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【妹紅_輝夜】Sheathe of Death_冗長版

夜伽合同出版から1年が経ったので
多の場所での公開が解禁されましたので。


東方夜伽話合同企画「占夜幻夜物語」収録の「Sheathe of Death」の再掲ですが
容量制限による短縮・削除前の冗長部分を含むバージョンが残っていたので折角なのでそちらを。
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 永遠亭。鬱蒼と茂る竹林に抱かれた邸宅。誰がそう呼び始めたのか、いつからそう呼ばれているのか、今となっては誰も、知らない。
 何十年かに一度花を咲かせ、一斉に枯れるという竹だが、この辺りではそれすら稀で、精々三百年に一度。風が吹けば笹は揺れ、葉擦れの音を立てる。竹同士が打ち合い、軽快な音を鳴らす。だが、静寂の中に響く音は、それ故に無言を色濃くし、時の流れぬ竹林の有様を物語っていた。
 竹達は時に半ば見放され、屋敷は永遠の時にたゆたう。そこに住まう者達もまた、永い時間を漂っていた。
 そんな、永遠亭にも、極稀に来訪者がいた。いや、永遠亭にいない者が永遠亭に入ることは叶わない。正確には来訪者というよりは徘徊者という方が近いのかもしれない。しかし、当事者同士には、それで十分のようだった。
 
「姫様。藤原の娘が。」

 襖の向こうに従者が傅いているのが、影写しで見て取れた。

「誰か怪我人でも?」
「……単身です」

 月の魔力を最大限活用出来るように、永遠亭の窓から覗く月は常に満月から一歩手前、ちょっとだけ欠けた月になるように時間が歪められていた。魔力の量は満月が、確かに最大だ。但し、満月は欠けるのみ。そこに織り込まれた言霊は絶対にそれに引きずられ、それをソースにした魔術もまた、『欠け行くもの』になるからだ。だが今宵はそれに関わりなく、微陰の月。本当の意味で、永遠亭の住人達の時間だった。
 その窓に、ひょこりと揺れるのは兎の耳。彼女もまた月の力に魅入られた、妖の兎。声の主は、玉兎の憂曇華院。

「そろそろだと思ってた。全く、好い日を選んだわね。空が澄んで月が綺麗で。空気もよく乾いて何も燃え易い。本当に好い日。」
「お戯れはおよし下さい」
「うどんげ、これは何処をどう切っても戯れでしかないのよ。金太郎飴のように、もう、どこを切ってもね。」
「少しは私どものこともお考えください。毎度毎度気が気ではありません。」
「いつも通り殺してくることにするわ。それなら文句なくて?」
「同じですっ」

 小さく舌嘗め擦りする輝夜の姿からは、その二つとないであろう美貌とも相まって、それだけで残忍さが滲出ている。

「仕方がないじゃない。向うも私も不老不死なのだから。」
「罠でも張って生け取りにして、あの吸血鬼に差し出せばいいんです。人助けと危険回避の両方になります。」
「だめよ。吸血鬼を飽食させてはだめ。色々と均衡が崩れるわ。コストパフォーマンスの悪い消費者には適度に飢えていてもらわないと、パワーバランスが保てなくなる。」
「ですが……」

 口篭る優曇華院の背後から。落ち着いた女性の姿が現れた。彼女こそ、この狂った夜の本当の意味での仕掛け役。八意永琳。

「大丈夫よ。死んだりなんてしないわ、絶対に。そんな甘い効果の薬なら、それはあんなに甘い味の薬にはならない。」
「何人たりとも、この愉快な夜を侵すことは許さないわ。そう、月になんて帰らなくても、ここにはこんなに愉快な素敵な甘美な、そして苦くて切ない夜がある。殺し殺され繰り返し、永遠に痛めつけ合い、だからこそ生を痛いほど噛み締められる最高の悦楽がある。」
「姫、様……」
「うどんげ、貴方にはわからないでしょうけど、永遠を生きるのは、そういうことなのよ。全てに飽き、与えられる刺激への依存性だけが限りなく高まり続ける。貴方がご飯を食べて満足する程度の気持ちを、生死を賭けた刺激でしか得られなくなるのよ。」
「流石。魔法使い二人相手に、勢い余って薬を飲んだだけあるわね。不死者の気持ちがよくわかってる。」
「……私も、いずれは飲むつもりでしたから。お陰で四苦八苦も感じない。」

 どこか諦めの空気をまとった表情で、永琳は月の姫の前に平伏した。

「あら。愛別離苦も含めて?」
「互いに不死ならば。」
「でも振り向かないかもしれないわよ?」
「正確には、私は姫様が好きなのではありません。姫様に尽くす自分自身が好きなナルシストなんです。」
「ふうん。そんなものを見て自惚れていた時期も、私にはあったのね」
「昔の話でしょう?」
「昔の話よ。あれから何度月が満ち欠けしたか。わかってるつもりよ、永琳。貴方の狂いっぷりもね。」

 なにか手の届かない絆がこの二人の間にはある。そう感じた玉兎は、失礼しますと小さく告げて、ゆっくりとその場を後にした。想い人に、過去への未練がないこと、それがわかっただけでも収穫だったというのに、ひたすらに敗北感が彼女を苛んでいた。
 うどんげが去った後、かつての恋人と二人っきりになった部屋で、輝夜は服を着替えていた。否、着替えさせていた。身じろぎ程度しかしない姫の扱いにも慣れた様子で、永琳は彼女の夜装を脱がせ、華々しい単を着つけていた。色とりどりの衣を数枚も重ねあわせたその服は、まさにめかし込むと言うに相応しい。

「贅沢、よね」
「そうですね。一晩で消し炭になるのに、この豪奢な衣装は。」
「違う、それじゃない」
「……」

 沈黙に時間を放る。わからないのではなく、わかりすぎるから。そうしても尚、着替えさせる永琳の手は止まらない。無言の空気に饒舌な言霊が飛び交う。それは、確かにこの二人の間だからこそ成立するやりとり。
 それでも、今晩に限って言葉が口をついて出そうになったのは、何かの暗示だったのかもしれなかった。







「あいつが私を粉々に砕くとき、原形を留めないほどの肉塊にするとき、どんな表情をしているか知っているか?それは本当にきれいな笑顔なんだ、本当に。」

 腰を下ろすのにあつらえ向きな岩にどっかと体を投げ出す少女。かつて古くは日本を我が物顔に動かした藤原氏。さらには辺境に黄金の桃源郷を築いた一族。その末裔が彼女だ。そしてその傍らに佇む長身の女性。長く伸びた銀の髪は、まさにそれを細く打ち伸ばしたのではないかというほどに、月の光を受けて輝いていた。
 竹薮が風と夜を浮き彫り、月明かりが永遠を照らす。ここも永遠亭に程近い、同じ竹林。だが普通の人間であれば月の魔力、夜の幻、数多の妖がその行く手を惑わせてその短い距離にも拘らず、永遠亭へ辿り着くことは至難の業。どうしても、やむにやまれぬ理由がある場合に限り、どこからともなく少女が現れ、仕掛けも道具もなく明かりを灯し、まっすぐに永遠亭に案内するという。その少女こそ、この藤原の末裔の少女に他ならなかった。
 その少女に語りかける銀髪の女性。知的、といえば陳腐な、しかしそうと評さざるを得ない出で立ちは、しかしそれが過ぎて逆に人間らしさがない。ハクタク。それが彼女の正体。

「その笑顔が欲しいから?守りたいから?」
「そんな崇高なものじゃない。私もあいつも、ただ『そうしたい』からさ。」

 にぃ、と犬歯を見せて笑うその顔は、月の姫のそれと似た雰囲気を醸し出している。だが。

「嘘だな」

 程長い時間月を見上げたまま押し黙る藤原の娘。瞳に銀の月を映し、しかしその姿を遮るように目蓋を閉じた。そしてその代わりにゆっくりと口を開く。

「……そう、嘘だ。ただ理由が欲しいだけ。輝夜に会うための。」

 叙情詩人が詩を詠むように、しっとりと、それでいながらしっかりと地に足のついた声色。夢見るような少女を、しかし長身の女性はにべもなく非難した。

「狂ってる」
「ああ。全き狂気。でももう、慧音でも修正できない。気付くのが遅すぎたんだ。」

 月に吠える犬歯は収まり、代わりに少しの物悲しさを湛えた表情が浮かび上がる。
 その様を見て、対峙する女性は目を逸した。そして目を合わせぬまま、小さく言葉を転がす。

「どこかのワーハクタクがどこかの人間を愛したように」
「……」
「幸せや愛のカタチは決まっていない。確かに相通じた気持ちならば。それは紛れもない幸せ。血が流れようが、いいや、たとい世界が滅ぼうが、妹紅とアイツにとっては、めでたし、だ。」

 先まで藤原の末裔が見ていたその丸い狂気を、代わりに半白沢が睨み付けた。

「ごめん」
「……なんて、人の歴史を紡ぎ織りなす貴き白沢が、人間にうつつを抜かすわけがないだろう?」
「さっき愛してるってゆった。それに慧音も半分人間だろ」

 絡み合う視線。言葉の代わりに目線で互いの想いを伝え合う。その様はやはり、輝夜と永琳の関係と、酷似していた。

「……恰好くらい付けさせてくれよ。」

 ふっと力を抜いて再び目を逸らす。後ろめたさからではなく、双眸に溢れるそれを見せまいとしてのことだ。
「慧音が泣いてるところなんて、結局見れなかったな」

 絡み合たがり溶け合うことを望む視線を、無理矢理に引き離したまま。慧音と呼ばれたワーハクタクは、再び月を見上げる。
 そして、失恋の悲愴を自嘲の笑みに変えて、漏らした。

「……そういうのは、恋人相手で十分だろう?」

 それ以上、何も語らない慧音。彼女こそが歴史そのものであるかのように、ただ、黙した。







「……薬の副作用よ」

 もう何着目になるのか。今夜も、輝夜には、お凡そわかっていた。ヤツが来ることが。漂う雰囲気が、空気全体が、きな臭くなる。熱を帯び乾き切った、まるでそいつの心のような風が頬を撫でる夜、妹紅は必ずやってくる。その度、衣の赤が血と炎で上塗りされ、灰塵と化した。
 この夜、何かが違っていたのは、そう、何だったのだろう。とにかく、色々なものの波長が狂っていた。

「そうに決まってる。でないなら、何故」
「あの薬にそのような副作用はありません。効能は不老不死をもたらすこと。副作用は不老不死になってしまうことです。」
「じゃあこれは何!?この心臓は、どうしていうことを聞かないのよ!」

