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【秘封など】far, from

久しぶりに夜伽に投稿しました。

far, from

一本行き詰って没って、
そのご仕事が忙しくなって行き帰りの電車は寝ているようになって
無駄に間隔あいてしまいました。

執筆の実時間が長かったこともあっていつになくしっちゃかめっちゃかな感じになってますが。

最初は、
蓮子とメリーが旅行の交通手段をめぐって喧嘩するだけの話だったのに…
何をトチ狂ったんでしょうか。



以下、強烈なネタばれ。





なんかスプラッタだのグロだのホラーだのと作家の特性にされている感じがするのですが
私はホラーが苦手です。一人で見たら寝られないくらい苦手です。

でも、怖いって思うものをどうして怖いと思うのか分らないんです。

「それが分らないのが怖いんだ」
「正体が分らないから怖いんだ」

なんてありふれた答えでは納得できません。

だったら数学の解けない数式を見て怖いと思うのか。
仕組みのよく分らないまま使っている携帯電話の中身が怖いのか。

そうはなりません。

もちろん「未知が怖い」のは正解なんですけど、未知を未知として確認したときに
それをどうして怖いと思うのか。
好奇心を上回るポイントは何と拮抗して決まるのか
とか
いろいろとあるわけじゃないですか。


「未知が怖い」という回答は、
問題のほりさげを途中で放棄しているようにしか見えない。


以前投稿した「わたしたちはあいされています」では
早苗は劇中必死に考えることを放棄しようとしますがうまくいきません。
そういう姿もあろうと思ってやってみたものです。
私の分身かもしれません。

とかく、
恐怖というものには、
そういう「粘っこさ」があるのではないかという仮説が私の中にあります。
「粘っこさ」とは、好奇心や知的興味、
あるいは未知への恐怖を解消しようとする生理的現象であるのだろうと。

好奇心との拮抗というのはそういうところで
そして未知を探ろうという立場に丁度いいのはどうしても秘封なんですよね。



そんなわけで、分析が目的でもあったので
分りにくいホラーはとりあえず置いといて分りやすいホラーを題材にしてみよう。
もうなんていうか、小難しいのは置いといて、2chとかで見れるクラスのホラー。
そんなふうにネタだけが先に出来上がっていたものがありました。


「その他の注意」という道路標識が心霊スポットなのではないかという都市伝説と
緋想天などでの紫の攻撃方法に道路標識があることを接点として一本かこうかなと。

ネタがそれだけでは足らないと思ったので
最近よく車に搭載されている自動ブレーキシステムに幽霊が引っかかるってのを思いついたのと
個人的に私が学生時代に感じていたシャワールームへの疑問をそのまんまぶち込んでみました。

運悪く2/3が車ネタだったんで、蓮子とメリーの喧嘩に融合してしまったわけですね。




ツメタガイのエピソードも個人的な経験です。
ほんと小学生とかその頃ですかね、ツメタガイっていう貝を図鑑で見て

「貝の癖に貝を食うのか、しかも貝殻に穴空けるなんて」

っておもって空寒く感じていました。
海にいってみるとそんな貝殻あっちこっちに転がってるじゃないですか。
普通に怖かったです。
貝に貝が覆いかぶさって穴をあけて食べてる光景を想像しても怖かったし
その死体があちこちに転がってるのも怖かった。


あと名前ね。
「冷たい」「貝」みたいに聞こえてたんですね。
なぜかその頃に、残酷の英単語の「cruel」と「cool」をしってて
単純に音だけで

ツメタガイ-冷たい-残酷

っていう意味のわからない連結から恐怖対象になっていました。

穴を開けて食べるというのがなんともホラーチックだったので
それを人間にやると怖いだろうなーとおもって。
主題じゃなかったんでそんなに沢山描きませんでしたけど。

結界を操作して世界に穴を開けるのと
貝殻という自分を守り象る鎧と
頭に穴を開けて脳を食べる不気味な何者かと
天蓋という言葉が本当に蓋だとしてそれに穴を開ける何者かと
その辺をやんわりと連結して書けたらと思ってツメタガイを放り込んでみました。

一応ツメタガイも喰えるらしいですね。



結局、
都市伝説から始まったのに
コズミックホラーじみたものになってしまって頭を抱えたわけですけど
もともと私の興味と恐怖の丁度中間地点にあるネタが
コズミックホラーなので仕方のない結末だったのかもしれません。




アリスが登場しています。
脇役ですが、個人的には大好きな形での登場です。

レインというアニメでは、ネットの世界を「ワイヤード」と読んでいたので
「ワイヤド」という言葉はそこから貰いました。

今作のアリスは、
アニメ「レイン」の中で
天才ハッカー集団といわれる今で言う「アノニマス」みたいな奴らにあこがれて
体中を電子装置で囲って、
ARの中に溶け込もうとする安っぽいギーグのエキストラを意識しています。

あと、天上天下という漫画の敵方の槍使いが
自分の腕ではなくて、
作中のような指先から操作するコンピュータで制御された
ロボットアームによって槍を使っていまして
これが原型です。

この姿のアリスは、産廃の「地底戦争」にも書いたことがあります。

このときもポッと出でしたけど
今回は死んじゃいましたね!

ああ、画力があったら、
このヘッドマウントディスプレイをつけてるサイバーなアリスの絵が描きたい…。

あと、アリスさんには
もう一つ私のひねくれたクソガキじみた思いも発してもらっています。
ちょっとアレなんで、あえてはかきませんが、読めばすぐに分ると思います。


魔法の存在と描写についてはいつもどおりの厨二ですが
今回は大昔に読んだ「空の境界」ちう小説をイメージしました。
内容はぜんぜん覚えてませんけど、魔法というものの位置づけとかそのあたりは
「月型」って言葉が持つイメージに近付いてるんじゃないかと思います。


私ぜんぜんタイプムーン作品知りませんけどね…。
そういう点では、クトゥルーもぜんぜん知らないのに扱ってるわけで
冒涜を冒涜で重ねる行為ですね。


今回の蓮子さんですが
星つながりを強調したために、魔理沙要素を含んでいます。
というか、たぶん霊夢と魔理沙のくっついたやつ。
くっついた理由はしらんけど
たぶん幻想郷のあり方とかなくなったとかその辺の問題じゃね(ホジ



話を戻すと、
レインも、高校で発生した自殺事件が発端になっています。

作中に出てくる自殺の都市伝説は
ご想像の通り「わたしたちはあいされています」とつながっています。
早苗が自殺すなわち自身の人身御供によって、侵食する紫(メリー)を一時的に防いだ事件です。
もちろん時系列は滅茶苦茶です。宇佐見先生の仕業で。

そういえば「わたしたちはあいされています」の宇佐見先生って
金髪でしたね。


そんなふうに作ったり壊されたりする脆弱な世界への疑惑と
それを認識する主体ごとの差。
特にアリスは舞台となった世界をまともな姿で認識できていないようで
カメラやセンサーで外界を認識するようになったきっかけはここにあると記しました。

コズミックホラーと
ギャルゲーの双方に目を向けて抜きに語れないゲームといえば
私どもオッサン世代は「沙耶の唄」でしょう。

「沙耶の唄」では
主人公は当初、世界を内臓や肉の塊、他の人たちを全てバケモノにしか認識できない
というキャラクターで描いています。
その中で、他の人からはバケモノにしか見えない「沙耶」だけが
主人公には普通の少女に見えるという、とこに話の軸がある作品でした。

蓮子とメリーがじつは双方ともお互いにバケモノだと認識していましたというオチは
「沙耶の唄」を発想の種にしています。

それでも切なく終わらせようというのも、同作品より。
この「far, from」が切なく終わっていたように見えたかは、定かではないですが。



ちなみにタイトルの「far, from」は
結局「声」がいつの間にか自分の頭の中にあって
自分の頭に穴を開けようとする蓮子のオチともつながっているんですが
「彼方からの」という意味合いでつけた言葉です。

MTGネタとつながってたり
村山由佳つながりだったり
クトゥルーネタだったり
スタートレックねただったり
いろいろです。



こうしてまたパクリだらけの東方SSが出来上がったのでした。


ネチョシーンはいつもどおりなので言及しません。
フタナリ×触手
をやらなかったのだけ後悔してます。

以下、アーカイブ
---------------------------------------------------




 呼んでいる、呼んでいる、遙か彼方からのその声が。
 呼んでいる、呼んでいる、隔り世分かつその向こうから。







 私がそれを見てつい嘘っぽいなと思ったことについて、地面より無数に生え延びるビルによって歪な四辺形に切り取られたこの青空の光色素分布を、ままに例えば画家の描くカンバスへと適用したところを想像してみれば、それが自己弁護に、あるいは無実を訴える証拠になるだろうと思う。
 恐らく懸命にに均一さに努めてせっせと刷毛を走らせ、平滑に一様な一枚であることを再現してようやくその無機質でアンリアルな様は出来るだろう。それとも水槽へ垂らしたインクが全く沈殿しない様、もしくはあれは、巨大な工業製品であるのだ。コバルトブルーに向けて予め濃淡を殺した樹脂製の平板、そう言ったものならば、あのような冷え冷えと凍える生気のない、いわば想像と創造の負の側面のみ圧着した合板の如き空が、ああいった青に染め上がるのも合点が行くと言うものだ。
 そんなものが私達の頭上には、まるで永遠を謳うように、じっ、と浮かんでいて、私達不完全なものを蓋をした宇宙から見下している。

「うそくさ」

 見上げた空はそんな風な非現実完全性を表現した、まるで数学の世界、座標と方程式に表される実体のない空間みたいに、綺麗で、眩しくて、吐き気がした。
 遙か遠い遠い天蓋。私には、あの高見から見下した私達は同じように平滑で一様だろうかという疑問を禁じ得ず、そして同時にそうではあるまい、そう見えるのは此方側からだけ即ち、あの塗り込めた様な空は偽物なのだ、と思わずにはいられないのだ。
 あの向こう側にあるものを認知し、魂と精神を鋭敏化するならば、こうした鬱屈した感覚、虚構盲信の肯定、あるいはそう言った世界からはまっさかさまおさらばできるのだという。精神の拡張、というまるでクスリでもキメたようなフレーズが、今は全く頭から離れない。
 
「ただいま」

 日当たりが悪いこの部屋は昼だというのに時間相応の明るさを持たず、帰りを告げた私の声をひんやりとした陰りで迎えた。私は溜息と共に、鞄をベッドの上に放り投げ、体を椅子にどっかと落とし込んだ。動画サイトに接続され常時ランダム再生を続けるBGVモニタを付けると、誰かがけらけらと癪に障る声で笑っていたが、何か気の触れた動物の鳴き声に聞こえてしまって空恐ろしくなり、即座に消した。だが、そんなものでもつけておけば良かったのかもしれない。幾ら窓を開け、換気扇を回し、空気清浄機を付けても、この部屋に沈殿する(それは一体どこからこの部屋に染み入ってくるのかわからない)鬱屈した空気は交換できなかったのだ。
 めくれたままのシーツ、その上に放られているのは、気に入らなかったブラウス、気分じゃなかったスカート、合わせに悩んでやめたスラックス、ブラ、憂鬱な朝の気分、そしてさっき投げ捨てたバッグだ。テーブルの上には昨日のまま放置された酎ハイの空き缶が癲狂のようにぽっかり口を開けたまま佇んでいて、隣に朝食にかじったパンの包装袋が脱いだ後のぱんつみたいに丸まっている。
 彼女はいない。当たり前だ。

 頭の中が、がんがんする。音が反響するみたいに。ずっとだ。頭が球形であることが、もはや恨めしかった。だってそうであることが、この残響を増幅してそれが消えることなく私を圧迫してくるのだから。

 頭に響く音は、無視することにした。

 何だか、何者かに押さえつけられているような重圧、肩の上にのし掛かる鉛めいた空気と、だというのに妙に急いて落ち着くことのない気配にかき混ぜられて、私は気を病んだ勤め人のような気分になって携帯電話を取り出し、今日はどうにも鈍重にしか動かぬ手で欠席の旨連絡して、ふらふらと来た道を引き返してきたのだ。原因は、知れている。あの狂気じみた青空が、この世のものとは思えぬ整然、継ぎ目のない贋物の空が、ああも我が物顔で私の頭上に浮遊しているのを目の当たりにしてしまったせいで、私の精神が幾何かおかしくなったのに違いなかった。







「こ、こんなスゴいなんて♪きいてにゃいっ♥」

 淫核を舐められて、こんなにビリビリくるなんて、初めて。自分で触っても、ローションとか、エッチな気分になれるクスリとか使ってみても、こんなにスゴいことになったことない。

「んっぎ、っひ♥」

 そもそも奥で感じることなんか一回もなくって、きっと男の人とセックスして感じるのなんて諦めてたのに、こんな奥の奥、子宮の入り口をこつこつされて、だらしない声出しちゃうくらい感じちゃうなんて、想定外だよぉっ♥

「あっん♥しゅっご、んヒぃぃィっ♥」

 奥まで突っ込まれて、おへその下でゴリゴリ動いてるのがわかるの♥ぽっこりおなかがぐねぐね動いてるの、ぶっといの食いしばって突き上げられてまた締めちゃって、締めちゃったらコスレるのすっごくて、感じまくり連鎖なのっ♥

「お、オ゛ォ゛ん♥」

 気違いみたいな声と顔になっちゃってる♪
 触られただけでそこが全部媚粘膜化しちゃって、全部ひとりでスるときのクリの何倍もキモチイい。なんで、なんでなんでなんでぇっ♪こんな風に、女ってセックスでこんな風になれるなんて、知らなかったぁ♥

「おまんこ、しゅっゴひぃっ♥ずぼずぼっ♥ぶっといのが出たり、入ったり、出たり、入ったり♥奥までがっつんがっつんキてて、そのたんびに軽くアクメキマっちゃうっ♥」

 おまんこだけじゃないでしょ?
 なんて耳元で囁かれて、耳も、今は耳も完全性感帯なのにっ♥

「うんっ♥うんっ♥ぜんぶ、ぜえんぶ、んぎもぢぃいのぉぉォォ゛っ♥おっぱいも、おまんこもっ♥おへしょも、腋も、おっヒ♥耳も、ぐぢのながも゛っ゛んぐ♥んっぶ、プはぁっ♪開いたまんま戻らなくなちゃったケツ穴も、にょぉどおも♥全部、じぇんぶ開発完了っ♥性感パラメータ全身MAXなのぉっ♥」

 おまんこをゴリゴリされてアヘ顔になってる側から、乳首まで刺激される。想像妊娠からホルモン分泌強制されて、母乳分泌始まっちゃってるからっ♥だめ、乳輪ごと捻るみたいに絞るのらめえっ♥

「だっめへぇぇ♥おっぱい、雑巾みたいにほんとに絞るのらめぇっ♥ミルク出ちゃうっ♪そんな無理矢理搾乳でも、開発済みおっぱいは、しっかり噴乳アクメキメちゃうかっら、乱暴にしないでっ♥んっっひ♥オっほぉォォ゛♥うしょ、うしょれすっ♥しぼっへ♪おっぱいぎゅうぎゅうしぼっひぇぇぇっ♥乱暴にっ♪もっと乱暴にしてほしいのっ♥」

 ずるいよぉっ♥耐えるとか耐えらんないとか、そういうんじゃないの♥何されてもアヘ顔晒してイきのいい魚みたいにびくんびくん感じまくるように、そう言う風に作り変えられちゃったの♥
 あ、また、またイく、もうアクメってば秒刻みで、カラダ保たないくらいでっ♥

「おっ……ンほぉおおオ゛ォぉォんっ!!♥イグ、またイっグぅぅうゥ゛っ゛♥」

 もう、完全っ♥アクメ体質っ♪
 私のカラダ、こんなに素敵になれるなんて、聞いてないよっ♥
 こんなことなら無理に男なんか探さないで、さっさとレズるんだったよぉっ♪

「はーっ♥ん、っふ、はぁぁっん♪しゅ、ゴひぃぃっ♥……わ、まだ、ぜんぜん、立派なまんま……っ♥もっと、もっとシてぇっ♥いいでしょ、ねえっ今のもう一回、シてっ♪」

 女の子とセックスしたらこんなにキモチイいなんて、しらなかったぁ♪
 私をめちゃくっちゃに感じさせて、一瞬で堕としてくれた人に寄り添って猫みたいな声出して。

「ほらっ♪おまんこまだパクついてるよっ♥ほしいほしいって、おねだりまんこになってるよっ♥こんどは、ほらっ、すっかりユルくなった子宮口ごりって開けて、なかにびゅーびゅーして?♥そ、それとも、尿道えぐって、膀胱中出し?♪それも、いいよっ♥何でも、何されても、がっつんアクメでトベちゃうからっ♥」

 私は先端にしゃぶりつく。
 私を完全に塗り替えてくれた、神様みたいな人の、先端に。

 しょうがないなあ、ほんとにエッチなんだから。

 そんなこと言われたって、私をこういう風に調教したのは、あなたなのに♥

「わっぶ♪んふふ♥えっち、だよ?っちゅ、ちゅばっ♪私、セックス穴になっちゃったんだよ?ぁむ……むぐむぐっ♥誰のせいだと思ってるの?♪ぜぇーんぶ、あなたのせいなんだから♥ね、ね、もっと、もっとキチガイイキしたい♥頭の中真っ白になって、気絶しちゃうくらいの♥」

 お口の中でキモチイいお汁を出してるさきっちょ。それに、右手にも左手にも、それだけじゃない、私を貫くために用意してくれたおちんぽ様が、いっぱい、鎌首もたげて私を取り囲んでるの♥

「ぬるぬる、おちんぽ♥こんなにいっぱい♥私のために?♥」

 そうよ

 そう答えられただけで、くらくらするほど幸せ。口と、手とで足りない分は、ほっぺたとか、腋とか、おっぱいとかで擦ってあげるの♥もちろん、入りたそうにしてる子がいたら、おまんこもおしりも、にょぉどおも、全部いつでもおっけー♪

「じゃあっ、じゃあ、ぜんぶっ♥ぜんぶシてっっ♥」

 ……こわれちゃうかもしれないわよ?

