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【蓮子】スポイト、マスカラ、月とあし

たまにはね。
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髪の毛の一本一本に、鱗を纏ったみたいだった。髪の毛が鱗なのではなくて、それをなすケラチンの波一つ一つを食いしばるトンボの顎みたいにびっしりと、もぞ、もぞ。そして忙しなく複眼まで。飛び去った後の気持ちは尾を引くように未練かと思ったがさほどのことでもなく、むしろ七色をして透ける色の羽根の輝きと軽やかさが「さよなら」の重さみたいで、抜ける空みたいにいっそ笑えた。
9時27分。予定の二本後の電車がホームへ滑り込んでくると、時間も時間だというのに食い過ぎ気味のそれはげろげろと黒いものを吐き出していく。時折混ざっている鮮やかな色は、滅多に味わうことのない愉快な記憶の鮮烈か、それとも血や黄疸だろうか。いずれにしてもそれが途切れるのを待って、「待って」。待ってから、生ぬるい内臓へと潜り込んだ。
フィルムをちかちかちかちかちかと点滅させながら回しているみたいで、視界は吐き気を促進してくれる。どうしようもなく促進してくれる。今ならいっそ吐く方が気持ちがいいだろうか。切り取った風景と光の形が、好きだった(いや、今でも好きな)その人との断片を浮き彫りにしてくるから、吐き気を促進してくれる。眠って逃げてしまいたいけど、こめかみをずっと左右から押さえつけられているみたいでそれもできなかった。万力の手が、どうしても。頭が痛い。がんがんがんがん、でも現実感のない幻想みたいな、痛み。
しばらく左右に振れているとやがて先のばされた予定が空いたので、腰をおろした。「何とか間に合うね」隣にいた不細工な癖に妙に着飾ったおばさんが、黒眼だけをこちらに向けて意識を一歩のかせる。似合いもしないコロンの匂いが、トンボの複眼みたいにぎらぎらしていた。「そうだね、これを逃したらアウト」二切れ目のチケットは引き取り手が見つからずに、結局私は二人に分裂して同じものを別々に感じることにした。決めた。今夜から。そうすることで、ひかれる後ろ髪を切った。そうするために、バッサリと切った髪の毛は、セミロングからショートに。いっそ剃ってしまおうか。上も下もつるつる。バカみたいで、それもいいかもしれない。はあ、せいせいする。さっきその光景を見ていたように、自分もげろげろとはきだされると、そのまま逃げ去った。いや、目的はある。それは今生きることと変わらないほどに軽薄だが、目的は、ある。「もうすぐはじまっちゃう」「それともそのへんではじめちゃう?」笑っているのは、二人だった。笑い声は、一つだった。
高架下の暗がりを歩いていると足が二本から三本になって、三本から四本になって、1時と11時が、3時と9時になった。なったのを思い出して、二つ三つ吐いた。一つを吸った。黴臭さにむせかえり、その息苦しさが心地よい。晴れた空の下でも暗くてじめじめ。私の溝は、この暗がりみたいに、いつもぬかるんでいる。根腐れして死んでしまえばいいのに、やたらと生命力に溢れているそこは、一人と二人を結ぶ交差点だったのに。絆?そんなものじゃない。そんなものじゃない!だってちぎれて、今は秋空の雲みたいに。今は片方の信号が青になりっぱなしで、クラクションの一つだってならなくて、静かすぎるその交差点を私はひとりで慰めたりもする。幾ら擦っても鈍色の空、雨ばかり。
