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【日記】バスがクリスマスでした。

京王バスの陰謀にやられた。
SSが降りてこないので、リハビリ。
つまらないと思うのでスルー推奨。
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 疲れていたらしい。
 いつもは絵を描いたり文を書いたり、最近はTwitterでつぶやいてそれなりに活動している通勤時間だが、その日はどうもそういう気になれずにただ目を瞑っていた。
 背伸びをするとぎりぎり顔が出せるような水に浸かっている。そんなむず痒い微睡みの中から、世界を覗いていた。
 電車から降りる人、電車に乗ってくる人、隣の席にいた人が席を立って代わりに別の人が座るのを、止まる駅を、通過する駅を。水面から顔を出したり沈めたりしながらどんよりと数え、やがて辿り着いたいつもの駅で、自分をその一部に溶け込ませた。



 電車から降りるとまるで現実感がない。空気が薄く、色が薄く、感覚全てが幽か。すう、と深呼吸しても、拭いきれ無いガラスの曇りみたいに、靄が買った意識が晴れることはない。一歩一歩がどうにも空虚で、雲の上を歩く機会があればきっとこんな感じだろう、なんて考えながらホームを歩き、階段を降りてコンコースを歩き、改札を出る。
 腹が鳴った。そういえばもう22時半にもなるというのに、昼から何も口にしていないことを思い出した。ふわふわとした疲れはこのせいだろうかと思いつつ財布を見るが、290円しか入っていない。しまった。おろすのを忘れていた。
 最寄りの駅は急行電車が止まる駅とは思えないほどに都会だ。東京三菱UFJ銀行をメインにしていると、20時以降お金をおろすのに駅から5分歩かないといけない位に、使い易くて洒落ていて、拓けている。こんな都会な駅はない。苛立を覚えながら牛丼チェーンのあの店に入った。290円あれば、豚丼の小盛りは注文できる。出てきた豚丼は、まあこの時間に食べるには丁度良かったかもしれない。あまりたくさん食べても体に毒だ。なんて心にも無いことを言い聞かせながら、お金をおろしていなかった自分をなだめた。


 タクシー乗り場で待つタクシーも、すで親を待つ雛鳥のように口を閉じて客を待ち構えている。餌が来ると扉を開けてそれをねだるのも、まるで同じだ。
 この開発の進んだ駅の素晴らしいところは、23時になると深夜バスが出ているところだ。普段から最寄り駅までバスを使っている身としてはありがたいのだが、そもそもバスなんぞ使わないで駅に行ける場所に引っ越したい。交通費が出るといわれて入社した会社が、バス代を出してくれなかった苦い思い出をぶり返して少しブルーになりつつ深夜バスを待つ。
 深夜バスを使って帰る人は殆どいない。この時間に帰ってくる人の殆どは、駅から徒歩で帰れることを織り込み済みでこの時間に帰り、バスを使って帰宅するほど距離の人は、この時間に帰宅しないのだろう。バスを待つ人は私以外にはいなかった。やがてバスがくる頃に、2、3人が並んでいた程度だ。
 ふう、と小さくため息をついてバスに乗り込んだ。何のため息だったのか、自分でも分からない。単純につかれただけかもしれないし、クリスマスの内装になにか思うところがあったのかもしれない。
 クリスマスの時期ということはわかるのだが、バスの中がクリスマス風のデコレーションで内装されているのは初めて見た。モミの木、赤い長靴、鐘、星。小さい頃に家で飾っていたささやかなクリスマスツリーを思い出す――ちゃちな飾りだ。
 クリスマスなんてイベントは年をとるごとに色を失っていった。特に一緒に過ごす恋人がいたこともない、いわゆる『キモオタ』に属する私にとっては、家族の団欒としてのクリスマスが姿を潜めるに連れて、そのイベントそのものがもはや消え去るだけの行く末しか持っていなかった。
 運行するだけ赤字なのが明らかな、過疎ったバスが発車する。私は中ドアの付近右側の席に座り、他の人は私よりも後ろに座っている。運転手も、仕切りの向こうにあって姿は見えない。私の視界には、安っぽいクリスマス装飾だけが、侘しく映っていた。
 一つ、二つ、とバス停を通り抜ける。私がいつも使っているバス停までは、まあ歩けばいいという距離だし、そもそも利用者が少ないのだ。次はいつものバス停。3人しか乗客はいないが、私以外に最低もう一人は確実にそのバス停で降りる。そんな確信のもとに、何故か自分で降車通知ボタンを押さずに、ぼうっと、視界の中に意識をたゆたわせていた。

 ぴんぽーん

 案の定だ。乗客のひとりがボタンを押した。同時に、バス中のボタンのライトが、赤く、光った。

「――!」

 まず驚いたのは自分自身に対してだった。そんなことにに胸の真ん中のところがスレッジハンマーで強打されたように竦んでしまった自分に。
 バス中に散りばめられたボタンの赤いライトが、暗い外で鏡面と化した窓ガラスと、ちゃちなクリスマス装飾に反射して、キラキラときらめいていた。それはまるで、バスの中全体がクリスマスツリーに、あのちゃちだけど団欒の中にあって暖かかったクリスマスツリーに、突然変わった瞬間。12月も半ばになると押し入れからゴソゴソと引っ張り出して、電飾にスイッチを入れて光るのを無邪気に喜んでいたあの昔を、急に、本当に不意に、思い出して、色褪せて沈んだ何かを呼び起こしてしまったようだった。

 バスが停車し、ドアが空いたのを見て、私は慌ててバスを降りた。バスを降りると、クリスマスなんて関係の無い風景が、味気ない該当に照らし出されて煌々と、私を嘲笑っている。

「……揺らいだなあ」

 自嘲。
 電車を降りたときと同じように深呼吸をすると、今度は期待通りに意識がクリアになった。ようやく世界に実感を得た。
 今の私にはこっちのほうがふさわしいだろう、と、ぽつ、ぽつと冷たい光を落とす街灯の光で、赤い残像を洗い流しながら、自宅へ歩みを向けた。

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