「いいっ♥こわれてもいいっ♥ぜんぶでズボズボっ♥ぜんぶ穴、おまんこだからっ♪肉穴全部おちんぽ様のためのイレモノなのっ♥」

 しかたのないこね

 そういった次の瞬間、無数の大蚯蚓が私のカラダを締め上げて、その先端を私のカラダの穴という穴に狙いを定めてきた♪すごい、すごいすごい♪コレ全部で、シてもらえるの?♪想像しただけで、イっちゃいそうっ♥

「キてっ♥キてキてぇッ♥ぜんぶで肉穴、ずぼずb……んほォっおオ゛ぉ゛っ♥ンっぐ、ふご、ヒぃっ♥んう゛ッ♥ん゛っんん゛〜〜っ♥♥」

 いきなりおまんこ、奥まで串刺しっ♥お尻にも入ってきて、あふ、性器化直腸にごりごりキてるっ♥下半身から快感ずばずば頭めがけて登ってきたところに、お口にも、歯ブラシみたいなのキたぁっ♥

「むぐっ♥ん゛ぶぇぁっ♥ぁむっん♥じゅぶっ♪じゅぼ、ん♥ふご、んフゥッ♥んっんう、っん♥」

 子宮の入り口を、あれ、こっれって、一本じゃない?わ、あ、3本っ♥3本のおちんぽ様がいっぺんにずっこずこしてっ♥
 らめらよぉ、わらしのおまんこ、いっこなんらから♪取り合いは、めっ、らよぉっ♥って、けちゅあなにも、2本っ!?ご、5本なんてしんきろくらよぉっ♥
 3本でめちゃくちゃに踏み荒らされてる下半身から、ぞろぞろ登ってくる気持ち悪いほどの快感を、まんこ化した口穴から注ぎ込まれる快感が迎撃して、カラダの真ん中でぶつかり合って全身に飛散する。指先まで全部、キモチイいっ♥
 オルガ泣きしまくって涙でよく見えないけど、手を伸ばしたらおちんぽ様に当たるから、左右両手で一本ずつ手扱きさせてもらう。じゅわて滲んでくるエッチ粘液が爪の間から染み込んできて、指先まで乳首みたいに充血性感帯になっちゃうの♥
 少し指先に力を入れて柔らかいさきっちょをゴシゴシすると、ぴゅぴゅって臭い汁トバして喜んでくれて、そのお汁がかかったところは、ジンジンあっつくなってもっと敏感性器になっちゃって、快楽連鎖ヤバいの♥

「フゴっ♥ん♥えっち汁しゅごい♥いっぱいブッカケられたら、ますます気持ちよくなって♥もっともっと欲しがりになっちゃうのぉっ♥かけて、かけてぇっ♥あっついおちんぽ汁、もっといっぱいぶっかけってぇぇ〜っ♥」

 おちんぽ様の動きが、もっとスゴくなってくる。突き刺す動きが激しくなって、穴一つに2本も3本もはいってるから、奥で当たって擦れて、めっちゃくちゃにかき回されて、快感電流スパークしっぱなしっ♥
 あ、1本行き場がなくてうろうろしてる子がいる……細くて、かわいい♥けどきっと縄張り争いに負けちゃって入る場所がないんだね。

「ほら、ココ♥あいてるよ……?♥」

 私は右手の手扱きをやめて、股間に持って行く。今までシコシコしてたおちんぽ様が不満そうに腕に絡み付いてくる。「ちょっとまって、すぐ続きするから」ってそのまんま腋の方に入ってきて腋まんこホジり始めた。もうっ。右手で、もう3本がぐっちゃぐちゃに拡張しきってる膣の上で、ほんとはこっちも欲しがりにヒクついてる穴、おしっこの穴を、くぱっってしてあげると、別のおちんぽ様が入ろうとしてくる。

「だぁめっ、ここは、このこの穴なのっ」

 手で払ってもしつこく入ろうとしてくるから、ちょうど空いたことだし、その子はニギってあげることにする。ぎゅうと強くニギって扱きおろすと、びゅるるってえっち汁吐き出して気持ちよさそうに震えてる。

「もうっ、そーろー君だったんだ♥もっといっぱいシてあげるからね♥ほら、この隙に、キミは、こ・こ♥おしっこの穴、ホジって?♥」

 私が気持ち(ズボズボかき混ぜられててもう自由なんて殆どないから、ほんと、気持ちだけ)股をもっと大きく開いて、細いおちんぽクン様に差し出すと、それは喜んで一気に尿道の入り口にさきっちょをぐりぐり当ててきた。

「ん♥あ、あわてっ♥ないで♪もうちょっと上だよっ♥そう、そこ♥その細い穴が、キミ用の穴だよっ♥」

 おまんことケツ穴、おへそや耳の穴、今や鼻の穴までおちんぽ様にホジって貰って、もうオルガで気が狂いそうになってる♥泡吹いて失神しそうなところに、童貞触手クンがいて、可愛がってあげたい欲求でいっぱいだった。
 もう、意識がちかちか明滅して、切れかけの蛍光灯みたいになっている。断続する尸解と意識の向こうで、たどたどしい触手クンが私を求めておぼつかなげに先端を穴に押しつけている。かわいいよぉっ♥でも、でもこんな可愛い童貞おちんぽクン様も、一回突っ込んだら豹変してがっつんがっつん暴れん坊になっちゃうんだもんね♥
 私が、連続アクメでぶるぶる震えている太股をぱっくり開いてさらけ出してるにょぉどおまんこ。童貞触手クン様が、いよいよ、侵入っ♥

 ずぶっ

「んっぶォ♥んおぉ゛ぉォお゛おオっ♥はっ、ヒ♥キた、キたのぉォ゛っ♥童貞のくせに一人前に、ずぼずぼぉっ♥尿道まんこズボズボして♥ヒっぎ♥クリの付け根の一番キクとこ、ぐりぐりしひぇえええェっ♥♥ヲッほ♥ヒん♥膀胱の入り口きたっ♥二つ目の子宮っ♥に♥童貞おちんぽクン様、立派に侵入っ♥」

 呼吸がうまくできないほど乱れて、足りない血液と酸素を送るためにオーバーワークの心臓が不規則に拍動する。アクメからクールダウンを許されず、頭の中の神経が焼き切れたみたいにまともな思考が鈍ってきていた。
 ううん、この人に魅入られた時点で、もう私は狂っていたのかも知れない。全てのものが嘘に見えて、この人だけが本物に思えて、この人に縋るしかなかった。その分、この人とのセックスは「たとえ常軌を逸していても」「本物だった」し与えられる快感は真っ青一色で平坦に塗り込められた紛い物の青空なんかよりよっぽど真実味があって……最高だったんだもの。

「オ……ヒっ♥んごっ♥んーっ♥ぶ、んぐ♥」

 いよいよ口も塞ぎ直されて、尿道の奥へ入り込んだおちんぽ様は膀胱でせっせと子種を吐き出しいている。それをみた他のおちんぽ様も、我先にと穴の奥で射精を始めていた。子宮口は完全に暴かれて膣穴からすっかりその奥が覗ける道が通って、おちんぽ様がせめぎ合って奥へ入り込んできている。奥で、1本か2本か、わからないけどあっつい汁をどばどば吐き出していた。人間の精液みたいな冷たいのと違う、ほんとにあっつくて奥でじんわり染み込んで、もっともっと欲しくなる。お尻の穴も括約筋なんてブチ切れてて、おちんぽ様入れる用の肉筒になってる。2本が螺旋に絡まって、大腸の半ばまで掘り進んだところで、粘液を爆発させた。

「――――っ♥〜〜〜〜っ!♥♥」

 キモチイいとかそう言うのはもうなくなくなっていた。キモチイいからアクメするんじゃなくって、アクメを追いかけて快感が襲ってくる。
 耳の中も、口の中も、鼻の奥まで触手精液で溺れさせられて、胃の中に直接流し込まれた精液は、きついアルコールみたいにカッとお腹の中を焼いて、そしてそれが全て快感に変換される。喉も性器化してて食道も敏感膣、ぞるぞる触手おちんぽ様が擦れる度に、風船が割れるみたいに快感が炸裂している。鼻の奥の敏感な粘膜、本来空気の微弱な振動を伝える鼓膜までも、全部性器になっていて、痛覚はシャットアウトされて代わりに快感を伝えてくる。

 酸素が、足りてないかも知れない。
 頭の奥が、じんと痺れて、視界が狭窄している。がんがん、血液が流れる度に鈍痛が響いて、でもそれさえもむず痒い快感に思える。
 彼女の手が、私の頭を抱き抱えている。撫でるように触っていたかと思うと、口づけてくる。頭を抱かれて、口付けられるって、なんか、包み込まれてるみたいで、あったかい。くるくるなでなで、されて、なんだか不思議な感覚。体の殆どが、激烈な快感に晒されて、絶え間ないオーガズムに狂っているのに、頭の中だけ、貧血のせいか、酸欠のせいか、それともイきすぎておかしくなったのか、ふんわり、ぼんやり。

 にせものか

 え?今なんて?

 いきなり目が見えなくなった。おともきこえなあい、あれかあらだのかかくmkえtへnnかんz

 ぷつん







「だーれだっ」
「ちょ、ちょっと、コーヒーこぼすってば」

 今日も可愛い。ジャケットなんか着ちゃってキメてるつもりかも知れないけど、帽子で隠し切れてないさらさらの栗毛とか、おっきいまん丸の目とか、少しちっちゃい背丈とか、ハード気取っても子供みたいな声とか、正直全部がギャップ萌えなのよね。

「あら、またコーヒーなんか飲んで。砂糖もミルクも入れてないの?似合わないんだから無理しない方がいいわよ?駅からバスで行けるところにおいしいワッフル屋さんがあったの。そっちに行きましょうよ」
「そう言うメリーだってその紅茶、ブランデー風味香料なんか入れて気取っちゃって」
「私はいいのよ、似合うから。あなたはもっと可愛いもの飲まないと。メロンフロートとか、ミルクセーキとか。」

 本当のことを言っただけなのに、どういういみよ、頬を膨らせて睨んでくる。ほら、そういうところよ。

「あーはいはい、なによ、少し可愛いからって自意識過剰」
「可愛いのはあなたでしょ。ずるいんだから。」
「は?ど、どういう流れよ」
「で。4限で終わりでしょ、待っててあげるから行きましょうよ?」

 褒められなれていない彼女の様子に私はくすくす笑ってしまう。で、と話を戻すと、溜息を吐いた後で仕方ないという風に訊いてきた。

「メリーは何限なの」
「3限。4限目は、教授に単位を約束して貰っているから出ない。」
「……何したのよ。どうせまたろくでもないコトで教授を頷かせたんでしょ」
「あら心外。一回だけ、なかよくさせて貰っただけよ」
「"回"、なんだ。ふうん」

 私が言うと、またしても可愛らしく頬を膨らせて私にジト目を向けてくる。
 私は彼女の帽子を取って、それに気を取られた彼女の後ろに回り、肩から腕を回して覆い被さるみたいにくっついて、肩から顔を出して耳元に頬を置いた。所謂「あすなろ抱き」ってやつ。古いか。
 ちょっと、って声を上げる彼女のこめかみに頭をぐりぐり押しつけると、くすぐったそうに身を捩る。非難の声を上げるけどちっとも言葉になってなくてそれも可愛い。

「ふふ、怒った?」
「べ、別に。メリーがどんな"男と"寝てようが干渉しないわよ。……そう言う約束でしょ。」

 ぷっくりしたまま顔をそっぽ向ける。
 そうよ。だって彼女とは一昨日朝までシたばっかり。賄賂送ってる教授は5人くらいだけど、それぞれ一回くらいしかさせてない。キスは絶対拒否ってるし、ゴムもきっちりつけさせてる。あなたとは……もう数えるような回数じゃないもの。でも、カノジョ同士、男を作ることは制限してない。年齢もそうだし、気持ちそのものだって、いつまでもこんな甘い関係が続くとは思えなかったから。付き合い始めたときにそう言ったのは蓮子の方だった。私も同意だったから、私と彼女は合意の上での時限性不純同性交遊、ってことになるかな。
 でも、今はあなたに、本気。浮気は浮気として、こうして有効に回収できる相手に売ってるだけだ。

「『私以外の誰ともなかよくしないで!』って往来のど真ん中で叫んで平手を張ってくれるなら、そうするわ」
「ビンタされたいの?マゾ?」
「それくらい愛されたい」
「他をあたって貰える?」
「えぇ〜、いけずぅ」
「んなビッチに入れ込むほど、私は莫迦じゃないの。」
「私は一途ょぅ、女の子に対しては」
「特に言葉は訂正しないからね」
「もうっ」

 一応は本気で言っているんだけど、つれない。

「あ、そろそろ3限始まるわね。4限終わったら工学部前ターミナルで待ち合わせ」
「まだ行くって言ってないよ。じゃ、私は次心理学だから」

 ひらひらと手を振って私とは90度別の道を折れようとする蓮子。そんな風に言って、結局いつも来てくれるの、知ってるんだから。
 私はすたすたと行ってしまいそうな彼女の手を捕まえて、引き戻す。ひゃあ、と間抜けな声があがったのは、きっとさっさとこの場を離れたくて急ぎ足になっていたからに違いない。

「こら」
「なによー」

 仕方なさげに振り返り、少しだけ語気を強めてくる。でもそんな仕草もあなたの容姿じゃ迫力どころか可愛げ。
 引き戻した彼女の片手を、今度は両手をまとめて、その上から私ももう片方の手を被せる。きゅ、と握ってすこうしだけ目を細めて顔を近づけて、彼女の名を呼ぶ。

「だ、だから、なに」
「ばいばいのきす」
「は!?」

 まるで小動物にたかられてるのを追い払うみたいに、私の手を突き放す。やん、と声を上げてみると自慢のジト目が帰ってきた。
 それでも、ほしい。キスして欲しい。キスして、キス、これから90分もお別れなのよ?さみしいよう。キス、キスぅ」

「妄想が声に出てる」

 指摘されて、口をおさえててへぺろ。
 でもふざけた空気はそこで払って、しん、と一歩踏み出してちょっとだけ小さい彼女を、威圧的でないように見下ろす。

「だめ?」
「まったく……」

 きょろきょろと周りを見回している。近くに人はいないが、周りに人が歩いていないわけじゃない。20メートル先には私達と同じ学生がいて、逆側の随分後ろにも逆方向へ歩いていく学生がいる。

「誰も見ていないわよ」

 もっと近かったとしても、私達がこんなふうに道の真ん中でキスしているのをまじまじ見ていく人はいない。"敢えて視線を逸らす"だろう。嘘はついていない。
 ねえ、きす。
 自分の唇を人差し指で指さすと、ちらちら周囲を気にする素振りをやめられないまま、彼女も一歩、私に寄る。背伸びして、目を閉じて、鞄を持ってない方の手が行き場を失って寂しそうだったから握ってあげると、さっきまでの言葉が全部強がりだったって口の代わりに教えてくれる。
 そんな様子が可愛くってつい上からかぶりつくみたいに口を吸ってしまう。バッグを手放して、手を握っていない方の手で腰をぐっと引き寄せると、拒否するどころか体を擦り付けるみたいに寄り添ってきて、私はつい、キスをエスカレートさせてしまった。

「んっ、んぐ!? ん、ぅっん……っ」

 口の端、鼻から漏れる吐息は加熱して、淡く色づいていく。私の手を握る手にもぐっと力が入って、全身が「はなれたくない」って訴えてきている。かわいいっ、可愛いよぉ。
 左足を一歩前に出して、彼女の股の間に滑り込ませると、んっ、と驚いた声を上げて目を開け、少し非難じみた目を向けてくるが、私は舌を強くしてそれを押し流す。太股にかかる体重が、ゆるゆるとリズミカルに揺れ始めた。
 さすがに、ヤリ過ぎかな。
 私は舌を抜き、口を離す。ぁ、と名残惜しげなと息が聞こえたので、鼻先にちゅっ、て触れるだけのキスをして、前髪を指で除けておでこをめくっておでこにもキス。

「ごちそーさまでした」

 私が打って変わってふざけたように声を掛け、バッグを拾って一歩後ろにさがると、彼女はまるで魔法から解き放たれたみたいに、その口の端に涎の滴を付けたままの惚け顔に血の気を戻し、通り過ぎて真っ赤に怒った。

「っ、ちょっと、学校内で舌入れないでって言ったでしょ!?」
「ああ、あれは別のトコかと……。でも、あなたも好かったでしょ?胸がどきどきするの、伝わってきてたわよ?」
「〜〜っ、さっさと行けクソビッチ!」

 照れ隠しもここまでくるとギャグにしか見えない。地団太を踏んで、機関車が蒸気を噴くみたいに怒っている彼女に、もう一回、ほっぺたにキスして、アイシテル、と呪文を囁くと、もう一度魔法にかかったみたいにおとなしくなる。

「じゃ、工学部前でね」

 ばか!って声を背中に受けながら、私はこの持て余した感覚をどこかで冷まさないといけないなと、少し反省していた。
 今日は、金曜日。








 13:31。頭蓋穿孔(トレパネーション)というのだって。と、ワイヤド接続した端末を覗きながら言う。大昔の医療行為みたいね。"霊体の排出"か。キてるわねこりゃあ。
 笑いながら、女は静電マニピュレータのケーブルを、まるで剣と魔法の世界に登場するキャラクターがマントを翻すみたいにして払った。

「警察も手をこまねいてるってさ。なんせ治外法権じみたマンモス私立学校の中での出来事だもの。下手にガサいれて成果ナシなら上の首が飛ぶ。しかもそれは本当に最近起こったことなのかさえ分からない、もしかしたらただの学校の怪談と都市伝説のアイノコかもしれないし。現実に行方不明の生徒は出てるみたいだけど」

 女は楽しそうに――本当に楽しそうに――笑って私を見る。見る、とは不正確かもしれない。彼女はヘッドマウントディスプレイを被ったままだ、本来の視線は遮られている。然るに、振り返った、と言う方が適切かもしれない。実際に私を見ているのは女ではなく、彼女の趣味なのらしい、自作のロボット達だった。壁に床に、椅子に机に端に、彼女自身の肩の上に、ずらりと並んだそれらのセンサー類が、一様に私を捉えている。彼女の視界がどうなっているのかは分からないが、ヘッドマウントディスプレイへ、このロボット達が捉えた私の(そして彼女自身を客観する)画像が投影されているに違いない。

「こんなネタどこから仕入れてきたの?ずいぶん頑丈に情報密封されていたけれど」

 女のマニピュレータとヘッドマウントディスプレイから延びるケーブルは、床を張ってコンピュータへ吸い込まれている。個人で持つような類のコンピュータではなさそうだった。
 指につけられた静電マニピュレータは、運動を意識した際に生じる極々微弱な電気信号を指先から採取し、複値信号として送信するインターフェイスデバイスだ。主に人差し指の先に装着し、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイスの進化系として開発されたが、肝心の電気信号を意図した通りに扱える人がほとんどいなかったためにただのネタデバイスとして秋葉原でスピードワゴンと化したものだったが、女はそれを両手の指全てに装着している。
 理論値「だけで」言えば、指一本での使用でも"考える速度"をそのまま入力できるそれを、女は全ての指で操作しているが、勿論それがきちんと扱われているかどうか私には知る由もない。女の部屋にあるげんなりするほどの数のコンピュータのモニタは、その殆どが女のヘッドマウントディスプレイに接続されており、彼女以外にその内容を知るものはいない。実際には一本しか使っていないのかもしれない。ギーグを気取って両手に装備するバカは、確かに当時たくさんいたものだ。

「魔法使い同士のよしみでやってあげているのだけれど、悪いことは言わないわ、この件には深入りしないことね。あまり質の良い出来事ではない。それに、ワイヤド侵入はあんまり得意ではないの。」

 13:35。得意ではないと言いながら、その情報をどこからかすめ取ってきたのか、私は知りたいとも思わない。ギーグ気取りの阿呆と女が違うのは、事実こうして見せつけてくる魔法じみたワイヤド世界での技術と、そして本当の魔法だった。

「私は魔法使いなんて上等なものじゃないわ。特異体質みたいなもの。その使い方を知っているだけよ」
「だから魔法使いというのよ。生得才能に依らない知識技術或いは信仰による霊験は、魔法ではなく魔術として区別される。それくらい知っているでしょう」

 知っている。けど、私は目の前にいる気味の悪い女と同類とは、思いたくなかった。それは女の気味が悪いからではない。彼女の行使する"魔法"が、余りに"邪悪"だからだ。そして邪悪とはすなわち強力であることと同義だった。
 私の使える魔法など、魔法使いと言うより魔術師のその程度でしかない。
 私に魔法の存在を教えてくれたのはこの女だし、使い方もこの女から教わった。そう言う意味では恩人ともいえなくもないが、この女がやたらと私に親切な理由が、魔法使い同士のよしみ、という言葉で説明できるきはしなかった。彼女に、何のメリットだってありはしないのだ。

「まぁ、忠告だけは貰っておくわ。勿論それくらいはタダなんでしょう?」
「ヒははっ、図々しい女ね!」

 ヘッドマウントディスプレイに顔の上半分をすっかり隠されて、それでも女の口元は笑っていた。質の悪いもの、女はそう言ったが、この女の笑みも同等に質の悪いものに見える。目深く覆われて窺い知れない女の容貌。赤い唇だけが斜め上に裂けたように、新月の如く曲がっている。
 13:37。女はモニタの一つを指――静電マニピュレータが装着されたままの指――さして、言う。

「見えるかしら、この穴」

 モニタには、横たわった人体が映し出されていた。死体だ。目を見開き、恐怖に何かを叫ぶそのまま硬直したかのような死体。死への恐怖と言うよりも、この死体の様相が、息絶えるその瞬間目にした何か恐ろしいものを彷彿とさせるようで、それはこの死体のその向こうにある(あった)事象への伝染性恐怖感というに近いかもしれない。
 その頭蓋には、ぽっかりと穴があいていた。頭皮がめくれ、白い頭蓋はまるでクッキー生地を型抜きで抜いたように口を開けている。硬膜は破れて奥にある灰白の皮質はスプーンでプリンをくり抜いたように半分以上が失われていた。血液はあまり多く散ってはいなかった。

「脳味噌って美味しいのかしらね」

 私が想像だけして口に出すのを避けていた言葉を、女は躊躇無く発した。やめてよ。

「……食べたとは限らないでしょう」
「まあねえ」
「トレパネーションって頭蓋骨に穴をあけても、そのまま縫合するんじゃなかった?」
「そうね。でも、科学的に全く根拠のない施術なら、逆に、どういった方法を採ってもおかしくはない」
「脳をえぐり取ってそれが医療行為というのなら、世紀の大発見だわ」
「違う。トレパネーションが医療行為であるという説、それ自体が」

 言葉を言い終えぬ内に、女はまたくすくすと笑いだした。へえ、これは面白いわね!と脈絡もなく叫び出す。女の目を覆い隠すその裏側のディスプレイには、何が映されているだろうか。この部屋に所狭しと並ぶセンサ類、彼女の"目"がそればかりと限る根拠はどこにもない。この魔法使いの"目"は街中の至る所にもあって、さながら千里眼のように何でも見渡すのではないか。
 寒気がした。

「さすが、魔法使い様の発想は違うわね」
「あなただって、"そういう結論"を期待して、私のところへ来たのでしょう?」
「期待なんてしていないわ。そうかもしれないと思っただけで」
「それを世間は期待というのよ」

 世間なんて言葉から遙か遠くに鎮座するような女が言うその言葉は、ひどく虚構じみている。

「だってただの人死になら、あなたの"活動"の範囲外。そうでしょう?」
「……何でもお見通しなのね」

 ぞっとした。本当に、千里眼なのか。それとも、心を読むか。魔法使いであることは知っているが、そう言った類の魔法ではないと、私は甘く見ていたのかも知れない。女は真っ赤な唇を歪め、鼻歌でも歌い出しそうな様子で私の方を向いている。
 女の言う通り、私はそれがただの都市伝説、怪談話、あるいは殺人事件ではないことを望んでいた。
 ただ、そのことを知っているのはただ一人、もういない彼女だけの筈だった。