「5」差し出した紙の束に代わって返ってきたのは、小さなアルミ箔。細胞が踊りだす。はやく、はやく、はやく。時計を見ると文字盤はすでに歪んでいた。時間などわからない。ただ「そろそろいそがないと」「はじまっちゃう」「やっぱその辺ではじめちゃう?」「あははははははは」かび臭い暗がりを這い上がる瞬間、それは小さなオーガズムだ。放電前のチャージはそれだけでも心地がいいのだ。雨どいを滴る泥水を足元に引きながら私は二人で一つ。「間に合う?」「星が出てないや」げらげら笑う私は、まだキメていないのに、後頭部がミラーボールだった。目を閉じて、二つ目の目を閉じて、三つ目の目を閉じて、四つ目の目を閉じて、五つ目の目を閉じて、六つ目の目を閉じて、七つ目だけ薄目を開けて。
箱。記憶を掘り下げるみたいに薄暗くて細い階段を下りていくと、思い出したように空間が開けた。さっき芋虫から吐き出されたよりももっと密度の濃い色の群れが、ひしめいている。黄色い声。赤い感情。青い嗚咽。それぞれ彩度が低くて、暗い。それが羽ばたいて無作為に鬱陶しく飛び回る様は、揚羽蝶というよりは毒蛾。いや、失明した深海魚か。いつの間にかそこかしこの瞳はハイビームに変わっていて上目遣いの眩しさが、グロテスクなほどに媚びている。ああはなるまいと思っていた蛹は成虫になる前に死んでしまった。殻の中で一度完全に溶け合った全ての器官は、それでも確かにその淫らな色合いに近付いていたと思う。こうなってしまって、よかった。メス臭いのは私もだった。強烈。一人で二人分臭い。
生理のズレた、雲が垂れ落ちる空みたいな気分で、そこはろくに手入れもしないままだ。あっちでもこっちでも匂っているのだ、私ひとりくらい産卵を逃げたって、文句はないでしょう?そいつの足を踏んづけてやって靴の裏から伝わった感触は、やっぱり芋虫を踏みつぶしたときのそれと同じで気分がよかった。女は年老いた猫みたいな声を上げてこちらを睨んだけど私はまだ辛うじて人間なの。そのままトイレへ。熱感知器に気をつけながらライターであぶってそれを吸うと、踊り始めていた細胞がいよいよ翼を生やして飛んで行った。私という枷を解き放って、自由。自由だ。悲しい自由だ。あれほどに縛り付けて、縛り付けられていた日々を、ここで殺してやろう。羽毛布団の一辺を切って屋上からまき散らすように、細胞の記憶を。あーきもちい。ざまあみろ。私の視界に踊るのは、ビルの上から蠅の子みたいに広がる私自身だった。「楽しみだね」「ええ、やっとあなたと別れられる」トイレの隣の個室から雄と雌がむさぼりあう声が聞こえてきた。私と、彼女がそこにいる。そっとしておいてあげよう。いつか、ころしてあげるから。「イけそう?」壁越しに声を投げ込むと空気が凍りついた。私はその薄氷をバリバリと割る勢いで笑いながらトイレを後にした。こんな世界で、いけるか。
あいつ等の息遣いがしつこく絡みついてきていた。スニーカーとガムの関係みたいに。それはそうだ、あいつ等の息遣い、私もよくそれをしに来たんだ。トイレなんかじゃしなかったけれど、他のどんな場所でしたときの味も、私の指は知っていた。知られていた。その記憶は質量を持つことを放棄して、今はどこかにいなくなってしまったけれど。そんな食用の金箔みたいな空虚な気持を、更に抉りに来たことくらい、わかっている。スニーカーとガム。私と彼女。クスリ。笑ってしまった。
左右に開かれた扉は肉ビラみたいで卑猥。その間に滑り込んで行く私も、いつも彼女がしていたようにいつも彼女にされていたように、ぬめって指。爪の手入れもしないでそれをする私を、彼女は仕方がないねとそれでもだ受け止めてくれた。
「うそ」急に来た。ずくずく痛くなってきて、痛みが全身に広がる。毒。痛み。怠くて、でもアッパーは許してくれない。何の準備もしないで来た私は、ステージに一番近い真ん前に滑り込んだ。じんじんじんじん、痛みは、私を迎えに来た彼女の記憶だろうか、呪い。キまってる。もう音だって極彩色で、ブロック状。始まる前の、男のへたくそな前戯みたいな曲だって、子宮をこじ開けてくる。熱い。痛い。気持ちいい。吐きそう。「はじまるね」「おわりが、はじまるね。私たちの」「そうね」それは声というよりガラスを擦りあわせるみたいで、すごく綺麗な音。