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幻想狂言そう今日

いつかのイベントで配布して1部だけ捌けたかなしいもの。
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 憶えてる。
 憶えてる。
 そうあれは、熱かった。痛かった。
 そうそして、楽しかった。
 身震いするほどの快感。身を焦がすほどの愉悦。
 血と肉が飛散して、蒸し暑い闇が粘っこく私のキモチイイところを舐り上げてくる。
 空気が、悲鳴が、視線が、憎悪が。
 何もかもが私を戦慄させ、恐怖させ、恍惚とさせる。

 奴らを斃せ、殺せ、屠れ、壊せ、消せ、潰せ。
 私のこの力は、そのために神が授けたものだ。
 神に背く魔物の私に、それでもこの力があるのは

 神がそれを望んでいるからだ。

「お姉さま、決戦はいつ?いつ打って出るの?」
「そんなもの、ないわよ、フラン。それとも『戦いごっこ』?」
「ごっこ、じゃない。だってお姉さま、言ってたじゃない。奴らが私達を殺しに来る、殺される前に殺す、って。」
「私が?今日はどんな夢を見たの?大丈夫、誰も私達を殺しになんて来ないわ。」

 違う。
 お姉さまは、嘘をついてる。
 だって窓の外にほら、お屋敷を取り囲む騎士団。私達を殺そうとしている。騎士だけじゃない。神父も、農夫も、猟師も、樵も、靴屋も、料理人も、浮浪者も、使用人も、里の人間全てがそれに乗じて私達を取り囲み、そう、この屋敷はもう、大海の中の孤島みたい。地平線の向こうまで、武器を持った人間が、私達を包囲している。
 そうだ。私を、お姉さまを、咲夜を、美鈴を、パチェを、ここにいるメイドを、全部、全部、この屋敷を、殺そうとしてる。燃やそうとしてる。消そうとしてる。
 見ろ、あの血走った目を。狂った獣の目を。吸血鬼、魔女、妖怪、人間、妖精。いずれにしても女の姿の私達を、捕らえて屈服させて、そう、犯すんだ。犯すんだ、犯すんだ犯すんだ。犯し尽くして奪い尽くして殺し尽くすんだ。美鈴が言ってた三光。絶対それだ。

「お姉さま、外」
「天気雨ね。イヤだわ。日光と雨が同時に降ってくるなんて。」

 お姉さまには見えていないのか。いや、この状況を咲夜が報告しないはず無い。門番の美鈴が伝えないわけが無い。

 誰にも見えていないんだ。

 あの人間達は、妙な魔術で姿を消して、この屋敷に雪崩れ込む瞬間を待っているんだ。剣を、槍を、鎌を、鋤を、斧を、槌を、構えた人間達が、この屋敷を、私達を、殺そうとしてる。見えないのか、わからないのか、この事態を予言をしていたお姉さまにさえ、この危機が。
 私にだけは、それが見える。人間達の穢土に見切りをつけた神が、私にその力を与えているんだ。同時に、すべて、殺し、斃すその力を。いや、人間じゃない。神に見捨てられたあいつらは、ただの獣。そして選ばれた私と、その仲間達だけが、新しい人類になるのだ。
 この戦いを、生き抜けば!

 ぱりん!

 甲高い破裂音が響く。
 来た!人間共が、獣共が、動き出したんだ!
 ガラスが割れて、赤く燃える剣が床に突き刺さっている。

「お姉さま、咲夜」
「フラン、壊してはダメ」
「殺すなって、じゃあ、どうするの!?」

 奴らを殺さないと、壊さないと、私達が!

「お嬢様、ガラスが。」
「咲夜、でも直すのは少し後よ」
「そう!人間共が攻めてきてる。直すのはその後」

 やっぱり、お姉さまはわかってるんだ。他の者たちにパニックを与えないように、落ち着いて振舞っているんだ。
 そうよね。王族としては、取り乱してはいけない。戦士としては、怯んではいけない。

「フランドール様?人間共、とは、何でございましょう」
「なんでもないわ、咲夜。お姉さまと私の秘密なの」
「『戦いごっこ』でございますか」
「ごっこzy……そう、それよ。『戦いごっこ』」

 お姉さまと一緒に、戦うんだ。
 神に選ばれた存在は、人間じゃない。私達吸血鬼だと、証明してみせる。奴らが雪崩を打ってくる前に、先制の一撃をっ!