 15:00。私はそのほか色々を話し、または問われたあと、魔法使いの家を出て、ソラを見上げた。かつてそこにぽっかりと開いた穴があった。今はない。全く平滑で、薄気味悪いほどに青い。そうだ。あの狂気じみた青空が、この世のものとは思えぬ整然、継ぎ目のない贋物の空が、ああも我が物顔で私の頭上に浮遊しているのを目の当たりにしてしまったせいで、私の精神が幾何かおかしくなったのに違いなかった。







 しばらくみちなりみたいだ。時計の表示はちょうど22:00を示していた。
 私は一人ごちた。みちなり、と言ったが道なんて一本しかない脇に入ろうにもそのコースアウトがただの林への突入なのか、崖下への落下なのかさえ定かではない。
 紙の地図なんて初めてお世話になったかも知れない。最近はネットで経路検索をしてしまうので、こんな利便性の悪い地図なんか使う気になれなかったが、なるほど、日本にもまだ無線通信インフラが届いていない場所があるのだなと少し感心してしまった。

 はあ。
 何でこんなところに来てしまったのだろう。
 どう道を間違えればこんなところへ来てしまうのか。こんなときに限って星が黙り込んでしまうなんて。金曜日だっていうのに、運が悪い。

 私はため息を付いてアクセルを踏んだ。中古で安物の軽だが、エアバッグもナビ(今は機能していないが)も付いていたし、何より障害物感知ブレーキが付いていたから、かなりお買い得だったと思う。メリーを乗っけてどっかに行くことを想像して胸を膨らませていたのに、彼女は、鉄道が好きだから電車旅がしたいなんて言うから「じゃあ絶対のせないから!」って啖呵切って以来、この車はすっかり一人乗りだった。
 方向がわからなくなって道に迷うのは初めてだった。いつでも空を見上げれば正しい方角が示されるのだ、目的地がどこにあるのかさえわかれば迷うはずがない。はずがない、はずだった。だが今私は、"どこへ向かっているのか"わからない。時間もわからない。空を見上げても、星が殆ど見えないのだ。北極星と、いくつか力のある星がいくつかだけ。
 こういうことはたまにある。星は気まぐれだからだからいないときはいないのだ。といって今の時代、道を示すものはいくらでもある。GPSなり、地図アプリなり、人が住んでいない場所もほとんどないのだからその辺の人に聞けばわかる。星に頼る必要なんてほとんどない。
 とはいえ、紙の地図なんて何年ぶりに触っただろうか。すこし、わくわくする。

 がこん

 それにしても、日本という国は不思議な国だ。こんなにも文明かが進んでいるのに、どこかに「かげ」が残っている。先進国の「かげ」自体は珍しいものではないが、日本のそれは未だに活発に生きていて、闇は闇で脈打つように蠢いている。それでいて、光の部分との接触界面に摩擦を生じないのだ。
 しばし車を走らせる。てん、てん、と街灯は申し訳程度に道を照らしている。だがその電灯は、丸い屋根に旧式の電球をおさめた極めて古い仕様ものだ。柱も木製だし電線が宙にぶら下がっていて、明かりが灯っているのが不思議なくらいだ。

(白熱灯……?まだあったなんて。)

 涙型のガラス管は赤白い光をじりじりと放っている。指向性の緩い光は路面まで届かず拡散し、辺りをぼんやり照らし出すに留まっていた。全く時代錯誤だが逆に、こんな博物館行きになりそうな電灯が生きているのだから、人の手が届いているのも確かだ。この道を行けば(それが奥か手前かはわからないが)、人里に出られることに間違いはなさそうだった。
 正しくこういう様が、光と影の共存を感じさせるのだ。だって1時間前までは、遠隔光子活性灯によって物陰というものが全て光で塗り潰され影が絶滅するような場所を走っていたのに、今や光はアナクロ技術にすがりようやく存在できると言うほどに弱々しい。

 がこん

 夜が、降っていた。夏のじめついた、液滴を浮かべたような闇。漆黒ではない。濃藍に白熱灯の赤インク、そして折り重なり視界を閉ざす葉緑が綯い交ぜになり混濁とした温さの生々しい、不活性夜色が降り注いで足許でその嵩を増している。車に乗っているというのに時間ごと引き延ばされるみたいにその道行きには泥濘を覚え、進んでいる感覚を薄れさせる。思い出したように顔を出す白熱灯とそれを引き連れる電線は、行き過ぎたレトロスペクティブ。望まぬそれに快はなく、不可解な道程はその深淵の口を大きく開けていた。私は車内にがんがんエアコンをかけていたつもりだったが、外気の不快指数は浸水の如く車内へ漏れ入っている。
 対向車は一台もなかった。凹凸を感じる荒い手入れの道であるとはいえ、仮にもアスファルトの舗道であるはずなのに、まるで人の気配を感じない。白熱灯には温もりを感じさせる演色性があるが、その中途半端な暖色は今は薄気味悪ささえ覚える。いやむしろ、そのアスファルトによって、正常、尊厳、理性や信仰は全て覆い尽くされ、それらによって放逐されていた暗く冷たいさまざまが路面に流れ出しているようにさえ思う。
 温く粘つく闇が、時折冷えた刃のように肌を撫でてくる。そのたびに私は心の底から冷え切って、思わず背筋を正す。
 ヘッドライトに照らされる木の葉はかさかさと揺れ、各がまるで別の生き物であるかのように蠢いている。葉と葉の隙間から、濾し出された闇がどろりとはみ出してきている。それがすっかり押し出された後、その奥にまるでその向こう側ではない向こう側が垣間見えるような気がした。その黒は、夜の黒には見えない。葉脈が走る様は、何かの涙か、または血のようにも見える。

 がこん

 私はすっかり恐怖心に絡め取られていた。蜘蛛の巣が頭から被せられたみたいに、それはそうではないと否定しもがく度、横糸に宿る粘性が私の精神の柔らかい部分にじっとりと貼り付いて深く厄介に、離れない。ただ、道を走らせているだけなのに。確かに人の手のは入った文明の切れ端の中に身を埋めているはずなのに、不安感と底知れぬ冷え冷えとした恐怖。車内が寒く感じるのは、効き過ぎたエアコンのせいばかりではなかった。
 私の目は運転するときの注意をしてそれ以上に細かくフロントガラスの向こう側を詮索するようになっていた。そういえば。さっきも同じ場所を走ったような気がする。あの枝の形、さっきもその枝の又の間に北極星を挟んでいなかったろうか。

 がこん

 手入れが荒く凹凸のきつい路面に揺られたのも、この辺りではなかったか。ほら、月にかかる雲の形に見覚えがある。このカーブのRも曲がった気がするし、あのガードレールの凹み方も、この山に立ち入ったばかりの時に見たものではないか?
 そんなはずはない。夜の闇にあって視認性の低下が小さくも確実な差異を覆い隠してしまっているのだ。
 ほら、見たことのない標識が見える。黄色い標識は、さっきまで一つも見たことがない。

 標識は黄色い菱形の中央に「!」のマーク。何の標識だっけ?こんなの滅多にみないし、免許の学科は一夜漬けで実際に運転に使う知識以外は全て揮発している。
 警笛鳴らせ?カーブ注意?よくわからないけど、光をよく反射する黄色い鏡面が、経年で錆が浮き、ぼろぼろになっている様がよく見える。道路側の縁がほんの少し曲がっていて、何かに当てられた後のよう。あんな高さの衝突があるとすれば、ここをトラックか何かが通るのかも知れない。それにしても地面から延びる鉄パイプの首に浮く錆は、なんだか何か液体でもかかった斑目のようにも見える。そうだと思えば黄色い標識面の錆びも、何か飛沫を受けたそれが沈着した形のようにも思えた。

 がこん

 とかく、沈み澱む人肌の夜気に、錆び付きくすみながらもっひょろながい首をもたげて煌々と光を反射する黄色い姿は、不自然なほどに浮かび上がり、更にその表面を汚す錆の形が不気味な標識の様子を際だたせていた。辺りには一本だけ電灯があり、ぼんやりと赤い光を投げかけている。ヘッドライトの白い光と白熱灯の赤い光に照らされる中央に描かれた「!」の黒さは、まるでこちらを見つめる瞳の様。夜の黒に浮かぶ黄色い目はと、その中央で爛と眩む黒は周囲のそれよりもより黒く、震央に何かを潜ませているようにさえ見える。縦に並んだ上下非対称の楕円は見えない腕で私の意識を捕まえようとしてくる。伸びるように、絡むように、それをみる私を、見返してくる。

 なんだか不気味だな。
 どろりと黒の中央から黒が垂れる。辺りを包む木々の緑は灰色に変質して色彩を欠いている。それは単に暗い夜のせいではあるのだろうけれど、まるで世界が灰褐色に死に絶えた様に感じられて悪寒を呼ぶ。それはきっと、林道を抜けるアースカラーの中に急に現れた危機感を煽る黄色のせいに違いなかった。
 私はあたかも時間を無理矢理引き延ばされてしまったようにその標識を随分しっかりと観察してしまったが、別に止まったりするでもなく横目にそれを通り過ぎようとする。その気配がすっかり冷たいアスファルトに生き埋めにされているとも、ここは確かに人の手の入った公道だ。たまに現れる白熱灯が人魂の様に見えたところで文明の利器であることに変わりはない。標識の一つや二つはあるだろうし、錆を呼ぶのが雨水や何かであれば、ああして腐食は飛沫の斑をなすだろう。
 私は、そうなのだ、と自分へ強く言い聞かせて、その真横へさしかかる。

 !

 がこん

 23:00。車が、急に止まった。

(なに……よ)

 エンスト?違う。私は運転席から状況を把握しようとコンソールを一通り確認する。ガス欠でもない。バッテリーもまだ残量は十分だ。
 そして、私はその原因を見つけた。それを思えば不気味に思ったことが馬鹿らしいとさえ感じる。
 障害物感知ブレーキが、動作していた。動物が飛び出してきたか、落ち葉が大挙して降り注いだかのどちらかに違いない。私は前を確認するために車を降りる。そういえば車に乗る前はこうして確認するように、教習所で習ったような気はする。私は「動物でも轢いていたら嫌だなあ」と思いながら前に回り込む。
 が、特にそういうものはなかった。落ち葉?私は車のどこかを葉が覆い隠したりしているのではないかと思いあれこれ見回したが、そういうこともない。

(安い中古車だしなあ……なんか誤作動するのかなあ)

 これが通行量の多い道なら迷惑千万である。もしかしたらハズレをひいたかも知れないと運転席に戻ると、障害物感知の通知は消えていた。
 そういえば、カメラやセンサーは人の可視光以外を捕らえて像を結ぶことがあると聞いたことがある。心霊写真や固定カメラに映った人ならざるものの姿はそういったものが偶然にカメラの感度に波長が合致したからなのだとも。

(考えすぎ)

 やれやれ、と私はシートベルトを締め直し、サイドブレーキを解除して発車しようとする。
 だが、車は進まなかった。

 なぜ?

 私は他の原因を探す。心霊の姿を意識してしまった私は、意図しない車の挙動に焦りを覚える。何か、車の、故障に違いない。そうだ、そうに決まっている。
 ランプは何が点灯している?そのほかに原因は?
 心拍数が爆発的に上がる。息が跳ねて、警戒心が一気に最高値を突き破った。
 肌を撫でる生ぬるい夜の空気は、まるで生き物の吐息のよう。湿っぽいのにどこかあざらざらとした肌触りが、その感触をより鋭敏に変えていった。
 車のエンジン音以外に、何一つとして物音がしない。そう、エンジンは確かに動いていて、他の何らかの理由で発車が妨げられている。私は思い切りアクセルを踏み込もうとしたが、そういったパニックから命を落とすフィクション作品を思い起こして制止する。それでも踏み込み逃げ出したい気分が勝り、ゆっくりとしかし深くアクセルを踏む。だが回転数が上がる気配はなく、制御系の何らかの異常なのではないかとさらにコンソールを見回す。
 ふと、いつも余り気にしないランプが点灯していることに気付いた。それは、シートベルト着用警告ランプ。そういう設定にしてあっただろうか。シートベルトが締められていないから、発車が抑制されていたのだ。
 そういうことか。と、思った刹那、私は思い直した。

 私は確かにシートベルトを締めなかったか?
 車の前方を確認し車内に戻ってきたとき、締めたはずだ。私は自分の肩とウェストに手をやりベルトの存在を確認する。確かに、シートベルトは締められていた。
 ならば、なぜ。なぜ!?

 私はもう一度コンソールの、シートベルト着用警告ランプをみる。

 そのランプは、運転席のものではなかった。

 ランプが示していたシートベルト未着用サインは、助手席のものだった。

 助手席に、目をやる。

 そこには、誰も乗っていない。乗っていないように見える。
 何も見えないがこの車は前に飛び出した何かを察して停止し、そして今は、助手席に座った何かを察して、シートベルトの着用を促している。

 なにも、いないように、みえる。

 

 がこん



 ――――北極星が見えた。場所は、伏す。







「鼻に、クリームついてる」

 指ではなく、舌先でそれを舐め取った。

「ちょっと!」

 そういう恥ずかしいのやめてよ、と非難してくるが、可愛いあなたが悪い、と自分のワッフルにかぶりついた。ん、鼻の下にクリームついた。……同じことをしてくれなかった。意地悪。
 ここのワッフルは生クリーム山盛りで、綺麗に食べるのなんて不可能に思えた。顔中生クリームだらけにして食べるのがむしろお行儀で、それ故にカップルが堂々と生クリーム以上に甘ったるいやりとりを繰り広げている。女同士は私達だけみたいだ。男同士はもちろんいない。周囲のカップルがいちゃいちゃしている様を見ていると、まけてらんないな、と思ってしまう。

「こういうとこにいると、カップルみたいだね」
「何人かいるカレシとはもう来てるんでしょ?」
「きてないわよぅ。あなたがは・じ・め・て♥」
「……キモイ」
「がーん!」

 打ちひしがれたような仕草を思いっきり演技がかって。よろよろとよろめく振りで彼女に寄り添うと、彼女は顔を寄せてぱくりと私のワッフルの上のクリームを平らげてしまった。

「あっ!クリーム!ひど」

 ひどい、と声を上げようと彼女の方を見た瞬間、口が塞がれた。それは一瞬だったけど、私の唇の上には彼女の唇が重なって、すぐに離れた。

「ぁ……」

 今のずるい、卑怯よ!そんなやり方、きゅんてなっちゃうじゃん!不意討ち。照れくさそうな彼女の表情を、今度は私も直視出来ない。
 互いに目を合わせないまま、彼女はぽつりと呟いた。

「"カップルみたい"じゃなくて、カップルだと、思ってるん、だけど」

 は、反則……
 私はすっかり生クリームがなくなったワッフルを投げ捨てて抱きついた。

「もういっかい」

 いつもみたいにふざける余裕が無くなってる。いきなし焦燥感が臨界値を超えて、心拍数が次を待ってる。欲しい。
 私は彼女に体重を預けたまま唇を寄せて、生クリーム味のあまいあまい唇をもう一度ねだった。欲しい、という割に、私から奪いにいってしまう。待って、らんない。

「ちょっ」

 ダメ、と言うつもりだったのかも知れない彼女も、私があんまり余裕のない顔をしてたからか、それを飲んで別の言葉を紡いだ。

「ホテル、いこっか」







――場所がわかったわ――

 いつものカフェテラスへ来いとの呼び出しは、携帯を鳴らす一通のメールによってであった。20:31。光量が抑えられているとはいえ、24時間解放されている(ラストオーダーは19時だが、場所と自販機などは自由に使える)カフェテラスは、適当な打ち合わせだけでなく学生同士の待ち合わせの場所に最適だ。私はマグカップに残る温くなったコーヒーを飲み干し、火をつけたばかりのカメリヤを揉み消してPCへ視線を戻した。20:33。ホスト機はこちらの指示通りに延々と計算を続けている。この演算が終了するには一晩くらいかかるだろうか。本来なら私はその間に別の検証をしなければならなかった。だが、彼女の呼び出しなら、話は別。ノルマに直接関係のない検証は後回しにして落ち合うことを考える。

(シャワーくらい浴びてからにしたいな)

 私はわしわし頭を掻いてから髪を整え、しわくちゃになった白衣を張ってみるが、もうどうにもならない。着替えはあるが、カラダの替えはない。シャワーを浴びる時間を貰ってから、カフェテラスに向かおう。カフェテラスは別棟にあり、少々歩かなければならない。これが家でごろごろしてるときに突然メリーがやってくるとかいうハプニングであれば別だが、そうでないなら整えたいものもある。
 研究室は家とほとんど同じ扱いになっていた。教授よりいる時間が長い。研究室にないのはお風呂くらい。
 いつもなら、歩いて少しのところにあるスパを利用するのだが、そういえばこの学校にも一応シャワー室があったなと思い出す。全然使ったことがないので失念していた。自由に使えるものなのだろうか。
 構内イントラにアクセスして利用規約を調べてみる。20:40。特に利用に許可が要るようでもなかった。入り口にある読み取り機に学生証のICをかざせばそれで30分使用可能になるらしい。
 
 私が見てきた学校という空間にはほとんどの場合、シャワー室はあるがそれは何故か運用されていることがなく、開かずの間となっているばかりだった。運動部が活発であれば使われることもあろうけど、あいにく私はそういう学校への進学は一度もなかったのだ。だから、学校にあるシャワー室というものに電気がついているのを見たことがない。それは、仮にも運動系のサークルが幾つかある今の大学に来てもかわらなかった。
 私は研究室に泊まり込みになることが多いが、それは私だけではないだろう。事実、別のゼミの友人は泊まり込みになることが多いらしい。でもそういうときは歩いて10分のスパに行くそうだ。
 何故誰も使わないのだろうか。いや、使われているのを見たことがないだけかも知れない。そんなわけで私には、学校にあるシャワー室というものがある種の特別な場所に思えていた。
 空間はあるのに全く利用されていない。そこに漂う空気は循環しているのだろうか。人の手で作られたあらゆる造形に人の影を感じない、明かりの一つもつかず年中閉じ込められた空間は、日の光も入らない。深海、に、そこは近いだろうか。何者も立ち入らぬそこに、何か特異があってもそれを認知する人はいない。カメラを含んだ人の認識が及んでいない鏡に、鏡像以外が映っていない確証がないのと同じような空寒さを感じるのだ。
 とはいえ。利用規則があるくらいだ、見たことがないだけで誰か使ってはいるのだろう。不気味に感じているのは私の育ちのせいだ。高校までにシャワー室というものに馴れ親しんだひとは硬派感じていないのだろう。もっというと、シャワー室がある棟は私が入学する前年にリフォームされたばかりでまだ数年しか経っておらず、ものすごく綺麗なのだ。もしかするとそれを機に使用の足が遠のいているのかも知れない。

――昨日から泊まり込んでてシャワー浴びてない。その後でいい?――

 20:43。メールに返信する。そういえば、彼女は今キャンパス内にいるのだろうか。そのつもりで返信してしまったが、家にいるようなら話を聞くのは家でもよかった。
 返信メールが着信。20:45。

――まって――

 待ってる、って打とうとして途中で送信したな。取り敢えずお風呂はいってから考えよう。私はPCがバックグラウンドで、計算を続けているホストを正しく監視していることを確認し、スタンバイへ移行させる。
 研究室には、今日は私一人。戸締まりを確認して身支度をし、スパに向かおうとする。この研究室にはスパに行くときのためのバスタオルや石鹸の果てまで置いてある。コインランドリーでちゃんと洗濯した清潔なものだ。最後にそれを抱えて、研究室の戸を閉めた。
 ふと、シャワー室が気になった。
 彼女がキャンパス内にいるなら、シャワー室で済ませた方が効率的なはずだ。

「思い切って使ってみようかな」

 昔からの妙な思いこみを払拭できるいい経験になるかも知れないし、何よりこの先も研究室に泊まり込むことは多そうだ、そのたびにスパに行くよりは時間もお金も節約できる。
 20:51。そうしよ、と一人ごちて私は研究室に戻って学生証を取り、シャワー室へ向かうことにした。



 案の定、電気はついていない。が、鍵もかかっていない。節電時のトイレみたいな感じかな。入り口で学生証をかざして女子用の扉を開けると、煌々と明かりのついている廊下からの反射光で、シャワー室内の電灯スイッチはすぐに見つかった。

(この時代に人感センサじゃないなんてねえ)

 スイッチをつけると、LED灯がシャワー室を青白く照らし出した。計器類は普通に稼働しているらしい。すぐ分かるところに、もう一つ学生証をのカードリーダがあった。かざすとやはり全く聞き慣れた読み取り完了音がなり、待合い番号が表示される。21:03。誰も待つ人はいないから、個別に区切られたシャワーブースの内一つを指す電光掲示板には、すぐに私の待合い番号が表示された。そこを使えと言うことらしい。……なんかラブホみたい。
 簡素な鍵がかかるブースへ入ると、小さなカラーボックスと籠が置かれ、プールサイドみたいな水を切る網状のマットが敷かれた、ごく狭い更衣室。奥にはシャワーカーテンで仕切られた水場がある。覗いてみても、シャンプーやボディソープのような気の利いたものはない。まあ、当たり前か。

(シャワーが浴びれるなら十分ね。シャンプーとかは研究室にあるし)

 カランを捻るとお湯が出る。取り敢えず使用可能になったようなので服を脱いで籠に畳み、シャンプーとボディソープとタオルを持ってシャワーカーテンを閉めた。
 天井まできっちり区切られた作りじゃないのがプールサイドのシャワーブースっぽくって、なんだかわくわくしてしまう。足許も水を通すようにか、数本の柱を残して浮いていた。
 シャワールームの使用感は、臨時というか、こういうときの利用に限っては、悪くない気がした。もしくは運動部員が夏に汗を流すのにも良さそうだ。シャンプーで頭を洗い、研究室で無精した体も念入りに洗う。

(これから、何あるか分からないもんね)

 もう近すぎてそういうのを気にするような間でもないし、シたけりゃシたいという人だ。不意の"そういうこと"を危惧する必要はないのだけど、だからといって研究室に入り浸って灰皿をハリネズミにしているような空気の中に風呂に入らず二日もいた状態で逢うのは、さすがに気が引ける。金曜日だってのに、なんて状態だろうか。

 ふと、誰かがシャワー室に入ってきたような物音が聞こえた。
 学生証の読み取り完了を示す高い電子音は、シャワーを浴びている中でもよく届く。ほら、実は結構利用者がいるのだ。他のゼミでも泊まり込みは日常茶飯事で、各研究室に一人か二人は、必ず夜通しいる。だからこの学校は、こうして一晩中人の気配が絶えないのだ。23:00。

 がこん

 なんか、大きな音がした。衝突音、とでも言うべきだろうか。……転んだのかな。

 がこん

 また。なんだろ。

 がこん、がこん。

 あれ、なんか――











 あ、やんだ。あの人何してるんだろ。











 がこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこん

「ひっ!?」

 なに、この音?工事でも始めたって言うの!?
 事故や偶然でなるような音じゃない。意図的に何かを打ち続けるような音。しかもそれは。

(私のブース……?)

