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神奈子_諏訪子_ぽぴゅらす

なんか、帰り道で書いた。
特に意味はないです。

折角だからジェネりっくに投げてきたけど、こんな作品大丈夫なのかなあ。
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 間違えるな。間違えるなよ、洩矢。お前のその手は、そういう風に使うためのものじゃ、ないだろう。

 だが、間違いは、私の方だった。
 お前でなければいけなかったのに、私はきっと、お前を深く傷つけただろう。
 







「このゲームはよくできてるねえ」

 コタツに入ったまま、どこぞの道具屋で投売りされていたよくわからない機械を河童に直させたという玩具をいじりながら、諏訪子は興味津々とその画面にかぶりついている。

「なんだい、そりゃ?」
「神様になって、民衆からマナを集めるんだ。民衆は神様の奇蹟を見て信仰心を高めて、異教徒の民衆との最終決戦に備えるの」
「……へえ」

 嫌な、遊びだな。
 そう感じてしまったのは、私と諏訪子の、馴れ初め故に。

「むずかしいんだよねえ。民が、言うことをきいてくれなくってさ。」

 画面を見ていると、大地らしきところに、白い色の人型を模したアイコンがひょこひょこと動いている。これが、民らしい。諏訪子がコントローラのボタンを何事か操作すると、大地が突然隆起したり、逆に陥没したり。

「こうやって、民に自分の存在を知らしめて、忠誠心の高い民を作り上げていくのさ」

 ちらりとこちらを見て口を開き、ちょうど私達が信仰心を集めているのと、にているじゃないか。よく出来てるよ、このゲーム。なんて呟きながら、視線はいつの間にかもう画面の中に吸い込まれている。

「おー。ちゃんと神殿を建てて神様を崇めるんだねえ。感心感心」

 などといいながら、画面の向こうの民に、神の御業的なものを施しては、大きくなっていく文明を一喜一憂しながら眺めている。
 民、か。
 懐かしい、でも、それを失ってみれば、重荷だったのかも知れないと思わされる。私は、神失格かもしれないな。隣でゲームをしている大切なものの横顔をぼうっと眺めながら、私のために死んでいった、私が殺した、民を顧みる。そして、私が征服した、神のことを。

「あはは、雷とか地震とかやると、ちゃんと逃げるよ、この子達。ほんとうよく出来ているねえ」

 画面を見ると、地面がぐらぐらと揺れたり、稲妻が走ったりしている。そのたびに白い民が慌てて蠢いているのがわかった。作り物の民とはいえ、地震や雷から神を感じ取って、畏怖するものらしい。確かに、よく出来ている。が。

「神様なんだから、少しは民を可愛がることもしないと駄目じゃないの?そんな、怖がらせるようなことばっかりしてたら」
「いーのいーの。民にはこれくらいが、いいのさ」

 そういって、地面を平らに均して住居を構えやすくする以外は、常に民をいたぶっているようだった。
 青白く光る画面の光。諏訪子の顔にそれが跳ねて、それは酷く残忍な表情を彩っているようで。

「私はさ、祟神、だかんね。それを自覚させてくれたのは、かなちゃでしょ」

 ざくり。
 彼女の鉄の輪で、体を輪切りにされたみたいな、衝撃。いや、衝撃はない。鋭い冷たい、痛みだけだった。

「私、は……」
「あ、勘違いしないでよ?感謝してるんだよ、私。なんていうか、思い上がってたんだ。変り始めている時代に、ちゃんとついていけるって。威光を示すだけじゃ、続かないって。恵みの神の側面を持たないといけないって。でも、私には、無理だったから。」
「諏訪子」
「私は、こうやって、民を治めるしか、できない。救いの手を差し出されても、握り返す手を、私は持ち合わせていない。祈りの果てにも救いは無い。どうかその手を合わせないで欲しい。私に祈りを捧げないで欲しい。それを、ちゃんと自覚させてくれたのは、かなちゃだもん。ありがとう」