 着付けた襌の胸元をはだけ、絶世と謳われた白い肌を晒け出す。永遠の艶を宿す、整った乳房。そこに、白魚のような細い指四本が導かれ、ずぶり、と肉の中へ埋まる。
 そのまま、襖でも開けるかのように指を突き入れたまま手を左右へ開くと、どぷ、と音がなるほど大量の血が溢れ出した。ぼたぼたと少し粘りのある水音を立てて、畳みに朱が広がる。

「なんで、なんで勝手に動きが早くなるの?苦しいわ!」

 出血など意に介さぬままに、輝夜は胸の中で蠢動するもの指差して叫ぶ。観音開きの戸棚でも開いたように、輝夜の胸は肉と肋骨が中央でぱっかり開き、突き刺した指はさらに左右一対のふわふわした臓物を掻き分けていた。

「秘薬とは関係ありません、姫様。その恋心は。」

 対峙する永琳。その息も飲む光景を前にして、しかし平然としている。むしろ輝夜が剥き出している心臓の蠢きを、じっと見据えていた。

「副作用で見境なく惚れるような効果があるのよ!そうだと言いなさい、永琳!なんで、言うことを聞かないのよ、この心臓は!勝手に、勝手に早く……っ!」

 蝶番の壊れた扉のように、だらりとしなだれたままの骨付き肉をむしり取り、その奥で蠢く「言うことを聞かないそれ」を鷲掴、そしてずるりと引き抜いた。
 血飛沫とはこのような光景にこそ、似合い。そう言わしめるほどの。

「質の悪い病気か、薬害だわ。それ以外、認めない。」

 掌の中で、どくん。どくん。と同じ動き続けようとするそれを、赤い海の中に見やる輝夜。さも、忌々しげに。
 一番太い血管は千切れぶら下がっているが、幾ばくかの残りが名残惜しげに体と繋がろうとしている。輝夜それすらも引き千切った。もう押し出すものが入っていないのに、機械のように最期まで同じ動きを繰り返そうとする心臓を見ながら、そうやって大人しくしていればいいのよ、と呟く。
 赤い飛沫が上も下もなくシミを広げていた。そんな真っ只中にいてなお、永琳は輝夜の中心をじっと見つめている。顔も髪も服も、そして心までも、輝夜の赤で染められて行く永琳。静かに、輝夜へ言葉を投げ掛ける。

「……そのような言い方では、自分だけでなく、藤原の娘をも傷つけますよ」
「傷?そんなもの!私はあいつに幾らでも付けてきた。無数に!そう無数によ!!あいつも私を傷つけてきた。私達はあの月が満ちて欠けるのと同じ位互いに殺し合った!」
「存じております」
「知っている?気持ちいいのよ。あいつを地面に打ち付けて。わかる?顔の形がわからなくなる位に打ち付けるの!想像できる?まだ動こうとする腕をもいで、まだ立とうとする脚をちぎって。血も肉も骨も泥も雨水もわからない位に擦り潰すその快感を!理解できないでしょう?血の匂いも土の匂いもない位、細切れに殺してやるのよ。それが気持ちいい。堪らなく気持ちいいいのよ!?」
「藤原の娘に「そうされる」のも、気持ちがいい」

 怒濤のような言葉の後、輝夜は手の中にある器官を、握り潰す。
 そして、永琳の言葉に向き直った。

「……そうよ。よくわかってるじゃない?やっぱりそういう薬だったのね?ねえ?ねえ!?」
「……なんとでも仰って下さい。答は、姫様の胸中にあるものです。」

 馬車に轢かれて死んだ蛙のようになった心臓を、ぞんざいに捨てた。びち、と本当にそれが地に落ちたような情けない音を立てる。今の輝夜には、確かにその程度の価値しかない。
 だが、畳の上でひっくりかえっている心臓は、一度その動き止めたにも関わらず、再び脈動を始めていた。千切れた血管の切り口からは夥しい数の糸蚯蚓が這い出し、本体を求めてびたびたと跳ね回っている。中に何も入っていないはずなのに、脈打つ度にだく、だく、と血が溢れ出て畳のシミを広げていた。

「違う。違うわ、永琳!私は愛してなんかいない!かつて私に求婚して敗れたような、顔も覚えていない愚かな男の孫娘なんて!!」

 畳の上を這い回る毛細血管と筋繊維。それと同じものが空虚になった胸の中からも伸び、そこに入るべきものを探し求めている。明らかに体を包み込むのには過剰な大きさに拡がった皮膚。それ自体が液体のように流動しながらのたうつ肉。失った相手を求める大袈裟な反応に輝夜自身、きもちわるい、と苛立つ。

「不快であろうと、嫌悪しようと、それが真実です。それが恋心です。」
「違う!!言いなさい、永琳!一言言いなさい!薬の副作用だと一言だけ!」

 胸に再び収まろうとする心臓を、払い除け、打ち飛ばし、砕いて散らす。それでもすぐに元の姿に戻って、在るべき位置を求めて這いずり回っていた。

「姫様こそ、一言口にすればよいのです。藤原妹紅を、愛している。と。」
「ちがう!ならば、なんでこんなに胸が空虚なの!?ほら!ここに在るべきものは!無理矢理に引きずり出して、潰して、打ち捨てても、胸の中にぴったり収まってくる。いつも、常に十分に、イヤだと言っても満たされて、勝手に満たされて。だのに、何故!こんなに空虚なのよ!恋とは、もっと、あたたかく満たされるものでしょう!?」

 輝夜が諦めて手を止めると、胸の方からも伸びた肉紐が心臓のそれと出会い、絡み合ってさらに動きを活発にする。ずるずるとグロテスクな軌跡を畳に残して、二つの肉塊が、求め合い引き合う二人の手のように近付いてゆく。
 そして、地虫が光を避けて暗がりに潜り込む如き自然に不自然な動きで、心臓が胸の真ん中に入り込んだ。
 開いたままの肋骨が蜻蛉の口みたいに閉じ、その合わせ目をやはり糸蚯蚓が縫いつける。粘菌のように広がった皮膚がそれを覆い尽くして傷口が見えなくなった。その下で肉がぼこぼこと脈打っている。夥しい数の蛆が蠢くような凹凸の繰り返し。やがてそれも収まる頃には、彼女の乳房は完全に復元されていた。当たりに飛び散った血の跡も既に見えない。全てが時間と空間を超えて彼女の下に再帰したのだ。
 はだけ、破れた服以外全て元通りに戻った自分の体を見て、輝夜は呟いた。

「きもちわるいわ」

 それは、単に不死である自分の体を指しての言葉だったのだろうか。それとも。

「肉体は死ななくとも、この気持ちの悪さで心なら死ねそうね。」
「……それを、お望みですか?」
「自分でも驚くほど、望んでない。」
「不死の薬ですから。」
「死神も、匙を投げた、か」

 輝夜は永琳の側へ寄り、腕を伸ばしてその首をくるむように回した。そのまま、永琳を抱き寄せた。
 輝夜の方に首を乗せる格好のまま、永琳は愛しい人の耳元で、寂しげに囁く。

「そろそろ最後に、なるかもしれませんね」
「ならないわよ」

 にべもなく否定する輝夜だったが、永琳は近付いている何かの予感を察してでもいるようだった。食い下がる様子を見せた永琳に輝夜は、それ以上は面倒臭いとでも言いたげに、唇を重ねて言葉を封じる。
 永琳が着付けた単は、彼女自身の手で脱がされた。

「私の死神は、この腐れた心かしらね」

 輝夜の言葉は、どこに向いて投げられたものだったのだろう。







「何だ、合わせが乱れてるぞ。」

 時の薄い竹林。静かな風が竹を揺らし、月明かりをちらちらと舞わせている。

「合わせの一つや二つ、どうだっていいわ。どうせぼろぼろになってしまうし。」
「なら全裸できたらどうだ。どうせ全部燃えてしまうんだ」
「品性の無い輩は嫌いよ。その口から出る言葉もね。」

 幽幻な月夜に対峙する二つの影は、輝夜と妹紅。いつも通りポケットの付いたもんぺにワイシャツとサスペンダー、長い銀髪を留める過剰なまでのリボンという風変わりな出で立ちの妹紅に対して、輝夜は『こういう夜』だけはそのためにあつらえた服を着る。つまり、妹紅に合わせがずれていると指摘された、単だ。幾重にも重ねられたそれをまとい、宝物を周囲に従えて墨染めの髪をなびかせる姿は、豪奢の一言に尽きる。

「始めるか」

 ポケットに突っ込んでいる手を出し、月光に映える輝夜を見据える妹紅。彼女の周囲に、ちり、ちり、と小さな火花が散り始める。

「まあ待ちなさいな。始めてしまうのはつまらないわ。こんなに楽しい夜を始めてしまうのは。」
「同感だが賛同できないな。お前と無碍に時を過ごしても、それは正に無碍。それ以外の何物でもない。価値ある夜は燃え上がってから。竹林も夜空も、私もお前も、永遠も須臾も、生も死も、全てが真っ赤に燃え上がる時間こそが。」
「それには同感だし賛同だってしてもいい。でも待ちなさい?私たちの時間はいくら微分しても刹那へ還らない。もう少しゆっくりしてもいいんじゃない?そう、ゆっくり。ゆっくり。ゆっくりと殺し合っても。」

 そう言う輝夜の表情は残忍そのもの。妹紅を餌か何かとしてみている肉食獣。

「勝者の余裕ってやつかよ?反吐が出る。」
「まあそんな所かしら。だって、勝てないでしょう?」
「うるさい」

 ごう、と音を立てて紅蓮が迸る。輝夜を飲み込まんとする炎蛇を、輝夜は危なげなくかわす。長くたなびいた黒髪の端が焦げたが、輝夜は気に留めない。
 当たりはしなかったが、炎の威力は段幕ごっこを称して遊ぶ少女達のそれを遙かに凌駕している。輝夜を抜けた炎の軌跡は、竹林をしばらく進んで消えた。炎は輝夜の上半身をとばす程度の太さに見えたが、その後ろで焦土と化している範囲は、人の手に負えない力を持ったその大きさを如実に顕している。こともあろうに妹紅はそれを全く身じろぎもせず、ポケットに手を突っ込んだまま放ったらしい。

「気が早いのね?」
「お前と違って後天性蓬莱人になってから日が浅いからな。」
「早く始めれば、早く終わるだけだと言うのに」
「お前に勝てるのが楽しみで仕方がない。お前は飽きたかも知れないが」