 ふと、咲夜の背後に。

「貴様、何処から入り込んだ!?」

 咲夜の背後の空間目掛けて、巨大な手をイメージし、その手を握り締める。そしてそのまま壁へ叩き付けた。仕留めた、と思ったが巧くかわされたらしい。床と壁だけが、大きく抉れた。

「ちっ、ちょこまかと」
「ふふふふフランドール様!?」
「咲夜は下がっていて。まだ、どこかに。」

 何処だ。総攻撃を前にして、先遣が侵入したらしい。咲夜の力で空間的に拡張されているこの屋敷は、外観からの構造識別は不可能だ。だから先遣隊を投入してきたのだろう。
 でも討ち漏らすなんて、なんてヘマ!やはりきっちり『核』を見抜いてからじゃないと、ダメだ。

「フラン、落ち着いて」
「ご、ごめなさい、お姉さま、私」
「深呼吸して。力を暴走させてはダメ。」
「う、うん……」

 すー、はー。
 深呼吸して、気を落ち着けて。
 再び広間を見る。
 いない。どこだ。何処に隠れた。

「お姉さま、ヤツは」
「ここには誰もいないわ」

 奥まで侵入を許してしまった。
 私のせいだ。私がはやとちって討ち漏らしたから。

「ごめんなさい」
「大丈夫よ、フラン」

 この屋敷に、クソ虫が入り込んだ。そう考えるだけでもぞわぞわする。むかむかする。耐えられない。

「お姉さま、そういえば、美鈴は」
「外よ?」

 バカな!外に?あの、人間(けだもの)共に埋め尽くされた外にまだいるというの?!

「外!?」
「真面目よね、雨が降っているというのに」

 雨とか日光とか、つまり人間共を指す隠語。他の者達にばれないように、私達だけがわかるようにした、合言葉。
 つまり、美鈴はまだ、その中にいる。
 さっき偵察が入ってきたのは、それが目的なんじゃない。美鈴が止め切れなかった、敏捷性の高いしぶといやつだけが、入ってきたんだ。

「美鈴!」
「あれ、妹さま。いけませんよ、今日は雨です。それに、加えて言うなら天気雨。さあ、お屋敷の中へ」

 美鈴の姿は……ぼろぼろだった。もう幾千もの人間を押し留めてきたのだろう。

「ダメよ美鈴。無理しないで、中へ」
「雨くらい平気ですよ、って言いたいところですが、ちょっと通過を許してしまいました。申し訳ありません。」

 さっきのヤツのことだ。

「ううん、美鈴、よくやってくれてる。でももう下がって。」
「いえいえ、咲夜さんに怒られちゃいますから」

 と食い下がるが、背後から咲夜が現れて。

「そんなぼろぼろな姿で門の前に立たれたら、イメージダウンだわ」
「うう」
「咲夜?咲夜も見えるの?」
「見える?虹のことですか?」

 とぼけてはいるがきっと、見えてるんだ。敵の術が、破られてきてる。パチェがきっとやってくれたんだ。

「いい。二人とも下がって。私が」
「フランドール様?」

 見える。
 ずらりと並ぶ『核』の群れが。こちらからは見えないと思って油断しているが、ふふ、一網打尽よ。
 イメージは、道。ここから地平の彼方まで、一直線に続く道。その道程で、『核』を片っ端から踏み潰す!

 ず!がががががが!!

 透明な大蛇が地を這うように、地割れが走る。
 地割れに飲まれ、道そのものに踏み潰され、奴らは潰れ、惨めに死んでゆく。腕を折り、足をもぎ、頭蓋を割って、臓物をぶちまけて。これは血道だ。窮地に追い込まれた私達が突破口にすべき、最後の、まさに血道。

「あは!やったよ!」
「フラン!やめなさい!!」

 敵に大打撃を与えて飛び跳ねる私の首根っこを捕まえて、お姉さまが私を屋敷の奥へ引きずり込んだ。

「お姉さま!?どうして!今よ!あそこから突き崩せば!」

 見れば屋敷中に人間が入り込んでいる。この広間もじりじりと包囲されようとしていた。そう言うことか。まず屋敷の中を掃除しないとね!

