそれとは少しばかりあり方が違う。咲夜の主張は既に人間としての存在を謳歌している者が、それを守るためのものだ。だが私は。

「ふ。私から血を吸っても、多分そうはならないわよ?わかるでしょう?」
「……違いないわね。でもあまり悲観し過ぎるのはよくないんじゃない?」
「実感がないのだから、仕方ないわ。」

 レミリアとは、霧の事件で出会い、そして実際に全力対全力でぶつかり合うことで互いを理解し尊重し合える仲になった、熱血系で言う所の『拳の仲』のような間柄。互いに気兼ねしない、歯に衣着せずに言い合う特殊な関係。ぶっちゃけ、それに甘えてみようと思って紅魔館へやってきたが、レミリア程の者が人間の世間の問題を取り合うはずもなかった。彼女自身は、どんな大地震が来ても平気だろうから、無理も無いといえば無理も無い。

「そっか……。時間をとらせて悪かったわね。他を当たるわ。」

 霊夢がレミリアに背を向けようとすると、それを引き止める声。

「まあまあ、そう慌てないの。私は嫌だけど、この件に関して割にナーバスな位置にある奴が一人いてね。」
「?そんな奴、いたかしら?」
「ええ。地震で門が壊れると困る奴が。」

 門といえば紅美鈴か、と考えてはみるが、今一つぴんと来ない。

「なんで?直すのが面倒だから?」
「彼女はこの館の門の憑喪神よ。私がこの館に棲み付く前からここにいる。」
「ええ?そうなの?その割に弱……」
「それは可哀想だから言わないであげて」

 ぷっ、と笑いながらも、なるほどと感心する。それならば地震で門が壊れようものなら、美鈴存在自体が危ういことになる。それだけの歴史があるならもう独立しているかもしれないが、確かにあれだけ自由に動き回っている以上敢えて母体から分離するという賭けに出ることもないだろう。

「まあ、力を発揮できないでいるのは、守る対象が門や館じゃないからでしょうね。私を守ることなんて、彼女の存在理由にはなり得ないのよ、本来は。その自覚がないこと自体が、美鈴らしいのだけれど。」
「ふうん」

 美鈴の姿と、ことあるごとに転んだり咲夜にナイフを突き刺されて泣いている彼女を想像し、いやあ、強いとかないわ、なんて思っていると。

「信じてないわね?」

 鋭い読みが飛んできた。

「正直いって。」
「まあ、今やりあえって言うのも変な話になりそうだからそれはしなくていいんだけれども。……咲夜に空間拡張をしてもらう前に一度、館の増築を考えたこともあるのよ。そのときに、門が邪魔になってね。その時は館の座敷童みたいなもんかと思っていて、迂闊だったのだけれど、つまり彼女を本気で怒らせてしまって。それまで半べそかいて『やめてくださいー』とか言っていたのに、門の柱にヒビが入った瞬間……」

 そこまで言って、後は肩をすくめるだけで言葉にしない。

「どうなったのよ?」
「私が増築を諦めた。それだけよ」

 ……マジか。

「彼女の武勇伝はそれくらいにしておいて……まあ、年に数日いなくなるくらい、なんてことないから、使い道があるなら使ってあげて。咲夜」

 レミリアがメイドを呼ぶと、立体映像が投影されるように、どこからともなく咲夜が現れる。レミリアが呼べば絶対どこでも出てきそうだな。式かこのメイドは。

「お呼びでしょうか」
「美鈴を連れて来て」
「かしこまりました」

 しずしずと下がる咲夜。あ、帰りは徒歩なんだ。

「……しかし面白いことを考えたものね。ああ、安心して。この館からの水漏れはないわ。」
「恩に着るわ」
「紫も大胆なことを。」

 くすくすと笑うレミリアは、見た目は幼いというのにその身から放たれる雰囲気は流石の一言。それを隠そうともしないまま小さく笑うのは、彼女をよく知った者でなければ恐怖に身を震わせることだろう。

「よほど大切なのね」
「そりゃあ、あのやり方は、紫から見れば腹を立てても仕方ないわ。TOBみたいなもんだもの。」
「てぃーおー……なに?」
「既製品の所有権の一部を、横槍で苦労なく得ることよ。幻想郷は彼女の第一の関心事だもの。」
「へえ。てぃーおーびー、初めて聞いた。……いやいや、そうじゃないでしょ。紫が怒っているのは。」
「ええ?」
「貴方のことでしょ?自覚無いの?」

 顔を斜にずらし、折った人差し指を口元に添えて怪訝そうな顔で私を見る。紫も可哀想ね、こんな甲斐性なしが相手で、なんて。小声で言っても聞こえてるっての。それをいうならお前もだろう、メイド長も可哀想に。

「……随分ゴシップ好きだったのね、意外。でも、そんなんじゃないわよ。わかるでしょ?今回のことで、アイツは私をシステムとして利用したのよ。仕方の無いことだけど、紛れもない事実」
「ふうん。あんまり卑下しない方がいいわよ?自分の周りを御覧なさい?人間も妖怪も妖精も鬼も、かつてはどうだったのか知らないけれど、今や霊夢の周りには貴方を好いて集まる者が沢山いる。あ、あと、吸血鬼の中にも一人、そんなやつが……」
「……ありがと」
「ふん、事実を言ったまでよ、べつに……」

 こう言うところは本当、歳に似合わず、外見に見合った可愛らしさがある。

「お連れしました」

 咲夜が美鈴を連れてきた。

「ありがとう。下がっていいわよ」
「は」

 咲夜は扉の奥に消える。本当に忠実だなあ。

「あの、私、なんで」

 訳も分らず連れてこられた美鈴は明らかにキョドっている。そこにつき刺さる主人の答え。

「知らないわ」
「はいっ?」

 いきなり涙目。

「そこの巫女に聞いて。貴方はレンタルよ。」

 そういうことか。レミリアの配慮には感心するが、美鈴が余りにも可哀想だ。

「霊夢さん……?」
「これから毎年この時期に、何日間か私の下で仕事をしてもらうわ。極秘で。わかるでしょ、この部屋にメイドの一人もいないのを見れば。」
「ご、極秘任務……」


「ええ。クライアントの意思にそぐわなかったら、美鈴、貴方咲夜に何をされるか分らないわよ?」

 その言葉を聞いた瞬間、美鈴の背筋がぴんと張った。猫なら瞳孔を縮めて耳や尻尾を逆立てるような、そういう仕草。

「ワワワワカリマシタ!」

 一体どういう教育をしているんだ、この屋敷は。

「じゃあ、有難く借りていくわ。美鈴、こう言うのは初めてだけど、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」

 想定外だが、力だけは強い奴から協力を得られた。細かいことは言わず、分業させるのがいいか。物理エネルギーを使った至近距離での破壊力なら申し分ないし。まあ、要石を削るのにそれが役に立つかどうかは別だが。そこは紫に問い合わせてみないとわからない。
(次が問題ね……引き受けてくれるかしら……)
 最後、心当たりで最も重要な人物。どう持ちかけるべきか正直迷っていた。