がちがち歯が鳴って、視点が一点に定まらない。笑った膝でしがみついた。彼女じゃない。泣きそうになりながら爬虫類の目をぎらつかせると、周囲の奴らが声を抑えた。そうだ、黙れ。私の思い出に触れていいのは、私とあの子だけ。触れていいのは、さわって、「触って」。いいの。隣の男の子はこんな盛り場に一人で来ているみたいだった。女の匂いが、コップをまかしたみたいにスカートの内側からこぼれている。男の子の唇の形は、少し、彼女に似ていたかも。流し見ると喉が動いた。音も聞こえそうだったけれど、それはステージの上から響く音にかき消された。
押し潰される。前以外の全ての方向から強烈な圧迫、熱狂。彼女が好きだった空間。怒濤。瞬く間に酸欠の肉塊。蜂玉。叩きつける音は私を責めている。私のせいだと、彼女は、私のせいだと。すごく陳腐な文字列に、申し訳程度の色と時間をつけたそれが、眼球と心臓と子宮を同時に貫いて抉ってくる。
「無駄よ。そこにはいない。もう、私のどこにもいない、どこにも、彼女は」痛い。頭ががんがんする。押し潰される体が絞り汁みたい。股間から溢れる血液が、痛いどころかしゅくしゅく泣いて心地よかった。心臓と子宮がつながって、目の前の男が口から吐き出す壊れきった言葉を受け止めていた。
「私の代わりに、言ってくれている」彼女はそういったか。嘘だ。だって見ろ、こんなにもあなたを抱きしめていた私にも、あの声はただただノイジー。「でも、感じるでしょう?」ええ、感じる。すごく。押し潰される振りをして、隣の男の脚を股にはさんだ。ステージの上なんて見ていない。ただ、やかましい音と光が、体中の感じるところを撫で回してくるから。あの子の手みたい。リズムに合わせてはねる肉塊。むせかえる熱気と、足りなくなっていく酸素が、決まり具合を深く深く沈めていく。
「ねえ、しよう?」隣の男に体を押しつけながら、スカートを捲り上げる。誰も気づいていない。男さえも気づいていない。最前列の私を見ることができるのは、ステージの上のあの男だけだ。血塗れになっている下着の上から、股間をめちゃくちゃにかき回した。キックの音が子宮の深いところへ反響して、血と愛液を滴らせる。でも、それ以上のリズムはいらない。私は勝手なリズムを刻みながら、もみくちゃにされながら、孤独のセックスに身も心も預けて乱れた。レーザーが当たる度に脳味噌から記憶の一部が壁に転写される。後ろにいる誰かの頭の中に吸い込まれていく。赤なら怒り、青なら悲しみ、黄色なら疑いで、紫なら性欲。楽しくいとか暖かいとか、そんなのは幾らまんこを掘り返してもかけらだって出てこなかった。
床にまき散らされてる血は、記憶と感情、音と光をすってすっかり紫に変色している。痛みは体に鉤爪をたてて心が滑り落ちるのを防いでくれる、頭痛が、頭痛が、頭痛が、頭痛が!ヘッドバンディングに負けない勢いで、陰裂をかきむしる。お腹が痛い。痛い、痛い、痛い、ずんずん痛くて、飛び散ってる血は、経血だけではないような気もしたが、ストロボを繰り返し解像度を落としていく意識の前には、全てが快感に上塗りされていた。
「みてる」「みてるね」囁き合う。息。深く吸って肺に雪崩込んでくるのは熱いばかりで酸素の少ない音ばかり。頭の中で目玉が大きく膨れ上がっていって、血流も、音も光も空気も熱も、感情も記憶も、快感も、全てがどくどくとやかましいほどに増幅されていた。ステージの上の哀れな男が音と言葉を吐き出しながら、私の行為をちらちらと見ている。次のMCがタイムリミットか。知っている限り一番激しい曲。彼女も好きで、セックスするのにBGMにしてたっけ。