 妹紅の言葉通り、輝夜はさもつまらなさそうな表情で相手を見ていた。

「飽きたわ。本当に。単に精々『これ』以上の暇つぶしが無いから付き合っているだけよ。貴方と、そんな理由でもなければ、こうしてわざわざ、会ったり、戦ったり、殺したりなんて、しない!」
「のんびりとか言っていた割りに、随分と……」
「気が変わった。貴方を見ていると永遠も須臾もどうでも良くなる。いらいらする。むかむかする。腹が立つ。吐き気がする。気持ち悪い。鬱陶しい。煩い。迷惑。邪魔。拙い。苦い。黒い。……殺したい!」

 かたかたと震えながら、古ぼけた蓄音機のように歪な声で言葉を並べる輝夜。目から入る情報が苦痛であるように目を覆い、澱むわだかまりを掴み出そうというように胸を掻き毟る。
 指と指の合間から除く黒い瞳が妹紅を捉えると、刹那、妹紅の右半身が突然に血と肉の塊に化け、すぐさま砂のように消えた。

「ぐっ!」

 輝夜の力を媒介するのは月光。月夜は永遠と須臾を操作する輝夜の力が遺憾なく発揮される彼女のテリトリー。永遠に風が彼女を撫でる時間を、強制的に須臾に積み重ねたのだ。肉体は風に侵食され、崩れて風化した。

「ほうら。貴方なんて、始まってしまえば、一瞬で。」
「まだだッ」

 妹紅も負けじと炎を繰り出す。掌大の蝶を模した炎を無数に放ち、輝夜が回避行動を取る隙にバランスを取るための右脚を優先的にリザレクション。
 隙を作ってしまったと自覚した輝夜は回避をやめ、火炎蝶を袖で薙ぎ払って消し飛ばす。出来上がった空間に時間的猶予を見つけ、間髪無く妹紅を指差すと、形無く仄暗い月光が輝夜の指差す方へ収束して彼女の指し示す通りに一閃。右から左へ、目に見える範囲全てを焼き払う。

「相変わらず、でたらめなっ……」

 蝶を一網打尽に掻き消された挙句、そのまま貫通して迫る光学攻撃をリザレクションを継続しながら回避する妹紅。
 後ろに飛び退いて着地した勢いのまま、残った左手を地に突いて火柱を立ち上げる。火柱は断続的に、輝夜へ向けて迫るように吹き上がり続けた。

「遅いわね」

 輝夜が極小噴火を悠々とかわすと、妹紅が笑っている。

「悪いな、そっちは花畑だ」
「え」

 半身を再生し終えた妹紅が指を鳴らすと、輝夜が火柱を回避して移動した範囲一帯が、轟音を上げて爆発する。
 突き抜ける爆風は遠く離れたその位置であっても、生の人間ならばそれだけで全身が火傷するほどのもの。だが、炎への耐性がある妹紅は動じず、眉を顰めてそれを見ていた。幾許か服が焼け飛ぶが、気にしない。じっと、普通なら何も残るまいと思わざるを得ない爆心を見やる。

「……来ると思ったぜ」
「狡い手ばかり……!」

 爆風に乗じた輝夜が妹紅へ猛進してくる。右腕と、頭蓋の半分が消し飛び、左脇腹から赤黒く焦げた何かをはみ出しているが、確かに意志を持って妹紅の方へ。

「はアあっ!」

 不死者だからできる無茶苦茶な攻撃。爆風に吹き飛ばされながらその勢いを乗せた拳撃を繰り出す。爆炎で吹き飛んで使い物にならないだろうと思われる拳は、しかし妹紅に届く頃には完全に再生していた。自らの不死を利用し切った戦い方。

「っく……」

 ばき、と鈍い音がする。輝夜の拳を受けた妹紅の腕と、輝夜の拳自身が砕けた音だ。それでも受け止めきった妹紅には余裕の表情が浮かんでいる。再生率の大小が勝敗を分けることが多いからだ。妹紅が距離を詰め、残った方の拳を衝くと輝夜は砕けた手の甲と腕で払うようにいなす。後方で爆炎が巻き起こった。出来た隙めがけて輝夜の爪が伸びるが、妹紅は横方向へ上半身を反らせてそれを回避する。その後方の地面に巨大な五筋の亀裂が走った。
 視線はどこを見ている?息遣いは?重心をどこへずらしている?
 五感全てを使って相手の次を知ろうとする二人。
 輝夜が振った爪と逆の手を更に横に凪ぐ。前の回避のせいで斜めに構えていた妹紅は迫る五本の『断裂』に向け、空を右手でむしり取るように握る。そうくると思った、そう言いたげな笑みを浮かべる妹紅の目の前で、極端な指向性を持った爆発が輝夜へ向けて爆ぜる。炎は断裂を掻き消し、輝夜の左肩から頭部の左側にかけてを吹き飛ばす。

「本気で来いよ。」
「……本当に興の冷めること。折角面白い戦い方を教えてあげているというのに。本当に、詰まらない。所詮は地上を這い摺る人の子か。無様に潰れた肉になって私を楽しませる以外に能がないわね。」
「ほざけよっ!」

 妹紅がリボンの一つをむしり取ると、その裏側にはびっしりと呪言が綴られていた。しかしそれはスペルカードではない。彼女達の夜に、そんなルールは必要、ない。
 純粋に相手を殺すことだけを追求した術。そのトリガが、このリボンの裏地であり、活性限定を解除した七宝だ。幻想郷に住まう人外の者やそして極一部の人間が興じる、弾幕ごっこもそのルールも、ここでは通用しない、必要ない。彼女ら二人の間にあるものは、もっと。
 妹紅がリボンを燃やすと、記されていた文字だけが羽虫のように舞い散って一定の法則で整列し、鈍く光って消えた。程なくして、周囲の空気が音を立てて歪み、不自然な熱を生み出し始める。大技を認識した輝夜は、地上を飛び立って飛翔した。妹紅相手に、地面は一面が常時地雷原に変わることを知っている以上、それは自然な選択。

「空間ごと熱死しろ、化け物」

 苛立たしげに吐き捨てる妹紅。彼女が拳を天へ衝くと、月を右肩に乗せた輝夜へ向けて地を割る無数の溶岩柱が伸びた。その合間を縫って妹紅を視認し続ける輝夜。
 突然輝夜の目の前を横切る火線。火柱とは別に獲物を狙うか狙わないか中途半端な照射を断続的に繰り返すプロトンレーザーが、何もない空間から幾本も走り続けていた。

「面倒臭いこと……」

 レーザーに注意を払いながら妹紅の周囲でマグマを回避する。
防戦を切り返そうと、輝夜は十分に照準を合わせた上で相手を指さし、『月』へ再度指令を下す。輝夜が指さした妹紅は、しかし回避行動もとらずに両の手の人差し指と親指を互いに交えて四角い形を作り、それを輝夜へ向けて悠然と構えていた。

「!?」
「気づくのが遅いぞ、輝夜」

 四角い窓の向こうに、にやりと笑う妹紅の目。刹那、四方を囲むように六面が形成されて、輝夜はそれに閉じこめられる。赤や青へ変化する半透明の面に触れると、触れた部分が瞬時に炭化する。六面体の周囲の中心方向へ退避するが、空気が、自分の体が、徐々に熱を帯びていくのが輝夜にはわかった。

「かかった……!」
「く……」

 四角い箱。半透明の箱。赤から青、青から赤。透明へ黄色へ紫へ、透明へ。六面を鈍く仄かに鮮やかせ、沈むように回り浮いて漂いたゆたう。熱い箱。
 輝夜はその裡にいた。私がそこに捕らまえた。宵闇に舞う華麗な毒蛾を綴じ籠めたその蒸し籠を、私は酷く酷く酷く愛しい者でも憾むような眼(まなこ)で見ている。
 透明な硝子瓶に封じた生き物が、裏切りの風景へ手を伸ばすように、輝夜は箱の側面に触れた。
 篝火に飛び込む羽虫はさもありなん。触れた部分から余りに綺麗に蒸発してゆく。

「分子細動……」
「そんなことがわかったところでどうする?後はお前が分子レベルの振動器にかけられて熱死するのを待つだけだ。遊びすぎたお前が悪い。」

 出ようとすれば瞬時に焼け、出なければじっくり焼け。囚われれば出口のない焼死が待つ箱。それが妹紅の使った術だった。必勝のコースへ引き摺り込んだ妹紅は、臨戦状態を解除して丸い月、四角い箱、感情を掻き立てる人物とを見上げながらポケットに手を突っ込む。
 箱の中では早くも輝夜の服と髪が燃えていた。おそらく皮膚も焦げ、肉が焼けていることだろう。
 だが。

「ははっ。あはははははははは!面白い、面白いわ妹紅!今回は評価してあげる。……でもね」

 炎を巻き上げ、ぐつぐつ煮える肉をこぼし、血を沸騰させながら輝夜は笑っている。そして輝夜は『瞬時に焼ける』方を選んだ。蒸発と再生を繰り返す人らしきモノになりながら六面体の縁へ向かうと、面を成す熱核へ手を突き、そして。

「くく、そこを通る気か」

 じりじりと蒸発し、すりこぎにおろされるように体が無くなってゆく輝夜。

「面白、いけれど、残ねん。確かにな、みの相手ならふ封殺ね。でも、こんなモノはああ、こぉうすれば!」

 ぐん、と面へ向けて体を突き入れる。面に触れた部分から一瞬で気化して消えてゆくが……ほんの少し、本当にほん少しの骨片が。

「なっ……」

 骨の欠片から急速に再生する輝夜の体。骨の周りに薄く肉。焼け焦げながらも箱の外側に突き出た、指先。それを発端として徐々に、面を抜ける輝夜の体。頭蓋の焼け焦げたものが異臭と炎を放ちながら少しずつ、少しずつ境界を越える。じじっ、と焦げる音を繰り返しながら面から拳一つ分ほど離れた辺りで急速に再生が加速してゆく姿は、まさに人の身を焼却する映像か、もしくは劇薬に溶けてゆく映像を逆送りにしたかのよう。
 眼孔の奥から覗く空間に、小さな白いものが、揺れては消え、消えては現れ繰り返しながら、その体積を広げてゆく。脳が再生し、そこから血管、筋、目玉、脂肪。しかしそれも焼かれぶつぶつと煮えくり返りながら。表情を作る筋肉一つ一つが顔面に赤い流れを刻んでいる。修復してもすぐに焼け落ちる血管からはだくだくと血が滴り、その傍から蒸発していく。箱を抜けた手、腕、肩。胸、首、頭。顔。その顔が、歪な笑みを浮かべて、妹紅を見た。