「……なんだったの?」

 王室に相当する部屋から、先に出てきたのは美鈴だった。霊夢はお嬢様と積もる話、ってところか。

「あ、咲夜さん。それが、極秘とかで……お教えできません」

 ばつの悪そうな美鈴。

「そ。お嬢様がそんな密命をね」
「それが、霊夢さんらしいんです。私、しばらくレンタルみたいで」

 霊夢がわざわざ美鈴を……?今日ここに来たのはその用事ということか。しかし今ひとつ腑に落ちない。

「来週から二、三日、お屋敷を空けますので、よろしくお願いしますね」
「来週って……お祭の日じゃない。」
「……ええ……」

 悲しげな表情を俯かせる。博麗の新しい祭『要祭』の開催日が丁度一週間後だ。その日から、当の博麗が美鈴を借り出して何をする気だろうか。

「……また、来年もあるわ。あの巫女がその気なら、だけど。」

 落胆したのは……私もだった。美鈴の浴衣姿を見れると、それに私もめかし込んで制服以外の姿を見てもらえるかなんて、浮かれていたものだから。
 まさか、いつのまにか美鈴が霊夢と……?
 下らない嫉妬から生まれる妄想がよぎったが、すぐに振り払う。そんなことは、ないだろう……。

「お祭、楽しみにしてたんです。咲夜さんと一緒に行けるって……」
「……そう。」

 そう、って、なんだ。……どうして素直に残念そうにできないんだ私は。
「私も楽しみにしていた」
と言えないんだ。私だって、美鈴と、出店を回ったりお参りしたりを想像して、そわそわしていただろうに。

「ごめんなさい」
「何で謝るのよ。ちゃんとお勤めしてらっしゃいな。密命って、重要なことなんでしょう?」
「わかりませんが……」
「ま、確かに、せっかくの機会、惜しいわね。」

 ふた月ほど前だろうか。少し、不安定になっていた私は、美鈴とセックスして以来、つまりそういう関係だった。でも私の方が忙しくて、なかなかデートらしいことも出来ずに、ずるずると屋敷ですれ違うだけの日々を過ごしてしまっている。来週の要祭のタイミングで、夕方以降の休みを取れた私は、美鈴とお祭を回れると嬉々としていたのに、この仕打ちとは。
 それでも冷めた態度を取ってしまうのは、彼女との関係には
「お嬢様の身代わりとして」
という前置詞がつくからだろうか。彼女も、それは了承している。だが、それでも割り切れない何かが、胸の内にどっしりと構えてしまっていた。

「あの!」
「なに?」
「今夜、少しだけ、お時間頂けませんか?」

 ずい、と踏み出す美鈴。彼女の方が背が高いので……頼まれている私の方が見上げる形になって変な構図。無論、その背の差に嫌悪感はない。むしろ彼女とこういう関係になったのには、この背丈の差に押し切られた分もあった。
 言動は頼りなさげで庇護欲を掻き立てられるのに、妙に大人びた一瞬があり、頼れそうに見えるせたけがあって、つまり、私はそこに甘えたのだ。

「明日は早番じゃないし、時間はあるけれど……」
「じゃあ、お祭に行きませんか?」
「はぁ?」

 間違いなく祭は来週だ。彼女の言っている真意が読めない。

「ささっと着替えて、神社の離れで、のんびり涼みませんか?露店も花火もないですけど、お酒と月と、それを楽しむひとときくらいなら、ありますよ」
「あら、随分風流なのね。ふふ、いいわね、皆より一足先に楽しむとしましょうか」

 私がそう答えると、ぱあっと花開くような笑顔。彼女の逐一無邪気なそういう振る舞いが、経た年に見合わず愛らしい。そして、一週間後に控えたまま一週間前に立ち消えた
「楽しみ」
が、急に今からになったとあって……胸が高鳴り始めた。

「じゃあ、半刻後に、正門で待ちあわせましょうか。」
「はい!」

 弾けるように返事を返し、廊下遠ざかる彼女。私も心なしか軽い足取りを感じながら自室へと向かった。

 何を着て行こうか。年甲斐もなくそんなことに悩んでしまう。
 この館に来る前の私も、そうやって誰かの気を引こうと服装や身だしなみに気をかけたりしたのだろうか。ふとそんな疑問が浮かんだ。それを思い出そうとしてみたが、しかし、何一つ思い出せない。
 私は、今の私の前の記憶がほとんどない。勿論
「今の私」とは「紅魔館でメイドをしている私」だ。それはお嬢様の能力を鑑みれば、私自身がお嬢様によって「紅魔館でメイドをしている」という風に運命を改竄されたからだろうことは、容易に想像できる。だからだろうか、私はどんな境遇にあっても「紅魔館のメイドを辞める」という行動を取れないし、「紅魔館のメイドである」自分と矛盾する過去については何も思い出せなくなっていた。無用に過去への回帰を望む記憶は、今の運命にとって邪魔だからだろう。今の私の前の私があったことも、当のお嬢様の口から聞くまでは知らなかった。逆に私が「能力」故に周りから疎まれて育った記憶はありありと思い出せる。それは過去を切り捨てて今に依存する感情を助長しやすいからだろう。私には過去はなく、今の自分以外には自分はいないと、そう考える方が遥かに楽だ。
 そう考えると、つまり、そんな服選び程度にまつわる回想ひとつさえ、今の私を否定する糸口足り得るのだろう。なら、この紅魔館にくる前、私はどこかの男―――女かもしれないが―――と付き合っていたのかもしれない。しかし。

「ふ、詮無き事……」

 呟いて、その疑問を振り捨てた。
 自分という存在どこからくるのだろうか、自分はなぜ生きようとするのだろうか、そういう類、俗っぽく言うなら哲学的な疑問と、私自身の起源がどこにあって、そしてこの先どうなるような運命に改竄されたのかという疑問は、等価だ。過去の存在の有無に関わらず、過去の記憶の有無に関わらず、結局「そんなことはわからない」のだ。ならば、運命改竄を受けた私は、しかし受けていないものと何ら変わりはない。思い出せない過去など、大した価値はもたないのだ。
 だから、今は、過去よりも現在。そして、過去の誰かよりも、お嬢様を、そしてその代わりに美鈴を選んだ。それだけの話だ。昔いたのかもしれない彼氏の記憶なんかよりも、今は美鈴との逢瀬の方が遥かに重要だった。……お嬢様には、届かないから。
 いつも肌身から離せない銀のナイフは、何故なのだろうか。お嬢様に傷を負わせ、その迅速な再生を許さない聖別された銀のナイフ。確かに、こんなものでいくら傷付けようとも、傷の再生が遅いとはいえ、お嬢様に致命傷にを与え得る程の戦闘力は、私にはない。だとしても、何故お嬢様は私にこのナイフを持たせているのだろうか。面白いから……お嬢様ならそう答えるかもしれない。だが本当にそれだけだろうか。そもそもこのナイフは何なのだろうか。何故メイドの私がこんなものを持っているのか。それも、全く、思い出せなかった。
 何もかもが、偽物。代替品。それが、私。