目を閉じると見えない世界が世界を形成して、それはとても心地の良いものだった。見えた世界の、神経をむき出しにされて、酢酸の海に漬け込まれるような苦しみは、もう沢山だった。彼女がいない。それだけで、瞳を開いて身を焼く痛みに耐える価値など、とうに失われている。「あ、あ、あああああああ、あ、あ、ああ、、あ、あああああああ」全方向で熱狂。私を巻き込む巨大なうねりは、でも私とは関係のないところで起こっていて、こいつらは外世界だった。無関係。私のいない世界の住人。見えているのが間違い。それでもこの波と圧力と音と光と怒濤と気迫と熱狂に任せて流されて、弾む世界に愛撫されるその快感に体を捨て去ってしまおう。
音が耳から脳味噌を犯していく。光が目から脳味噌を犯していく。酸欠が肺から脳を冒していく。押しつけられる体温が、圧力が、全てが押し潰す私が、全てが、虹色。あれ、いろって色だっけ?いろって言うのは持っとこう、見えるって言うか波で、感じるだけで出力できなくて、おまえに何がわかる。何が、おまえたちに何がわかる!わかるか、わかってたまるか!この痛みが、痛い、痛い痛い痛い痛いんだ!!こんなに血が出ていて、気持ちのいい血が、委託で気持ち悪くて、でも気持ちがいい、気持ちがいい、気持ちが痛い痛い!床を見ると、魚の死体が転がっていた。足の踏み場もないくらい、青ざめて白い腹を見せてひっくり返った魚が、ぬめりぬめりと転がっている。私のあそこから、魚がずるずるあふれ出した。
生臭い。音階があがる。テンポがあがる。重なり合う音が増えて、体中を突き抜ける全ての感覚が子宮に集中する。かきむしる女が悲鳴を上げていた。二拍子に刻む時間。時計も時刻もばからしい。頭を振り回しながら股を開いてそこをいじり倒すと赤いつぶつぶがあふれ出してくる。魚が顔を出したのはさっきで終わり。赤くて綺麗で油を含んだ、ぬめりがあって筋同士でつながり合った血合いの多い半透明で赤い粒々が、押し出される嗚咽みたいに、ううん、ソーセージマシンの吐き出す肉塊の勢いみたいに、にるにるにる赤い粒々。好きだった、好きだった、好きだったその行き場のない感情が、血を伴って、姿を得ることなく不適切な形でどんどん生まれてくる。天井ぎりぎりまで上り詰めるテンション。
前の男の絶叫と、周囲の熱狂。跳ね回る世界の中で、私の性感もどこかへ弾き飛ばされ、跳弾しながらめちゃくちゃ。メレンゲみたいになった頭の中が液状化して、泡だって流れ始める。右へ左へ寄っては重みを変えて、金平糖みたいに棘立って私の頭の中を苛んでくる。口から粘っこい涙を吐き出して、何度もその名前を呼んだ。
何度も何度も何度も何度も何度も名前を呼んだ。何度も何度も何度も何度も何度も何度も名前を呼んだ。何度も何度も何度も何度も何度も何度も、何度も、何度も、何度も。何度も。名前を、呼んだ。その名前を、呼んだ。叫んだ。泣いた。悲しくて、悲しくて、悲しくて淋しくて、痛みがシクシクシクシクシク痛くて私のためにみたいで、どこか優越感があって。
一番最後に私がこの世に生まれてきたときにきっとそうだったように、全身全霊の想いと力を込めてその名前を一度だけ叫んで、泣いて、私は昇りつめた。エビみたいに跳ねて、馬鹿みたい。気持ち悪い。私。死ねばいいのに。
音の波が小さくなる、遠のく、世界が縮小していく。私が消えていく。拡張した認識が小さくすぼまって、極彩色に染まっていたすべてがモノトーンに声を静めていった。終わりだ。一つになれた最後の瞬間、これで。
ステージの上の男が舞台裏の誰かに何かを言っている。きっと私の事だ。下着を穿き直すだけ穿き直して、開いた胸元を隠し直すだけ隠し直して、私は熱気の群れる地下室を飛び出した。太腿どころか膝辺りまで血が流れている。自分で弾き飛ばしたブラウスのボタン。いきなり始まった生理痛だけが、クリアになっていく意識の中でその存在感を残していた。それだけが、残った。他には何も残っていない。めちゃくちゃだ。でも、もうそれで良かった。