「美鈴は」
「ここに」
「無事だったのね、よかった」
「ずぶ濡れですけどねー」

 みすぼらしい姿になった美鈴は、お姉さまに何か報告している。やっぱり、突破されたんだ。敵が本格的に!

 吹き抜けのテラス。その上の階にいる人間の『核』をロックし、飛水断ちをする刀をイメージして、力を放つ。まっぷたつ。『核』もろとも人間は、腹の辺りを水平に切断されて、中身をこぼして崩れ落ちて行く。巧くいった奴は脚だけが突っ立ったままだ。小気味よい。
 それと一緒にテラスの手すりが切り落とされて壊れる。その向こうの壁にも横一線に亀裂が入った。

「あはは!私達をそう簡単に倒せると思うな!」

 と、笑っていると、気がつけば体が動かない。強力な魔力で、手足に枷が掛けられた。こんなことが出来るのは。

「パチェ!?どうして!?」
「今ので、奴らが来る。」
「面倒ですね、弁解も」
「いっそ最初から私が出ようか。」
「聞く耳を持ちますかね?」
「多分持たない。」

 お姉さまと咲夜とパチェ、美鈴、そして何人かのメイドが話している。私は体が動かないままに、咲夜に抱えられて屋敷の奥へと運ばれてゆく。魔力の枷は『核』が迷彩されていて見えない。壊そうとしても壊せない。

「フランは中にいなさい。」
「どうして!」

 ごう!

 轟音を立てて、ガラスが、窓が、壁が崩れる。石壁が、崩れて落ちてくる。体が動かない、枷に集中していた私は、それへの反応が遅れて、回避のために破壊しようにも、間に合わない。

「っ」
「フラン!」

 潰される、と諦めていた瞬間。私を押し潰そうとしていた壁材が、微塵に砕けた。お姉さまだ。

「咲夜、フランをお願い」
「承知しました。」

 そうか、さっき私が外の部隊に打撃を与えたから、人間共が攻勢に出たんだ。お姉さまは、お姉さまで何か方法を考えていただろうに、私の勝手な行動で……。
 ゆっくりと地下へ続く階段を下り、幾本かの石畳の廊下を抜ける。私を抱えて地下の部屋へと向かう咲夜が、小さく声を掛けてきた。

「あまり、姉君を困らせてはなりません。」
「ごめんなさい。私、気が早ってしまって」
「その力を振り回すのは、まだはようございます。それまでは、どうか」

 時折備え付けられているフロギストン灯以外に、闇を照らすモノはない。咲夜の足音と息遣い、私のそれ以外に音も何も聞こえない。今、地上はどうなっているだろう。お姉さま達が人間にそう易々とやられる筈が無い。でも、あの数だ。たった数人では、いずれ。
 まだ使いこなせてはいないけど、この力はきっと役に立つ。神様がくれた、そのための、力だもの。

「咲夜、やっぱり、私も」

 と、口を開いたときには、既に部屋の中にいた。

「暫く、ここでご辛抱下さい。お相手したいのは山々ですが、私は、上でやることがございますので」

 咲夜も、戦うんだ。元人間なのに、私達の為に、かつての同胞と戦ってくれるんだ。

「私も行く!」
「なりません。それでは」

 ばたん。と、私の言葉を遮るように扉が閉じられた。

「咲夜、咲夜ぁ!」

 動かない体を無理やり捻って、扉に当てる。いけない、この部屋は。

「咲夜!いやだ!私だけ生き残っても、意味が無いよ!!」

 この部屋は屋敷で一番安全な部屋。所謂パニックルームだ。内側からなら開けられるはず、なのだが、この部屋は最低限の生活設備以外には全くまっさらな白壁。扉の開閉スイッチのようなものはない。扉は開きそうも無い。
 外側からはパニックルーム。内側からは牢獄。この部屋は一体何の設備なのか。もしかしたらこの日を予見したお姉さまが、誰かを――もしかしたら私を――生き延びさせるために作ったのかもしれない。だとすれば咲夜の空間伸張能力に依らない空間でもある。
 やはり。
 お姉さま達は、決死。
 目の前が真っ暗になる。お姉さまも、咲夜も、パチェも、美鈴も、メイドの皆も、誰もいなくなって。屋敷は潰され崩され燃やされて。

 私一人。

「いやだ!そんなの、そんなのイヤだ!!出して!!ここから出してよ!!私も、私も一緒に戦う!!」

 ふと、魔力の枷が外れた。体が自由に動く。力の使えそうだ。パチェが、解放したらしい。解放?こんな些細な魔術でも維持できないほどの戦況?それとももしかして、コントローラーを失った……?