「……大した服がないわね……。」

 箪笥を開けて絶望した。そういえば私服を着ることなどほとんどないものだから気にしていなかったが、めかしこむような服は何も持っていなかった。ラフに館の外に買い物に出かけるような服装はいくつかあるが、こんなものを着たいわけではない。

「やっぱりこれを着るしかないか……」

 私は箪笥の下部に横たわる木製の箱に目を遣った。桐箱だ。出来ればこれは、ちゃんと祭に行く時に着ていきたかったのだが……普段の無精が祟ったかと諦める。私はお仕着せを脱いで、浴衣を纏う。似合うだろうか。変じゃないだろうか。美鈴はなんと言うだろうか。……私は、美鈴のことをどう思っているのだろうか。
 最初は手の届かないお嬢様を窶した銀のロザリオだった。確かに当初から彼女のことを悪しく思ってはいなかったが、だからといってそんな役目、美鈴以外には務まらなかっただろう。そうして始まった恋人ごっこは、しかし今は現実味を帯びて私の胸を高鳴らせている。ならば、このまま、彼女と本当の恋人になってもいいのではないか。
 悶々とそんなことを考えてしまう。いけない。自分で言うのも何だが、根っこの部分が無駄に真面目なのが本当に疲れる。美鈴とこんな関係になったときも、うじうじと考え込んでしまった記憶がある。

「答えなんて、出てるんだから。考えないで動けばいいのよ。」

 帯を締めながら、気分を引き締めるつもりで一人ごちる。そう、呪いのように片思いを続けることに意味など持てない。妖怪や吸血鬼にくらぶればひよっこのような歳でも、人間としては、もう、そんなピュアな恋愛を出来る歳でもないのだ。手に入るもので我慢する。霧雨や博麗が見ればもっとがんばれよと茶化すかもしれない。八雲や西行寺が聞けばふっと鼻で笑うかもしれない。それでも、もう、手に入らないモノを追いかけるのは、ご免だった。私自身彼女には好意を持っている。彼女も然り。悪いセンじゃあ、ないだろう……。いい加減、手に入らないものをねだりつづける子供では、いられないのだ。
 化粧など、ほとんどしたことがない。だが、今となっては笑うしかないが、一人部屋に二つあるティーカップと同じ理由で買ったものが、想いの亡霊よろしく残っていたのだ。取り立ててつくりの良い訳でもない顔に、新品の遺恨を重ねてゆく。
 よくわからない。赤や茶ならわかるが、青や緑なんてどこに使えばいいんだ。こんなことなら練習しておけばよかった。服も化粧も、なればこそ恋心も真ならざる、か。何もかもが……。
 それでもこうして、わからないならわからないなりに誰かに見せる自分をつくる気分は悪くなかった。下地をつくってファンデーションを重ね、チークをふる。アイライナーで目蓋を象って、シャドウを伏せる。マスカラは、目に入りそうで怖かった。ビューラーでまぶたも一緒に挟んでしまうほど、私は不慣れだ。リップを塗ったうえから薄く、グロス。それぞれ浴衣に浮かない様注意した配色にはしたつもりだが、不安は拭えない。
 これを見た美鈴はなんというだろうか。失敗していたら、笑われてしまうだろうか。それとも、褒めて、くれるだろうか。
 そうか。これが、女の……。
 だったら。彼女の気持ちに報い、自分の満足行くようにしようじゃないか。だれも、悲しまない。悲しむ私など、消してしまえばいいのだ。今の美鈴には、それだけの魅力があると、私の理性は叫んでいた。

「暫定一位から暫定を取り去るだけよ。難しく、ない。」

 半ば自分に言い聞かせるように、浴衣を着つけて化粧の整った自分を映す鏡に向けて、呟く。
 帯の結びは少し、きつすぎたかも、しれない。

 私が博麗大社離宮の鳥居前についたとき、美鈴は既に社の縁側に腰かけて待っていた。遠目にその姿を確認したのとほぼ同時に向こうも私を見つけたらしい。彼女は立ち上がって小走りでやってくる。
 そして手の届く距離まで来た彼女を目にし、私は暫く声が出なかった。いつものそれとは異なり、薄い桃色のチャイナドレスと、結い上げた髪。美鈴は、見違えるくらいに、綺麗、だったのだ。

「ま、待たせちゃったかしら?」
「え、あ、私、早く来過ぎちゃったみたいで……」

 そういうときは今来たところですと言うのよ、と冗談めかして言いながら、美鈴の姿をまじまじと見てしまいそうになって慌てて目を逸らす。
 白に近いピンク色、その生地に目を凝らすと凹凸で花の模様があしらわれていた。やや光沢のある生地でできているようで、月影を受けて時折きらきらと輝く。結い上げられた赤髪は、服の色と被っているようでいながら、さほどいやらしくなくまとまっていた。そして彼女の豊満な胸が持ち上げる胸部の膨らみと、無駄のない腕。腰まで入ったスリットから覗く引き締まった脚、細い足首、くるぶし。むっちりと丸みを帯びた尻から太股への曲線。目線を研ぎ上げるように切れ長に塗られたシャドウと長く伸びて巻くまつげ。ガーネットで染めた唇。チークでうっすら桜の射した頬。真珠を打ち延ばしたように白い肌。普段から見ている、妖怪らしい猫目も、今はただ、彼女の美しさを増す宝石。それら全てが、彼女を「歳相応の妖怪」へと変貌させいた。その姿は、まさに、妖艶。
 美鈴にこんな一面があるのかと、舌を巻きながら、自分の姿が気になった。一応着てきた浴衣とて、有り合わせのような安物ではない筈だ。化粧だって、わからないなりにしてきている。だが、素材の良し悪しに差がありすぎた……。メイド服のまま来た方が言い訳も出来たのではないかと考えてしまう。

「あ、あんまり……みないでくだ、さい……」
「え?あ、いや、み、見てない、わよ。」
「す、すみません……」

 バカが。他に言い様が、というより、言うべき言葉があるだろう、私。いや、胸や脚ばかり見ていたことを言うわけにも……

「咲夜さん」
「な、なに?」

 下劣な目で見てしまっていたことが伝わったかと、驚いてしまう。が、その様子はないようだ。少なくともそれを口にはしなかった。

「咲夜さんの浴衣姿、初めて見ます。お化粧も」
「そういえばそうね」

 妙に馴染むこの浴衣だが、前にいつ着たのか全く思い出せない。この浴衣も……。

「き」
「え?」
「綺麗、です……」

 もじもじ俯きながら呟く美鈴。

「……ありがと」

 言い損ねた言葉を言い直すチャンスだったのに、私はそれをみすみす、逃してしまった。それでも、美鈴は私のたったそれだけの言葉にも嬉しそうな表情で、縁側へと私を誘う。
 縁側の一角には、ちょこんと乗った行灯が周囲を仄赤く照らし、二人分の酒と肴が用意されていた。