「大丈夫?」かけられた言葉は隣にいた男。大丈夫なものか。私のすべてはさっきの瞬間に全て気化して失われたのだ。それは血であったし、痛みであったし、叫んだ名前であったし、死んだ魚であったし、夥しい数の無性卵だった。彼女?いや、私が描いていただけの彼女の表像。あれほど色鮮やかに美しく塗られていたそれは、いまや錆びつき腐食し、見るに堪えない。私がそうしたのか、元々そうだったのか、今となってはどうでもいいことだった。取り返しなどきかない。取り返しなどきかない!「ねえ」まだいたのか。「そういうつもり。どう?」頷く彼。しようかだなんて、投げやりもいいところの言葉だった。笑ってしまう、そうして肩からかけられた上着をまとう姿は、彼女にそうされたのと何一つ違っていなかったのだから。同じ事を、私は繰り返すのだろうか。「血だらけだけど?」「だからほっとけない」「うそばっかり。誰でもいいんでしょう?私は、誰でもいいのだけど」申し訳程度のシチュエーションを筋立ててきた男に「まどろっこしいわ。そこでいい」
街灯の死角。光に照らされていない濃紫の幕は、墨の中に静脈血を垂らしたみたいで、そこだけが現実味を失っている。ぬるりと絡み付く空気は秋を思わせない体温。湿っぽくてぬるぬるで塩味が不快。蛞蝓の膜がべたべたくっついてくる。同時に息をするだけで粘膜からパンクロニウムが滲入してくるみたいでとても刺激的だった。そこではあらゆる鎖が解けて消えてしまうだろう。ガラスだけが残る。私の中でガラス化した想いだけが核になる。あとは全部蛹のまま死んで腐ったその中身だ。刺激的アルミ。「そんなの」「あんたに関係ある?」仕方ないと肩を竦めるその様子をどこかで見た?地下室でイった時からボタンが弾けてなくなっているブラウスの開けっ放しになった前に手が入りこんでくる。冷たい。冷たい手は好きだ。拒絶されているみたいで。火照った皮膚に「お前とは別物だ」と諌められている様な気がして、気持ちいい。
ひょろ長い手足はあんまり格好いいと思わなかったけれど、こういう時には魅力的だった。蜘蛛の糸みたいに絡めて、蜘蛛の手足みたいに。いよいよ血腥い穴蔵伸びた手。「男?」「関係ある?」「いいや全然」全然引かないんだ。面白い。「さっき全然気づかなかったよ」「今気づいてくれたなら、いい」口付けは粘っこかった。見た目以上に醜悪な匂い。音と光にK,O済のイき明けな体が、すぐに隷従。すぐに回ってきて、そんな生ゴミ汁の唾液が、口中で焦がし砂糖に変わる。「どっちが好き?」「あんたの好きな方」求められる姿が与えられる物。私に主体なんてなかった。あの子が、全部持って行った。どこかに持って行った。私の全てを奪った上に、どこかに消えた。最低の女だ。最低の、最低の、最低の女!でもそんな彼女を、水槽の中の熱帯魚を眺めるみたいに見ているのが、快感だったんだ。触れてしまったから。最低は、水槽のガラス面に映る私の醜悪な顔だった。
木の幹に抱きつかされた。下腹部の痛みは収まらない。光に群がる夜虫みたいに、鬱陶しく周りに絡み続けている。痛い。女なんて、女でなんて、どうして。私が完全に男なら、きっと、まだ二人だったんだ。甘ったれた考え。理由なんて、何でもよかった。自分でどうにも解決できない原因なら、何でもよかった。私のせいであって、でも私だからだめだった、そんな理由で、マスターベーションをして、首を吊る。
温くも冷たくもない木質が、私を揶揄して笑っている。爪を立てるとべりと剥がれる樹皮。その下で生き続けている生命。でもそのもっと奥は既に死んだ細胞で埋め尽くされている。木目の整った美しいそれは、しかし死んでいる。中身は死んでいる、死んでいる。なんて空虚か。私か。尻の穴に指を入れられた。隠すのをやめたもう一人の私に指を這わせてくる。変わった男。臭いのに、好みがぴったりだわ。顔を見られないでできるこの姿勢も、好みだった。彼女はどうしても私を見たがったが、私はいつまでもなれなかった。「お尻、柔らかいね」いつも自分でしてたからね。無言を恥じらいと受け取った男が、せわしなく腰を動かし始めた。