「いや!だあっ!こんなところで、一人、生き延びて、一人ぼっちは、いやだあ!だして、出して、出して出して出して出して!ここから出して!!私も戦う、一緒に戦う!!一緒に薄汚い人間共を殺すんだ!鏖、鏖にしてやるんだ!!潰す、消す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」

 部屋の扉の『核』を探す。見つからない。なんだ、この部屋は。あらゆるもの『核』が見えない。
 モノを構成するための『核』が見えないということは、何も私の能力が効かないというだけの事ではない。いかな方法を以ってしても、破壊できないということだ。本当に、シェルターのような部屋。やはり、私を、逃すための部屋なのか……。

「お姉さま!お姉さま!!出して!ここから!私も人間を吹き飛ばして、血肉を食らって、戦うんだ!!」

 『核』を見出さぬまま、目暗滅法で力を使う。

 がんっ!

 鈍い破砕音が轟いて、扉の付近の壁が少し凹む。が、ダメージそのものはほとんどないように見える。屋敷の他の壁と比べて相当に頑丈な素材で出来ているらしい。やはり、『核』を捉えられなければ、大した威力は期待できない。
 それでも諦めない。諦めたら、終わってしまう。

「お姉さまと一緒に、人間を殺すんだ!お姉さまや、私達を敵視する全てを、全てを全てを、全部、全部、みんな、みんな、みんなみんなみんなみんなみんな、壊す、潰す、消す!!何もなくしてやる!!」

 連続で、力を行使する。『核』をロックオンできないただの衝撃波は、前に撃とうとしても、明後日の方向へ飛び出たり、下手をすると真後ろへ発射される。焦りが、コントロールをめちゃくちゃにしていた。
 がん、がんっ、と音を立てて壁を突くが、それが突き抜ける気配は無い。コントロールが効かないために四方八方へ飛び散る。
 私が立てる音以外に、他の音は全く何も聞えない。上で繰り広げられている死闘も、なにも、なにも伝わっては来ない。

 もしかして、もう『終わって』しまっているのでは。

「出して!ここから出して!!だれか開けてよ!!ねえ、誰かいるでしょ?メイドは誰かいないの?開けて、出して、私にも殺させて!人間を殺させて!!お願い、お願いだよ!!」

 いつしか力を使うのをやめて、ただ素手で扉を殴っていた。もう何百発も、制御も加減もなく滅茶苦茶に放っていたために、精神力が尽きていたのもある。
 ……半分、諦めていたのも、ある。
 段々と再生速度が遅くなるのに気付きながらも拳を止める気にはなれなかった。打ち付ける壁に、徐々に赤いシミが拡がって行く。

「おねえさ、ま……さくや、うっ……ぐす、みんなぁ……」

 みんな、人間にやられちゃう。力尽きるまで抵抗して、可能な限り殺すだろう。でもそれまで。
 消耗しきったお姉さまは、吸血鬼だからと犯して犯して犯し尽くされて。
 戦えなくなった咲夜は、人間だったくせにと犯して犯して犯し尽くされて。
 気を使い果たした美鈴は、妖怪だからと犯して犯して犯し尽くされて。
 魔力の尽きたパチェは、魔女だからと犯して犯して犯し尽くされて。
 小悪魔も、メイドたちも同じだ。私達の王国が、犯しつくされて、奪いつくされて、そして、殺しつくされて。
 私だけが、生き残る。何かの拍子に開くように設定してあるだろうこの扉があくまで、いや、開いても、私は一人ぼっち。
 憎い。憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い。人間が憎い!
 この扉が開いたが最後、貴様ら人間に、災厄が降り注ぐことと覚悟しろ。
 この扉が開いたが最後、貴様ら人間の最期だと覚えておけ。

「あはっ、あはははっ!壊す、全部壊すっ!人間とか、人間に関わるものとか、ううん、面倒くさいから、全部、何もかもでいいや。ぜんぶ、ぜーんぶ、壊す、壊すんだ。ははっ、ははははっ!楽しみ、楽しみっ!だってこの力は神様がくれたの。他の誰も持ってない、私にしかない力。人間を殺すために、私が授かった力。」