「咲夜さん、手ぶらですか?」

 うぐ。まさかこんなに準備がいいとは思っていなかった。本当に、今日が本当の、お祭本番のつもりで来たのだなと、思う。そしてそれは、私もだ。……差し入れは持ってこなかったが。
 美鈴に手招かれるまま隣に腰を下す。おちょこを手渡され、まずはお一つなんて言われて受け取り、同じように注ぎ返して。じゃあ私はあれを持ってきたことにするわ、と銀色にさんざめく月を指さすと。

「ずるいですね」

 そういいながらも、美鈴はゆったりと笑った。

「ああ、好い夜ね。こんなに空気がしまって心地のよい夜は、滅多にないわ。月がこんなに、ほら、くっきり見える。」
「……そうですね」

 月を見上げながら言った私だが、美鈴の目は同じものを見てはいなかった。
 涼風を感じ、夏虫達のささやかな愛の歌を聞きながら。月見の夜を当の昔に見送って尚見向きもされずに放られたススキが、恨み故に伸びる手のように、優に三メートルもある長身を天へと伸ばしていた。機を逸しても依然膨らみつづけるしかない想い。しかし人間は違う。伸ばす先を変えることだって出来るはず。自らの手で機を作り出すことも出来るはず。……それとも今浮かぶ月は十五夜の月ではないと知りながらも天へ伸びるそれは、今の私と何ら変わりないだろうか。
 私と彼女の間にあまり多くの言葉は、生まれなかった。二人というのは、そういうものだ。形骸は不要で、しかし深奥は語り尽くせず、故に細い導線のみ。一杯飲んで、一言。一言呟いて、また一杯。短い言葉と息遣い。投げる視線と身じろぎ一つ。杯の受け方、飲み干し方。そんなもので、言葉以上に多くが伝わる。


「玉兎とは、どうなの?」

「お互い、上司が厳しいですから。」

「ふふ。大切にしなさいよ、そういう相手は。」

「やっぱり、手厳しいですね」

 美鈴は、まっすぐ、私の目を見た。

「仕事だもの」

「今は?」

「……今は酔ってるわ」

 彼女から視線を逸らして、右手だけを、彼女の左手の上に重ねる。

「『それでも構わない』って、最初に言ったじゃないですか」
「自分が一番、聞き分けが悪いのよ」
「咲夜さんらしいですね。」

 拳一つの距離にまで、美鈴が寄り添う。

「お酒の所為と、私が迫ったから。これでいいですか?」
「十分……」

 重ねた手を少しだけ握り、美鈴の唇に自らの唇を寄せると、彼女も応えてくれた。グロスで塗れた感触が、キスそのものを酷く淫らなものに変えている。

「ん……」

 しっとりと濡れる唇同士が勝手に吸い付き合い、目を閉じると小さく静かな息遣いまでがくすぐったく官能を掻き立てる。唇同士を啄ばみ、代わる代わる相手の口を愛で続けると、やがてどちらからともなく互いの歯を割って舌を交え始める。ゆっくりと口を離すと、銀の橋が月に照らされて散った。

「髪、解いていい?」
「せっかく綺麗に結えたのに」
「でも、美鈴の赤い髪は……綺麗だから」

 やっとのことで美鈴に綺麗、と言ったことに小さな達成感を感じながら、二つに結った赤髪を降ろす。月影と提灯に照らされたそれは、夜風に揺られて光に透け、紅玉を糸にしたかのよう。
 その髪を梳くように後頭部を抱いて、再び彼女に口付けると、美鈴も腕を私の背中に回してそれを求めた。口を大きく開いて舌と唾液とを忙しなく絡め合わせる頃には、私はすっかりと美鈴を縁側に押し倒してしまった。貪るように美鈴の唇を奪い、代わりに自分の唾液を流し込む。
 少し苦しげに眉を顰める美鈴は、私のそれに必死にしかし一心に、受け止めていた。その表情と染まった頬に、より一層劣情が膨らんでしまう。毎夜一人で慰める場所が、熱い。高まる期待に堪らなくなって美鈴の口から舌を抜き、組み敷いた彼女の顔をまたぐようにして、浴衣の裾を持ち上げる。

「美鈴……して……」

 私の秘所を見上げる美鈴。彼女の視線だけでそこが綻んでゆくのがわかる。ほどなくして、美鈴は太腿に腕を絡めて、私の腰を顔に、アソコを口に引き寄せてきた。少し荒立った彼女の息が敏感な場所に当たり、それだけでも下腹部に生まれた粘っこい熱が高まってしまう。

「こっちは、あとで……」
「……」

 美鈴は股間でそそり立つそれを指して言う。私は恥ずかしさと欲情を我慢できずに、彼女の顔に腰を落とした。唇なのか鼻なのかわからない辺り。孕んだ熱を押し付けるように陰唇をそこにこすりあてる。

「んぷ……」

 ぬるり、と彼女の唾液が、性器に触れ、ぬめる。ぴりぴりと鋭く、同時に甘い快感が走り抜けた。

「はっ……ん、そ、舌……」

 美鈴の唇が陰核を嬲り、舌が膣にラヴィアを掻き分け、奥へと入り込んでくる。それらが蠢めき私を責め立てる度、腰がびくびくと痙攣してしまう。

「いい……わ、美鈴の舌」

 股の下から私を見上げる美鈴の口元は、もちろん彼女の唾液などではなく私の愛液で、てらてらと光っていた。
 彼女はそれが崇高なものでもあるかのような視線で見つめ、ふやけそうな位に濡れるそこを、指先でつつき、なぞる。引火せずにくすぶる性感が、ぞくぞくと私を追い詰める。留まるところを知らない淫汁の滴りを美鈴の顔に落としながら、奉仕を求める。
 堪らず手でぺニスを触ろうとすると、美鈴はそれを制して触れさせてくれない。

「だめです。咲夜さんがこれ扱くの大好きなのはわかってますけど、まだだめです」
「そ、んなん、じゃ……」

 いやらしく指摘されて顔が熱くなる。

「今日は、交代、でしたよね」

 私のそこに息がかかるくらいの距離で、美鈴は上目遣いに私を見る。声は、八雲紫が怪しく囁くときのように、艶めいていた。いつもの美鈴になら、似合わない声、などとも言えただろうが、今の彼女には、八雲や西行地の持つような成熟した色気がこそ、似合う。
 私はそんな美鈴を前に、背筋を震わせる。恐怖にではない。……いや、もしかしたらそうだったのかもしれないが、彼女が与えてくれそうな、その快感の大きさにだ。

「交代……」

 喉を、固唾が、下る。
 彼女と初めて寝たとき――それは私にとっても彼女にとっても初体験だったのだが―――かなり非道いセックスをした。ともすればただの陵辱だっただろう私のやり方に、彼女は全身全霊で応え、もう戻れないくらいに壊れたセックスで、美鈴と、私はイったのだった。そして、交代。自分が彼女にした仕打ち。それがそのままか、よりひどくなってか、私に返って来る。
 昏く沈んだ期待が、胸から下半身へと垂れ下がってゆく。