 シャワーカーテンの向こう、鍵をかけた個室の扉が、鳴っている。そう、これは、鍵をかけた上から無理矢理扉を開けようとする音だった。
 誰かが、こじ開けようとしてる!?
 音は響き続けている。誰かが扉の向こうにいることは明白だった。
 入り口は学生証がないと入れない。男子の学生証ではエラーになり入れないはずだ。なら、女子?女子があんな風に荒々しく扉を暴こうとするだろうか。それに、何故。
 あまりにも不自然な、音。人が鳴らすのであれば不規則さが現れるはずだが、カーテンの向こうから聞こえてくる音はまるで回転数を維持されたモーターが慣らすみたいに、細かく一定周期。比例直線をなぞるように、大きく激しくなっていく音。そして。

 がこん。

 ひときわ大きな音が、一度、響いた。
 明らかに、ドアの蝶番が外れ扉が地べたに倒れ込むような音。

(ふざけんじゃないわよ……!)

 私はカランを捻り直し、水を止め、湯を全開にする。間もなくカップ麺でも作れそうな熱湯が、シャワーから吹き出した。誰か知らないけど、顔を出した瞬間こいつをぶちまけてやる!
 熱湯は湯気を増し、元々曇りがちだった視界をもうもうと白く閉ざしていく。壁に向けられたシャワーヘッドは、いつでも暴かれるシャワーカーテンの方へ熱湯をまく準備ができている。怯んだ隙に跳び蹴りをかましたっていい。

 手も足も、震えている。紛れもない、恐怖によって、だ。シャワー室が不気味だとか思っていたそういう類のものとは全く別の、出来事。今そこにいるのは、性犯罪者か、それとももっと粗暴な何者か。
 人間が一番恐ろしいとはよく言ったものだ。風呂場でなければあらゆるものを凶器にしてでも切り抜けてやろうという気概はあるが、如何せんここには何もない。熱湯が一番攻撃力がありそうだった。

(来なさいよ、ケツの穴まで煮沸消毒してやるわ!)

 シャワーが壁を叩く細かで激しい水音に紛れて、ぴちゃ、とそれを踏みつける音が聞こえた。
 入って、来た。奴は今、更衣ブースの中にいる。シャワーカーテンの向こう……!

 心臓が内側から突き破られそうに脈打っている。巡る血液は、臨戦の精神状態に点火されてシャワーの熱湯に負けないほどに沸き立っている。横隔膜は上がりっぱなし、細かく浅い呼吸は、急激な運動に備える興奮状態だ。瞬き、を、するのさえ躊躇う。その一瞬をめがけて、このカーテンの向こう側の不届者にリードを得たいばかりに。
 カーテンを一気に突き破って突進してきたら?身を翻して壁に貼り付いてかわし、熱湯と膝蹴りだ。どんなに重装備でも、顔は開けているはず。この湯気では、ゴーグルやマスクは視界を遮るはずだ。カーテンのどこを突き破って出てきても、すぐさま回避とシャワー攻撃を連携できるように、頭の中でシミュレートが走る。

(……足!)

 シャワーカーテンの向こう、その裾の下側に、足が見えた。素足。足の形を察するに、女のように見える。女なら、男が乱入してくるよりは、幾らか勝機はあるかも知れない。油断するわけではないが、ほんの少し安堵した。
 足は、シャワーカーテンを隔てた向こうで、うろうろと歩き回っていた。さっきドアをこじ開けた威勢はどこへやら、ブースの中をひたひたうろついている。
 油断させるためかも知れないし、相手は相手でこちらの様子を窺っているのかも知れない。足にばかり気を取られぬよう警戒しながら、待ちかまえる。

(!?)

 突然、シャワーカーテンの向こうに見える足が、3本に増えた。ふ、2人!?
 さすがに2人組は分が悪い、というか絶望的だ。
 どうする、どうするの、蓮子。扉を破壊してまで入り込んでくる輩だ、何をされるか分かったものではない。というか、目的もさっぱり分からない。女の足のように見えたが、やはり男かも知れない。強姦?それとも愉快殺人?ただの嫌がらせならいいけれど、その線はこの状況にあっては考えがたい。恨みは買った記憶はないけれど、嫌がらせかそれ以上をされる心当たりなら、嫌と言うほどある。
 しかし、二人目を見てもなお、そいつ等は乗り込んでこない。やはりブースをうろうろと歩き回っている。あの狭い空間に二人がいるというのは、それだけでも不自然だ。
 だが、それ以上に不思議なのは……。

(4本目が、見えない)

 3本目の足が見えてから、しかしカーテンの裾の下側に4本目はまだ現れていない。足取りを見ると、随分ぐるぐると歩き回っているようなのに、絶対に3本しか見えない。
 いやだ、なんか、酷く嫌な気配がする。

 ぴちゃぴちゃと、"3本の足"が、カーテンの向こうを歩き回る。先制攻撃を仕掛けて逃げようかという気はもう失せていた。シャワーヘッドを掴んだ手はしかし、もう強ばってほとんど言うことを聞かない。想像したとおり突如に突入されて迎撃できるような状態ではなかった。私はシャワーブースの一番奥の壁に背中をべったりつけて、一歩でもカーテンから離れようとする。もう、それ以上の逃げ場はないというのに。
 離れてみると、カーテンの向こうにはぼんやりと人影が映っていた。ゆらゆら揺れて歩き回るそれは、どう見ても、一人分の影しか映っていない。
 だのにカーテンの裾の下から覗く足は、確かに3本あった。

(やばい、あれは、"質の悪いもの"だ。秘封で追いかけている様な奴の、とびきり悪質な)

 熱湯の滴が飛び散っているのに、周囲の空気は凍り付くように冷たい。背筋が氷を当てられたように冷え、冷や汗は体温を奪っていく。

(いや、なによ、あれ……!)

 カーテンの裾から覗く足が、4本に増えた。だが、その組み合わせが、右足、左足、左足、左足。カーテンに映る影は、依然一人分だ。不整合な4本足が、目の前を彷徨いている!
 私はもう、恐怖で膝に力が入らなくなり、その場にへたり込んでしまう。動けない。シャワーヘッドが転がり熱湯があちこちにまき散らされて私にもかかる。が、熱さなんてもう気にならなかった。目の前にいる化け物は、見ているだけでも精神が蝕まれるように、とてつもない不浄さをカーテン越しに臭わせている。
 そして間もなく、4本足は、5本、6本と、次々に増えてカーテンの裾の下を歩き回る。何か気配がして左右に目をやると、左右の別のシャワーブースのパーティションの下からも、次から次に彷徨く足が覗いている。

「――――、ぁ――――……っ」

 声も出ない。
 何かに、何かおぞましいモノに、完全に取り囲まれている。人間の足の形をした無数の何かを地べたに張り巡らせて、カーテンの向こうに見える影は一つ。それはゆらゆら揺れながらこちらの様子を窺っている。カーテンを隔てていても、その向こうにある理性の尊厳をかき消す穢れた視線がこちらを向いているのが、分かった。
 心臓が、リズムを崩す。呼吸は酸素を不十分とし、五感がもたらす情報は磨り硝子の向こうのように鈍っていた。現実感が急速に失われて、不快な浮遊感に包まれる。内臓がまるで歯磨き粉のチューブみたいに捻り潰される、そんな感覚に襲われて、私はその場で嘔吐した。
 食べたモノを洗いざらい吐き出してもまだ逆流を繰り返す胃液。喉と口内を灼いて口からはみ出す。胃そのものを外にぶちまけたいくらいの、強烈な不快感。カーテンの向こうにいる多足不浄の怪性の、その気配を感じるだけで眩暈がするほど、この世界そのものが糞便と汚物の塊のように感じられてくるではないか。

(なに……これ……)

 歩き回る足はせわしなく、まるで壁も何もないように、私のいる小さな小さな脆い空間を取り囲んで回っている。カーテンに映る影だけは停止したままこちらを凝視していた。
 不快感は、人は不快感をこれほどの大きさで感じうるのかと信じがたいほどに膨れ上がっている。吐き気はその二次的作用に過ぎない。もっと直接に、生理的嫌悪そして原始宗教的忌避感。腐敗の悪臭が脳味噌に直接脳に送り込まれてくる。自分の体全てが汚物のようで、頭を掻き毟り髪を引き抜いて捨て、腕も足も切り離し、この不快な臓物を開腹してぶちまけたい。脳が爛れて溶けて液化していく。
 人間としての尊厳を奪い尽くされる感覚に意識が遠のく。

(もう、いや……いや……!殺して、)

 何をされたわけでもないのに、死にたくて堪らない。
 足は殖え続けている。人間の足ではないのは、もう明らかだった。指の数が3本だったり6本だったり、踵から爪が生えたりしているものも混じっている。人間のふりをした何か別のモノが、そこにいる。
 シャワーの水音に混じって聞こえてくるのは、生肉を擦り合わせるような気味の悪い音。さらにそれに混じって黒板を尖ったガラスの先でひっかく神経に障る音が響いていた。それは何かリズムを刻んでいて、この世のモノではない不吉の歌に聞こえる。
 無限の時間にも感じられるその包囲。それでも無数の足は近寄ってくることはなかった。私は自分の腕や足をひっかき回して、嘔吐を繰り返す。涙も鼻水も止め処なくあふれるが、声は一切出せなかった。
 ひゅっと、一本、足がカーテンの上の方に跳ねるように消えた。
 一本、もう一本、突然に足はその数を減らしていく。

(え……?)

 そしてそれはたちまちに2本へ戻り、カーテンに映っていた人影が、こちらへ近付いてくる。来る。来る、来る!

 ――――っ!

 しかしそれは、まるで映像の投影が通り過ぎるように、私の背後へ拡散して、消えた。
 不快感は、まだ残っているが急速に落ち着いてきた。吐き気は収まり、シャワーの熱湯が急に熱く感じられる。

(行った、の?)

 私は荒い息、涙がまだとぎれないままでシャワーヘッドをつかみ、カーテンの方を見る。人影も足も、冒涜的な気配ももうないがここを出るのに油断はできない。

 恐ろしい、何か得体の知れない汚らわしいものが私に何かを仕掛けてくる。恐怖が手足を凍り付かせるが、去った様な感覚は確か。今、脱出するしかない。
 私はシャワーを掴んで一気呵成、カーテンをめくって熱湯を注ぐ。そしてそこがどうなっているのかを確認せずに、シャワーを投げ捨て、ただ出口に向かって走り抜けようとする。

「っぁぁあああああああああああああ!!!!」

 が。

 どすん。

(えっ?)

 私は何か固いモノに激突して進路を阻まれた。
 見上げた私の視界にあったのは、何事もなく更衣ブースを閉ざす、鍵のかかったままの、ドアだった。

「ど、どうして」

 確かに扉が壊れたのを視認したわけではない。だが、だとしたらさっきのヤツは?
 私は脱衣籠にある自分の服を見る。そして、息を呑んだ。また、一気に吐き気が増す。それは先ほどの直接的な不快感の注入によってではなく、目にした光景が急性のストレスを与えてきたからだ。
 畳まれて、籠の中に収まったままの私の服の上に、研究室においたままでここへは持ってきていないはずのカメリヤが、置いてあった。間違いなく、私のだ。

 煙草だなんて、置いてきたはずだ、間違いなく置いてきたはずだ!

 何者かが――もちろんさっきのヤツだ――、私の研究室からこれを取って、ここに置いて行った。
 不快感は消え、人影もなくなったが、くしゃりと半分握りつぶされた煙草の紙ケースは、確かにさっきの出来事が現実なのだという証拠になってしまった。

「う゛っ」

 私はもう一度、胃液だけをその場に吐き出す。急激な精神ストレスで、不快感とともにキリキリと胃が痛い。糸を引く嘔吐。それが終わり、少し落ち着いた私は必死に自分を落ち着けながら服を着込み、シャワー室を出ようとする。やつはもう、行った。ここに来たんじゃない、通りがかっただけだ。煙草は、勘違いだ。私が持ってきてしまっていたに違いない。それでもカメリヤはその場に捨てて、まだ震えが引かない手足に鞭を打ちブースを出ようとする。

 鍵を開けようとしたその取っ手に、びっしりと女のものと思しき長い髪の毛が絡み付いていた。

「ひっ!」

 だが一度平常心を失った私はパニックまでの経路が短絡されてしまっていた。再び恐怖に忘我して、爪を立ててその髪の毛を引きちぎり、無理矢理扉を開けようとする。

(開け、開け、開け開け開け!!)

 がこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこん

「開いて、開いてよ!!ここから出して!ねえ、出して!!」

 私は取っ手が髪の毛で絡まって開かないのに極限の焦りを感じ、それを千切って扉を開ける精神的余裕を失っていた。ただ扉を叩き、揺らし、引き、押し、鳴らして脱出可能性のない方法で脱出しようとしてしまう。

 がこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこん

「あいて……あいて、よぉ……こんなところにいたくない……」

 全く開く気配のない扉、まるでその向こうに救いがあるかのように寄りかかり、体をくっつける。
 髪の毛。そう、この気色の悪い髪の毛を、解いて、解けば、解ければ。

 私は震える手でその髪の毛に爪を立てる。解き、あるいは千切って少しずつ、掘り進むように。手元は涙でよく見えない。立っている膝も笑って、震えている。
 もう少し、もう少しで、解ける!

 最後の束に指をかけたとき。

 がこん。

 背後、シャワールームの奥で、何かまた、物音が聞こえた。
 それはさっき、あの多足不浄の怪性が、"私を通り抜けた方"だった。

 こんなものに出くわしてしまうなんて。原因は、知れている。あの狂気じみた青空が、この世のものとは思えぬ整然、継ぎ目のない贋物の空が、ああも我が物顔で私の頭上に浮遊しているのを目の当たりにしてしまったせいで、私の精神が幾何かおかしくなったのに違いなかった。



 あなたじゃない



 ――――23:00、場所は伏す。











「蓮野台高校」
「は?」

 急に聞き慣れた学校名が飛び出して、思わず聞き直してしまった。母校ではないが、半分母校だと言われても否定はし切れない学校だった。

「なんで廃校になったの?」
「うちのガッコと統合になったんじゃなかったかな。あー、共学だったころ。私もこのころ在学でいたかったなあ。男の子がいる学校生活ってどんななんだろ」

 蓮野台高校自体はかなり古い学校だ。聞いた話では、そう、昔は私が在学していた高校は女子校で、私が入学するよりかなり昔は共学だったと聞く。ワイヤドで検索してみても、直接光学式のカメラしかない時代の懐かしい感じの映像しかHITしない。男子比率の低下に伴い女子校化たとのことだが、メリーは腑に落ちない様子だった。

「あっちの学校の方が、在校生は多かったんでしょう?進学率も良かったみたいだし、なんで統合なんか?」

 メリーの疑問は意外な発端(探索対象の調査)を持ちながら、陳腐な問いへたどりついた。その質問は、私の母校の学生ならだれても誰かから受けるものだ。

「自殺事件があったんだって。あれがあってから急に志望者数が減ったって。何でも自分の体に火をつけて飛び降りたんだとか言う話。異常すぎるからって口止めがあったらしいけど、人の口に戸はたてられない。地元じゃ有名な"怪談"よ。都市伝説で、全く裏の取れてない話だけど。」

 メリーは地元がこの辺ではないから、知らないのか。それは学生の間ではそこそこ有名な話で、事実かどうかなんて知らない。その真偽を確かめるのが馬鹿らしいくらいに陳腐な都市伝説で、子供騙しの怪談か何かだとしか認識していなかった。

「併合のほんとの理由は知らないわ。この辺は行政区画の変動が大きいし。京都が府だった頃から見ると本当に色々違うから」
「自殺があったのね。自殺、事実上消滅した学校、怪異……」

 音は、無視する。

 だがメリーは、真面目な顔をしてその怪談を口の中で転がしている。

「でも、歴史のある学校なら殺人事件や自殺事件のひとつや二つ、経験しているものじゃない?そんなことで学校の統合なんて。行政区画の変更で、っていう方が自然よ。飛び降り自殺があったのなら、図書館にでも行けば当時の新聞が保存されてるだろうし、誰かが本当だったって言うはずだもん。でもずうっと、都市伝説の域を出ないってことは、やっぱり子供の間で囁かれるだけの噂なんだよ」

 図書館、行ってみる?と聞くが、メリーはいいえと首を振った。

「それは隠されている。界面の向こうに塗り込められて、科学的な見地では出来事そのものを立証できなくなっているわ。その自殺事件は、"まっとうじゃない"類のものだった」

 界面。メリーがそういった。
 私はメリーの言う「結界」と言うものがどういうものかよく分かっていなかったし、もっと言うと、懐疑的でもあった。だが、他ならない私が、占星天文術に近いことができるのだ。それを「ありえないこと」と片づけるわけにも行かない。彼女が指さす場所には必ず怪異があり、それはまるで彼女がその奇怪な現象を起こしているかの如く的確で、私は疑いはしつつも否定できないでいた。むしろ今は、肯定するくらいに、変化している。
 それに、だからこそ、の探検だ。娯楽として楽しむなら、有る程度のものは疑うことなく飲み込み素直に扱うべきでもある。

「見えるの?結界が」

 メリーが見えるというのなら、きっとそうなのだ。

「ええ。廃校になった40年前は、あそこは間違いなく、亀裂があったはずだわ。でももう、それは見えない。今は、違う結界が見えるわ。」
「結界は結界でしょう?」
「番外編ね。あそこにはもう亀裂は現れないと思う。」

 メリーは少しだけ眉を顰めて、付け足した。

「どうして?」
「……たぶん、件の自殺が、供儀だったから。寄って見てみないと判らないけど。今あそこに見えるのは、結界は結界でも、強力な神籬よ。亀裂を、きっと封じたに違いないわ」

 私は、どゆこと?と聞き直す。

「人身御供?」
「そういうこと。」
「まさか。現代にそんな技術が残っているなんて」

 誰かの生命エネルギーを、魔術の術式編織のコスト支払いに使用したのだ。生け贄を用いて、そこにあった、あるいは生じた亀裂を、埋めたのだという。

「高々40年ほど前に、術式編織の形跡がある方が驚きだわ」

 今日、魔術は滅びている。オカルトはかろうじて残っているが、その性格は酷く安っぽいもの認容していた。今やそれを行使できる者はほとんどおらず、プロセス化によって効果を"生産"できる科学へと傾倒していた。
 遺失技術の一つである「魔術」の研究も活動の一環ではあるが、その追求と解明が目的であって、私達が魔術師になろうという性格のものではない。それ故に、実際にここ数十年程度のスパンに魔術が行使されたらしいという事実は、貴重かつ重大なことだった。かつては邪悪だがポピュラーなソースとして用いられた捧贄代苛(サクリファイス)を、今の時代に実行できる人間がいるとは。

「本当に自殺なら、残念ながら儀式主体者(イニシエータ)はもうこの世にはいないでしょうね」
「自殺じゃなくても、捧贄代苛なんか執行する魔術師にお目にかかるなんて、こっちから願い下げよ」
「ふふ、そうね」

 メリーは笑う。だが、その笑みのどこか深淵に感じたのは、鋭い冷たさのようだった。

「ねえ」

 改まって、声をかけられる。

「うん?」
「今、何時かな」
「17:28だけど」

 北極星が、こんな時間に、見えた。
 私が答えると彼女は、そう、とだけいい、ややも暗くなり始めた空に視線を投げる。
 結界が見えるという彼女の視界には、一帯どんな世界が見えているのだろう。メリー曰く、人一人もまた、名前という呪紋(シジル)による強固な結界であるのだという。だとするなら、メリーにとっては世界のあらゆるもの――もちろん私を含めて――は、メリーを拒絶する結界として見えているのかも知れない。
 空を見て、彼女は何を思うのだろうか。

 音は、無視する。

 宵の濃紺天にぽっかりと空いた穴のような満月に、何を感じているのだろうか。
 今まで、彼女の力を否定できないほど、様々に見せつけられている。でも私は、何にもできないただの女だ。彼女が持つ、背負う、何かを知る由もない。ただの気紛れな特異体質なのかも知れないし、もっと大きな意味のあることなのかも知れないが、私にはそのどれにも触る権利がない。力もない。
 あの夜空にぽっかりと穿たれた穴を、大事と見るか日常と見るか、それは見方一つの問題だ。彼女は私という女を側に置き、何を思っているのだろう。あの月と同じ、と言われたところでそれは、何の指標にもなりはしない。北極星は、必ず北を指すか?