 この扉が開くまで、ゆっくりとこの力の使い方を練習しよう。人間への憎しみだけ食べて、そのときを待とう。楽しみ、楽しみだ。

「幻想郷に、人間共に、災いあれ!あはは、あはははははははっ!」

 ぱた。
 部屋の真ん中で、仰向けに倒れこむ。
 打ち抜けないとはいえ、この部屋はもう、あちこちが陥没してぼろぼろだ。
 その真白い天井は、魔力吸蔵材(シルマリルクローン)を用いた蓄光灯でぼんやりと明るい。

「疲れた、なあ」

 ぽつり、呟く。

「寂しい、なあ」

 先ほど零れかけながらも人間への憎しみで抑えた涙が、今度はじわり、溢れてきた。使い果たした精神力のせいで、一度横になると根が生えたように動けない。今しばらく、休んでおこう。今だけは、泣いておこう。

「時間は、いっぱい、あるし」

 目を閉じても涙は止めどない。いつもそうするように、嫌なことがあったときにそうするように、現実からこの一時だけでも逃げるそのために、眠りにつこうとした、そのとき。

 がしゅっ!と音を響かせて、扉が開いた!

「おねえさ……違う、人間……っ」

 なんてこと!こんなにもあっさり開けられてしまうとは。

「おお?なんだぜ、この部屋は?殺風景な上にぼろぼろで、女の子一人。まるで牢屋だな」

 畜生、外からこんなにあっさり開けられてしまうなら、無駄に暴れるのではなかった。消耗しきって、立ち上がるのさえやっとだ。

「殺す、人間っ」

 だめだ、『核』が、霞んで見える。照準が合わない。
 槍をイメージして、目の前の人間の『核』目掛けて力を放つが、逸れた。ただ壁にひびを入れて霧散する。

「うぉう、スペカルール宣言無しって、おいおい。それにしても何でそんなよろよろなんだ?」

 人間の魔女が、近寄ってくる。

「ちか、よるな、人間っ」

 覚束ない足を引き摺って後ろに下がりながら、再び、今度は外さぬように、波をイメージして力を放つ。

「っちょ、宣言くらいしてくれないと、こっちも手を出せないぜ。っていうか当ったら痛いからやめろ」

 ヤツは手に持った箒を上空に浮かべ、波を回避した。消耗した精神力では、普段は視線で捉えるものへ瞬時に効果をもたらす弾速が、今はかわせるくらいに遅い。だめだ。これじゃ、やられる。
 人間の軍隊に先に手を出してしまったり、勝手に力を使い果たしてしまったり、バカだな、私。勝手に、自滅してるだけじゃん……。
 いよいよもたなくなって後ろに倒れこんでしまう。

「ええっ、おいおい、どういうことだよ、いきなり」

 人間の魔女が、倒れ込む私の背を、支えていた。

「……何のつもり?これで人間たちの思う通りじゃない。早く殺しなよ。今の私なら、再生も出来ない」
「意味が良くわからないんだが」
「お姉さまを、咲夜を、パチェを、美鈴をっ、殺したんだろう、人間たちは!私が、私が仇を取らなければいけなかったのに、こんな……」

 悔しくて涙が止まらない。こんな間抜けな終わり方。

「ん?ああ、そういうことかよ。」

 魔女は小さく、くす、と笑って、言葉を続けた。

「大丈夫、安心しな。吸血鬼も、メイドも、魔女も、門番も、全部無事だぜ。悪い奴らはみんなやっつけた」
「えっ」

 耳を疑った。

「私はそのために来たんだからな。」
「そのために、って……」

 まさか、人間の中にも、いい人間が、いるというの?
 いいえ、そうよ。彼女は救世主。勇者。伝説の英雄。天が遣わした使徒。

「助けに来たぜ、姫様。って、勇者役ってこんな感じで良いのか?はあ、道理で上の奴らが、モケーレムベンベだの何だのって、わけのわからんこと言ったりする訳だ。こんなオチとは」
「あな、たは……」
「霧雨魔理沙。人間やってる。」