 そんな「ありがとう」があるか。
 これでも、好き合って連れ添い、生き辛い世界を一緒に駆け落ちた仲だ。嘗ては戦を交えて、血を啜り合い、肉を喰らい合ったライバルでもある。そんじょそこらの夫婦なんかより、ずっと強い絆があると、双方に認め合っている。
 それなのに、どうしても、どうしても、くっつかない、姿を消さない、ささくれていつも自己主張してくる罅が、あった。それは、私と彼女の戦いが、ケンカの延長でもなければ、生存を駆けた戦いでもなく、悲しくも、ただの「徹底したお互いの否定」だったからかもしれない。それは正当防衛。仕掛けたのは私で、諏訪子の武力は実際のところ、専守防衛だった。今でも、諏訪子をいや、洩矢を破ったときのあの断末魔を、忘れられない。
 私達の間に横たわる、細く、今は浅く、ぴったりと噛み合ったその溝はしかし、常に凹凸を見せ付けてその度にその罅の存在を思い知らせてきた。

「かなちゃは重く考えすぎー。もう、そんなの向こうに置いて来ちゃえばよかったのにさ」

 向こう、とは前にいた世界のことだ。そこにしがらみなんて捨て置けばよかったと、そう言うのだ。当の本人がそう言うのであれば、確かに、その通りなのだが、私はこの負い目を未だに捨てることが出来ないでいた。
 小一時間、諏訪子は"彼女のやり方"で白い民を育てていた。後ろから見ていてわかったのは、諏訪子はあの頃と何も変っていないと言うことだ。それは一つの愛情表現で、不器用だと言う言葉もただの誤魔化し。本当は、彼女自身の性質になんか関わらず、民を、慈しみたいと思っているのだろう。地震を起こし、雷を落とす彼女の表情は、ゲームを淡々とこなす無表情の中にあって、どことなく穏やかそうにも見えた。
 おおっ、と諏訪子が声を発した。手にコントローラを握り、画面に食い入ったまま、その中で起こっていることに声を上げている。私が視線を向けると、画面には、先程までのように忙しなく動き回る民の姿は無く、画面の真ん中にぽつねんと白い色の民と、その隣に赤い色の民。

「民が、一人しかいないじゃないか」
「一人じゃないんだよ。これは、私の民全員を一つに合体させたものなんだ。相手もそう。最終決戦ってやつだね。このゲームのクライマックスらしいよ」

 そう言う割に、諏訪子の声は盛り上がりにかけている。いや、欠けていると言うよりは押さえつけているような。トーンを落としたその声には、何か淡く澱んだものが含まれているようで。
 民の集合体。確かにそれは、普通のアイコンよりも強そうに見える。そのひとつとひとつが、死ぬまで殺しあうのだとか。全身全霊をかけて、お互いの信仰する神の名の下に。このアイコン(達)は、神様への信仰心だけを食べて生きてきたようなものだ。もしくは異教徒に対する、異教の神に対する敵愾心を飲み込んで来たのだろう。
 そうであるなら、この戦いはただの宗教戦争ではなく、お互いのすべてを賭けた"選択"。正義とか信仰心とか、そう言う言葉ではおそらく表現できない、もっと根源的で理性ではない、ある意味で狂気に近い何か。
 それは私がよく知っていた。そして、諏訪子も、そのはずだ。

「あんなに沢山、うじゃうじゃいたのに、一つになっちゃうのか」
「うん」
「結構好き勝手に動いてたように見えたのに、一括りになっちゃうんだな」
「うん」

 私がそう言うと、諏訪子は視線もくれず、ただ画面を食い入るように見たまま、答えた。画面がちかちか光るのに照らされて、表情一つ変えていない諏訪子のかんばせが、しかし戦いの激しい色にちらついて彩られている。先程から、ずっとそうだ。画面の光が、諏訪子の表情を、無機質に、残忍に、激しく塗りつぶしている。でも、それは、化粧のようなものではないか。諏訪子の本心かどうかなど、わからない。外から作られた、仮面。それを自らの顔に貼り付けて、彼女は一体何を思うのだろう。上の空なのか、何かを、考えているのか。
 それとも、私に何か、訴えたいのか?