 彼女と私の間に、共通の事実なんて一つもなかった。

 同じものを同じように感じている?そんなものになんの確証がある。
 色も光も好きも嫌いも、あるいは痛いも甘いも、共通ではないのかも知れない。私達は結界に仕切られた差異をしてその違いを「いいよ」と許容することでしか一緒にいられないのだ。
 悲しい。メリーの見ている世界の、なんと悲しいことか。

「メリー」
「なあに?」
「私は、絶対メリーの味方だから」
「どうしたのよ、いきなり」

 本当に、どうしたというのだろうか、私は急に。満月は人を狂わせるか。それとも私は既に。

「……私なんか、えっと、餃子、餃子の皮みたいなもんなんだから」
「はぁ?」
「だから、やーらかくて、中身はあっつくて、破られ食べられたがってるの」

 しばらくきょとんとしていたメリーは、「何言ってんだ私」と思い直す私を見て、あはっ、と笑った。そして私の手を取り、指に指を絡めてくる。

「ありがと」

 あいしてる。
 わたしもよ。
 メープルシロップの海で絡み合うみたいにして、私達はキスをした。

「やっぱり、いってみよう」
「……じゃあ、金曜日」
「古い亀裂の傷跡でも、結界の破片が見つかれば手がかりになりそうだし。もしもその供儀が本物なら、ここには大きな亀裂があったことに間違いはない。しかも最近まで。メリーなら何かみつかるかも」
「そうであることを願うわ」







 頭蓋穿孔(トレパネーション)というキーワードは、私を真相へ近づけたようでいてその実全く近付いてはいないようだった。むしろ遠ざかる、迷路に迷い込む、霧の中に放り出される、そう言った虚無をより色濃くして、私の腕に残るのは空虚な無力感ばかり。
 研究室にいて、私は全く本来の作業に集中できないでいた。PCのモニタには、先日仮導出した計算式を元に演算を続ける様子が映し出されているが、それもどこか現実味がない。この計算が終了する頃には算式が目標とする地点での状態が分かるはずだった。
 計算開始地点から演算所要時間の経過地点が予測算出地点よりも手前であれば、未来の予測と言うことになる。計算指示地点は、金曜日の00:00。現在は水曜日の16:48。計算終了予定は木曜日の01:34。概ね一日分の先見であり、検証結果が正しければ新記録になるはずだ。だが今はそんなことにさえ、興味がなくなりかけている。
 魔法使いの女が示した通り、この学園で人死にが出たなどと言う話は、全く挙がっていない。だが確かに、メンテナンス中という名目で立ち入りを禁じられた区画が日毎不自然に増えていくのだ。まるで、この学校が何かに蝕まれていくように、じわじわとその空間を削り取られていく。先日は、シャワールームが「メンテナンス中」に塗り替えられた。
 今、あの扉の中がどうなっているのか、きっと誰も知らない。誰も、この学校の管理者も、恐らくは知らないのだ。あの扉の中は、存在するのだろうか。部屋に何もないのではなく、"扉の向こう"という空間が、そのもの何かに削り取られて失われているような。
 空間とは、それは人間が既にそこに生きているからであり、それ故ア・プリオリに認識される根本概念であって、それそのものがすっぽりと失われることがあれば、人間はその認識を失う。そこに"空間があった"という違和感さえ感じない。空間を失うとは、そう言うことだ。だから、シャワールームにせよ、この学校の第二校舎の屋上にせよ、同じく第二校舎にある旧理科室にせよ、地下室にせよ、そこが侵入不可能になっていることに、誰も違和感を感じないのだ。
 学校だけではない。この街の普段の道行きにあるふとした小径へ入り込むと、そこは全く失われた空間であり、何者かに食いちぎられた傷口の向こうへすっかり陥てしまうという現象も認識されていた。いくたりかの人はそこに入り込んでしまい、空間的存在を呑まれ失われた。都市伝説としてやんわりと認識されているのは、その亀裂の奥に住まう四柱は、空間の隙間に入り込み生き延びる力を持った存在ではありながらも自分の存在を隠しきるほどの強大ではないと言うことに他ならない。
 対し、この学校の空間は至極巧妙に蚕食されている。誰にも気づかれていない。
 私は、それを知覚できる。それは、空間と一対に結びつく時間の方を、詳細に知る魔法が使えるから。あくまで間接的な知覚であって、その奥の詳細は全く分からない。空間が侵食されるように失われる感覚は感じていても、それをどうにかする力はない。
 そして私には閉鎖されていく学校の空間、認識諸共伴う空間侵食がヒトという小さなターゲットを持った場合の現象が、あの頭蓋穿孔(トレパネーション)と同質の現象にも思えたのだ。

 だが、何故。

 頭蓋を掘って脳を冒し、一体何をしたのか。空間ごと丸飲みしておきながら、そうした形跡をすっかり隠しおおせるだけの力を持っていようものが、警察の映像に残るような形で人間を食い残すだなど、考えがたい。仮に学校中あちこちで虫食いのように発生している進入禁止区画の、その内側の空間のない仮想座標に、全てそう言った死体が埋まっているとするのなら、それは一体何を目的にしているのだろうか。
 研究は、手につかない。今すぐにでも、シャワールームなり、第二校舎の屋上なっり、旧理科室なり、地下室なりに、向かって真相を確かめたかった。だが、あの魔法使いが言うとおり、それはリスクを伴うことだった。







 20:21。私は蓮子の家でごろごろしていた。さっきセックスしたのに、滅茶苦茶に感じまくって上も下も口は大きく広げたまま、かぶりつくように蓮子に抱きついていたのが、なんだか自分ではないような、或いは口で指で甘い言葉で、私をとろとろにしたのが蓮子ではないような、不思議な現実感のなさがあった。

「不気味だと思わない?今や世界には時を刻む道具が無数に存在して、それぞれ別々に周波数を刻んでいる。」

 暑い、そういって蓮子は下着姿のままベランダへ出て柵に背を投げ、空に向かってセブンスターの煙と何か意味ありげな問いを吐いた。反り返る喉元から、肩胛骨、胸の膨らみ、へそのライン。背中、ウエスト、ヒップの曲線。ベランダにもたれ掛かる艶めかしい曲線は、確かにさっき私を狂わせた。
 蓮子の部屋で部屋着にしているシャツだけを羽織り、蓮子を追って私もベランダへ出る。外の方が幾らかましではあったが、外もまたもう夕方だというのに不快に蒸し暑い。

「グリニッジに従っているわ。別々なんかじゃない。」

 いっぽんちょうだい、と放られた紙箱を開いて一本抜き取り、ライターが見つからないないから蓮子の煙草から火を移して貰う。21:23。ベランダで反る蓮子の体に覆い被さるみたいに煙草の先端同士をくっつけると、意図を察した蓮子がふかしてくれる。貰った煙草にしっかり引火したところで、彼女の遠い手にライターがあるのが見えた。いじわる。私は煙草を指に取ってから、彼女の白い喉元、滑らかな顎、栗毛に隠れた耳たぶを舐めて唇で食んでやる。
 くすぐったいよ、蓮子は視線だけくれて、火を加えたままの口元を弛めた。21:30。

「そうかな。運動エネルギーひとつでずれてしまうものを、どうしてひとつに出来るというの?時間は、普遍的で均等な物差しではないなんて、かびが生えるような書物にさえ証明されている。私達は、何故、それを認めないのかな。」

 真黒い空に、紫煙はゆらゆらと色めく。下着姿のままでベランダにもたれ、大仰に首を反らせて天に唾を吐き降りかかることを厭わない姿勢。左手の指の間に挟まれた煙草は、そこからも別の筋を上げて、しかし月と星それぞれを覆い隠すには全く足りない。
 彼女は私の方を見ていなかった。白い喉元を反らせて、その視線は逆様に空へ投げられていた。

「……怖いから」

 私が発した答えは、彼女が投げかけた問への返答と言うよりは、私が今まさに彼女へ感じている感情かも知れなかった。
 蓮子が見ているもの。何か遙か遠く、私を見ているのではなく私を通り抜けたその向こうにある、巨大な存在を見ているような視線。その狭間にある私は、実は全く気にも留められていないのだという実感と、私と、蓮子と、周囲に及ぼされるだろう想像だにできない行く末。
 それを私には思い描くことはできない。スケールが、いや、レイヤーが違う。蓮子はそれと向き合おうとしていて、そしてそれはきっと惨たらしい結末を招く。私は、それに巻き込まれるのかも知れない。

「恐怖とは、曖昧だけど、とても的を得た答えだと思う。そう、恐怖は私達を時間に縛り付けるひとつの要因なんだろうね。」

 私の心中を知ってか知らずか、蓮子は顔を戻して私を見、煙だけを脇に吐き出してから答えた。視線は、私の方を向いている。
 彼女が見いているのが、私であったのなら、一緒に滅んでしまってもいいと思えたかも知れないが、恐らく彼女は私のことなど見ているようで見ていないのだ。それは蓮子自身も気づいていないかも知れない、無意識のうちに、私は何かの代わりとして据えられてしまっていたのだ。そんなのは、ごめんだった。
 だって、蓮子を愛しているのは"私なのだから"。

「時間が指標にならないなんて、じゃあ時間って何なの?」

 彼女は私を見ていない。それに気づいていなかった頃から、彼女に見つめられ女の芯を熱くするその数十回に一度は、全くその逆を感じていた。愛しい人に乱れる自分を想起する代わりに、その稀の一度には、私の体が姿のない巨大な化け物にすりつぶされて肉も骨もないただの礫となるを想像させられたのだ。
 でも、20:41、今は違う。
 さっきしたばっかりなのに、さっきのセックスはうそだったもう一度ほんものが欲しいと、体は熱いまま。
 恐怖は、恋心を消すに足らない。解け合うごとに曖昧な二人、蓮子のことを知りたいと思うに従って、彼女の輪郭は強く色濃くなっていく。それを知ると言うことは、それ以外との差別化の作業に他ならない。差別化とは境界を敷き、別物だと定義する行為。私は、蓮子を恋うごとに彼女から拒絶されるのを感じていた。

 だから私は、暴かねばならないのだ。

 輪郭の内側に押し込められた柔らかな肉へ、私は入り込む、或いはそれを呑み込まねばならない。目の前で劣情掻き立てる半裸を晒すのが、"私の愛した彼女なのだ"と確かめなければいけないのだ。それは嘘なんかではなかったと。私の存在は私が唯一の主体であると。それをして愛したのが、あなたであると。あなたは、あなたであると。
 いくつもの証明を要する愛の確認は、それでも私の独善であり、私の主体性が尊厳を守るものである必要も持っている。

 食ろうてみねば、わからない。冒涜せねば、知り得ない。
 20:50。

「時はどこかから始まり、どこかへ流れていく、無限の存在。私達有限の存在に、無限は理解しきれない」と、蓮子は滔々と時を語る。

「だから理性と知性を得た人間は、その無限性に神性、あるいは恐怖を感じたのでしょう。繰り返し現れるもの、例えば朝と昼、四季をひとかたまりに見立てて、時を単位にまとめ、認識できるレベルへのブレイクダウンを試みて、認知しようとしたものが、時間。認識と時の間に存在する、便宜的な単位でしかない。それをツール化したもの、またはそのツールの状態ひとつを指す言葉が、時刻よ。」それは、彼女の自己紹介の様でもあるし、告白にさえ聞こえた。

 ぞくり、背筋が凍り付く。彼女は時を我がものとでも思うのか。恐ろしい冒涜だった。神性への唾棄。そしてそれがまとう禁忌の香りが、私の下半身を掴まえて離さない。 

「時とは、宇宙とともにあるもののこと?」
「いいえ、それも時間でしかない。」
「時は定義されたもので、証明するものじゃないでしょう」
「"時とは定義でしかない"、なるほどそういう見方もあるね。」

 蓮子は、短くなったセブンスターをベランダのコンクリ床に放り、横に並んで柵にもたれている私の上に、覆い被さった。するりと、私からシャツを取り上げて、全裸になった私を柵に押しつけると同時に抱きつく。
 すっぽりと包まれた頭、髪の毛に手櫛を通されて、耳元で煙草臭い息を吐きながら"たべていーい?"。
 私は蓮子のブラを外して放り捨て、同じように口のすぐそばにある耳に向けて囁く。"いちいち聞くなんて、センス無いね"。
 彼女の手が私の股間を撫で、そこが既にじっとりと濡れているのを認めると、彼女は目を細めて首たまに口を寄せてきた。

「"時は時間を介さずには知り得ない"。そして、主体の運動によって変化する物差しに、何か意味があるのかしら。」蓮子は私の首筋にキスの雨を降らせ、膝で股を割りながら言った。膝頭が私のぬらつく内と外の境目を擦ってくる。んっ、それに煽られるみたいに私の腰は波打ち、思わず声を上げて開けてしまった口から、煙草が落ちる。蓮子はそれを踏み消して、キスのターゲットを首筋から耳たぶ、そして私の口へとシフトさせてきた。彼女の背に腕を回して私は再加熱した吐息を吐きながらそれを受け入れる。
 20:55。ベランダで、二人全裸のままもう一度点火してしまった。月と北極星が、私達を監視している。

「その流れの主体となりうるあらゆる存在と、そこに流れる可変的な尺度を全て束ねた上で、それら全てをも一つの視点から見下ろすもの、それが真の時なのだわ。時は人には認識できない、神とほぼ同じものよ。現象として導かれた、時の発現によって導かれモデル化された時間という曖昧な物差しを認識全てで持ち寄って、帰納的に作り上げているに過ぎないわ。勿論、演繹可能な神の数式は今も模索されている。でも、きっと解明されない」

 私はベランダの外側へ向かされ、股を開いて尻を蓮子に向ける姿勢にさせられる。本気で抵抗する気はないが、だれかに見られちゃう、と形だけの抵抗を見せると、見せつけてあげれば?と私の乳房を掴んで手摺りの上へ載せる。「やらしー胸」そうやって煽られると、燃える。

「解明されない?どうして?」

 彼女の首根っこにぶら下がり、体全体で蓮子に絡み付きながら問う。科学は進み、あらゆる不思議と浪漫はその弁明の下に取り込まれてきた。この期に及び数科学の問題が解決を見ないだなどとは、考えにくい。でも、蓮子は、それを言う。大真面目に言う。彼女が言うのならきっとそうに違いない。たとい真実が違ったとしても、私には、荒唐無稽と幻想浪漫を、明晰な頭脳をして唱える蓮子が絶対だし、そういう彼女の側にいられることが、堪らないのだ。現実など疑わしいと星を見たまま焦点の合わないその目が、私を高ぶらせる。ゆめとまぼろしを語り真実をねじ曲げんとする声が、私を興奮させる。

「んっ、ねえ、どうしてそう思うの?」
「魔術が、科学から排斥されているからよ」

 蓮子の指が、尻の肉を分け入り、そのままさらに下へ降る。茂みを探り当てるとすっかりぬかるみ緩んだ入り口を焦らすように指先でねぶってくる。充血を始めた乳首を自分で潰す。しこる固さを無理矢理潰すと、肉袋に入った媚薬が割れて溢れるみたいに、快感が広がった。腰がくねって蓮子の指を待ちきれず、そこへ自分から擦り付けてしいまう。
 魔術。よもや時の概念を解明するのに、魔術が必要だなんて。さすがよ、蓮子。あなたの目に、時というものはどう映っているの?素敵。私には理解できない現実に生きている蓮子が、違いすぎて愛おしい。違いすぎて……恐ろしい。
 蓮子と私は余りにも違いすぎた。
 私と蓮子の間に、共通の現実は存在しない。でも、一点共有できるものが、それ。"私達は別物だ"ということだった。
 別物同士が肉を擦り合わせる。だからセックスは気持ちいい。中の中まで相手を受け入れて、奥の奥まで別物の肉を擦りぶつけ合う。いつかその薄皮が破れてそこから二人の中身が漏れ出して一つに解け合うことを夢見るから、セックスは気持ちいいのだ。

「誰かに見られちゃう」

 私が嫌悪感のかけらもない羞恥を言うと、蓮子は嗤いながら耳元で囁いてくる。
 もう見られてるよ。ほら、星も月も、このえっちな体、見てるよ。

 私は蓮子の指に翻弄されて、ベランダから見下ろせる道を行くだれかの視線を受け止めて、果てた。すごいイき方だった。きっと私を見た誰かあの人は、ベランダの上で蓮子にアソコをホジられまくって浅ましく大声を上げているそれを聞きつけて見上げたのだ。

 私は、別々である快感を打ち破りたかったし、蓮子もまたそうなのだった。私が彼女の容積を通り抜けたいと願うのと同じように、蓮子もまた私を取り込みたいと考えているのだろう。
 蓮子が私の背後に何かを見ているように、私にもまた、蓮子の背後におぞましくおそろしい何者かが立ち、時の糸を切ったり紡いだりしているのが、みえる。蓮子は、自身の時間の中に、私を呑み込もうとしているのだ。20:59。

「ねえ、いま、何時かな」
「"まだ"23:00だよ。後一戦、できるね」

 うん。私はもう一度蓮子に抱きつきながら、蓮子の"魔法(そんげん)"を侵す方法を考えていた。

――だって、そうしないと、私の方が、侵され呑まれ、消えてしまうから。







 ツメタガイに食われた後の貝殻のその穴を見て「月みたいだね」と言ったあなたに、私は空寒いものを感じて、あのとき不機嫌を装ってその場から立ち去ってしまったが、その実私の胸の中にはぽっかり、ああ、あなたはこれを月だというのならそうなのだろう、外の世界から私をすっぽりと包む存在、ざりざりざり削り穴を開けて私の内奥を食んで行く何者かを、あの月に見い出す恐怖に耐えきれず逃げ出してしまったのだ。
 私は外界を遮断する為に海の底で貝になりたいと願い、その旨をあなたに伝えたことがあった。事実あなたは私をすっぽりとその腕に包み込んで抱き、口付けた、甘い言葉で私を溶かしたが、同時に逃げられぬよう包囲してから私の殻に穿孔し、閉じられなくなった穴から内部へと食い進んできたのだ。「月が綺麗ね」と私の耳元で愛を囁いたあなたは、きっとツメタガイだったのに違いない。
 見ろ、あの空に浮かぶ寒々と白い、無機質に丸い、月の姿を。ほら、あのクレーターはまるで巨大な顎、抉り付く歯の痕ではないか。空に穿たれた一点の穴、あれは存在ではなく間歇なのであって、この次元を外から覆い尽くし内部を食い散らかそうとする大いなる者の歯、或いは眼、伸ばされた腕なのだ。

「  」

 私を追いかける声は近いようで遠く、私の固くもない殻を易々噛み砕こうとしていた。
 恐ろしい。最愛の人さえもが、恐ろしい。原因は、知れている。あの狂気じみた青空が、この世のものとは思えぬ整然、継ぎ目のない贋物の空が、ああも我が物顔で私の頭上に浮遊しているのを目の当たりにしてしまったせいで、私の精神が幾何かおかしくなったのに違いなかった。







 PCの電源が、突然落ちた。正系統7機だけでなく、それに対してホットスタンバイで用意された5機と、補助機2機も、全てだ。
 全てのPCには正副予備のUPSが備わっているし、落雷対策も完全。ワイヤド接続されているのは全量の半数で、スタンドアロン機とは物理的に遮断されている。全てのデバイスが同時にダウンするなど、ほぼ考えられなかった。
 だが、それが起こった。