 まりさ。いい名前。

「私はフラン。フランドール。お姉さまの妹だよ。皆、無事なの?」
「ああ、誰一人死んじゃいないぜ。上にいる。」

 まりさは私を抱き起こしてくれた。薄い栗色の髪が、綺麗。美鈴みたいな、真っ直ぐな瞳。前歯を隠しもせずに笑うその顔が、眩しい。それに、どことなく咲夜と同じ闇と、それにお姉さまみたいな気高さを感じる。
 皆を助けて、悪い人間達を退けて。強くて、優しい、人間。ああ、彼女こそ、聖女。賢い人間。そして油を注がれる者に違いない。

「まりさ、ありがとう、ありがとう。皆を助けてくれて、私を助けてくれて。ありがとう。」
「きにすんな。まあ、そういう役だからな」

 間違いない。まりさは、人間の中にあって、真理を見失わず、三角形の弁証的階段を登り、ケダモノたる人間からより高次な存在へ進化する術を身につけた存在。

「これが本当にお姫様と勇者なら、この後『おたのしみ』があるんだがな」

 大丈夫か?もう、立てるか?と小さく聞きながら、まりさは私を支えてくれている。

「おたのしみ?」
「冗談だ。笑い飛ばして貰わないとこっちが困る。わからないなら気にするな。上、行こうぜ」

 わかるよ、それくらい。こう見えても人間の何倍も生きてるんだ。人間もいっぱい食べてきたんだ。食べた人間の歴史は、全て私達吸血鬼のモノになる。それこそが吸血鬼の強さなのだから。
 彼女が望むなら、私は何だって捧げる。望んでくれるなら。望んでくれるというのなら、私は、そう、まりさと結ばれるべきなんだわ!
 なんて運命的。絶望的な戦況の中で、人間のメシアと私が出逢い、そして結ばれる。悪意と殺意に満ちた世界は、二人の愛が架け橋になることで新しく生まれ変わるの。

「『おたのしみ』、する?」
「だ、だから冗談だって。って、おい」

 そのまま、ずい、と、まりさの懐に入り込んで、ぎゅっと抱きつく。まりさは背が高い。お姉さまより大きくて、パチェと同じくらいかな。咲夜よりは少し小さい。私が立ったまんま抱きついても、頭がお腹くらいにしか届かない。そのまま、さっき私が暴れたせいで痛んでしまった無機質なベッドに倒れ込む。

「お、おい」
「しよ?せっくす」

 仰向けに倒れたまりさの上にのしかかり、顔を顎の下に滑り込ませる。そのまま喉元に舌を這わせ、唇で食む。左手でまりさの胸を触りながら、右手を股の間に侵入させると。

 わ。
 まりさ、私とおんなじだ。女の子だけど、ついてる。

 まりさの肌に自分のそれを摺り寄せる。鎖骨の膨らみ、首の曲線、顎の下、耳たぶへと舌をなぞらせて愛をまぶしていく。唾液で濡れた場所に息を吹きかけるたびに、まりさの股間は少しずつ本性を現しはじめた。ふにふにと柔らかかったそれは、徐々にその感触を硬くしてゆく。

「まりさ、どきどきするでしょ?パッシブチャームって言うんだって。」
「ぁ、う、チャーム……だって?」
「大丈夫だよ、私、あんまり上手じゃないから、ちょっと気持ちよくなるだけ」

 スカートの中で完全に屹立したまりさのおちんちんを、優しく包むように刺激する。服の上からでもわかるくらい、おっぱいの先っちょもしこってきた。

「だめだ、って、ぉいっフランドール……」
「ええー。お楽しみ、っていったのは、まりさじゃない。」
「冗談、だって……んく!」

 スカートごとペニスを掴んで、そのうらっかわを指の先でくすぐるように刺激すると、ぴくん、ぴくんとそれが跳ねた。同時にまりさの白くて綺麗な喉が、くっ、と反り、綺麗な白のラインが強ばる。白く走る細長な喉の曲線は、私には砂糖菓子の様にさえ思えて思えて、堪まらずに舌を伸ばす。