「ふ、……ぎっ……く、はは、ほ、うら、こんなもの。抜けられる、抜けられるのよ!」

 上半身が面を通過した。まだ肉塊と人型を行き来してはいるがそれが人になろうとしているのは分かる。対して下半身は既に跡形も無い。それは輝夜の体が燃え盛りながら生まれてくるような
光景。

「くそっ」

 押さえきれないと踏んだ妹紅は飛翔し、炎の翼を広げて輝夜の前に至る。明らかに妹紅の優勢。妹紅自身もそれを自覚し、それを不動にするために『はみ出している異物』を箱の中に押し戻そうと、拳を繰り出す。

「潰れて燃え尽きろ!」

 炎熱をまとう渾身の拳。不完全な再生と、元よりの高温で、あっさりと箱の中へ押し込まれ炭に還る。……はずだった。

「な、に……」

 ぱし、とひび割れる音。輝夜の腕はしっかりと妹紅の拳を受け止めていた。炎に巻かれて焼け落ちていく側から沸き出すように再生する肉。黒く炭化した上に血が噴く顔面を妹紅へ向けて、輝夜らしきソレは嗤った。顎が動くとそのまま崩れ落ちて、新しい顎が生える。

「言っ、てるででで、しょぅ……?蓬莱、人んんんら、しい戦い方……をををしろと」

 黒も白もなく融けた眼球が、それでも妹紅を見やる。

「くっ」

 受け止められた拳を引き、姿勢を落とす。下半身を強く空中に固定して、下から突き上げるように輝夜の顎へ逆の手で掌底。掌から突き抜けるように活性フロギストンが吹き出すと、輝夜の頭部はシャンパンの蓋のように勢いよく抜け、すぐに蒸発した。そのまま畳みかけるように、熱空間を形成する回し蹴り。上半身全てが吹き飛ぶと思っていた妹紅だが……
 首のない輝夜は蹴りも受け止めていた。

「ばけ……ものっ!」

 一歩退こうと飛び退いた妹紅は、しかしそれができなかった。足を、しっかりと掴まれていたからだ。首のない体にそれができる道理は、妹紅には理解できない。だが、輝夜の左手は妹紅の右足を離しはしなかった。バランスを崩す妹紅。

「くそ!」

 飛翔時にアフターバーナーとして使うジェットを噴かして掴む手を吹き飛ばそうとするが、遅い。頭以外、人型と認識できる程度に再生した輝夜の手が、ぐん、と伸びて今度は妹紅の顔面を殴りつけた。

「が、ふっ……!」

 ごきん、と首の折れる音が響いたかと思うと、それどころかうなじの辺りから白い骨が突き出るように歪に曲がる。顔の半分が抉れるように吹き飛び、脳漿と目玉、そして何本かの歯と頬骨を散らして、そのまま地面に叩き付けられる妹紅の体。水風船が地面で破裂したように血と肉を巻き散らした。
 それとは対称的に、生まれ出る……否、再生する輝夜。妹紅に吹き飛ばされた頭部はさすがに一番再生が遅い。
 頭部の形が精々再生が終わると、地面で肉片になってバラバラに動き回る妹紅を見下ろしながらゆっくりと高度を下げてゆく。地上に近付くにつれ、赤い糸に包まれては元に戻るその速度を加速していった。どこからともなく、どこからでも生える糸蚯蚓が傷という傷に覆い被さり肉を埋め、皮膚が広がって元通り。地上に降り立つ頃には、語るに墨染めの絹を宛がわれる黒髪が、再び月夜になびいていた。

「化け物化け物って、妹紅、貴方もそうだというのに。貴方もそう言う戦い方をなさい。今更『どの人間』に縋るの?私たちは生からも死からも解放された、『より純粋な人間』だというのに。詰まらないわ。貴方がそんな調子じゃ永遠に詰まらない。今の貴方じゃ、私の退屈な時間の、永遠分の一すら殺せない。そうでしょう?」

 胸に飛び込む恋人を受け止めるように両腕を広げる輝夜。一方の妹紅は急速なリザレクションで早くも原形を取り戻していた。
だが、無理のある再生故か、形を取り戻しても安定感のない部位は動かすとすぐに崩れ落ちてしまう。腕や顔のパーツに至ってはぼとりと落ちては生えてくるという繰り返し。
 反撃。
 輝夜がひらひらと舞わせた手を妹紅へ向けて翻すと、突如として握り拳ほどの大きさの穴が、地面に無数に穿たれた。正確無比に一定間隔、だが絶望的に回避不能な狭い隙間と、弾速。跳躍して回避を試みた妹紅だが、今の状態では満足に退避もできず、目に見えない何かにかすってしまう。咄嗟に炸裂弾を放ち、ダメージによる隙に付け入られぬよう牽制を敷く妹紅。
 見えない何かに触れた部分は、斬れるでもなく、潰れるでもなく、焼けるでも摺れるでも弾けるでもなく、消滅している。

「くっ」

 輝夜得意の『蝕』。月の満ち欠けを象徴する、彼女ならではの魔法。そして消滅した体の一部が、妹紅の敏捷性を奪った。一瞬仰け反った妹紅の隙を見逃さない。牽制の火の玉を、それを全く意に介さずに攻撃を重ねる。炸裂弾の爆風が頭蓋の一部と左上半身を噴き飛ばすが、輝夜はそのまま、残った右目を鳶色に染めて何かを叫んだ。顔中を口にして、声ではない、音でもない、何も聞こえない雄叫び。
 刹那。
 バランスと速度を取り戻そうとしていた妹紅の体が、四方八方からでたらめに突き刺さる朔の槍に滅多刺しになってその動きを止めた。体のあらゆる方向からあらゆる方向へ向けて、空洞の筒が突き抜け、次の瞬間、中のモノが溢れ出る。目玉だけが恨めしげに輝夜を見るが、それ以上の行動はままならない。絞り出すような呻きが、ぐ、が、と漏れる。

「甘い、甘い。甘い甘い甘い甘い甘い。貴方も蓬莱人なら、蓬莱人の戦い方をなさい!?詰まらない。詰まらないわ。貴方の信じる人間らしい戦い方なんて、やめてしまいなさいな!」

 輝夜の片目しかない頭が、笑う。輝夜は穴だらけになった妹紅に馬乗りになっていた。妹紅の目線から見上げる彼女は、月を背負って獲物を見下すアンデッド。違うのは、彼女は既に死んでいるのではなく生きているという事実。牽制だったはずの攻撃をもろに受け止めた輝夜は、頭蓋の端から、脇腹の内側から、砕けた手から、糸蚯蚓と粘液、それ以上に内容物を噴出している。だが、それ以上に損傷のひどい妹紅へとどめとばかりに、輝夜は火鼠の皮衣を輝かせた。

「最高の位置取り。炎が使えるのは、貴方だけではないわよ?流石に威力は敵わないけれど、この位置なら」
「く、そっ……ぉ」

 肉の焼ける匂いが漂う。輝夜は相手にも、それ以上に自分に対して至近距離で、サラマンダーシールドを発動していた。

「貴方の炎を無効化するのに使ってもいいけど、それではそれ一度きり。同じ一度きりなら、こう使わないと……っ!いかなパイロキネシストでも、この炎は一味違うわよ?」

 ぐちぐちと、肉が焼けて跳ねる音が響いている。妹紅の体から、そして輝夜自身の体から。

「ど、う?火傷なんてしない、あな、たが炎に焼かれる気分、は……ぁあっ!?」

 反撃できぬ妹紅。自慢の炎は無効化され、打撃を試みても腕を伸ばす先から炭化と再生を繰り返すのみ。
 黒く焼けてゆく肉の下から、再生した肉が顔を出し、それが再び焼かれる。無間の灼熱地獄。
 そして、より炎に近い位置にいる輝夜は、既に人の形をとどめてはいなかった。焼け爛れる肉塊が、どろどろと内側から湧いては溶けていく何か。時たま目玉が内側からぼろりと再生して転がり出し妹紅を見やる。が、妹紅はそれを察知できない。
 妹紅の短周期再生限界が訪れていたからだった。
 ゆっくりと人らしい姿を取り戻す輝夜。対して一向に再生の進まない妹紅。真っ黒に炭化して、歪な人形のよう。

「ふん、結局私の勝ちじゃない。詰まらない。」

 もぞ、と動くがそれ以上の再生力を見せない炭塊を、輝夜は踏み潰した。内部にはまだ幾許か生の部分もあったようで、ぐち、と音が響く。
 その音を聞いてか否か。少しだけ、笹の葉の隙間から覗く朧月のように少しだけ、悲しそうな表情を浮かべる。

「私が、貴方の死神でいてあげる。誤ってこっち側に来た貴方に、同じ苦しみはさせないわ。」

 何枚も残っていない単の襟を、綾をつけて正す。誰もいないそこに、敬意を表すように。
 妹紅と輝夜の殺し合いは、いつもこんな風だった。全力でぶつかる妹紅を、しかし半ば手を抜いた輝夜が、短周期再生限界へ追い込んで勝利する。
 だが、それでもなお、いや、それだからこそ、妹紅の勝利への執念はその姿をグロテスクに変貌させていく。






 何があった。こいつらは何だ。全て不死者……いや、死者だ。
いくら振り払っても次から次へと沸きいで、炎もないのに灼熱を撒き散らして私へ襲いかかってくる。
 生者がそんなに恨めしいか。生者がそんなに羨ましいか。
 奴らの目には私は映っていない。私ではなく私の中にある「命」、それだけが。

「触れるな、汚らわしい!」
「どうした輝夜?まさかただの亡者相手に歯が立たない訳じゃないだろうな?」

 妹紅が亡者の群の向こうでせせら笑っている。
 「てれびじょん」に映るヒーローモノの悪役。それが妹紅。毎度手を変え品を変え、私を楽しませはするが、勝つのは、私だ。
 だが、今回のはなにか、違う。
 簡単な召喚術なら幻想郷には使い手はいくらでもいる。だが、これはどうにも質が違う。悪霊化しかけの亡者をこの数。冥府の者か、そうでなければそれを束ねるか操る者、そう言った者だけが許される類の。

「貴方、『なにか犯した』わね?」
「少しばかり踏み出しただけだよ。この付近には不死山の噴火で煙に土砂に溶岩にまかれた亡骸がごまんと眠ってる。そいつらにちょっとだけチャンスを与えただけさ。」

 目が、死んでる。
 先に、心が……?