前を擦る手も激しくって、塗れていないカサカサの、でも妙に体温の高い手で、めちゃくちゃしごかれる。自分でもこんなにするの?こんな風にしたら、痛いじゃん。濡れてないし。でも、それが、よかった。こうして後ろから、思いやりもなく犯されるのも好きだった。あの子は、そのどれも、してくれなかった。いつだって私が犯す方で、彼女だけが満足していて、二人でするセックスは女同士で。二人でしてても独りよがり。でも、それがよかった。でも、それがよかった。でも、それがよかった。体の隅から隅まで知り尽くして、知られ尽くして、私の好きじゃないセックスを強要されるのが。そして、最後には私を放り出して消えてしまった。男は器用に私の後ろと前を犯してくる。女には触れようともしない。直腸に便秘した想いが詰まってる。こんな物、排泄してしまいたい。もう叶わない想い。消化不良で、だのに出て行ってくれない。こんな行きずりの男が、それを掘り出そうとしている、気持ちよかった。
括約筋を緩く締めてやると、死に際の豚みたいな音が聞こえてきた。セックスと言うよりただの掘削。男はそれで満足なんだろうか。哀れ。私もね。バカみたい。入り込んでくるときにヒりだして、抜かれるときにくわえ込んでやる。男の腰遣いが鈍る。私が動きを補佐すると、逃げるように退いた。「長持ちなんてしなくていいの。何回もしてくれれば」吐き気がした。自分の媚びきった女の声が、喉をかっ切りたいくらいに、憎らしい。あの醜悪な顔が、こんな科白を言うなんて、惨めを通り過ぎて滑稽だ。
腰を掴む指の力が強まる。私が動かなくても、思いやりのない腰遣いが私をもみくちゃにしてくれる。どこかで薄い膜が切れるような感覚。何度もそれが響いて、ぬめりが増す。前も後ろも、血塗れ?最高。行きずりの男と、こんなにも相性がいいなんて。堪えていた喘ぎ声が、ついに喉を突き破って洪水をなした。声?薬でぶっ飛んでいた私の頭が、快感に飲まれた状態で言葉を紡げるはずがなかった。犬と牛と豚と鶏と蝉と蛙を混ぜたような音が、木々に反響する。男はそれに惹かれるように射精した。私の中に、あちこちが引きちぎられた私の中に、飲みきれないほどの雄性配偶子の塊を、下からそそぎ込んでくる。その間も狂ったように、狂ったように、狂っているのは私で、でも壊れたみたいに、壊れたみたいに、壊れているのは私で、何度も暴れるように肉棒を叩きつけてくる、押し込んでくる、かき回してくる。何度も何度も私の中にぶちまけて、私もそのたびにぶちまけた。こんな風に無様にイける男の感覚が好きで、そんな男がかわいくて、それしかない男が羨ましくて。ずくずく痛む女が、呪わしかった。月にいっぺん私に女であることを思い出させるそれも、女であることも、そういう期間が、そういう器官が、私に備わっていることも、なにもかも、呪わしかった。男がよかった。あの子が言う甘言に、溺れたのに。捨てるし。なんで、捨てたの。何で捨てたの。何で、何で、何で、何で。なんで!?
何十ぺんか中に出されて、何十ぺんか地面に出した私は、いつの間にか男の股の間にしゃがみ込んでそれを舐めていた。もう出ないらしいそれは時折痙攣して苦しょっぱい透明な液体を滲ませる。私はそれをくわえて頬擦りし、とけた雌の声を漏らしながら、一番嫌いな私の姿に堕落しながら、自分の肉棒をしごいていた。私のももう、中身を失っていた。ただ、空っぽでもアクメしたくて、しゃぶって、しごき続けていた。子宮は重くて、出血は収まったけれど、陰鬱とした気分は収まらない。多分、彼女のせいだ。男が立ち上がる。行くのか。止めないよ。止めないよ。止めたって無駄だって、わかってるし。止めたって。止めたって。愛も言葉も想いも何も、腐りになんてならない。鎖だって腐り落ちるし。手元に残る物なんて何もない。何もない。何もない。何もない。何もない。私の中には何一つだって残っていない!