「ちゅ……咲夜さんのおまんこ、とろとろ……ぴちゅ、ちゅるっ」
「は……ん、舌、奥まで……」

 入り口をくまなく刺激し、奥へ入り込む舌をもっと奥まで導こうと無意識に腰がくねり、彼女の頭に手を添えて力を入れてしまう。美鈴は何も言わずに一心に私のそこを舐め、吸い、愛撫していた。

「っは……ん、美鈴、いい……」

 徐々に霞掛かってきた。立ち膝が笑い、快感に耐えるために足の指を丸めてしまう。自分がクンニされている姿を見ていられず、視線を天井へ放り投げた。息が上がり、その切れ間毎に言葉にならない喘ぎが漏れてしまう。
 月が、見えた。だが、それを見てももう、他のものを思い出しは、しなかった。

「ちゅ……じゅるるっ、ぴちゅっ」

 はしたなく溢れ続ける淫液を、わざと大きな音を立ててすすられ、その音に耳から犯される。

「あっ、ん!く、ひぅ……!」

 きもち、いい。美鈴の舌が、手淫の何倍もの快楽を与えてくる。陰毛の一本一本を舌で漉き、肉ひだの一枚一枚にまで舌でなめすような、執拗な愛撫を重ねられる快感に酔いしれた。自分が上げるいやらしい叫び声さえ、自らを追い詰める要因。焦点がずれ、息が細切れになり、腰が無意識のうちに前後に揺れる。
(もう、すぐ……くる……)
 息が浅く、早く。首が座らなくなり、がくっ、がくっと揺れる。そして。

「……くっ……ぅ!」
「女のコの方、軽くイっちゃいましたね」

 美鈴が、私を見上げる。私がピントの合わない視界を凝らすと、彼女は顔全体に私の愛汁を受けて淫らに濡れていた。絶頂の余韻に意識を漂わせていると。

「浸ってる暇なんてないですよ?」
「え?ちょっ……ひんっ」

 私はイったが美鈴は違う。攻めに回ったのをいいことにだらしなく開いたそこを、間を置かずに愛撫し続ける。

「だめ……っ、イった後ぉ……」

 全身が緩みきり、強く言えない。力が入らず、腕を絡めて固定された腰も引けない。

「……覚悟して下さいね」

 それだけ言って再び舌を秘所に差し入れてくる美鈴。絶頂で敏感になった粘膜が、与えられる刺激に歓喜して粘液をとめどなく滴らせ、ピンク色の快感を膣からどんどん膨らませてゆく。

「や、め……っ!いま、いまだめっ……ひゃ!い、きもち、よす……ぎ、てぇ……んゅ!」

 腰が砕けて上体を支えられなくなり、うつ伏せに倒れ込む。
(やば……これって……)
 美鈴は絡める腕をより強固にし、私は股間を彼女の顔から離すことが出来なくなってしまった。

「み、美鈴、もう十分……次わた……」

 だが彼女は私を遮るように愛撫を続ける。延々と、操作する者の居なくなった機械のように、だが淫らに有機的な動きでただ、私の陰部を……いや、クリトリスをひたすらに刺激し続けた。

「い……ひぁ!そ、そこばっ……くああっ!だ、めえ!」

 法悦の坂を下り切らない内に再び追い詰められ、私は本当にあっさりと二度目を迎える。少し、精液が漏れた。

「は……ぁ……っん」

 うつ伏せに、下から太腿を絡め取られている私からは、美鈴の姿は見えない。だが、より強く、より確かに、そしてより淫らに、見えないからこそ彼女の与えてくる刺激に、翻弄される。

「どんどんいきましょうね」
「な……ちょっ、くぁ!少しは、んんっ、加減……ひんっ!!」

 霞みがかる意識の片隅で、その先にある底の知れない境地に、鳥肌が立った。そして、再び美鈴のクンニが、始まる。

「あっ!ん……ハァ、あん!めい、り……も、やめ……はっ、あ、あ、んく!」

 美鈴の舌はひたすらクリトリスを責め立ててきた。包皮が捲れ、敏感な芯が剥き出しになったそこは……私がいつも一人で慰めるときの、ぺニスの次に「大好きな」場所。そこばかりをねちっこく、巧みに刺激され……。

「ぁ……ぁ、ぁっ、あああっ、んん!……め、また……っ!っあ!!めいり、それ、ずる、ぃ……ああっ!ぃく、またイく、いくっ!」

 抵抗できずに三度目の絶頂。もうスイッチが切り替わったまま戻らない。わずかな刺激でさえ過敏なまでに性感を呼び覚まし、オーガズムの薪をくべる。目の焦点は合わず、辛うじてそれが縁側の板張りなのだとわかる以外、あらゆるものは像を結ばない。息は肺を焼くほど熱く、それを吐き出すたびに飲み込めずに溢れる唾液が板張りに溜まる。
 オナニーでは、ここまで自分を追い詰めたことなどなかった。強制的にイかせ続けられる苦痛と、愉悦。まるで甘い血が止め処なく流れ出るような危険な欲求が脳裏を埋め尽くし始めていた。

「は……だめ……めーり……」

 地獄から這い出ようとする亡者は斯く在りなん、という仕草で、縁側の板張りのより遠い方へ腕を伸ばして美鈴の責めから逃れようとする。だが太腿から尻たぶにかけてをがっちりと絡め取られた姿勢では、逃げられない。三度も立て続けにイかされて、脳は正常な情報処理能力を失い、刺激され続ける性感だけが一人歩きする。

「咲夜さん、おちんちん堪え性無さ過ぎですよ?先汁かと思ったら、少し、白いです」
「ばっ……そんな、こ、と……ふぁ……」

 股の間から美鈴の声が聞こえる。前は私が彼女に投げかけていたような辱めの言葉を、今は彼女が私に放っていた。
 反り返ってだくだくと先走りを垂らすぺニスは、彼女の白磁のような額に当たっている。クリトリスが鼻先に当たり、膣の入り口が舌でえぐり続けられていた。

「ふっ……ん、はっ、はっ……んく、」

 暴走した性欲が犯し、犯される快感をまだ求めている。私の体は彼女の舌に弄ばれながら、その顔に陰部をこすり付けることに悦んでいた。そう、理性とは全くの裏腹に。
(もう、十分よっ。これ以上は、もう……)

「おまんこよりクリちゃん、クリちゃんよりおちんちん。咲夜さんってば、へんたいさんですね。」

 そして、美鈴の舌は再びクリトリスへ。

「ねえっ、もうだめ、だめなのっ!これ以上されたら、とける、あたまとけちゃう……くひぃいいっ!」

 もう、本当にだめだ。逃げ出さないと、このまま続けば、私はきっと壊される。
 剥き出しになった肉芽を、ぬるりとした感触が包み込み、そして舌のざらつく質感がその先端を責め立てる。

「はあ"っ……ら、め……くひいいいいっ!っぁあっ、く、ひゃん……めーりん、もう、ゆるひ……」

 手足をいくらばたつかせても、美鈴の拘束は解けない。美鈴のクリ責めは留まる処を知らず、愛液をどろどろとこぼし続ける秘所への愛撫は既に無く、ただただ小指の爪ほどもない肉の突起をいじり倒してくる。私は、その小さな肉に全身の感覚を支配され、翻弄された。
 吸い付き、こすり、突ついては、こねる。こんな小さな肉を、美鈴は巧みに淫らに、的確に刺激してきた。