「呪われるわよ?貴方如きが触れていい類の術ではないわ。」
「呪い?そんなモノ、そんなモノとうの昔に罹っているんだよ!」

 亡者を退け、妹紅の炎を回避するが、手数が多すぎる。妖精や精霊、使い魔とは個々のレベルが違いすぎた。徐々に押され、反撃の隙も徐々に減り。
 妹紅の瞳の奥が、冥く濁った炎を宿している。まずい、あれは、私も経験した……。
 いや、知ったことか。こうして妹紅が心を腐らせて生きる肉人形になるのであれば好都合じゃないか。今迄通り、今迄通り、この殺し合いに勝利すればいいだけ。あいつを、再生が間に合わないくらいめちゃくちゃに……。

「その業罪を負って死んでみる!?生きるも地獄、死ぬも地獄。しかも両方永遠よ。ははっ!私が構ってやっているというのに、毎晩毎晩退屈させるから!!死んでしまえ、消えてしまえ、潰えてしまえ!お前を見放したそれに代わって、私がお前を導いてあげるわ!!」

 熱のない瞳。熱いばかりで激しさのない炎。どこか現実味のない緩慢な動き。今宵の彼女はフェニックスなどほど遠く、その姿から不死の無限性は微塵も感じられない。炎どころか、冬の寒さに凍える枝のように、冷え、乾き、脆く砕ける危うさすら見えた。蓬莱人が至ることの出来る唯一の死へ踏み出した妹紅の姿は、だというのに私の心臓をごうごうと燃やし続ける。
 渦巻く不快感は、喉から腹を全て裂いて中にあるモノを取り出してしまいたいほど。吐き出せるなら内臓ごと、掻き消せるなら存在ごと、妹紅という怨磋を消し去りたい。消し去りたい、消し去りたい。だのに、この中に欲しくてたまらない!
 亡者をなますにおろし、反撃を許さぬ速度でその群の中を進んでいく。
 奴らに睨まれるだけでちりちりと熱く、声を上げれば熱風が巻き起こった。手を付けば燃え上がり、進む一歩に地面は溶けた。飛び散る肉や血液らしきモノは主の下を離れれば煮えたぎる鉱物だった。
 そんな悪霊が夥しい数。夥しい数を切り裂きながら、燃やされ焼かれ溶かされながら、まっすぐに彼女の元へ向かう。

「く、くく、あははは!そうだ、ここまで、ここまで来い!」

 群の向こうで炎の翼を背負った彼女が私を呼んでいた。そういうのなら、望むところよ。
 月の欠ける魔力を両の指先に込めて左から右、右から左へ凪ぐ。「蝕」の魔名を受けた空間が縦横無尽に走り、火炎の亡者を裂き散らしてゆく。三日月の形をした光の刃が彼女を包み込む木の葉のように舞い、触れる亡者を刻んでゆく。
 だが奴らの撒き散らす灼熱は、徐々に私の体力を奪っていった。たまに食らう一撃も、ただの人間のそれとは違ってかなりの痛手だ。

「ちっ」

 飛んでしまえばいいと思ったが、上空への飛翔は躊躇った。
 彼女の能力は熱、炎。能力の行使媒体は多岐に渡るが、マイクロ波もその中に含まれている。先の、空間ごと加熱する技もそうだったが、何度食らったことかわからない彼女の得意技メーザー砲もそうだ。そう考えると、レーダーをで察知しての罠がはってある可能性がある。いや、これまでに与えてしまった時間から考えると、確実に何か仕込んである。飛んでとっつかまってからの対処よりは、亡者どもの相手の方が楽だと踏んだ。
 だがそれは間違いだったかもしれない。地面にはまだ亡者が沢山眠っている。それが、突然地面から手を伸ばして来た。足首を掴まれて転倒。

「しまっ」

 飛び掛ってくる亡者相手に、七宝を発動させようとしたが、遅かった。寸でのところで捕らえられ、動きを封じられる。

「くっ、まさかこんな、詰まらない終わり方っ……!」
「亡者どもが功を奏して、上空にすんなり罠をはらせてくれたな。いつものお前ならこんな大掛かりな罠をつくる余裕なんてくれないのに。」

 それでも、彼女が私に攻撃を繰り出す瞬間に、きっと抜け道はある。彼女の炎なら、この亡者どもも一時的に弱る筈だ。

「ゆっくり料理してもらえ、輝夜。詰まらない終わり方だったのが癪だがな。何百年被りの勝利なのに、詰まらない。まあ、こんな詰まらないミスでしか勝てないのかもしれないけどな。」

 くそ、亡者だけで終わらせるつもりか。
 奴らの腕が、私に伸びてくる。奴らは私になんて興味が無い。私の肉体になんて興味が無い。物体としての私に興味は無い。彼らが望んでいるのは、私の体の中にある、でもどこにあるのかわからない『命』。
 奴らの腕が、手が、指が、私の体をまさぐり、引き裂いていく。顎が、歯が、舌が、私の体を抉り、食い散らかしていく。

「ぐっ!くそ、術さえ使えればこんなやつ、ら、ぐううああああああああっ!」

 めちゃくちゃだ。私の体を、命が入った只の包装紙か、命を埋めた只の土だと想っているに違いない。ただただ、乱暴に体を引き裂かれ、内容物をぶちまけられていく。そしてその痛覚。どう痛いかなんて、考えたくない。

「がああっ!くそっ、くそっ!!連勝記録まであと三だったのに!!」
「……そこかよ」

 亡者どもが私の体を切り裂く度に体は再生してゆく。ゆっくりゆっくりと、本当にゆっくりと再生限界に近づいてゆく。
 何時間経ったのかわからない。いつもの試合が三十分足らずで終わることを考えると、その激痛の継続時間は気が狂いそうだった。
 肉を切り取られたところから新たに肉が生まれ、しかしそれもすぐに千切り取られてしまう。内蔵の種類もわからないくらいにめちゃくちゃにかき混ぜられているが、機械的に一定速度で再生が繰り返される。一瞬だけ形を取り戻した臓器があってもそれはまたすぐに潰されてミンチにされた。頭を何度潰されたかわからない。視界が戻るたびに再生しているだろうこと位しかわからない。
 やがて、私の再生が止まって、意識が途切れた。







「輝夜」

 身動きの取れない私に向かって、妹紅はゆっくりと歩み寄ってくる。
 どれくらいの時間が経ったのかはわからないが、どうやら体は元に戻ったらしい。が、身動きが出来ない。体力的に疲弊しているのもあるが、私を捕まえたままの亡者が、火成岩の塊になっていた。
 私のまできて、立ち止まる。もう一度、今度は自身の手で殺す気だろうか。その姿は、あたかも、死神。
 妹紅の目線が真っ直ぐに私を突き刺していた。その真剣な眼差しに、私はどきりと言葉を失ってしまう。

「お前を私のものにするぞ」
「……はあ?」

 鼻で笑って視線を逸らすと、妹紅は私の顎を掴んで正面を向かせてくる。
 屈辱。
 手足の自由さえきけば、今すぐ妹紅の体を灰燼にしてやるというのに、身動きがとれない。そして、そうしている間に妹紅が私に身を寄せてきた。
 妹紅の顔が、近い。息遣いが肌で感じられるほどの距離だ。そして顎を抑えられて、その距離のまま。どうしても、彼女の顔が視界に入ってくる。鬼気迫るほどに真剣な、その表情が。

「珍しく勝ったくらいでいい気にならないことね。次からまた私が、んっ」

 私が捨て台詞を言おうとすると。
 彼女の顔が、ぐん、と近付いて、唇に柔らかい感触が伝わった。

「ん!んぐっ」

 くちづけられた。
 そう理解できたのはややしばらくしてからだった。舌が、私の口の中を犯しているその感触を、フリーズしかけた頭がようやく解析し終えてから。そして今口の中にあるものを認識して、胸が、どうしようもなく、疼いた。その正体は知れぬが、酷く心地の悪い感覚が渦巻いて、私は思わずそれに歯を立てる。
 ずぶり、と柔らかい感触が歯から顎へ伝わると、生暖かい唾液に混じって鉄の味と少しの酸味を包んださらさらとした液体が、口の中に流れ込んできた。そして更に力を込めて、ぷつっとそれを噛み切る。
 その切れ端を、ぺっ、と地に吐き捨てた。

「なんて、こと……!接吻、など!」
「ふふ、はふぁにはぐやらな。そうはんたんに触れさせてももらえないか」

 口の端から血の筋を垂らしながら、しかしあっという間に再生した舌で喋る妹紅。その顔には冷たい笑みが貼り付いていた。

「何のつもり」
「言っただろう。輝夜、お前を私のものにすると。」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ。」

 憎まれ口を叩くが、その実、私の胸は心臓が転がり出そうな位に早鳴っていた。
 だって。
 妹紅ってこんなに私のこと真っ直ぐ見ていたの?ずっと、こんな熱い視線で私を。私は、こいつのこと、ただの遊び相手程度にしか考えてなかった。でも、でも妹紅はきっと違う。こんな真っ直ぐに突き刺さる視線。こんな熱く燃える目線。
 見られているだけで、体が、火照る。

「お前を好きに出来ると思うとそれだけで昂って堪らない。何年も何十年も何百年も、お前を、こうして、組み敷いて、地べたを這わせることだけが生きる目的だったからな!私はな、ずっと、ずっと、お前のことだけ考えて生きてきたんだ。ずっと、ずっとだ!」

 ぞくり。背筋が粟立つのを感じたが、それがどんな感情故なのか、わからない。だが、一つだけわかったことがある。

『そこまで私を求めるか。そこまで真っ直ぐに、私を。』

 唇から唇を離しただけの距離。睫と睫が交差するほどの距離のまま、その視線を私の瞳の奥に投げ入れてくる妹紅。そして、その距離のまま、私の視線を絡め取ったまま、小さく、呟いた。

「お前が、好きだ。輝夜。」
「なっ……」

 顔が近すぎて、その科白をどんな表情で言っているのかわからない。私を馬鹿にして、汚い物でも見るような眼のまま吐き捨てていてくれればどれだけ楽だっただろう。だが、辛うじて見える目元は、その言葉に嘘偽りなど無いと物語っていた。
 妹紅らしい、愚直なまでに正直な眼。

「お前の全てが、言葉一つ、視線の一瞥、肉の一切れ、血の一滴、骨の一片、すべて、すべて、お前のすべてが欲しい。私は今まで、ずっと、それだけをよすがにして生きてきた。ずっとずっと、殺したいと、ずっとずっと、と、考えていたら。いつの間にか、いつの間にかお前なしの永遠なんて考えられなくなってた。」
 憎しみとか殺し合いとか遊び相手とか。そう言う曖昧な言葉で濁して隠していた感情を、突然こじ開けられて、ぶつけられた。
 いきなりそんなの、ずるい。卑怯よ。