「ちゃ、チャームを、とけっ……これじゃ、私、このままじゃ」

 今のまりさは薄いチャームにあてられて、自意識を保ったままに、でも感度が倍増しちゃってる状態。きっと今舐めた喉なんて、自分の愛液でぬめらせた陰唇をと同じだったに違いない。
 最初は私を跳ね除けようとしていたまりさだったが、喉、顎のライン、そして唇へと私が登る頃には、体の関節あちこちを反らせ、断続的に体を跳ねさせていた。中でもペニスの変化は如実で、既にスカートの上からでは全く隠し切れぬほど巨大に怒張し、私がスカート越しに触れるたびに飛び跳ねるように震えていた。

「気を付けないと。吸血鬼は、人食べるからね。それが運命の人であっても、ううん、運命の人だからこそ。」
「斎、にする、んぁ、つもり、かっ?」
「え?違うよ。こういうこと」

 うろたえるまりさの表情を楽しみながら、左手を服の中、下着の下に差し入れて、直接おっぱいに触れる。咲夜と同じくらいだ。いいなあ。
 ちょっと羨ましくなって、その先端を強く抓ってしまった。

「んヒっ!ば、ばか、急に」

 一瞬だけ声を裏返し、黄色い嬌声をあげるまりさ。その声が余りに可愛くて、声そのものを食べたくなっちゃって、私はそれを発した口にむしゃぶりついた。

「まりさ、わたしのお嫁さん、かわいい」

 キス。まりさの唇は、近くに寄ってみると思ったより肉厚で。そして赤い。唇同士が触れると、ぷるん、と揺れそうなほど。






 皮膚に付着した僅かな汗でも、別に血である必要などない。そこから得られるものはある。血は、単純においしいのと、エネルギー変換効率が高いと言うだけ。

「まりさの汗、甘くて美味しい」
「ばか。」

 照れた顔が可愛い。でも、そっか。好きな人がいるんだね。

「今までセックス、したことある?」
「……ああ。」
「好きな人と?」
「そうだよ。ほら、立てるようになったなら行くぞ。お前を王様の所に届けて、しばらく私が王様になるんだぜ」

 まりさが話を切上げて行ってしまおうとしたから、私はまりさの腕を掴んで引き留め、どした、と振り返ったその深い瞳を覗き込む。
 他の人とセックスしたことあるなんて。まりさは私を愛しに来てくれたんじゃないの?八百万の人間の悪意を切り裂いて、世界を救いに導く伴侶として私を選んでくれたのでしょう?ちがうの?ねえ、ちがうの?
 いいわ。私をまりさのものにして貰えないなら、まりさを私のものにしてしまうから。

「ぅ」

 凍りついたように固まるまりさの体。その隙に、ゆっくりと瞳の奥を探りまわる。綺麗な瞳。褐色なのに深くまで透き通っていて、気持ちがいい。その奥、暗く暗く光が届かぬところにある、一点の輝きを探す。命と意志と魂の輝きを凝縮した、アストラルの根元。
 それを壊してしまえば、まりさは私のもの。ずっと、ずうっと、私のものになるの。

「みぃつけたっ」

 光の粒が集散して揺らめいている。一つ一つが感情であり、記憶であり、言葉であり、存在。そして、まりさのそれは。
 すごい。今まで見た誰のよりも綺麗。星のように輝きを散らすこれは、何色?黄色、橙色赤色、違う。青、緑紫、これも違う。でも全部。どれでもないけど、全部。これって……

「恋、色……」

 だめ。これは、消せない。私が触れていいものじゃ、ない。
 これに触れることは、何か大事な尊厳に関わる気がする。原初の宗教心、更にその源泉が、それに触れてはならないと警鐘を鳴らしていた。
 畏怖。私をそうさせたのは、生まれて初めて感じた感情。私はまりさの瞳の奥にある光を追うのを止めて、その精神を解放する。まりさの瞳の深奥に幕が下ろされて、宝石のようなそれは再び隠された。表面に生気が戻る。そしてまりさは、はた、と気がついたように顔を上げる。

「あ、れ?今、私、寝てた?」
「まあ、うん」
「ね、寝言とか言ってなかったか?」
「え?フラン愛してるって」
「それは絶対に言ってないきがする」

 まりさが、はは、と笑ったのでつられて私も。

「上、戻ろうぜ」
「うん。『お楽しみ』のせいで、遅くなっちゃったね」
「……そ、そうだな」

 狼狽えているまりさも可愛い。そうよね、いきなり救世主で、いきなり私のご主人様だもんね。でも大丈夫。吸血鬼の社会は、この館はまりさを受け入れるわ。まあ外の人間達はどう思うかわからないけれど。
 もしダメだったら、全部滅ぼしちゃえばいいよ。