「戦争って言うのは、もっとこう、大勢で激しいものじゃないのかなあ」

 居心地が悪くなってつい口をついて出た言葉。しかし、諏訪子は冷えた岩のような雰囲気で、言った。

「戦争なんて、寂しいものじゃん。一人も、大勢も、ないよ」

 画面から目を逸らさず、諏訪子はその戦いの様子をじっと見ている。たかがゲームに、真剣な眼差し。でも、そうして真剣な目を向けてしまう心境も、私には想像に難くなかった。シチュエーションを聞いただけの私で、こうなのだ。実際にゲームの中とはいえ、神の視点で民を育て、その様子を見守ってきた諏訪子であれば、それは私のさして強くもない想像力を以ってしても、突き刺すような、せつなさ。
 諏訪子、お前は、まだ、私を許してはいないのか?
 諏訪子が、私よりも遙かにプライドの高い奴だというのは、知っている。だからこそ、彼女は現状に満足できていないかも知れないのだ。
 私は何も言えないまま、後ろでその様子を見ていた。見ていた、と言うのは間違いだろうか。まじまじとそれに興味を示している様を、私は諏訪子に悟られたくなかった。何気なさを装って斜めに位置取り、その横顔をちらちらと盗み見る私。情け、ないな。
 と。ゲームのBGMが変った。どうやら諏訪子の民は、負けてしまったらしい。

「あーあ、まけちゃった」

 ぱたり、と後ろに倒れるように仰向けに寝転がって、退屈を嘆く子供みたいな仕草で呟いた。
 画面には敗北とゲーム終了を示す映像が表示されている。

「まけ、ちゃったのか」

 なんだ、この気分は。
 負け。諏訪子がその言葉をあっけらかんと口にすることに、酷い違和感を覚える。違和感。いや、これは悲しみのバスタブに、憤りの一滴を垂らした、そんな感じ。

「勝てるまで、またやり直しだな」

 私が、特に意味を考えもしない返事を返すと、諏訪子はやはりこちらに一瞥さえくれず、それは私に言ったのか、それとも別の誰かに言ったのか、それとも自分自身への言葉なのか、天井に向けて彩度の低い群青色に染まった言葉を、投げた。

「やり直さないよ」
「え?クリア、しないのか?」
「クリアしてもしなくても、ゲームオーバー。同じ事じゃん。いいんだよ、これで」

 その言葉をどんな顔で言っているのか、私は我慢できずに覗き込んでしまった。
 諏訪子は目を閉じていた。瞼の裏に、何が映っているのだろうか。
 ゲームの中のあの騎士になったつもりで、斃されて見上げる空を想像しているだろうか。
 それとも。あの日の光景を、思い描いているだろうか。嵐の中で当人しか知りえない、あの日の二人を。
 思えば、大の字になって寝っ転がるその姿は、まるで地に伏して死んだ戦士の……いや、戦って敗れた神の姿にも見えて。
 やり直しをしない。負けて、終了。それをよしとする。
 さっき諏訪子が呟いた言葉が、返し刃になって胸を貫いた。卑怯者。良心が私の中で暴れて強く、苛む。私がしたことは、していることは、まるきり卑怯者のそれではないのか。何故、今、私の隣には、諏訪子がいる。でも、それでもいいと思えてしまうのだ。私が卑怯なのは、今に始まったことじゃない。それこそ、このゲームの中でアイコン同士がそうしていたように、全霊を賭けた戦いをし合ったあの頃から、私はずっと卑怯者で、それは今も変ってなかいない。これからも、ずっと。

「いいんだよ、負けで。いいんだ」

 繰り返し呟く諏訪子。私は何も言わず、目を閉じたままのその頬を両手で挟んで、あまりに幼いその唇に、そっと口付けた。







 私の名を呼ぶのは、民でなくていい。八坂。お前さえ、私の名を呼んでくれるなら。民など、地など、くれてやる。
 私の手を、八坂、おまえが握り返してくれ。
 孤独な神社は、もう仕舞いにしたいんだ。

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