「わた、私は」
「お前はその感情に名前を付けなくてもいい。そういうのは」

 再び唇を重ねられる。私は、もう舌を噛み千切ったりできなかった。私は求められるままに……。

「そういうのは、私が、してやるから」

 舌が、私の舌と絡み合う。唾液を孕んだ舌の粘膜が擦れ合い、いやらしい音を立てながら性感を昂ぶらせて行く。歯と歯茎の隙間に舌を差し入れられると、背筋に電流が走った。唾液ごと舌を吸われて、そんなキスがただただ気持ちいい。
 肉欲に流されている。好きなんかじゃないのに。好きなはず無いのに、そんな風に言われて、そんな風にキスされたら、勘違いさせられる。

「ん……ちゅっ」
「ふ、っん」

 やがて静かに唇が離れる。白い糸が引いて、一瞬だけたわんで、そして切れ落ちた。その細い銀糸に合わせるように、妹紅の目も細く、そしてゆったりと私を見ている。
 笑っている。心地のいい笑顔だ。

「輝夜が欲しい。」

 私がじっと彼女の瞳に意識を投げ出していると、妹紅はサスペンダーを外して、するりともんぺをおろす。ワイシャツの裾の下で、彼女自身が雄々しく猛り立っているのが、スカートの上からはっきりとわかった。びくびくと脈打つそれを、私の体は受け入れる準備が出来ている。認めたくないけれど、それくらい、さっきのキスだけで、私。
 彼女の手が、私の単の襟にかかった。そのまま引きちぎるようにそれを脱がせ、帯を解き。私も身をよじって彼女が私を脱がせる手助けをしている。
 完全に、ムードに流されてる。こんなこと、妹紅相手に、こんな、こと。そう自分に言い訳しながらも、私は彼女の前に全裸を晒していた。

「妹紅」

 名を呼んでみたが何かを求めてのことではない。ただ、ただ口をついて出てきただけ。そんな自分が酷く恥ずかしくて、認めたくない自分を証明してしまったようで、やっぱり恥ずかしくて。
 その間が、妹紅には肯定として伝わったようだ。私は、わがままかもしれないが、そう、否応無しに、して欲しかった。行為が先にあれば、気持ちは後から整理できる。少なくとも、今の私の中身は、その程度までまとまりかけているのだから。
 私の体は未だに地面に固定されたままだ。私をがんじがらめに掴んだまま石になった数多の亡者。恐らく、妹紅自身ももう私を綺麗に解放することは出来ないだろう。切り落として、取り外す、しか。きっと、心もそうだ。もう、綺麗に分離することは叶わないだろう。
 蓋を開けてみれば永琳とのそれでは遠く及ばないほどの激情。殺したい殺したい殺したい殺したいその衝動、すべてすべてすべてすべてが、反転。
 私は、きっと心のどこかでこれを恐れていた。こうなってしまうことに気付いていて。でも、自分の最奥と、永琳の言葉を否定して。
 そんな私に覆い被さるように、妹紅と、これがベッドであればロマンチックかもしれない姿勢。

「初めてじゃない、んだよな。」
「ええ」

 妹紅の手が、私の体を這う。いやらしいんだけれど、それ以上に慈しまれているような。そんな優しい手の動き。その優しさをそのまま体現した温かい表情を私に向けたまま、彼女は続けた。

「かまわないさ、初めてじゃなくっても。新しくつくるから」
「え?」

 何を言っているのだろう。と、妹紅の顔を覗き込む。表情に変化を見せることなく、肌を撫でていた妹紅の指が、私の臍をほじる。

「ちょっと、そんなところ」
「どこだって同じさ」

 そう言った妹紅は、私の臍に指を入れて
 ずぶり、と貫いた。

「いっ、た!っちょっと、なにやっ……くうううっ!」

 滑る感覚はすぐに終わり、貫かれた臍から血が溢れてびちゃびちゃと濡れる感覚へ置き換わった。お腹への圧迫感もすぐに消え、その代わりにお腹の奥で妹紅の指がその穴の中を動き回っているのが、わかる。

「膜は無いけど、ここの処女、もらうぞ」
「貴方、いったい、何を考えてっ」

 くっ。一瞬でもときめいた私が馬鹿だった。心の腐りかけた人間が、まともなことをする筈がないと言うのに。まさかお腹にもう一つ穴をこさえようなんて。
 非難の声を上げるが、手足どころか胴の一部まで固定されて居る私にはそれ以上のことは出来ない。

「輝夜。好きだ。」
「は、なれろ、狂人っ!」

 振り払おうにもどうしようもない。妹紅は私の腹の辺りに乗りかかって、溢れる血で濡れた臍へ、ペニスを宛がう。

「や、やめ」

 そのまま、腹の肉の中へ、妹紅のものが挿入される。すぶずぶと、指一本分しかなかった隙間を押し広げながら、掘り進むように。

「あっん、輝夜っ、きもちい、輝夜の処女、きもちいっ」
「やめ、なさい、そんなっ!んんんっ!」

 お腹に穴が開く位の痛みには、慣れている。だが、そんなものを入れられるなんて。

「再生しようとして、凄く締まるっ」
「あ、はあっ、さい、てい。やっぱり考えることが、異常だわ。」

 私の罵倒も気にせず、妹紅は抽送を開始した。引き抜くと臍の付近が捲れるように引っ張られ、押し入れると隙間から血が押し出される。どちらにせよ、私は、痛いだけだ。お腹の中に妹紅の肉塊が入り込み、皮下脂肪と腸をかき回す感覚が酷い嫌悪感を巻き起こす。
 ぐじゅぐじゅと水音を立て、裂けながら拡がって行く私の臍穴。確かに、初めて永琳に入れてもらったときも、こうだったかもしれない。最初は痛くて、異物が入り込んでくる気持ちの悪さだけ。出血。気持ちよさなんて何も無くて。あ、でも。してる永琳の顔が可愛くて、私の中であの永琳が弱弱しくなっていたのを見ていたら、いとおしくなって。
 と、逸らしていた目を妹紅の方へ。彼女は一心に腰を振って私の新しい穴でのセックスに浸っていた。熱に浮かされたような、切なく紅潮した表情で、浅い息を繰り返していた。半開きの口、細まった目、揺れるたびになびく銀髪。今まで見たことのあるどんな彼女よりも、そう、それはとても魅力的だった。

「入れられる方の痛みなんてっ、か、関係ないのは、どこでも誰でも変わらないのねっ、いったぁ」
「ご、めん、かぐや、ごめんっ。無茶やってるのは、はんっ!わかってるんだ、んっ。でも、どうしても、お前の初めてが、ほしくてっ。お前の初めてになりたくてっ」
「もこう……」

 繰り返し突き抜ける痛み。再生しようと肉蚯蚓を大量に吐き出す臍穴の傷口を、更に抉り貫き、動かす妹紅。

「それにこれ、きもちいいっ!すごいっ……治ろうとしてくっつこうとするから、凄く、締まってっ、入れてるだけで、とけ、そ、んんんっ」
「きもち、いいの?」
「はっ、あ、いい、いいっ!きもちい!輝夜の臍まんこきもちいよ!再生しながらきゅきゅって締まるの、ちんここすれて気持ちいい!」

 彼女の上げる嬌声もさることながら、腰使いの荒さが、興奮の高まりをあらわしている。乱暴に出し入れされるせいでお腹の裂け目は拡がり、溢れる血の量が増えているが、不思議と痛みは和らぎ始めていた。単に麻痺してきたのかもしれないが、妹紅の男根が出入りするその摩擦の感覚をより素直に感じられるようになってきた。血で滑るその穴ににゅるりと入り込む妹紅の分身が、お腹の中でびくびくと喜んでいるのもわかる。

「擦れてるわ。妹紅のちん、ぽ、私の処女臍まんこでぇ、こすれて、るっ」

 痛みなのか快感なのかわからない。じんじん痺れて熱い。妹紅の息遣いがより早く、浅く。お腹の中で震えるそれも、そう、絶頂が近いことを示していた。

「ぃく……かぐや、いく、輝夜の中で、私、いっちゃう」
「っつ、いいわ、気を遣ってしまいなさい、わたし、の、んっう、中でっ!」
「あ、ア、ア、ア、ア、ああ、ああああああ、あ、あ、ああああああっ!」

 一際大きな声を上げた後、彼女の腰使いが、止まる。どくん。どくん。お腹の中で脈打つ肉の感触が伝わってくる。中で、射精してるんだ。

「で、てるの?もこ、う」
「でた、でたよ。輝夜の中に、精液出た……んっ」

 ずるっ。私の臍の辺りから男性器が抜き取られる。射精後に小さくなったかと思ったが、全然衰えていない。にゅ、と亀頭までが抜けると、血の赤と精液の白が交じり合って滴った。
 妹紅は私の上に載ったまま、まだ勃起したままのペニスを二度、三度、扱く。

「んっ、だす、の」
「もこ……?」
「だす、ぜんぶ、全部かけるっ、輝夜の全身に、私のっ!」

 すぐに射精が始まって、身動きのとれない私の頭へ顔へ胸へ腹へ太腿へ脚へ、精液をとくとくと垂らしていった。どこに入っているのかと思うくらいの量の精液が、私の全身からたれている。強烈な匂いが鼻腔をくすぐり、とろりと流れる感触が肌を愛撫する。

「もう一つ……」
「すきに、しな、さいよ」

 妹紅は再び私の上に乗りかかり、先ほど治ったばかりの臍の辺りに眼をやる。臍に指を沿え、そこからするりともうしばらく下へ降りた、ヴァギナの上の辺りで指を止める。そして、指を立てて、肉を掘る。

「んっ……ぐっ」

 激痛が走り、思わず声を上げてしまうが、妹紅はお構い無しに下腹部を切開している。何をされているのか知りたくも無い私は、眼を逸らせたままで痛みに耐え、ひたすらそれが終わるのを待った。
 しばらくして彼女は口を開いた。

「出来た。あははっ、これは傑作だ。」
「うるさいわ。さっさと致すことを致して終わればいいじゃない。」
「そうつんけんするない。見ろよ、傑作だぞ」

 妹紅が指をさす先、私の下腹部に視線を移すと。
 思わずその有様に戦慄した。

「う……なに、これ……」
「下手くそだけど、女性器だよ。まあ、形だけ切ったり焼いたりして作っただけで偽物に違いは無いけれど。それにお前はすぐに再生してしまうから、切断面を焼いて形を維持しようとしてもしばらくしたら消えてしまう。」