「……私の入れ知恵が、お気に召さなかったかしら」

 私は一切の映像が絶えたヘッドマウントディスプレイを、床へ打ち捨てた。手は震えている。まさに、恐怖によってだ。こんなことが起こるのには、ただ一つ、ただ一つだけ、心当たりがあった。だからこそ恐ろしかったし、私はそこで、死を覚悟した。
 死、ならば、生ぬるいかも知れない。どういった状態にされるか、私では想像だにできない。

 振り返るとそこには、案の定それがいた。久しぶりの、自分の目で見る世界は余りにグロテスクだった。壁も空気も地面も天井も、言葉や概念さえもが、すべて。目に見える世界は、臓物と植物と汚物と宝物と、怪物であった。この見るに耐えない歪で不気味で気違えた世界を直視せぬ為に、私はゴーグルをかぶり、機械を介して得られる正常な映(虚)像を、ロボット(人形)とカメラ(人形)とプログラム(人形)とワイヤド(人形)からかき集めて生きてきたのだ。

 だが触れてはいけないモノに、触れてしまったようだ。

 自覚はあった。
 あの女だ。あの、女魔法使い。
 彼女は自分を魔法使いではないと言うが、彼女こそ巨大な魔法使いであり、あの女へのアクセスの方法を、私は誤ったのだ。本来触れてはならぬ存在、だが私は、私は、それもひっくるめて、「そう」した。恐怖はあれど、後悔はなかった。

 私は彼女を追ってここまできた。彼女を助け、彼女を導くために、こんなおぞましい世界に。渦巻く思念と剥き出しの肉、嘔吐物と変わらない空、蚯蚓を曳いた跡で描かれた夢想。生き物内側から裏返したみたいに赤白く湿っていて、そんな奴らが笑って笑って笑って歩いている。こんな狂気じみた世界に来たのは、彼女を守るための他何事のためでもない。

「残念ね。あなたの思うとおりに、あの子がなると思っている?白痴の化け物」

 全力の魔法で、抵抗して見せてもいいだろう。だが、結果は変わるまい。
 目の前の化け物の足は、私をすっかりと取り囲んでいる。PCパーツやケーブルで空間が細かく切り刻まれているこの部屋は、もはやこいつの領域と言っても過言ではなかった。
 上半身だけを私の正面においている、女型の化け物。忌々しい。そのウェーブがかったブロンドも、男女問わず魅了する艶めかしい躯の曲線も、切れ長の目も、全てが忌々しい。整いすぎた醜悪。汚らわしい生命尊厳の冒涜、人の形を模しただけの。中身を追求する私のロボット達の方が、ずっとずうっとマシだ。

「 」

 音は、無視する。

 無数の足を部屋中にはびこらせながら、部屋の中のもの一つとして踏みつぶさない。ケーブルとケーブルの間、ディスクスロットの間、筐体と筐体の狭間、ありとあらゆる間に、足の姿が映し出されている。

「生憎、私がさせないわ。あなたといると、あの子は不幸にしかならない。害悪なのよ」

 学校内にデコイをばらまきあの子が真実へ近付くまでの時間稼ぎは、既にすっかり完了している。教えた魔法も、上等使いこなすことだろう。

 目の前の悪質な怪性を退けることなど、私には到底無理だ。傷一つ付けられる訳もない。力量の差ではない。存在の格差だ。あの狂気じみた青空の上で、この世のものとは思えぬ整然、継ぎ目のない贋物の空を、ああも我が物顔で私の頭上に浮遊せしめている、そう言う類の、化け物だ。神といってもそう語弊はないかも知れないが、その言葉に付きまとう慈悲や恵みは一切取り除かなければならない。
 だが、私はそれに抵抗した。あの子を助け、階段を一つ押し上げて見せた。この化け物の、邪魔を確実にしてやった。この矮小な魔法使いにとっては上等すぎる戦果だ。
 体が、恐怖と不快感によって、抑えがたいほど震える。発する声も安定せず、この映像を誰かが見ることがあれば、滑稽な姿と笑うこともあるだろう。

 嗤わば、嗤え。だが私は、確かにしてやったり。

「ざまを見なさい、これであなたは決定打を下せな」

 ぱんっ。

 水風船が割れるような、軽快な破裂音が聞こえた。違和感は、右腕から発せられている。見ると、私の腕はまるで"だるま落とし"のように肩から下だけが失われ、肝心の腕はというと、私が背にする壁に叩きつけられて破裂していた。紅い飛沫を散らして、壁には魚拓みたいに腕の形が残っている。

「……痛く、ないわね。いつもみたいに、ここに大穴開けてみればいいじゃない」

 やはりだ。防御障壁など、関係がない。オブラートほども耐えなかった。圧倒的という言葉も生温い格差を前に、私は、終わるだろう。命乞いも、意味を成さない。多足不浄の化け物、無能であることは無慈悲を包括する。
 私は残った腕で自分の頭を指さして挑発する。ツメタガイが穴を開けて中身を食うように、この化け物もそうするのだ。捕食は目的ではない。その理由は、他にあるのだ。

「悔しい?あなたにもそんな感情があったのね。それとも怒りかしら」

 再び音が響くと、もう片方の腕も無くなっていた。
 夥しい出血。一気に意識が遠のいて、視界は像を失いかけた。だが最期の時まで、目の前の化け物を見据えてやらないと気が済まない。私は顔だけでも怪性に向けた。

「 」
「はっ、何言ってるのかわかんねーよ。理解されたきゃ、理解される言葉を喋りなさいな。所詮、海の底の貝と同じでものも言えない?」

 ぱんっ
 左脇腹が、円形に吹き飛んだ。血飛沫が増し、意識はいよいよ遠のく。
 ぎりぎりと、何にも触れられていない上半身の右側が、不随意に歪み始める。筋肉にはない異常な動き。膨らみ、或いは伸縮。何物かの巨大な腕に、引き延ばされ、或いは押し潰されるみたいに。人の体はそっちに曲がるようにはできていない。鈍い音が、内部から響く。

「あ、生憎、あの子はもう、あなたを受け入れない」

 そうよ。そう言うやり方を、受け入れないやつはたくさんいる。当時、気付かなかった。近すぎて見えなかったのか、熱を帯びすぎて見失っていたのか、今となっては分からない。だが、今なら分かる。はっきり見える。
 "あれ"は、そっくりなのだ。私を押し込め縛り付け、それが確かに愛の形であったかも知れないが、先回りして与え、常に横から示し、その抱擁が強くきつすぎれば、愛憎に差はなくなる。

「あんた、似てんのよ。そっくりだわ、あのひとと、やり方が。そして、間違ってる」

 ぱんッ
 今度は足が、血煙になって消し飛んだ。躯が横たわり、両腕も足も血溜まりに変わり果てた今、もう起きあがることはできない。それでも私は、ヤツを睨みつける。

「きっと、あの子、あなたを、け、すわ。わたしたち、にんぎょうじゃ、ないのよ」

 ぱん!
 また、軽快な破裂音。右肩辺りがが、消し飛んだ。もう、出血量は増えない。もう吹きだし流れ出るほどの量は残っていないようだった。

「こににくまれながら、きえなさい、ばけものが」

 さらに立て続けに破裂音が鳴り、体の部分が細かく穴だらけになっていく。血を失った肉と臓物が漏れ出し、或いはもうやや遠くの壁にこびりついている。泡を成すように細切れに穴をくり抜かれ、私の体はスポンジのよう。

「こんなグロいせかい、しあわせなもんか。もう、こりごり、ごめんなのよ。」

 私の体は首を残して全て破散した。もう、数えるくらいで、私の命は。

 もう、殆ど見えない目でヤツを睨み付け、客観すれば何とも哀れな捨てぜりふを、血と命とともに、最期、口からこぼしてみせる。
 やれることは、やった。こんな片思いが、あるか。自嘲という言葉では嗤いきれない哀れさを自覚する。でももう、いい。走りきった。

「ぁ んた なん て」

 心残りがあるとするならば 、こいつに突き立てる中指が残っていないことくらいだった。

「およびじゃ ねーのよ ブス」

 最期、一言だけ発しようと思って、どちらの名を呼ぶか迷った。

 さあ、あとはあなた次第よ

「まり」

 そっちが出たか。我ながら、とバカらしく自嘲してやろうと思ったが、その暇さえもらえなかった。

 ぱんっ







 星が一つ、増えたような気がした。
 それがどんな意味を持つ感覚なのか、私には分からない。事実としてそこに、死んだ貝の殻のように転がっているだけだ。その貝殻の色も、形も、私の認識の外にある。私に分かるのは、そのおぼろげな輪郭だけだ。

 ――輪郭。

 頭上の重みにわずか無限分の一ほどが増えたことを感じながら、それが彼女と過ごした時間の一端とさほど変わらないこともまた、私はよく認識していた。
 知れば知るほど、吐き気に直結するのだ。寒気と眩暈、それは恐怖からだ。世界の形はシュークリームとさして変わらない。柔らかな生地の中に、押せば吹き出すような中身が詰まっていて。そしてそれが潰れないのは何か、非常に希薄な気紛れであるとか、それは保たれているのではなく"事故が起こっていないだけ"とかそう言うものであると。
 そういう全く不安定で、いつなくなるとも知れないもの、が、私なのだと、私の隣にある全てのものも、私があると思っている全てのものも、私が信じている全てのものも、私が「こんな風になったらいいな」と想像したそのヴィジョンでしかないとか。その空想をやめたら途端に消えてしまうとか。それを、空想によって作り上げられただけのデータでしかない私達からは一切防ぐことができないとか。
 研究室で計算を指示してきたコンピュータを思い出す。あの中に書き込んであるデータ。磁気なり色素なりに書き込んで、ギリギリまで物理存在としての威厳を残そうとしていたデータは、今や電気が途切れれば電気の力なく再度読み出すこともできない仮想へと追いやられた。電気が失われれば、そのもの揮発してしまうものとて、っひかくてきむかしいから存在している。
 私や、この世界が、所詮その程度のものだとしたら?
 誰かが徹夜で書き進めた小説、一度も保存されていなくて、アプリケーションが落とされたら消えてしまうような、この世界がそう言うものであるかも知れない?
 そう言えば、魔法使いの女は、どういうつもりでコンピュータに囲まれた生活をしていたのだろう。あの女に「実体などあるのだろうか」。もしかして、私の認識そのものが、彼女によって書き上げられた電子データでしかないのかも知れない。

「冒涜だわ」

 ひとりごちた。
 生の、血の通った人間に対して、そんな風に思うなんて。
 私は、気違え始めているに違いなかった。

 気紛れとか、事故でないといった状態を保っている、何か遙か巨大な存在の手足、ううん、もっと小さな、たとえば髪の毛とか視線とかその程度の何かが、私の側で燻っていたのだ。「彼女」は、私の側で虚像を結ぶ、電子データか、シュークリームのタネか、脳味噌の中で偶然つながっている神経回路の状態か、そう言うものの様子を見るためのアプリケーションだったのではないか。

 しかもあれは、私を消そうとしている。穿ち、内側へ侵入して、溶かそうとしている。私を騙し、侵食を悟られぬまま奥へ入り込もうとした。免疫不全、すっかりなりすましたコンピュータウィルス、比喩は幾らでもある。

 そもそも恋とは
 他人に対する免疫不全症候群なのだ
 侵され溶かされ同化する
 それを望むのが恋なのだ
 その恐怖を世界との調和の内に具現したのが
 彼女なのだ
 怪性なのだ
 境界線なのだ

「多足不浄の」

 道行き突然現れた、理解不能の怪事件。
 あなたと二人いた頃ならば、それは格好のデートスポットだった。

「多則不定の」

 でも、「それをひっくるめた自体」が、あなたの正体だったのね。

「私もね。あの女魔法使いも、きっと」

 囚われていたのだ。この世を幻想的な、完全な世界だと信じて疑わない、でも疑心を拭い切れず、諦めることさえ出来ない。ある種脅迫じみた精神の病気かも知れない。幻想が、ここか、どこかにあるという、狂気。
 隣人も、恋人も、全て。

 私は、もう嫌、だった。突き刺さった矢を抜き去り私は出血に終わろうとしている。
 メリーと出会い、一緒の時間を過ごしたあの記憶は、一生の中で最も密度が高い時間だった。それら以外の全ての時間を加算しても、ううん、これからの全ての時間を足しても、全く足りないくらい。
 でもそれは嘘だったから。虚構だったから。存在しなかったのではなく、もっと悪い姿で存在していたことに、私がその認識に及ぶことができなかった、さらに言うと、そのことに「気づいてしまった」から。それが、私の、致命傷。

 私と彼女は巨大な磁石のように引きつけ合い、だが、だと言うのに、私達の間に共通の現実なんて一つもなかった。

 彼女が見る私の姿は、きっと私が見る私の姿とは違っていて、同じように、彼女を見る私が認識するのは、彼女が自覚する姿とも違う。言葉も、想いも、痛みも、時間も、温もりも、全て、「=の両辺」なんかではなくて、ただの「≡の一対」でしか、ないのだ。
 誰が定義したか。それさえも分からない。申し合わせたように心地の良い、虚構の共通認識に疑いを持ってしまったが、最後。私もメリーも、互いの正体を暴き合ってしまったのだ。

 二人の間に共通の事実なんて無かった。

 だから、私は終わらせなければならなかった。終わらせるべきは、彼女か、それとも、私かも知れない。もはやどちらでも構わない。正義とは片方が通らばもう片方は、串刺しになって滅びるもの。どちらが邪悪でグロテスク、冒涜的で、あってはならぬものなのか。
 理由も原因もない。ただ結果があり、それを満足させるための糸車を逆回しするだけだ。生きる意味など、死んだときに決めるしかないようなのと、同じ。

「あなたなの?」

 私はシートにもたれ、隣にいる何者かへ言葉を投げる。23:00。
 返事の代わりのように、ちん、ちん、とシートベルト装着警告が点滅し小さなアラーム音が鳴り続けていた。
 ぐちゃぐちゃとした色合いの胸の中が、泡を噴いて沸き立ち始める。いま、隣にいるのかもしれない。隣で、あのころのような深い碧眼と艶めかしいブロンドで私を見つめ、細くて白い指で私に触れようと腕を伸ばしているのかもしれない。

 でも、ちがうじゃん。

 私は、私達は、互いの独善を貫き通して、その結果として離別を選んだはずだったでしょう。代わりを用意して穴埋めをしたのは、お互いだったでしょう。でもそっか、二人とも失敗したんだ。私は水槽の中から外の世界を望み、メリーは水槽の外から私を覗き込んでいた。別物であることを知ってそれを受け入れ、受け入れきれないお互いを諦めたつもりだったけど、こうして未練たらたら。
 そう、あなたは、もう一度、やり直そうというのね。

 私は車を降りる。
 低木の枝の上に、女(あなた)の姿があった。低木の枝の下に、数多(あまた)の足があった。
 つまり「多則不定の境界線(マージナル)」を、私は痛いほどによく知っていた。脈絡のない区切りの両側にある女の姿と無数の足は、女の姿の側について言えば、忘れられない女の姿そのものだった。

「終わったはずよ、メリー」

 いや、きっと始まってなどいなかった。私は彼女をいつどこで知ったのかわからない。いつの間にか知っていることになっていた。あれに理想の女の子の姿を重ね、甘い時間を過ごした記憶。それが本当だったのか、作り物だったのか、もはや知る由はない。「多則不定の境界線(マージナル)」がこうしてこの姿を現した以上、それは、虚構だったのだ。楽しかった思い出も、分かち合った喜びも、慰め合った切なさも皆、何かもっと大きな存在に創られた、大いなるフィクション。

 れん  こ

 聞こえた音を私は声として認識するのを拒絶した。それを認めてしまったら、私は破滅する。天蓋の向こうで白痴に笑う意思のない化け物。その落とし子に持って行かれて、時の理を踏み外した永劫に脱落するのは、御免だった。
 メリーの森羅万象結界は、そうか、こういう日を予見してのものかも知れなかった。結界で拒絶し最悪薄膜を残した世界との関係性は、致命傷を負った私との差を見れば歴然だ。私はもう立ち上がれないほどに深く、胸に刃物を受け止めた。メリーは、元いた世界へ帰るだけだ。おそらく私との関係を深めなかったことにより、それは大した痛みを伴わない。そも、そんなことを気に留める存在ではないのだ。

 れん こ

「……デート、しよっか」

 車を背にして少し、歩く。さっき少しだけ幅の広い空間に出たから、そこにしよう。きっと、最後のデートになるだろう。
 23:00。私の後ろに「多則不定の境界線(マージナル)」がついてきていた。二つに区切られた空間のまるで「むこうがわ」を歩くように、それは水平に、ある時は垂直に、その区切りが終われば逆様に、私の真横に息が吹きかかるほどの距離に、私の後や横を追ってついてきていた。でも、そういう空間のペアを、彼女が私の体に触れる距離にはギリギリ近づけないように、歩みを進めていく。

 シャワールームで私に煙草を持ってきたのは、メリー、あなただったのでしょう。あのとき、私をどうしようとしたのだろうか。この偽物かもしれない記憶の中では、メリーはお風呂場でスルのが大好きだった。
 そういうつもり?
 愛していたのかも知れない。でも、だからこそ、裏返しの意趣は大きい。それは痛くて出血が止まらない、この刃を抜けばきっと死んでしまうのだろう。
 私は、決別しなければならない。真実をのみ知ろうとはゆめ思わないが、知れた不実を受け入れられるほど私は寛大にはなれなかった。あれは、私のじゃないわ。

「随分前だったっけ。妙な結界を、踏み越えたよね。その向こうには、変な人たちがいっぱいいて、なんか殺されそうになっておっかなかったけど、あなたと二人ならそれも良い思い出だわ。」

 目前まで延びる、蚯蚓のような腕。円筒形の頭には、私の顔が張り付いている。上半身の美少女は失われて、おぞましく不格好な多足生物の姿を取っていた。

「憶えてない?無理もないわ」

 姿を見るだけでも、気が狂いそうだ。"多則不定の境界線"は、やっとその姿を私の前へ表した。
 "多足不浄の怪性"。胸部には黒い炎のようなものが燃えているが、人間の心臓とは全く違う不規則なリズムで脈打っている。境界線ごとに見える足のは人のそれから、巨大な蚯蚓のような形へ変わっていて、蠢く度に不快な音を鳴らす。

「大学のサークル、憶えてる?あなたにはまだ先の話かしら。それとも忘れるほどに遠い過去?昨日の話かも知れないし、明日の話かもね」

 顔の部分に私の顔が、しかも死んだような蒼白な表情で乗っかっており、平面に描いたそれをぺったり円筒に焼き直しただけのそれは、不気味なことこの上ない。その顔が、せめてメリーの顔ならば、幾許かは救いがあったかも知れないのに。

「あなたがもといた宇は、ここではないのでしょう」

 れん こ

 音は、無視する。

 非現実の王国で、私と彼女は記憶の中で長い旅をしたはずだ。

「神社が入り口で、山も、丘も、川も、言葉の通じる人もいれば見た瞬間殺そうとしてくるのもいた。あっちの世界の月にだっていったし、宇宙人にも会ったよね。」

 でも、全部、作られたもの。私達が昔から作り上げて、忘れて捨て去ったゴミ箱。それがあの"境界の向こう"だった。

 だったら、こっち側は?
 同じように、吐き捨てられただけの何かかも?