「……っめ……もぅ、ぃきたく、な……んきゅっ!」

 眠りに落ちる瞬間のような暗転と、目を覚ます須臾の高揚をがくがくと行き来し、体中がそれに釣られて弛緩と硬直を繰り返す。
(イき過ぎ……っ)
 靄の奥に転がる意識の片隅が、失神の短い合間に警鐘を鳴らすが、狂った性欲と暴走する絶頂がそれをまともに受け取らせないでいた。
 美鈴の陰核責めはそんな私にもなお容赦がない。

「あ"っ……ぉ、あ……ぃぐ……また……~~っ!」

 またイく。

「も、おねが……めい、あ、ああ、あ"あ"あ"ああぁっ!」

 また絶頂。

「いく、いく、いくいくいぐぅっっっっ!」

 法悦の九合目から下に降りられない。
 美鈴は、しかし、こんな私にもっと強い刺激を、押し付けてくる。
(ほんとに、もう、もういらないっ。灼けるっ、脳みそ灼き切れちゃうっ……)
 尖り切ったクリトリスを、美鈴は、噛んだ。

「ぉぁあああああっっ!!」

 最初は前歯で挟むように。鋭い刺激がダイレクトに快楽神経を走りぬけ、強制的にオルガスムスに突き上げられる。失神して光を失う時間が長くなってきた。再び意識を取り戻すと、もうイく寸前。そしてまた意識を手放して、覚醒する。
 堰を切ったようにぺニスの先端から白濁液が噴き出した。トバクチがぱっくりと割れ、ホースで噴射するような勢いで、触れてもいないぺニスから射精する。

「あは、咲夜さんってば、女の子の方イって射精しちゃうんですか?こっち、いじってないのに。ちんぽ狂いも甚だしいですね。」

 美鈴がそう言う間も、射精の恍惚は脳を冒し、射精の快感が射精を呼ぶ。

「はーっ……はーっ、は~、ふぐ!ん、んんんーっ!!や……もう、ら"めぇっ!……しぬ、しんぢゃうぅう"ううぅ~っ!!」
「んぶっ、咲夜さんのザー汁、ドロドロしすぎです。顔にかかったら窒息しちゃいますよぉ?」

 美鈴の白磁の額を、陰ワイな白で上塗る。それでも美鈴はぺニスには触れてくれなくて。私のクリトリスをどうにかしようというかのように、再びそこに歯を立てる。

「ひぐうううううううううううぁああああああっ!」

 美鈴は肉豆に歯を立て、そして擦り潰すように顎を横に揺らす。その間も肉芽の根元から先端へ満遍なく刺激が伝わるように絶妙な加減で前後運動も、そして噛み潰す力にも緩急を織り混ぜる。

「……!ーーっ!ぁ、かは……、~~~っっっ!!ぉ……ぁ……」

 目の前で快感を具現化したような火花が散り、体が散りぢりになるような感覚が襲いかかる。

「ぐっ……あが……く、きゅ……ぎ……っっ」

 ぺニスの内側を撫でる精液の奔流が、触れてもらえずもどかしがるぺニスの飢餓感を更に圧迫する。意識は支離滅裂に霧散し、更なる快感の拒絶と欲求を同時に訴えた。

「めー……りん……」

 うつ伏せたまま、板張りと体の間でひしゃげる乳房を掻き分けて美鈴の頭をどけようとした。と、指先に触れたのは、さらさらとした髪の毛の感触。
(美鈴の……髪……)
 ぎゅっと手に力が入ると、指の隙間に彼女の髪の感触が広がる。
(美鈴の、綺麗な、髪っ!)
 絹を掴むようなその感触に、私は

「っ!……っっっ……!!~~~!!ぁ……っ!ぉ"……お"ぁ"ぁ……っっ!ーっ!!!」
「ええっ?」

 もう何度目かもわからない境地へ、また果てた。それは想像を絶する巨大な波。悲鳴を上げる間もなく、喉を鳴らして昇天した。
 意識が手放され制御を失った体。幾度とない絶頂で緩みきった股間から、黄色い液体が漏れ出した。

「わわ、ザーメンの次はおしっこですか?あちこち緩み過ぎじゃないですか?」

 私の小便を顔に受けながら、それでもうっとりと笑う美鈴。

「ザーメンパック、流されちゃいました……」

 残念そうな声が股間から聞こえる。巨大な波が過ぎ、少しだけ意識の霧が晴れ始める。

「咲夜さんって」

 頬から滴るそれを舐め取り、続ける美鈴。

「髪フェチだったんですねえ……」
「……な、に、そ……れ」

 その直前までは確かに美鈴の舌に与えられる快感に惑わされ、酔いしれ、追い詰められてイっていたというのに、髪の毛の感触を深く感じた刹那のそれは、飛んだ意識がしばらく戻らず、失禁さえするほど。

「そういえば前のときもやたらと髪の毛にかけてくれましたよね」
「そんなこと、してない……」

 と言いながらも、確かに、彼女の髪から指を離せなくなっていた。さらさらと風に揺れ、たなびくビロードがいとおしくて、口づけたくて、堪らなくなっている私がいる。

「……お嬢様に勝てそうなところ、見つけちゃいました」
「ち、ちがうわ。髪の毛なんて、そんな……」
「いいんですよ、好きなだけ触っても」

 美鈴が自分の髪の毛の束を掴み、それを筆のようにして
私の太腿を撫でる。

「や、ちょっ……ん……!また……」
「もう、何十回もイってるのに、乙女みたいな甘い声。まあ、さっきはちょっと人間っぽくない声になってましたけど……」

 まだ愛液の筋が乾き切らない内から、被せるように快感が上乗せされる。なんで、髪の毛なんか……っ。
 美鈴は私の体を仰向ける。
(いまなら……)
 私は美鈴の手が体から離れた瞬間を見計らって、時間を凍結させてその責めから逃げ出そうとした。が。
(うごかな……ぃ……からだ、力入れれないぃ……)
 キャパシティを超えた連続絶頂を味わい、脳と体の接続が希薄になっている。指先や口元、足を僅かに動かせる以外、立ち上がることすらおぼつかない。だというのに股間に残る感覚だけは鮮明で、甘美に毒々しい。
 そして、そのまま何もできずに、時間凍結の効果が終わった。

「今、止めましたね?」
「もう、むり……クリはもうやめ、て……しんじゃう……」

 馬乗られて見上げると、背後に月光を受けた美鈴の姿。
「人間が畏敬してやまない妖怪」
の具現のように、妖しく、恐ろしく、そして何より美しい。顔の、首の、肩の、胸の、腹の、あらゆる部位が、私のこぼしたいやらしい諸々で塗れそぼり、月光をてらてらと返している。巨大なのにも拘らず、形よく凛然と揺れる双肉の、その上にこぼれ落ちずに乗った精液の塊を指で掬って口へ運んだ。