 私の下腹部には、陰唇らしいものが形作られていた。縦に割れるように、ご丁寧にそれらしく造形まで凝っている。

「二個目のまんこだ。ちゃんと子宮まで繋がってるぞ。」
「変、態っ!」
「どうせ再生して消えてしまうんだ、いいだろう?くくくっ」

 そういうと、早速と行った風に妹紅はペニスを取り出して、二つ目のヴァギナに宛がう。クリトリスさえないそこは、愛液の代わりに血で濡れていた。
 一体、幾つ私に初めての穴をつくれば気が済むんだ。

「んっ、子宮まで一直線に入るっ。やっぱり再生が進行して、締まるっ!ミミズ千匹ってまさにこのことだなあっ?」
「んっ、ふうううううっ。ああああああああアアアアアア!」

 何の抵抗も無く子宮の奥まで、妹紅のペニスが届いてしまった。上から貫いて下の壁へ。本来受け入れるはずの無いものを受け止めた粘膜が、悲鳴を上げている。

「あ、ぐ、っあ、んうっ!」
「はっ、はあっ、どうだ、子宮姦は」
「べつに、んあ、どうってこと、ない、わね!」

 無理やりぶち込まれて、拡張キャパシティの無い方向へぐりぐりと押し潰されているせいで、酷い痛みが走っている。それと、じわり浮かび上がる快感と。が、それは伝えない。負けを認めたことになる気がして。

「はっ、くう……再生締め、たまらないなっ!本物のまんこより、しまるんじゃないか?」
「勝手に、言ってろっ、んぐううっ!」

 妹紅の腰使いはどんどん早く激しくエスカレートしていく。さしもの彼女も最初はどの程度までやっていいのか手探りだったらしい。それが徐々に平気だと見えてきたものだから、今や。

「はあっ、きもちいい、輝夜の二個目のまんこきもちいいっ、再生肉が亀頭に絡まって、まんこの締め付けとフェラチオの複雑さとが入り混じったみたいだっつ。これ、すごいいいいいっ!」
「お、あ、あぁア、激し、いいっ!そんながつんがつん突き入れたら、こわれ、子宮壊れる……っ!再生するけど、でも、でもこわれるう!」

 子宮姦は、永琳にされたことがある。変な薬を飲まされて、子宮口をゆるゆるにされて、そのまま奥まで貫かれて。それを、思い出すっ……こんなので、私、感じてしまう!永琳のばかっ!貴方のせいで、私、こいつを図にのせ……。

「あ、んあああっつ、ひん!」
「ん?お前……。あはっ、ははははは!子宮の中で感じられるのかこの変態姫は!?傑作だ、傑作だよ!いやいや、おかげで独り善がりのオナニーにならないで済むってもんだ。一つ、ちゃんと感じておくれよ!」
「しらない、しらない!しらないしらないしらないしらない!感じてなんてない!」
「じゃあこいつは何だ!本物のまんこからだらだら零れてる、このぬる汁は?少し白っぽいな、本気汁じゃないかこれ?」
「ちがう、ちがう!こんなわけのわからないセックスで感じるわけが無い!」

 感じていた。妹紅が子宮内粘膜をペニスで擦り上げるたび、鋭くて甘い電流がびりびりと全身を駆け巡るのだ。突き込まれる度にびくびくと背筋が跳ねて、一歩一歩階段を上らされてしまう。

「いいぞ、ふふっ、私も、感じてるんだ。惚れた女にペニスをこんなに巧みに扱き上げられて、私だってそう長くはもたない。一緒に感じてくれよ。はははっ」

 妹紅は、愉快そうな表情の中に悦楽を垣間見せながら、私を攻め立てる。肉体的にも、精神的にも。

「ふうっ、気持ちいい、輝夜の子宮の中、きもちいいぞ!なあ、輝夜、お前も感じてるなら、見せてくれよ。私は、かなり、キてるんだ……本気で惚れた相手だからな」
「本気で惚れた相手に、んあ、帝王切開してっ、擬似女性器作るのが趣味なわけっ?ふうっっ」
「お前が私のものになるなら、何だってする。何だって、何だってだ。はっ、ん、あ、絡まるっ……!」
「こんなことをして、貴方を好きになると思っているの?」
「なるさ。感じてるだろ?」
「感じて、ないっ!んヒあぁ!」

 だめ、だんだん、声が抑えられなくなってる……。
 妹紅の抽挿も加速して、彼女の声から、表情から、余裕がなくなっているのがわかる。そしてそれは、私もだった。

「はっ、はっ、は、ん、ふうっ、も、だめだ……輝夜、中に出すっ、輝夜の子宮の中に、直接出すっ。せーし、でるぞ、沢山出る、今まで出一番おっきいの、くるっ!あ、ア、ア、ア、あ、ああ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああっ!!」
「や、やめなさい、中でなんて、こんな、こんな気の触れたセックスで、せっくす、子宮せっくすでえええ、いくわけ、な、いくわけ、いく、いく、いくいくいくいくくいくいくっっっっっっっ!!」

 どぷん。と音が響くほどに、大量の精液が、子宮の中に直接放出された。わずかにアクメが遅れた私も、その精液の感触で止めを刺され、絶頂の果てに放り出された。

「はーっ、はーっ。」
「はっ……く、あ、はひ……」

 イかされた。とんでもないところに穴を空けられて、そんなところでするセックスで、イかされてしまった。
 屈辱の炎が胸を焦がすが、それ以上に快感が大きかったことに驚いた。それと、セックスの最中の妹紅の顔が、やはりどうしても可愛かった。整理できない感情が渦巻き、私はぐったりと動けないでいた。下腹部に開いた穴もゆるゆると閉じようとしていた。
 終わりか。そう思ったときだった。

「まだ、だぞ?」

 私の上に肩で息をしながら横たわっている妹紅が、不敵な笑みを浮かべて私を覗き込んだ。

「まだ、欲しい。もっと、お前がほしいっ」

 塞がりかかっていた下腹部の切れ目に手を突っ込み、乱暴にその口を拡げようとする。

「ば、っちょ、なに、なにする、いたい、いたいいたいいたいいたい!ぐぐぎいいいいいいいいああああああああああああ!」

 ぶちぶちと気味の悪い音を立てて、私の下腹部から臍の上までがぱっくりと割れた。自分で戯れに体を切り裂くのとは違う。意にそぐわないから、激痛が止まない。殺し合いのときと、同じ。
 どこかを見ているようでどこも見ていない瞳をふらつかせながら、妹紅は私の腹の中に手を突っ込む。
 ぐじゅ。
 臓物を触れられる感触等無い筈なのに、それでも妹紅の手を感じる。彼女の手の中で血と漿に滑る胃が、腸が、胆嚢が、膵臓が、踊っている。にゅる、にちゃと、粘性の高い水音が響く。

「やめっ、なにする気」

 私の言葉など意に介さず、妹紅は私の臓物をいとおしげに見つめ、手で捏ね回している。腸を引き伸ばしてみたり、肝臓の裏側を捲ってみたり。それでも傷一つつけないように扱っている。
 妹紅が何をするつもりか、私には見当もつかない。自分の手足を切り落として逃げるのは簡単だ。それでも、敗者には敗者の矜持がある。それが、私達のルールだ。私は甘んじて妹紅の行為を受け入れる。彼女も、今までそうだったから。

「温かい。輝夜の、体温」

 私の臓物を十把一絡げに持ち上げて、それに頬擦りする妹紅。自分が血まみれになることも厭わずに、私の内容物を愛でている。

「も、こう……なにして」

 異様な光景だった。
 確かに手足が消し飛ぼうが、内臓が飛び散ろうが、私達はそれを大したことだとは思わない。お腹の中にある何かが、生きていくために必要なものだとも、故にそれが生の象徴だとも思わない。ただそこにあるもの、でしかない。
 それでも、私の中にあるそんなものを、あんなに嬉しそうな表情で。

「素敵だ。剥き出しの、生の、そのままの輝夜。なんて綺麗」

 うっとりと見つめながら、その表面に舌を這わせたりまでしている。

「んうっ」

 中途半端に再生機能が働いて、本来無い部分にまで感覚が生じている。内臓を触れられている感触が、頬擦りされ嘗め回される感覚が、伝わってきてしまう。

「や、め」
「リザレクションの最中はそんなところにまで感覚があるのか。道理でお前とやりあってる時、無駄に痛いわけだ。再生するときに全器官の素が全て備わってから不要なものがネクローシスするんだろうか。興味深いな。」
 なにやらぶつぶつ言っているが、その間も腸の筋に合わせて下を這わせたり膵臓を甘噛みしたりするものだから堪らない。隔たりの無い感触が、ストレートに伝わってくる。

「ふ、ふふ、これが、お前のタマゴか。それに、子袋と」
「く。この、変態っ」

 妹紅が何かに気付いたように、内臓を取り出してまじまじと見ている。私の子宮と卵巣だ。だがそれは取り出せば本体とは繋がらない。その状態で何をされようと何も感じない。その様子を妹紅はさも詰まらなさそうに見ている。

「取り外してしまうと詰まらないな。」

 そういいながら伸びる肉紐を、燃やさずに見ている妹紅。もし再生のために一度感覚器官が発生するのであれば。触られた感覚が。子宮を、触られた感覚が。
 ぞくり、肌が粟立つ。

「さあ、失ったものはここだ。取りに来い」

 薄ら笑った妹紅。彼女の右手にある私の子宮めがけて肉紐が伸びる。子宮からも肉の筋が延び、その二者が結合した。それを見計らって、妹紅が、子宮の表面に指を置いて――

「んヒあああっ!?」

 それは、さっき下腹部を開通されて感じた、あの、感覚。いや、それよりも。

「ほほう、なるほど、ねえ。」

 にぃ、と薄い笑顔に期待を注いで口角を吊り上げる。

「感じるのか、触られているのを。」
「ひ、あ、あああ」
「子宮の屋根に歯を立てたり」
「く、か、んんぉおおおひ」
「入り口をねぶったり」
「ん、ふ、っあ……ひう、あっ、かああ」
「中を指で捏ね回したり」
「んっあ、あああ、あああ、ア、あ、あ、あ、あ、ぁア」
「卵巣を頬張ったりする、感触が、わかるのか?」
「っひ、はああああああ、んひいいいいイイイい!!」

 普段触られることの無い箇所に、本来存在しない神経が這い回り、それを刺激されているなんて。
 血まみれの臓物に顔を寄せてそれに愛撫を繰り返す妹紅の姿はグロテスク以外の何者でも無い。だが確実に伝達される突き抜けるような快感が、私を追い詰めて行った。血のぬめりが、臓物の匂いが、私を捉えてゆく。走るこの感覚は、痛みか快感か。
 頭の中が破裂しそう。脳の中の血流が倍増したみたいに膨れ上がって、ちかちかと明滅している。物凄く個体感なのにどろどろ流動して、冷たく燃えて耳から漏れてきそう。性感なのか痛覚なのかわからない。脳で定義されていない信号パターン。
 掌に収まるような小さな肉の塊を弄られるだけで、体中の痙攣を操作されてしまう。簡単に喘ぎ声を作り出し、今や妹紅はは思い通りに私を屈服させることが出来る。