「憶えてないか。無理もないね」

 私は、人間だったのだ。叩きつけたい、私の尊厳は私のものだと、訴えたい。誰に?誰にだろう?私自身か?メリーらしき誰かか?それとも、私という尊厳を守ろうとする、客観の私にかもしれない。

「私もね、よく憶えてないんだ。ワッフルなんて、一緒に食べに行ったっけ?カメリヤは私の吸ってったたばこじゃないよ。シャワー室でえっちはよく、していた気がするけど」

 それも、「記憶でしかない」。

 客観、か。
 今の私には、「多足不定の境界線(マージナル)」は化け物にしか見えない。多足不浄の化け物を、私はかつて"記憶の中では"愛していた。メリーも、きっと同じなのだ。彼女もまた、ふとした拍子に目を覚まし、私に怪性を見いだすことだろう。
 この魔法を行使できる私は、本当に人間なのだろうか。そも、魔法など使えずとも、隣人と別物であることは万人に共通する事実だ。

 共通の事実など何もない

 それだけが、共通する事実。ならば、私に限らない。メリーに限らない。あらゆる主格は現実として得体の知れない化け物同士なのだ。

 メリー。
 ツメタガイの顎と自身の貝殻は。
 メリー。
 その事実の膜を破ろうとしたのかもしれない。
 メリー。
 境界を飛び越え多態性を全て絡げて自らに同化させようとするあなたの怪性が。
 多則不定の境界線(メリー)。
 境界の消失と同化。或いは恣意的な敷設と認識。
 多足不定の怪性。
 正しいのかもしれないけど、私はそれが

「すきじゃないんだ」

 私は、星にくれてやる"それ"を覚悟して、突き抜ける天への経路を確認した。

 見上げた空には、月と北極星。供物と祭壇は、十分よ。

「さあ、大空魔術を、始めましょう」

 私は指をさし、化け物に向かって術式編織を開始する。
 ヒトの言葉ではない音が、私の口から溢れ出はじめた。コーディングを重ねるたび、喉が焼け、口の中が裂ける。意味は考えない。それを理性にかけると、精神に支障を来す。ただ、法則と公式と反応に任せて、それを吐き出し続ける。漏れ出たそれは煙草の煙のように中空へ消えるが、実際は順次実行されている。
 魔術編織を進めブレイクポイントが設置されると、地面に不規則な光の点が開いた。それらは無数の星々の中からの、秘匿されたメッセージを結ぶ抽出結果。永久に増設が続けられる、星座というグロテスクな呪紋閉路(シジル)を、地上へ縮小投影したものだ。それを結び直せば、集積された魔術回路は尋常ならざる規模をなす。ヒトの伝える星座とは全く異なる。ヒトの語彙には、それの意味する概念が存在しないのだ。私にだって、読み解くことはできない。何かもっと"うえのほう"にいる存在が行う「何らかの作用」を引き起こすスイッチを押すというだけなのだ。

 れん こ

 音は、無視する。

 どちらが不浄だろうか。どちらが怪性だろうか。
 あなたから見れば、拒絶を続け時間を味方に付けた私がこそ化け物なのでしょう。
 私には、メリー、あなたが人智を超えた存在の末端、神と怪性の混合概念だった。
 メリー、あなたには、私がどういう化け物に見えたんでしょうね。
 そう、きっと。メリーはメリーで、メリーの世界を浸食し犯してくる私を、排除しようとしたのだろう。それを上から見て白痴に嗤う超越的存在に、傀儡回されながら。

「(日は沈み、月は出た。朔は夜に時を刻み、星々は我に時を示す。)」

 それでも。指さし示す先にいるのはが、踏み外した(或いは踏み荒らした)者であることに間違いはない。少なくとも、私の法則の支配下においては。

「(刮目せよ。宇と宙を蝕み犯す者。此宙に流るるは非時に非ず、現、此宇なり。)」

 あなたの世界においてはまた、私がこそ踏み外した(或いは踏み荒らした)者であるのでしょう。それは何も私達に限ったことではない。あらゆる隣人、あらゆる存在間、すべての主体について、共通の事実など一つもないことが唯一の真実なのだ。ただ、私達は気付き、秘封倶楽部という活動を通じて全くの偶然にその最奥の根元を知ってしまった。
 その認知を質の悪いものに転化してしまう力に、メリーは魅入られた。そして、私もそうなのだろう。星の魔法、魔女みたいな格好をして、箒を持てばそれらしいかな、なんて思ったこともあるけれど、知れば知るほど、グロテスクな魔力だった。

「(刮目せよ。天・地・間を充溢せしは、其の慾宇に非ず、現、此宇なり。)」

 れん こ

 音は、無視する。

 ねえ、蓮子

 音は、無視する。

 私はその引き金を引いた。愛していたのかも知れないそれを、いつかもしれない時の彼方へ放逐する最後の言霊、彼女を消すとどめの言弾を、放った。

「我、星に依りて、問う。汝、何時なり也?」

 空の星から降り注ぐ、恐らく時をキョウセイする、力の束。地面に記された光の穴を次々と埋めていき、私と、メリーを囲むように魔法閉路を刻んでいく。
 私には、効かない。星の加護を受けているからもあるが何より、私は間違いなくこの時間に生きている者だからだ。対し、メリーは違う。

 れん こ

 ねえ、蓮子
 蓮子、蓮子……

 光の滝が、無数の筋となって地面へ注いでいた。私と彼女の間を区切る、時光の柱。その向こうで、もう一度「あの姿」をした彼女が、私を呼んでいた。泣いている?涙のようなものを流して、私の名前を呼び、手を伸ばす。

 ばすっ

 伸ばした腕が光の柱に遮られ、その先端がこちら側へ転がり込んできた。
 人の形ではなく、蚯蚓の頭とそっくりだった。
 星の意志はそれを「違反」と見なしてすぐさま光を降ろし、焼き消した。


 れん こ

 音は、無視する。

 ねえ、蓮子

 音は、無視する!

 蓮子、蓮子

 音は、無視……いよいよ、出来なかった。

「やめてよ!わたしを、これ以上かき乱さないで!わたしはあんたじゃないの!あんたと私は別物で、一緒にはなれないって、お互いに納得して分かれたんでしょう!?未練がましく、未練がましくこんな形で現れて、私にどうしろって言うのよ!だったら最初から、私があんたの幻想の中で笑ってた内に、すっかり食い尽くしてくれればよかったでしょう!?」

 私の方も、あてられちゃってか、視界が滲んでいる。
 紛い物の記憶でも、感情を掻き立てるには十分らしい。

「でも、幻想は、ここにはないの」

 時光の柱は違反物を焼き消し、巨大な呪印(シジル)を結んだ後、いよいよ「多則不定の境界線(メリー)」から、境界線(輪郭)を奪っていく。よく見えないが、光の中で、自分の輪郭を保とうとおぞましく汚らわしい術を使って新たな境界線を描こうとして、全てを星にかき消されている様に見えた。
 何度も、何度も、自分の姿を保とうとして、かき消されて失われて、何度も、何度も、自分の境界線を保とうとして、それでも打ち消されて、悲痛な「音」をあげながら、それは星の灼熱に焼かれて存在を元の宇へ強制送還されようとしている。

 あれはなんだか、彼女に抗って自分を保とうとしていた自分のようにも見える。
 いや、メリーに出会わなくても。人はみんな、ああして、壁を作って自分を象り、それを溶かして分かり合う。私達はそれが下手くそだっただけかも知れない。

 れん こ

 音は、無視する。もう、絶え絶えだった。

「弾幕は」

 パワーだぜ。
 なんだか柄にもない言葉が脳裏に浮かんだ。私が言いそうにもない言葉、どこかで聞いた台詞だっただろうか。

 「大空魔術.時問時答(order bye)」。私が唯一使える、原始魔術(プリミティヴ)――別名を、"魔法"という。星の、魔法だ――だった。

 音は、聞こえなくなった。







 メリーとの時間は虚構だった。メリーという女の子は、いなかった。別の誰かだったかも知れないし、本当に存在さえしなかったかも知れない。どちらでも関係ない。嘘なら最後まで、塗り固めて生き埋めにして欲しかった。でも、そうはならなかった。お伽噺はそこで終わり。

 元の宇に送還された「多則不定の境界線(マージナル)」。さっきまでそこにいた、愛しい人だったかも知れないものに、名残惜しい愛しさを吐き捨てる。

「さよなら」

 まだ、23:00。あれは、何のつもりで私のところへ来たのだろう。何がしたくて、私の恋人だという記憶まで作り上げて。私は望まれるままにその思惑通りに振る舞い、想い、達した。私の意志ではないとはいわない。私の意志とは、そうして作り上げられたものだったから。

「……戯曲の役者ね」

 達観であったし諦観であった。感嘆であったし悲嘆であった。
 空想上の存在だとは撫で笑われるそういった者達と、私達に差などないのだ。
 知ったところで諦めるしかない。驚いたところで悲しむしかない。残る事実とは、私は「メリーらしき何者か」が私をハメたということだけだ。
 未だに膨張を続け描かれ続けるこの大空魔術の閉路が本当に完成したとき、この世はどうなるのだろうか。魔術と言うには余りにも唯一的で再現不能。目的も手段も主体者も分からない。北極星は、ただ空に浮き冷え冷えと私を見下ろしている。

「次の開演は、いつ?」

 誰が何の目的で建造を続けているのかも分からない宇宙と魔法に、私は今夜、もう、疲れ切ってしまった。
 私はその場に倒れ込んで空を仰ぐと、北極星からの答えはすっかりなくなっていた。

 音は、
 声は、

 「あれ」はすっかり、時間の果てへ消え去ったのだ。

 夜が明けたら、魔法使いの女に会いに行こう。出来事を報告して、終わったことを伝えよう。彼女は、なんと言うだろう。薄気味悪い女だけれど恩人でもあるし、今は、あんまり悪い気もしない。

「私じゃなくても、あんたが本気出せば、相手できたんじゃない?ははっ」

 会ってから言うべきこと、ここで言っても仕方がないことを、何故か、全く沈黙した星空へ、投げた。ほんのすこしだけ、重くなった空。増えた星は?

 そうしてみてから私は、はたと気がついた。
 確かに送り出した筈のあなたの声が、今は。

 随分長いこと、時間を捕らえていた。私は、「多足不浄の怪性(メリー)」がここからすっかり失われたのを確認してから、久しぶりに時計の針を手放した。

 23:01。

 化け物は、私だった。
 メリーが、彼女の法則に私を引きずり込もうとして、私は、彼女を私の法則で排除した。それが出来る私もまた、化け物なのだ。お互いに、気狂えていたのだ。私を求める彼女の目に、私はどんな化け物に映っていただろう。それでも伸ばされたあの腕は、蚯蚓のようなおぞましい脚は、何のつもりだったのだろう。

「はあ。クスリでもキメた気分だわ。とうの昔に、断ったのにサ」

 私はきっと、気狂えているのだ。原因は、知れている。あの狂気じみた青空が、この世のものとは思えぬ整然、継ぎ目のない贋物の空が、ああも我が物顔で私の頭上に浮遊しているのを目の当たりにしてしまったせいで、私の精神が幾何かおかしくなったのに違いなかった。







 偽り、だったのだろうか。この手に残る、温もりも。
 植えつけたのは、彼女が言うように、私ばかりだったのだろうか。
 記R憶は、時K間と共にある。
 私の中にある温かなものは、私が作り出した幻K影。
 時K間の伴う記R憶であれば、それは、世界の幻K影と、言えるのではないのか。
 確かに温かかったあなたの体温が、それでも偽りだったなんて、私には思えないのに。







 キスをしたら、まだワッフルのクリームの甘さだった。
 「部屋なんてどれでもいいよ」「でも、お風呂がおっきいのがいい」なんて抱き合いながら、キスしながら、部屋を選ぶことに視線を割くのが勿体なくて蓮子だけ見つめながら、選ぶようで全然選ばないまんま適当に押したボタンの部屋へ。
 餓えて餓えて、仕方がなかった。他の男とも、女とも、こんな風なセックスへの飢餓感に囚われることは、ない。
 私は、蓮子――彼女もまた足取りがはやい――の手を引いて、吹き抜けを廻るように登る階段の踊り場で、彼女の横に並ぶ。

「蓮子。すき。だいすき。」

 今度はキスしなかった。キスで、言葉が濁っちゃいそうで。でも、本当は違う。

「私もだよ」

 違う、その"すき"じゃない。ほら、言葉は無力で、それに侵された感情は賞味期限を過ぎてから蓮子に届く。私は階段の踊場に立ったまま蓮子の腕をとり、自分に巻き付けて胸の中に潜った。
 蓮子はキスをくれようとする。でも、私は拒否した。それは、これからベッドの中で唇がなくなっちゃうほどするつもりだもん。今は、一瞬だけ、そっちじゃないのが欲しい。

「どしたの?……もしかして、ほんとはえっち、したくなかった?」

 ずるずる、と蓮子の胸に頭を擦り付けるみたいに否定する。

「蓮子と朝まで、野獣みたいなせっくす、する」

 蓮子は子供に呆れるみたいに一つ小さな溜息をついて、それでもぎゅうと抱きしめてくれた。

 とくん、とくん。
 蓮子の、音。
 とくん、とくん。
 すこしだけ、違う、蓮子の周波数。
 とくん、とくん。
 聞こえる、蓮子のはやさ。
 とくん、とくんって、私とは違う時。

 その音に、私自身を重ねて一緒にリズムを刻みたいのに、私のは少し遅くて、どんどんズレていっちゃう。このまんまじゃイヤだって、ダメだって思うのに、私の時間はちがくって。
 でも蓮子、あなたには、あるじゃない。その狂いを調律する汚らわしくて愛おしい力が。何よりも、私に「その魔法に犯して欲しい」と思わせてしまう魔力。その魔法にすっかり染めきってもらえないことが、悲しかった、淋しかった。
 私は頭だけじゃなくって、顔中を蓮子の胸に埋め直す。ファンデがついちゃうのも、今は気にしない。蓮子も頭ごと私を包んで、二人が二人であることを恨むみたいに押しつけてくれる。

「境界線みたいな、カラダが、邪魔だね」
「でも、ふたつだから、気持ちいいんんだよ、セックス。はんぶんずつだから、合わさったらキモチイイ」

 ピース、合ってないけどね、女同士じゃ。
 そういって笑う蓮子の顔を私は何となく見ることができなくって、抱いてくれている彼女に甘えるみたいに腕の中に沈みっぱなしになっていた。
 そのうちに、自分がなんだか妙な高ぶり(いや、消沈?)に振り回されていたことを自覚する。私なんでラブホの階段で暴走してるんだろ。やだ、もう。
 私はべりべりガムテープを無理矢理剥がすみたいに、ようやく蓮子から顔を離す。離れた顔を、彼女は掴んでのぞき込んできた。

「れん、こ」
「なあに、寝起きみたいな顔して」

 う。私、泣いちゃってた?

「めざめは、おうじさまのキス」

 が、いいな
 そう言い終える前に、唇が溶けた。舌が絡まり、唾液が混じり、吐息は交差した。

「さっきいやがったのに」
「だって」

 もう一回。今度は上唇を甘噛まれて舌で随分口の中を可愛がられた。蓮子の舌が私の口内を愛撫する度に、膝から力が抜けて、蓮子にもたれ掛かってしまう。私に止めを刺した鋭いナイフを、ずるり、私から引き抜くみたいに、舌が私の口から去っていく。返り血みたいな唾液が、私の口の周りにも彼女の口の周りにも。引き抜かれた舌から滴る唾液も、私がすっかりやられてしまった証。ぽっかりと寂寞を残した口を、開けたまま阿呆みたいにしてると、蓮子は私の胸を舌から掴み上げるみたいにして、首筋を舐めてから耳元で囁いた。

「早く部屋行かないと……我慢できずにここで剥いちゃうよ」
「せっかち」

 せっかちなのは、そういう私のあそこの方だった。



 部屋に入るなり、シャワーどころか落ち着く暇もなく、またキスしてきた。私も仕返しする。さっきより全然荒々しくって、愛し合うって言うより奪い合うみたいなキス。お互いのカラダに真っ赤なマークを刻む。一カ所だけじゃない。いくつも、いくつも、お互いが、お互いの所有物だと名前を書くみたいに、マーキングしていく。
 荷物も服も玄関に放ったまま、立ったまんまで、キスしたい場所を暴くように脱がせて、壁に押しつけ押しつけられしながらキスを繰り返す度に、服ははだけて、脱げ、下着姿になり、全裸になった後もお互いのカラダを舐め、口付け、吸い、噛んで回る。

「れん、こ」

 先に降参したのは私の方。笑う膝で体重を支えきれなくなり、壁によしかかったまま股を開いて、唇烙印を一身に受けるだけの肉マネキンになった。彼女の口が私のカラダにサインを刻む度に、私はあられもない声を上げて感じ、左手は常に彼女のカラダのどこかにふれ、右手は自分のまんこをまさぐって粘る水音を鳴らしている。
 彼女のものだとカラダに刻みつけられる度に、快感が小フレアを起こして飛んでしまいそうになる。私、カンジ過ぎっ。

「まんこ汁、すごっ」
「だ、だってぇ」

 いやいやと頭を降るけど、どんどん溶けていく体と理性。玄関に入ったばかりなのに、キスされて甘噛みされ、私は手マンを止めることができず指は三本アソコをかき回し、蓮子のくれない刺激を自分で、満たそうとしてしまう。そうしたさもしい自慰も彼女の狙いかも知れない。私は、彼女の手でイかないと、欲求不満が解消されないまま際限なくセックスに餓え狂っていくのだから。

「ベッド、いこっか」

 こくん、頷いてみせるけど、私はそのままぺたんと床に落ちてしまう。
 もー、しょーがないなーwなんて笑って私をお姫様だっこする蓮子。さすが私の旦那様、きゅんとくるツボ心得すぎ。腕を伸ばして首に絡めて、ベッドまで移動する間に何度もキスする。
 私は体中痣だらけ。赤い斑点全てが蓮子の所有物タグだと思うと、ぶるっ、快感で身が粟立った。
 ベッドに私をおろした蓮子が、ほっぺたをつねってくる。

「ちょっと重かった」
「だ、だってしょうがないじゃない、足腰立たないほどキスで溶かしたの、蓮子なんだよ!?」
「歩けないくらいトロトロになってるのは、いいの。重かったってゆってるんだよ」
「ほ、ほんとに?」

 やばい、太ったかな。そう思ってると蓮子は「重いのは、特にこの辺かな〜!」って笑いながら、私の胸をぎゅうぎゅう揉んできた。勿論乳房もあちこちに蓮子の所有印が刻んであって、その赤い跡に蓮子の指が触れる度に、蓮子のモノにされたみたいな被虐がぞくぞく背筋を走る。

「も、もうっ、男子の目が刺さってるみたいで気になってるんだから、やめてよ」
「私の目はいつでも刺さってるよ?」

 冗談めかしてもにもに私の胸を揉む蓮子だけど、その指遣いは間違いなく悪戯ではなく愛撫。全体を押しつぶしたり、指を埋めたりして圧迫したと思うと、優しく持ち上げて撫でたり、乳輪の輪郭をなぞったり乳首を摘まんで強く刺激したり。変におっきくて好きになれない自分の双肉から、蓮子に与えられる刺激は爆発するみたいに体全体へ波及する。

「や、だ、蓮子の触り方、やらし……い」
「やらしいこと、してるんだよ。ほら、下品なおっぱいが、興奮してフル勃起♪」
「っひ、ぐっ」

 歯磨きのチューブを捻り出すみたいに、蓮子の指は私の胸の先端を抓って潰した。その刺激は痛みとおなじだったのかも知れないけど、今の私には崩れたトロ顔とアヘ声を強いる催淫マッサージだ。

「んぉぉオおおっ♥」

 乳首付近の神経が、下半身に直結したみたい。さっきまで自分でホジっていた肉穴は、触りすぎた白桃みたいに汁を垂らしてぐずぐずに崩れていた。

「おっぱい、出来上がってるね。またおっきくなったんじゃない?大きさと感度が比例してるみたいで、ほんと、このおっぱいって、"性器"だよね」

 ベッドに投げ出されて沈んでいる私に覆い被さってくる蓮子。私のぶよぶよだらしない乳肉の先端で、そこだけが固く主張する乳首へ指に加えて唇と前歯を使って容赦のない加虐を重ねてくる。

「んっヒぁ、んぅ、そ、そうしたのは蓮子でしょぉっ?はぁ、ッ、蓮子とつきあい始めてから、おっぱい4カップもあがって合うブラほとんどないんだからっ!き、きいてる、にょぉぉオおっををおおっッ?♥おっぱい、わラしのおっぴゃい、は、れんこがしょだてたんらあからぁぁッ♥れんこのせいっっ♥れんこのせいなんらからァァっ♥」

 蓮子が私の胸を虐めるたびに、私はまるで電気に打たれながら水中で溺れるように四肢をのたうあせて体を弓に反らせた。断末魔とさして区別の付かない声が喉から漏れて、蓮子はそれが御馳走だと言いたげにその攻めをやめることはない。

「ふふっ♪カラダ中、私のキスマークだらけ♥コレでしばらく、他の男とも女とも、寝れないね?」
「寝れないよぉ、こんな、"私は蓮子の所有物です"って印カラダ中につけて他の人となんて、ねらんないよぉぉっ♥ォっっっほヒ♥らめ、もうチクビらめぇぇっん♥」

 そう言った瞬間、蓮子がわたしのタプ乳に、思い切り平手を張った。

「〜〜〜〜ッッッッッッッ!♥♥ほっッッヒ、おっぱ、ひぃぃいいっッ♥」
「うそつき。どうせ"わたし蓮子のモノなのに他の男にイかされてるっ♥"とかいって腰振りまくるんでしょ?わかってるよ、色狂いの考えることなんて♪」

 イった、いまイったよぉ♥牛乳肉にビンタもらって、マゾイキ、キマっちゃったのぉっ♥
 蓮子の加虐プレイを前に、私はすっかり雌豚モード。わかってる、蓮子分かりすぎだよぉ♥

「ぁ、ぁぁ……そ、そうかもぉっ♥それ、すっごい、イイかもぉぉッ♥蓮子、なんてこというのっ♥それ、しちゃう、わたしぜったいそれしちゃうっ♥♥単位欲しさにブサオス教授誘惑して、剥かれたら蓮子のキスマークだらけで、浮気で燃えちゃうからって、キモメン教授に完全雌媚びして、ちんぽつっこまれて、蓮子の名前叫びながらアヘりまくるのっ♥想像しただけで萌えるっ♥吐き気するほど嫌いな雄汁を、蓮子のだって想像しながら妊娠欲求高ぶらせてイきまくるのっ♥♥♥」