「ん……。ゼリーみたいにどろどろで、臭くて……おいし。」

 これがあの美鈴なのかという疑問が頭を駆けめぐり、しかし、小さなささくれのようなきっかけから容易に淫らな妄想へ転がりこんでしまう。

「逃げようとしたから、お仕置きしちゃいます」
「ひ……」

 再びクリトリスをひたすらに責め続けられるのかと思い、恐怖と、情欲がない混ぜになった感情に悲鳴を上げる私。しかし美鈴の次の手は違った。

「こっち、いじってあげますね。おまちかね」

 そういって人差し指の腹で鈴口をくにくにとこねる。

「ぁ……」

 音が鳴るほど生唾を飲み込んでしまった。クリトリスをで散々イかされた後、むず痒さが収まらないぺニス。自分で慰めようとしてもその度に弾かれてお預けを食らっているそこは、わずかな風が撫でるだけでも快楽神経だけを刺激する電気が奔流するようだ。

「おねだりしてほしいなあ」

 美鈴が流し目で私の方を見る。もう、私が陥落しそうなのを見抜いているらしかった。

「ば、か、じゃない、のっ?」
「……そうですか。でも、そんな咲夜さんだから、私……」

 彼女の白い指が、私の竿を上から下へとなぞり、根元の辺りでゆっくりと親指の先と出会い、輪をつくる。そしてそれを撫でるような力加減で上下させた。

「ぉ……ぁ、ああ……」

 下腹部に力が入り、括約筋が緊張する。ぺニスの根元に力が篭って不様にふるふると揺れた。そんなわずかな刺激でも求めて、肉棒を振り回そうとしてしまう。

「もう、咲夜さんってば、がっつきすぎです。」

 いたずらっぽく口角を上げて笑う彼女のい淫蕩な表情に
背筋が震える。

「だっ……て……」

 目を背けようとしたがそれができずに、彼女の紅玉の瞳に魅入られてしまった。

「これ、お仕置きなんですよ?もう少し嫌がってください?」
「じゅ、十分いやよっ……これ以上されたら、おかし、くっ」
「本当にいやなんですかぁ?先っちょ、こんなにして、さっきからおちんちんに自分で力入れてるじゃないですか。もっと強く扱いて、って。」
「ち、が……」

 ちがわない。

「もー。しょうがないエロメイドですね?」

 いつもならナイフの数本も見舞うところだがそんな余裕はない。むしろ、今の私では、何も言い返せない。
 美鈴は再び二本の指でつくった緩い輪だけで、雁首にも触れない部分を、ゆるゆると刺激する。
 足らない……もっと欲しいのに、そんなんじゃ……
 既に丸裸に近い心を、淫欲が強引に剥き上げてゆく。美鈴に糸で操られているように腰を上下に揺すり、とにかく射精へ近づこうと暴れる。

「あーあー、もう元の咲夜さんじゃないですね。自分で腰振っちゃって……」
「は、ひ、らって……むずむずするのぉっ!勃起したぺニスが、むずむずして……出したくて堪らないのっ!」

 泣いた。私は力が入らない体を、彼女のイのままに高ぶらせられて、それを満たして欲しくて、不様に泣いた。

「おねがい、これ、なんとか、してえっ……」
「いいですよ」
「えっ」

 また意地の悪い責めをされるものだと思っていた私は、頓狂な声を上げてしまった。
(して、もらえる……扱いてもらえる……)
 色情に堕した私の脳裏には、もう歓喜しかなかった。美鈴にすがるような視線を投げ、獣のようにべろを出して涎を滴らせる。

「咲夜さんのふたなりちんぽ、これで、扱いちゃいますね……」

 そういって彼女が手にとったものを見て、私は息を飲んだ。……何のことはない、髪の毛を手に絡めているだけだが、それは、私を被虐のるつぼに突き落とすのには十分な光景だった。

「そ、ん、なの……」

 おかしい。髪の毛でなんて……そんなことされたら……。
 しかしもはや嫌悪感はなかった。ぺニスから与えられる爆ぜる程の快感と、彼女の髪の毛へのフェティズムが、遂にそれを霧散させる。

「いきますよ……」

 美鈴は仰向けの私に寄り添うように体を寄せ、髪の毛をたっぷりと含んだ右手を私のそこに被せる。
 さり、と乾いた感触が走り、敏感な肉塊が発電する。

「ぁ……」

 そしてそのまま乱暴に、美鈴は私の肉棒を掴む掌を髪の毛ごと扱いた。

「ひ!あっ!ああああああああっ!いっぱつっ、いっぱちゅなのおっ!私、髪の毛でコスられて、いっぱつで、い、く、またいきゅっ!」

 三回扱かれて二回イった。一回目の射精を押し出すような立て続けの大量吐精で、オーガズムに達しながらもぺニスの内部からの刺激で更に性感を促される。

「すっごい……ちょっとこすっただけなのに、ヨーグルトひっくり返したみたいですねこれ……」

 けしかけた美鈴自身も驚きの表情を隠せない。彼女の腕にまで降りかかった精液。美鈴はそれを掬って口に運び、淫蕩な表情で飲み下す。
 髪の毛はぺニスに絡まったまま、細い刺激を淫棒へ絶えず与え続けていた。

「髪コキ、そんなによかったですか?」

 目を細めて笑う彼女の口紅は、よく見ればクリトリスへのクンニでかすれてあらぬ方向に伸びている。だが、それも情事故と思えば淫らな表情に華を添えるエッセンスだ。

「髪コキぃ、髪コキきもちいいっ。髪の毛でざりざりぐりぐりさりぇたら、すぐ出ちゃうのぉ!」

 横になっていても私は彼女を見上げる格好になる。その姿勢のまま彼女の首筋に両の腕を回して、その唇を寄せて、吸った。

「ん……ちゅ……んく……」


「咲夜さんの唾って、エッチな気分になると甘くなるんですね……。おいしい。」

 そういう美鈴だって、そうだ。

「めーりん……」

 射精後の解放感とカタルシスに、激しくも甘美なキスを交えて、私は朦朧とした意識の奥に満足感を感じていた。急激に襲いかかってくる睡魔。私は心地よいまどろみに飲み込まれてゆく。

「咲夜さん一人で満足しないで下さい」

 美鈴の意地の悪い声が、私を恐怖と愉悦のどん底に引きずり込んだ。私はまだ、解放なんかされない……。

「まだ……?」
「だって、咲夜さんばっかりイってます」

 確かに彼女はまだ一度も……だがこれ以上されたら私は……。

「入れたく、ないですか?」

 美鈴がチャイナドレスのスリットに指を入れ、ゆっくりとめくる。
 ……下着はつけていなかった。
 ごくり
 それだけでめまいがするほどの性欲が沸き立つ。これ以上絶頂するのが苦痛だということは、わかっている。それでも、体は、求めてしまった。美鈴の中を。