 まりさが背中と膝に腕を通して私を抱きかかえる。わ、ぷりんせすほーるでぃんぐ。
 私も腕をまりさの首に回して抱きつく。

「まりさ」
「あン?」
「だいすき」



「え、『勇者とお姫様ごっこ』だったんじゃないのかよ。門番の龍はやたら弱かったけど」
「ひどいですー」
「まあ、『戦いごっこ』、にしては派手よね」

 事後。話を聞けば、あのフランドールというのは本当にレミリアの妹で、気が触れているのだとか。道理で言っている意味が支離滅裂で、あんな部屋に幽閉されているわけだ。
 先ほどの部屋は発作を起こした時に隔離するための場所。私が偶然その扉を開けたのが、一頻り暴れた後だったのが幸いだったらしい。

「貴方、運がいいわよ?普通、あの状態の妹に人間が出会ったら、生きてない。」

 紅魔館の主、レミリア・スカーレットが、笑ってるんだか残念がっているんだかわからない表情で、そう言う。
 図書館の司書をしているという魔女、パチュリー・ノーレッジが本に目を走らせながら付け加える。

「根はいい子なんだけどね。見えないものが見えるとか、そうなってしまうと何かの強迫観念に駆られてしまうとか、自分の意図していないタイミングで破壊の力が漏れてるとか、妄想に妄言が酷いとかそういう点を除けば。」
「つまり言動全部ってこったな。見えないモノって?」
「さあ。狂人の考えなんて、他の人には理解さえ出来ないものよ。でもそれは、知的に障害があると限ったわけではない。もしかしたら、私達よりも遥かに高度に、真実を認識しているのかもしれない。そうじゃないのかも知れない。」

 もしそうだったら、うらやましいわね。と呟いて、ページをめくる。
 この女、人と話すときくらい、本を読むのをやめろというんだ。

「でも、時々思うのよ」

 こんどはレミリアが口を開いた。

「ここで生まれた貴方達と違い、私達は、ここではないどこかの世界からここへやってきた。でも、今ここにいる自分以外の自分の記憶は無いわ。フラン、妹は、もしかしたらその頃の記憶を一部だけ、保持しているのかもしれない。」
「へえ。何でそう思うんだ?」
「勘ね。」
「なんだそりゃ」

 勘ね、と言ったレミリアは自嘲のような表情を浮かべてはいたが、だがどこか、真剣みを帯びた声色。

「もし、そうだったのなら、私達は」
「あん?」
「私達は元々、大暴れして人間を滅ぼそうというくらいに、人間を憎んでいたのかもしれない。」

 ぞっとすることを言う。スペルカードルールの上で遊ぶ弾幕ごっこならともかく、吸血鬼が吸血鬼本来の力を出して私達を殺しにかかってきたら、ひとたまりも無い。

「勘弁してくれよ。そんな記憶は永遠に封印しておけ。」
「私だって別に紐解こうとは思っていないわ。それなりに、ここでの生活には満足しているつもりだし。」
「本当にそうであって欲しいもんだな」
「そうね。私もそう願ってる」

「結局、何だったんだ?地割れは起こる、この屋敷、えっと」
「紅魔館よ。またいらっしゃい、とは言わないけれど、せめて弾幕ではなくてノックで門を叩いて貰えるかしら」
「コウマカンはぼろっぼろになってるわ、その」

 吸血鬼に見初められるわ?とパチュリーが付け足す。

「けほけほ。あ、ああ、まあ。うん。全部あいつの」
「錯乱、というか発作的なモノね。大人しいときは大人しいのよ」

 慣れっこなのか、こいつらは。屋敷のガラスは全部割れ、壁は崩れる、この事態を。直すのに苦労しているのはメイド達だけのようだが。

「あいつには、フランには、何が見えていたんだろうな」
「さっきも言ったとおり、わからないわ。もしかしたら本当にただ『ごっこあそび』をしたかっただけなのかも。わからないわ、彼女の考えていることなんて。」
「そう、か」

 精々地割れが起こったくらいで、幻想郷は、今日も平和だった。

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