 こぉの淫売♥って怒ったのと笑ったののはんぶんこずつみたいな顔で、蓮子は乳首を本気で抓って噛みついてきた。甘噛みじゃなくって、ほんとに食べ物食べる時みたいに。抓り方だって、爪立てて肉に食い込むように。ぎりぎりって痛い。痛いけど、それが「蓮子が私を求めてる、私を自分のモノにしたがってる強さ」って思うと、子宮が疼いた。
 私はあんまり怪我とかが治るのが早くないから、今日のセックスがきっと一ヶ月くらい後を引く。痕が消えなくて、お風呂とかでこの痣を見たり触れたりする度に興奮知っちゃって、その場でひとりエッチ始めちゃうのが続くんだと思う。それでそれを見つかって、さすがに痕が付かないように気遣いながら、またエッチするの。殆ど毎日、ううん、朝と夜の二回かな。ああ、でも夜は二回だったり三回するし、朝だって気分が乗っちゃったら一限サボって二人でサカっちゃったりするし、大学でもトイレですることあるし……四六時中か。

「もぅっ、マクラできなくて単位落としたらどうするのよぉ」
「勉強しろwww」
「勉強とか蓮子と別居しないとムリよぉ。絶対エッチしちゃうもん」
「あーそっかあ」

 そっかぁじゃないよう。蓮子は何で単位落とさないのよう?そんな風に頬を膨らませていたら蓮子は大学のことなんてどーでも良いじゃん、って、ターゲットを胸から股間へ移した。

「ゃ、あ」

 胸もすっかりだらしない形になっちゃって恥ずかしいけど、アソコはもっと恥ずかしい。みったくないほど肉ビラがはみ出て、少し黒っぽくなってきた。手淫のせいもあるけど、蓮子の攻めが激しくてだもん。それに、毛の処理はするけど、元々濃いめだから、それもつらい。
 そう伝えると、蓮子ってば。

「汚い方が燃えるよー♪汚いったって、不潔と違うし。エッチなだけだし。エッチ大好きなのは、私も好きだし♥そんなこと言ってたら、私がもっと汚くしちゃうから!」

 なんていってキスの雨。

「乳首も黒くなるほどいじったげよっか」
「ぅふぁぁアんっ♥や、だあぁっ♥」
「でも、おまんこ真っ黒だけど乳首ピンクの方がやらしーよね?♥」

 私は真っ黒い乳首も大好きだけどね、て言って、何処から取り出したのか吸盤式の乳頭吸引器。とっちゃだめだからね、って言って胸の先端にそれをつけた。陥没乳首の緩和アイテムだけど、私にとってはバイブとかローターとおんなじ。つけられて乳首に継続的な刺激を与えられると、目の前が白くちかちかするほどの快感が、ずっと続いてしまう。

「い、いや、それ♥それえ♥感じるのずっとすぎて、バカになっちゃうからだめぇぇっ♥」
「だいすきだよねーこれ。でもちょっと、乳輪収まり切らなくなってきたかな……成長しすぎだよこのおっぱい♥」

 蓮子は嬉々とし、私の胸の先端に付いたふたつの吸盤状の器具を弄ってくる。きゅぽん、と音を立てて外れても、何度も先端に吸い付かせて、私はその度に快感電流に背筋を反らせて涎を垂らす。
 上の口が垂らした涎は唇に吸い取られて、下の口から漏れた涎は指先で掬われて、淫核と乳輪へまぶし付けられる。

「ほんと、ローション要らずなくらい出てくるから、見てるこっちもやらしい気分になるよ。んちゅっ♥この味は、そーとー興奮してるな?」
「そんらろ、あたりまえりゃんっ♥ちくひよわいいの、しっへるくひぇに♥んォっ゛っ♥」
「んふふ、私も我慢できなくなってきた♪」

 蓮子がいそいそとジャケットとブラウスを脱いで、綺麗な脚からぱんつを抜き取った。気が急きすぎだよ、蓮子。スカートとソックスそのまんまで、ノーパンにブラなんてマニアックすぎぃ♥
 蓮子にそのつもりはなかったのだろうけど、中途半端に着衣してるその様が、無性にエロティック。

「するよ」

 返事を聞きもせずに、横たわった私に膝立ちで跨がってきた。熱っぽい顔、少し乱れた息。我慢できずに自分のブラの中に手を入れて触りながら、舌なめずりで私を見下ろしてくる。スカートの前が、盛り上がっていた。うわ、立派……♥

 私の視線を股間に感じたのか、スカートの中がぴくんと揺れて、蓮子の腰がゆらゆらくねり始める。

「……ほしい」

 って、言わせたいんだよね?
 私はもう何回もイって巧く力が入らない手を伸ばして、スカートの上からその膨らみを握る。

 うくっ、て、声を漏らして、少し苦しげな表情で腰を退きかけた。でも、逃げるのをやめて私の手にそれがすっぽり包まれると、今度は一転して腰を前へ前へ突き出す動きに変わる。
 はっ、はっ、て犬みたいな細かい息。目をきゅって閉じたり、うっすら切なそうに細めた目で私を見たり。手の中のいちもつは、スカート越しなのに熱く脈打ってるのが伝わってきた。

「はやく、ほしいよ」

 そう言って、スカートの上から、蓮子のそれをさする。私は彼女の真下で濡れヒクおまんこおっぴろげって無防備だっていうのに、蓮子ってば一瞬だってキモチイいのをやめたくなくって、私の手から逃げられないでいる。ちらりと見えたスカートの裏地は、よくあるキュプラ。きっと先走りでぬるぬるになったおちんちんにへばりついて、手扱きはきっとむず痒く焦れったい快感に違いない。
 蓮子は切ない顔のまま、ブラの下できっと固くなってる自分の乳首をこねながら、全裸の私が続けるスカート扱きの光景を、口を半開きにして息を刻みながら見ている。

「ねえ、ほしいよ。それとも、私に"どうにかシて欲しい"?」

 私が言うと、蓮子は、元から熱っぽく赤みがかっていた頬を、とまとみたいに真っ赤にして目を見開いてから、俯いてきゅっと目を閉じた。
 さっきまでの攻性はどこに行ったのかしら。このヘタレご主人様具合が、蓮子の可愛いところなのだけど。

「ね、どうして欲しいの?このまま続ける?それとも、やめる?」

 スカート扱きをやんわりゆっくり続ける。時たま爪を立ててあげるけど、布越しで、しかも張り付く裏地は、その刺激もむず痒いはずだった。隔靴掻痒ってやつの、えっちなバージョン。堪え性のない蓮子はすぐに音を上げるだろうなあ。

「つづ、けて」
「うん。じゃあこのまま続けるね」

 蓮子の言葉通り、私はやんわりゆっくり、たまに甘く爪立てるだけのスカート扱きを続ける。焦れる蓮子は、非難がましい視線を私に向けながらも、むず痒い快感に翻弄されて荒い息から一筋、口の端に垂れる涎。

「このまま続けてって言ったの、蓮子よ?」

 私だって、早く欲しいのに。手の中でどくんどくん脈打ってるあっついおちんちん、はやく、はやくぶち込んで欲しいのに。今一瞬はリードできてるけど、挿入されたらまた蓮子ペースになっちゃうくらい、おちんちん欲しいのに、蓮子のヘタレ、ヘタレっ♪

「ぁ、ぅうっ……」

 切れ切れの息、私の言わんとすることをもう蓮子はわかってて、でも踏ん切りが付かないみたい。蓮子自身の腰のくねりが激しくなっていく。どうにか現状のスカート扱きでイケないかと神経をおちんちんに集中するみたいに目を閉じていた。
 私がそうはさせるもんかと手を離したり、爪先で先をくるくるするだけにしたりして、刺激が強くならないように調節すると、蓮子はいよいよ口をひらいた。

「っずるい、よ」
「ズルいのはどっち?このままっていうからこのままにしてたのに、勝手に強くしようとするなんて」
「そ、んな」

 とどめかな。私はきゅうっとおちんちんを握って、蓮子が欲しがる刺激をあげる。でもそれは一瞬だけで、またすぐに撫でるだけの生殺し。それを何度か繰り返すと、蓮子の顔がころころ――快感にだらしなくとけてる顔と、切なげに眉を顰めてる顔と、私を非難するような顔と、そして快感を与える私へ甘えるような媚び顔と――変わっていく。
 可愛い、可愛いよお。私の手一つで、たったひとつの手つきで、感じたりとけたり、私を恨みがましくみたり、ころころ変わる蓮子。可愛い、食べちゃいたい……♥
 その回転がどんどん速くなって、蓮子自身がわけがわからなくなっただろうタイミングで、堰が切られた。

「……て」
「してるよ?」
「く、」
「なあに?聞こえないわ」

 きゅっ、と今までで一番、でもきっと射精に欲しがってる刺激には一歩及ばない強さで、おちんちんを握ってあげる。っちょっとだけ、そのまま亀頭の膨らみに指をかけてあげた。
 蓮子は両手で顔を覆って(隠し切れてない耳が、真っ赤になってる)、そのまま口がぱくぱく。そしてもうややも経たない内に陥落して、叫ぶみたいに、言った。

「強く、もっと強くシて!」
「何を?」
「おちんちん、もっと強く」
「意味が分かんないわ、ちゃんと、日本語」

 うう、と言った後、鼻を啜る音が聞こえた。

「蓮子」

 私は空いた方の手で蓮子の顔を暴く。ぼろぼろ泣いてた。鼻水まで垂らして、真っ赤なのは、泣いているからだけじゃなくて、本当に恥ずかしいのだろう、その言葉を言うのが。
 いまさら。さっきまであんなに私を責め立てて、エッチな言葉のがんがん言ってたのに自分となったらこれだ。でも、そんな豹変が、可愛い。

「してよ、してよお!いじわるしないで、おちんちんもっと、強くしてよ!スカート越しじゃなくて、直接、手でゴシゴシしてよお!イかせて、手コキで、おちんちんイかせてよお!!」

 号泣するみたいな顔で、私の手コキを求めてくる蓮子。ぐちゃぐちゃになって、メイクなんか崩れちゃって。

 蓮子の手をぐってひいて、私に覆い被させる。頭を抱いて、キスして、うわ、めっちゃくちゃに吸われてエッチすぎるよそのキス♪

「んもう。私なんか全裸でさ、さっきまで蓮子にくちゃくちゃにされてたんだよ?こちとらお預けで、お腹の下がじんじんなんだから」

 イくならココでイってよ

 私が言うと、スカートのまんま、私の股間に先端をこすりつけてくる。

「ちょっと、童貞中学生でもそんなことしないってば♪蓮子とセックス初めてじゃないのに、何回ヤってもこうなんだから♥」

 私は体の間に手を入れて、スカートをたくしあげる。うわ、あっつい♪カウパーぬるぬるおちんぽ、すっごくビクビク、あっつい♥

 蓮子はもう、お預けを食らって我慢した末、やっと「ヨシ」を貰った犬みたいに、ずぶん!と挿入してきた。さっきまでの愛撫が無かったら許さない感じだったけど……んー、蓮子なら許しちゃうかな。

「ふ、はァっ♥」

 入れた瞬間、恍惚とした声を上げる蓮子。それを追いかけるみたいに、私の方も下半身から快感がせり上がってきた。私の方こそ、待ちに待っていたおちんぽ挿入だもん、

「キ、たぁッ♥蓮子のおちんちん、ぬぷって、キたぁっ♥」

 奥まで、イッキ♥先っちょが子宮のおくちにズドンって♥快感電流背筋を上って脳味噌に直通なのっ♥きもちいっ♪
 蓮子は蓮子で、鬼気迫った目で私の全裸見て、だらしなくなってるおっぱい痛いくらい握り締めて腰をズコズコしてる♪にちゅにちゅ粘っこい音が二人の股間から響いてきて、耳から快感増幅っ♥
 はーはーっ、蓮子の息遣い、もう、射精間近なんじゃない?即ハメ後いきなりラストスパートみたいなピストンで、ゆるゆるオマンコの襞が、ぞろぞろ引っ張り出されて、奥まで突っ込まれて、また引っ張り出されて♥いやらしいよ、私も蓮子も、どろどろやらしいっ♥

「ふっ、フっん♥は、ハふ♥んっ♥っ!♥ッツ♥」
「蓮子、ラストスパートなの?挿入したばっかりで、もうアクメラッシュなの?♥」
「っ、ん♥だって、だってぇ♥おまんこの中、キモチいっ♥とろける、ちんちん溶けるのっ♥ぬるぬるマン汁まみれのおまんこにズボズボきもちぃっ♥」
「蓮子のおちんちん、最高っ♥奥まで、もっと奥までくちゅくちゅしてっ♥発情子宮、欲しがってるのっ♥子宮口パクついて、ザーメン受け入れ態勢っ♪んお、っほォ゛ォん゛っ♥がつがつキタぁっ♥緩んだ子宮のお口に、種付けおちんぽがっつん♥がっつん♥きてるぅっ♥ほヒぃっ♥しゅごい、蓮子の繁殖欲しゅっごぃ♥子種注いで私の卵子をレイプ準備してるっ♥」
「のぼってきてる、いまのぼってきてるよっ♪卵子レイプ要員、おちんぽのぼってるよっ♥っは、んっ♥子宮の中こぽこぽザーメンで溺れさせちゃうからっ♥妊娠前からボテ腹確実なくらい、いっっっっぱい、射精しちゃうよ?♥んっふ、ちんちん食べられて、射精蛇口壊れちゃうだからぁっ♥」
「おっ゛ホ、ヒぃぃィ゛っ♥すごい、それっすっごいよぉっ♪させて、蓮子のザーメンで溺死しちゃいたいっ♥あっ、本気っ♪本気種付けセックス♥蓮子のおちんぽ、奥でぷっくりびくびく♪してる♪今から想像妊娠っ♥ちんぽズボズボされてるうちから想像妊娠で♥だらしないおっぱい、乳噴きしちゃう♥ぞくぞくキテる、アクメ信号ゆんゆん出っ放しで、もう妊娠許可でちゃったぁっ♥乳腺活性化しちゃうっ♥ミルク即噴きアクメ、キちゃう♥んひ、んひぃぃんっ♥」
「一発で妊娠しなくても、二発でも三発でも、何発でもコッテリザーメン注いだげるからっ♥ゼリー状瞬着床剤、おなかいっぱい注ぎまくっちゃうからぁっ♥」

 高速ピストンだった蓮子の腰振りが、いっぱついっぱつが深くじっくりの突き入れに変わる。抱きついて伝わってくる蓮子の体が緊張で強張り、そして、かくん、と一瞬脱力する。

 どぶんっ!

 音も響くほどの量、彼女の言の通り、すっごく粘っこい液状が奥にびるびる注ぎ込まれていく。

「おオっほ♥キタぁっ♥レイプ汁っ♥卵子レイプ汁っ♥いっこしかない私の女種、何億匹の蓮子が寄ってたかってレイプなのぉっ♥っぎ、ひ、ひぃっ♥しゅっご、量っすごっ♥子宮のそこにビチビチ当たって……こんらの、いっぱつでにんひんかくぢつらよぉっ♥およめしゃん、私、蓮子のおよめひゃんかくれいっ♥」
「んっふ、ふぅっ♥射精、すっごい、搾り取られるっ♥おまんこのうねうね、くいしんぼうオマンコにぱくぱく食べられて、射精促進っ♥目の中ハートになってる妊娠欲丸出しのお嫁さんに、子宮口と鈴口のキスっ♥汁ですぎ♥性器キスで汁出過ぎちゃうのぉっ♥でも、でも、お嫁さんだから、いっかいじゃ許さないからっ♥これから毎日種付けセックスらよ?♥まいにちまいにち、中出しOKの和姦だかんねっ♥んふ、んっふぉ、ん♥想像したらっ、交尾三昧の毎日っ朝起きてセックス、昼間も人目を忍んでセックス、夜はいっぱいセックス♥想像しただけで射精欲高まっちゃう♥射精したままピストンで、イキ重ねちゃうよぉっ♥」
「そ、そんなに種付けっ♥蓮子ってば、繁殖欲強すぎ♥セックスは子作りだけの行為じゃないんらからっ♥愛を育むぎしきなんらからっ♥妊娠専用セックスは、ある意味冒涜なんらからっ♥蓮子と毎日ズコズコ、愛の結晶練成しちゃうっ♥」

 蓮子の言うとおり、半端ない射精量は、おなかの中をたぷんたぷんにしてる。勢い余っておちんぽ抜けたら、どぶぶっってオマンコ射精しちゃうし、蓮子も抜けた瞬間に私の体にびゅーびゅーするから、あたり一面性液まみれ♥おまけに私のおっぱいはイキ急いでミルク噴いちゃってるし♪
 私の上で、すこし動きが鈍り始めてきた蓮子。そうはいっても、射精量もピストン回数も、半端ではない。射精開始は早かったけど、それからずっと、噴出しながらの腰振りはベッドの上を汁まみれにしていた。

「ま、だ、出る?」

 私の上で硬いままのおちんぽ。もう一回入れようとしたけど、蓮子は「も、むり……」って。疲れてどっさと私の横に倒れてしまった。

「ごめ、貧血……射精気持ちよすぎ……♥」
「私も中出しされて何回もアクメっちゃった♥」

 息が荒いまんま、抱きついてキス。ちょっと、生臭いのは私の顔にかかった精液のせいかな。

「今日の蓮子、何かすごかった。可愛かったし、激しかったよぅ♥」

 そういって、もう一回おでこにちゅってしたら、照れて顔を背ける。

「でも、ほんとに妊娠したら、どうすんの?」
「えっ、そんなこと、いまさら、なの……?」

 蓮子のなんかお預け食らった子供みたいながっかり顔。逆に私は嬉しくって、きゅーっ!ってわけの分らない声を出して蓮子に抱きついてしまった。

「もっかい!ね、もっかい!ねえ、蓮子ぉっ♥」
「っちょっと、ムリ……」

 マジで勘弁、って泣きそうな顔してるから、ゆるしたげることにした。

「ね。今何時?」
「23:00。っげ、休憩の時間過ぎてるよ。ここのホテル、コールなしで宿泊料金にするんだよなあ」
「……じゃ、やっぱり朝まで」
「もーむりだってばー!」

 がば、と布団の中で丸くなる蓮子。もうほっといてと海の底の貝の様に。
 暫くすると、すうすうと、細い寝息が聞こえてきた。ちょっといくらなんでもひどいんじゃない?って思ったけど、なんだか可愛いから、許す。

「おやすみ」

 布団の中に潜る蓮子の様子を見て、私はなんだか、すごく切ない気分になっていた。布団の中にいる、たったさっきまでセックスしてた、蓮子。
 初めて会ったとき、この世の全てが嘘みたい、だなんて言っていた蓮子。
 そんな蓮子が、今でも、いとおしい。
 どんな姿でも、いとおしい。
 蓮子の指が五本じゃないこと、蓮子の目が二つじゃないこと。蓮子の肌がずいぶんとざらざらしていることや、蓮子の声が人のそれではないこと。そんなものは別に、今に始まったことではない。
 だって、蓮子、私はあなたが好きなのだもの。
 それでも蓮子が、恋心故に私の法則を侵すというのなら。私にも立たなければならない立場がある。

 あなたは全てが嘘みたいだと言うけれど、この気持ちだけは、偽りじゃない。私を動かす何か大きなものが、たとえ操りの結果だとしても。

「れんこ、あいしてる」







 呼んでいる、呼んでいる、遙か彼方からのその声が。
 呼んでいる、呼んでいる、隔り世分かつその向こうから。

 その音は、
 その声は、

 私がそれを見てつい嘘っぽいなと思ったことについて、地面より無数に生え延びるビルによって歪な四辺形に切り取られたこの青空の光色素分布を、ままに例えば画家の描くカンバスへと適用したところを想像してみれば、それが自己弁護に、あるいは無実を訴える証拠になるだろうと思う。
 恐らく懸命にに均一さに努めてせっせと刷毛を走らせ、平滑に一様な一枚であることを再現してようやくその無機質でアンリアルな様は出来るだろう。それとも水槽へ垂らしたインクが全く沈殿しない様、もしくはあれは、巨大な工業製品であるのだ。コバルトブルーに向けて予め濃淡を殺した樹脂製の平板、そう言ったものならば、あのような冷え冷えと凍える生気のない、いわば想像と創造の負の側面のみ圧着した合板の如き空が、ああいった青に染め上がるのも合点が行くと言うものだ。
 そんなものが私達の頭上には、まるで永遠を謳うように、じっ、と浮かんでいて、私達不完全なものを蓋をした宇宙から見下している。

 その音は、
 その声は、

 今は傍、すぐ傍にあるようで。

 いいえそれはむしろ、私の中から、今は私の頭の中から響いている。

 私を呼ぶ声が、遙か彼方からのそれのように反芻し、頭蓋中で幾度も反響している。

 れん、こ

 呼んでいる。私の名を呼んでいる、その声が。

 今は頭の中から響いている。

「だして、あげないと」

 頭の中にいる彼女を出してあげるには、そうか、頭に穴を開けなければね。

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