「咲夜さんのクリちゃんイジメしてるだけで、私、こんななんですよ?咲夜さんのエッチなお汁すすって、ザーメンシャワー浴びて、アヘ顔とオルガ声聞いてて、こんな……」

 うっとりとした表情で指示す彼女のヴァギナは、何かを求めるように花開き、蜜をじっとりと滴らせていた。つつましさ等ない、ひたすらに淫らなその様に、私のぺニスはびくびくと反応してしまう。
(いれたいっ……!)
 私の目が血走った獣のそれなのを見逃さず、美鈴は私の肉棒を手にとる。敏感すぎるそれはそれだけで絶頂へのシークエンスを上ってしまう。

「ただ入れるだけじゃ、つまらないですよね……。ここは一つ、咲夜さんの好きなものを添えて、と……」

 そういうと美鈴は、私のぺニスに髪の毛をまきつける。

「や……髪は、もうっ……美鈴の髪の毛好き過ぎて、だめなのぉ……」

 弱々しい私の声をよそに、美鈴はさらに花を添えた。
 腰を下し、股を開いて私を誘うその中心。どろどろにほぐれた女性器に、髪の毛をたっぷりと垂らした。

「咲夜さんに、貫いて欲しいです……」

 そこまでされた上に上目遣いでねだる彼女を、私が我慢できる筈がない。

「めっ、めーりんっ!」

 がば、と彼女を縁側に押し倒し、髪の毛まみれの肉棒を、髪の毛まみれのヴァギナにあてがう。

「あ、は……私、髪の毛処女膜、咲夜さんに破られちゃう……」

 ぷつ。脳裏で何か音がしたような気がした。同時に、理性が吹き飛んで、美鈴の割れ目を、髪の毛のヴェールごと貫く。

「はんっ!ききましたぁ……、咲夜さんの巨チン、髪の毛ざりざり言わせながら、まんこにきたぁ……!」
「ぉ……ぁ……きもひぃぃ……マン肉と髪の毛とちんこ、こすれるの、いいっ!鬼頭に髪の毛絡まって、美鈴の髪の毛絡まってええええ!!」

 奥へ奥へとぺニスをねじ込むたび、美鈴の膣肉と髪の毛がぺニスを締め上げる。

「あ……かは……らめ、すぐぅ、すぐなのぉ……こんなのすぐイっちゃうのおおっ!絶対だめ、次こそ絶対らめぇ、!ザー汁からっぽになるまで、全部出ひゃう!髪の毛まんこに、ふたなりみるく、どばどば全部射精しちゃうのおおおおおおっ!!!」

 アヘ顔を晒しながら、私は胸の奥からあふれるエロ単語を吐き出す。髪の毛に縛られたまままんこに絞り上げられて、それでも最奥を目指すぺニスが、こつりとしこる肉の固さに出会う。

「さ、咲夜さん、そこにそこに出しちゃうんですかっ!?
子宮口にトバ口くっつけて、ねばどろザーメン子宮に直接注いじゃいますかっ!?」

 彼女の細い足は私の腰を捕まえ、しっかりと固定している。腰を振ることは出来ても、まんこからちんぽを抜くことなど出来そうになかった。

「らすっ!美鈴の一番大切な場所に、私の子種汁注いじゃうっ!髪の毛セックスで超敏感になったちんこから、種付けしちゃうの!美鈴のに中出し、子宮出しっっっ!」
「下さい!咲夜さんのスペルマどばどば子宮に下さいっ!私の中をザーメンタンクにして、精液注ぎまくって、種付けして下さいっ!妊娠っ、妊娠させて下さいっ!咲夜さんの、いっぱい欲しいですっ!!」

 限界。
 何もまともに考えられない獣欲に振り回され、歯止めをかけることも知らないセックスは堰を切ったように。

「お、ぁああ!ンほぉお……おおぁっッ!しゃせい、しゃせいしまくり!あヒぃいいいいっ!とま、とまんにゃい!せーしとまんなくなってりゅぅう!!めーりんのなかにぜんびゅ、わらひのぜんぶ、でてっちゃうのおおおおおおぉぉおぉおっ!っ」
「んあ、す、すごひ!さくやさんの射精、おくにがつがつ当たるくらい強いっ!おなかっ、おなかいっぱいになって、イク、イっちゃいまひゅう!!!」

 前の時同様の堕し方で、私達二人は、果てた。





「初めて咲夜さんが私に対してメイドさんになってくれました」

 メイドは普通相手の髪を洗ったりしないのだけど……。
 美鈴と私は大浴場で「汗」を流していた。お嬢様や妹様が入る場合を除いて、大浴場はその他の者の共有の風呂場として使われる。だから別に……美鈴と一緒に入るのは、不自然じゃ、ない。うん。
 ただ、彼女が言う通り、普段しないようなことをしてやってるのは確かだった。
(そりゃあ、自分のあれやそれが染み付いちゃったもの……。正直言うと切ってほしいけど、妖怪の髪の毛って人間ほど早く伸びないらしいし……この髪を切るなんてとんでもないし……)
 というわけで、お詫びと言うべきなのかよくわからないが、それが後始末としてするべきことだと思ったから。私は彼女の長い赤髪を丹念に洗ってあげていた。

「……それにしても、ほんとに綺麗な髪よね。月狂いの姫様といい勝負だわ。」

 私は黒曜石よりもルビーの方が好きだけど。とは、思っても口に出さない。

「そうですか?有難う御座います。」

 美鈴は本当に嬉しそうに、にぱ、と笑う。

「この髪で咲夜さんをお嬢様から奪っちゃいますねっ」
「はいはい」
「ああっ、そんな流し方ひどくないすかっ?」

 彼女に言われて思い出した。私は、美鈴をどうしたいのだろう。いや、私は一体どうなりたいのだろう。行き場を失っている恋心を、八あたりのように彼女にぶつけることに、あれほど激しく交わって満足した後でも迷いがあった。

「美鈴」
「はい」
「ついでだから、背中も流してあげる」

 わーい、と無邪気に喜ぶ彼女をよそに、私は真剣に背中を流した。きっと苦虫を潰すような酷い表情だったに違いない。
 美鈴は私の排泄物を一身に浴びているのだ。体ではなく、心を汚す汚泥を、私は記憶の彼方に押し流すべきそれを、彼女にぶちまけている。だからせめて、綺麗に洗ってあげたい。体をいくら磨いてあげても、吐き溜めになって傷ついた彼女の尊厳が輝きを取り戻すとは思えないが、それでも私は、彼女の背中を流すことしかできないのだ。
 はっと気づくと鏡越しにその顔を見られていた。しかし美鈴は鏡を挟んで目があっても、わは、と笑うだけ。私のそんな表情には気づいていないようだった。
 だが、私は知っている。彼女は触れてはいけないものに触れない程度の気遣いができることを。私の痛みを、私だけのものでいさせてくれる優しさを持ち合わせていることを。だから、彼女は、敢えて笑ったのだと。


「にせもの」


 心につき刺さったまま、返しが効いて抜けそうにない言葉を、ぽつり、呟く。
 胸の真ん中、二つの乳房の間あたり。心があるならここだと思うその場所が、じん、と痛んだ。

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