「や、やめ、も、こうっ」
「あっはは、凄い感度だな。」

 一度口に含んで唾液に塗れた卵巣を、再び口に運ぶ。舌が表面を嘗め回して歯が当たり、唾液で滑る感触。

「や、それ、やめ」

 妹紅が子供のような笑顔を浮かべ、そして。
 私のそれを、噛み潰した。ぷち、ぶちっ、といやな肉質音が響いてくる。

「がっ、ぐ……!ぐあああああああ、あ、あ、あああぐぁあアアァァッ、ァアアアああああ!!」

 そのまま何度も咀嚼し、それは肉と唾液のミンチになってゆく。私が、私が食べられて、る。肉が削られ、潰されて、私のものではなくなってゆく感覚。妹紅のものになってゆく光景。
 妹紅は血に塗れたその顔を私に近づけて、小さく。

「すごく、かわいい。輝夜。」
「んひ、あ、あ、っぐ、ば、かじゃないのっ」

 こんな状況でそんな甘い言葉を囁かないで。ぐちゃぐちゃに解けた感覚と意識が、変な方向に固まってしまう。
 血塗られたキスが顔に首に肩に胸に、雨のように振る。ぴりぴり歪んだ甘いキス。霞がかって朦朧としているのに、感覚だけが気味悪いほど晴天で。
 不意に、満たされる。

「頭おかしくなったら、どうしてっ、くれんのよ!」
「おかしく?蓬莱人の戦い方を教えてくれたのはお前だろう。」
「だからって、こんな……目的を見失ってる」
「目的?それは最初からぶれずに据え付けてある。」

 妹紅のキスが、唇へ。その両手で私の頬を挟んで。血に塗れてさえいなければ本当に、いい顔なのに。

「んぷ……っ」
「ちゅ」

 血濡れた唇は恐ろしいほど艶を帯び、艶かしく滑っていた。舌が入り込んでくる。血の味が、口の中一杯に広がって性感と血臭をリンクさせられていた私に快感を刻み付けてくる。目の焦点が合わない。妹紅の顔が、ぼんやりと映る妹紅の顔だけが、ただ私の世界に広がっていた。

「目的は、お前を私のものにすること。それだけだ。」

 そんな、の。
 とっくに。

「殺す!殺す!私はそんなの認めない!次で絶対にお前を殺して、何もかも無かったことにしてやる!」

 あ、だめだ、これじゃ、告白してるのと、同じ。

「これで最後だから、我慢してくれ」
「え」

 なによそれ。何よその言い方。ここに来て気遣いとか。
 卵巣を食い取られた子宮。卵管だけが妹紅の指の間から無様に垂れ下がっている。その先では、もう再生が始まっていた。そんな姿になっても肉紐が感触を伝えてくるのが恨めしい。
 妹紅は私の子宮を私の顔に近づけて来た。更に、勃起したままのペニスをそれに近づけて。

「貴方、まさか」
「犯す、からな」

 子宮口を指で押し広げ、それをペニスに宛がう。そのままずるり、と子宮を被せ、そしてそのまま、奥へ。

「ひ、あ!そんな、の、だめ」
「んっ、熱い……。再生するために脈打ってて、すごく、きもちいいっ」

 目の前で、私の子宮が犯されてる。ペニスが抜き差しされる光景が目の前で広がって、そしてその感覚が股の間から伝わってくる。
 子宮の中が犯される感覚と表面が強く握り締められる感覚。その両方が私の中に雪崩込んで来る。

「おかし、い、こんなのっ」

 妹紅の方を見ると、彼女は真っ直ぐに私の顔を見ていた。こっちが恥ずかしくなるくらい、真っ直ぐ、熱い視線。あの時と、同じ。手はせわしなく私の子宮でペニスを扱きながら、その快感に浮かされた切ない表情で、私の眼をじっと見ていた。
 そんな風に見つめられたら、私も。

「あ、ん。しきゅ、う、おかされっ!もこ、うっ」
「輝夜、輝夜、かぐや、かぐやっ!」

 息も荒く、私を呼ぶ。
 乱暴に握られ、ぐちゃぐちゃと子宮が犯される。
 奥の天井が突き上げられる感覚と、摩擦。壊れた性感が顔の側から股の間へ、股の間から脊髄、脳へ。
 扱き上げる妹紅の手が、加速度的に激しくなる。被せた肉塊を、めちゃくちゃに擦り付けて、オナニーしていた。いや、性感が共有されている以上、それは、ちゃんとセックスだったかもしれない。

「も、こう、そんな、はげしくっ、んあっ!」
「輝夜を、輝夜をオナホにしてるっ!肉オナホ、本物なのにオナホっ!!きもちいい、輝夜の中、きもちいいいっ!!」
「や、だめ、そんな、中の壁、そんなにあちこち擦ったら、だめえっ」
「はあっ、はあ、ちんこ擦るのいいっ、輝夜を直接犯してる、子宮、子宮の中に、ちんこ入れて、ああああっ!このままイけそうっ!!」
「暴れてるうッ!もこうのふたなりちんこ、私のなかで、取り出した私の中でおっきくなって暴れてるうっ!!」

 快感の塊が目の前にある倒錯。『殺意が反転した感情』の対象が目の前で私に欲情じている事実。否応も無く焚き付けられ、燃え上がる性感。耳から心を犯す、淫猥な言葉。
 抗う術は無かった。

「いく、いく、いくいくいくッ!輝夜の中に、子宮オナホに直接精液注ぐゥ!好き、好きだ、好きだ好きだ好きだ!輝夜、お前が欲しい、欲しいんだ、ずっと、ずっと、お前のことだけ考えt、こうしてお前を犯すことだけ夢見て生きてきた!その時間が長すぎて、淀んで腐りかけたこの気持ちを、ぶつけてやる、ぶち、まけてやぅ、なかにだしてやりゅうううううっ!!」

「妹紅、貴方わかってないわっ!わかってないの!んひあぁああっ!何年も何十年も何百年も、わらひ、貴方のために、夜を紡いできたのよ!私なんて、大昔から、ひいいいああああっ!貴方のものになってうの!気付いて無いだけ、なんだから、あああっ!」

「いく、射精る、ほんとに、いちばんおっきいの、くるッ!肉オナホに中出しするううううっ!」
「きて、きてきてエ!中に出して!妹紅の熱い精液、ずっと貯めてた、私のために貯めてた精液、ぶちまけてっ!!」

 突き崩されて、口を出た告白。ただ、妹紅の耳にその言葉が入り込んだかどうかはわからない。今はその意味よりも、卑猥な科白を言い、卑猥な科白を聞き、それによって高まる快感だけが、全て。

「んっ!で、るうっ!ぁあ、ア、ああ、あああ、あ、ああああああ!」

 普段はハスキーな声の妹紅が、一際高い可愛い声を上げて、実を振るわせた。どくん、と体の一番深い部分に液体が注がれる感触。彼女と同じくらい、いや、多分もっと感じて昂ぶっていた私には、その感触が、とどめになった。

「ィく、中出しっ、外なのに中出しされて、いく、きもちいいの、いくううううっ!!オナホにされて、中出しアクメしちゃうのおおおおっ!!」

 酷いもので、その後のピロートークどころか、絶頂後の余韻も、何もなく、意識が途切れた。







 なんてことは無い。事実関係を見れば何一つだって変わっていなかった。あいつも私も、ずっと蓬莱人として生きなければならないし、そのための暇つぶしの夜があることも。隣でその夜のあわいを埋めてくれる半妖の存在も、月が満ち欠けする周期も。
 変わったのは、目に見えないものだけだ。
 送り出してくれた慧音は、一応は失恋したのだと言うのに、最近どこか元気というか、明くなった。それまでの私の陰鬱とした気分を気にしなくて良くなった分、気が楽になったのかもしれないし、もしかしたら他に好きな妖怪でも出来たのかもしれない。
 とにかく、私という永遠に報われない鎖から解き放たれたのは間違いない。彼女とは、親友というか、共犯者というか。家がどこにあるのかもわからないけれど、あの竹林でのルームメイトみたいな感覚に鳴っていた。前よりも、打ち解けた話や……輝夜とのことでのちょっとした相談もするようになった。
 これで、良かったんだ。輝夜へ想いを告げて、永遠に共に生きる。そうして、私達に背を向けた死神は、恋人を作り出したのだ。

「あら、また来たの。」
「何度だって来るさ。それが永遠だからな。」

 今夜も、あいつとのあつい夜が、始まる。

「たまには私も勝ちたいもんだ。」
「手を抜いて上げましょうか?」
「ごめんだな」

 今宵も、彼女の装束は豪華で美麗。彼女が私のためにめかしこんでくれているのも変わらないし、そう考えれば恐らく彼女の側仕えの者との関係もさほど変わっていないのではないだろうか。
 以前とちょっと変わったことがあるとすれば、決着がついてから、夜明けまでの時間の使い方くらいだ。

「残り試合回数も無限だし、気が済むようにやらせてもらうさ」

 いつものように満月を背負う彼女と、それを見上げる私。とんとん、と靴のつま先で地面をならして、ポケットから手を出す。

「そうね。何度でも殺してあげる、貴方の憎しみが諦めに変わる様に。その諦めが愛に変わる迄。」

 おや。口上が変わった。ならばと私も。売り言葉に買い言葉、とはこんな場合には使わないのかもしれないけれど。

「その言葉、一字一句と変えずに返すぞ。その想いだけ、一生一念で受け止める。」
「『一生』?死神に見捨てられた私達には永遠と等価よ?」
「そんなことはわかってる。わかってるさ、痛いほど。わかってその上で言っているんだよ、不老不死のお姫様。」
「それでこそ。それでこそよ妹紅。私に見合う人間などそういない。不老不死の人間、貴方をおいては滅多にね。」

 ここからでもわかる。輝夜は、笑っていた。私もつられて笑ってしまう。本気だけれど楽しい。楽しいけれど手を抜けない。そんな殺し合い。本気だから楽しい。
 こんなに楽しい永遠が、他の誰かが知っているのなら、教えて欲しい。愛する人と常に本気で向き合えるこの喜びが永遠に続くという、永遠。

「……ここで会ったが、さあ、本当に百年目。」
「愛すべき不倶戴天」
「憎むべき相思相愛」
「「今宵も貴方と殺し合い!」」

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