男が去ったあとしばらく地縛霊のようにぼうっとしていた。精液は土に染みこんで少しのぬめりだけを残している。なんて滑稽な組み合わせだろう。土も精液も人間の元らしいが。これじゃ何も作れないだろう。精液と土の泥を指先で掻き混ぜて、ぐちゃぐちゃぐちゃ掻き混ぜてみると、それは女みたいな柔らかさだった。私のあそこも、こんな風に汚いんだろう。臭くて何も作れなくて。地虫が一匹歩いてきたので、くれてやった。その泥をくれてやった。精液と土の泥をくれてやった。これが、これが、これが!それを覆うように泥を乗せて盛って上から叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて、消えた彼女を思い出した。こんな物で結びついていた二人が、今は汚らわしく思えて悔しくて悔しくて、情けなくて「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」人に見られた。知るか。
草の向こうから覗いていた青白い首は本当に霊だったかも知れないし、生きている人間だったかも知れないし、もっと何か別の結界の向こうとか言うのから来た誰かかも知れないし、それもわからないし、どうでもいいし、関係ないし、うるさいし、お腹痛いし、寂しいし、苦しいし、うるさいし。耳鳴りうるさいし。うるさいし、うるさいし、うるさいし、うるさいし!なにドクドクいってんのよ!なに心臓、なに鼓動、うるさい!うるさい!「キミ」青白い人間が消えていて、代わりに青い人間がいた。何だ、警察。「うるさい!きえろ!」手元にあった鞄を投げつけて、罵声を浴びせるのに逃げる私。あ、私。そうか。
半裸のまま全力疾走。スカートと、破けたブラウスと、片足だけの靴とソックスと、血まみれのぱんつ。追いかけてくる警察。何で。悪い事なんて何もしてない。した。悪いこと?全部悪いこと。よくないことはわるいことなの?うるさい!もう何だって残ってないっていってるだろう!何もないって!何もないって!何もないのに、何と比較しろって言うのよ!何と比較して善悪を判断しろって言うのよ!木の幹みたいに空虚なんだ!
走る。蛻の殻になった地下室を抜けて。
裸足がぺたぺたでスニーカーがずるずる。空から、空からノコギリ波が降ってきてる。ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ。耳が刻まれるうるさい。何が結界だ、何が、何が、何が向こう側だ、何が、何が、何ががが、ががが、がが、が、がががが、なに走っていると涙が溢れてきた。笑いと一緒に、涙。げらげら笑いながら全力疾走すると肺の中が空っぽと充満を繰り返して、訳がわからなくなる。肺を満たした空気が頭の中にまで入ってきて、それが一気に抜けると胸と頭の両方が吸い出されるみたい。スカートのポケットに紙切れが二枚入っていた。チケットの半券、一人分二枚。走って走って走って泣いて少しだけ笑いながら、何の価値もない紙切れを口に含んで飲み込んだ。胃の中に入って落ちていく。消える。最後の、全て、消化、なにも。
ああ、ああ、ああ、ああ!どうして!?どうしてなの!?消えるのなら、後始末をしてから消えてよ!殺してから!私を後始末してから!!どうして!?やさしさ?ふざけないで!!生殺しじゃない!これから死ぬまで私は、私の中の女と戦って、負けて行かなきゃいけない!!!この痛みをあなた以外の誰に捧げればいいと言うの?!誰でもいい、男なんて誰でもいい。よくなかった!よくなかったわよ!!!でも違ったのね。私じゃなかった。そうでしょう。
転んだ。いや、転がった。車道の真ん中だ。死ねるかな。誰か、私の意思とは関係なく暴力的な方法で、無理矢理抗えないように私を殺して欲しい。殺した人間を100%恨みで塗りつぶせるような理不尽な死に方がいい。殺した人を?いいや、彼女を。あの子を。あなたを。自動車は全て私を回避していく。クラクションを鳴らして回避していく。誰も轢いてくれない。だのに、誰も車を降りて様子を窺いもしない。そういう、そういうところだ。そのていど。その程度の人間だ。注意して回避するが、気にも留めない、必要ない、見ない。そのまま通り過ぎて無かったことにする。

そうでしょう。
あなたがいなくなって、何もかもなくなったわ。
私の中から。
結界とか、浪漫な事件とか、秘密も封印も、無くなったわ。
私の中からも、消えた。
時計の文字盤はほら、歪んで見えない。

仰向けになって、ぼろぼろになって、空を仰いだまま。













































「ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ、メリー。ねえ。ねえ。ねえ。ねえ。ねえ。ねえ。ねえ。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー。ねえ、メリー。」



空の星を見ても、月を見ても、もう時間も方向もわからなかった。
私の幻想は、死んだのだ。

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