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【慧音_永琳】ライフライクライ

夜伽に投稿しました。

ライフライクライ

2015年度のライブごっこ(毎年へたのよこずきな楽器演奏でライブの真似事のようなことをやっている)
の練習期間中に、気分が煮詰まってSSを書き始めてしまったのがこれだったりします。

まあ契機はそういうことなんですが、
いろいろと思うところが重なったので書いてみたというところもあります。

日常生活でインプットしたいろんな考え事についてSSにすることも多々あるのですが
いつもはもっと噛み砕いてばらばらに分解して体に取り込んでからそうすることが多いです。

ただ、今回は妙に嘔吐感が強くて、消化する前に吐き出してしまったという感じです。

本編のあとがき部分には書いていないですが、
もっとも影響を受けたのは、
「デザイナーベイビー」というドラマです。

ただ、投稿したのはこのドラマの最終回を迎える前で
当SSはこのドラマに対して
「影響を受けた二次創作」と「先の展開の予測語り」の中間
みたいなSSになっています。

なので、あとがきに書かないで、本文中にそのワードを入れました。

投稿直後にはなんだしっくりと来なくて、投稿そのものに不満感があったのですが
ドラマの最終回を見たときに
ドラマが面白かったと思う以上のカタルシスがありました。

「ドラマの完結によってこのSSが完結したな」
という感覚につながっていたからだと思いますし
それは書き始めた経緯とこのSSのスタンスについて、
狙い通りだったことを示しています。

(もちろん"それなりには"噛み砕いて破片にしてから東方の世界観にフリカケているので、
このSSとドラマの関連性を、テーマなどの俯瞰的な観点以外から見るのは難しくなって・・・いるつもりです)


ドラマとは別に
この頃、
同性カップルに対して夫婦と相当の関係として自治体が認めるという出来事があり
そのニュースが報じられる中
ほとんどの人が歓迎の声をあげていたのですが
私はなんだか違和感を禁じえなくて、そのこともSSに放り込みました。

あと、
「NEXT 未来のために」というドキュメンタリー番組の
「会えるはずなかった私の子どもへ」という回。
これも相当にSSへ影響をくれました。



私は同性愛について許容する立場ではありますが
(若い頃はなんとなくそんな界隈にいたりいなかったりした事実もあります)
なんとなく、
例の自治体の決定に対して祝福の声を上げている人たちの
その祝福の声が安っぽいものに聞こえて仕方がなかった。

なんていうか、
「善意の安売り」と
「マイノリティへの共感を表現することによる自己陶酔」
のにおいがぷんぷんしてはきそうだった。

お前ら、
同性愛のこと、
「ものめずらしくて」「面白くて」「フィクション作品でよく見る甘美な関係」
とか何とかって程度にしか思ってないんじゃないの。って。
それは「許容」ではなく、まして「共感」などではなく、
実態は「善意を装った無関心」でしかないのでは?

「俺はストレートだから関係ないけど、まあそういう人がいるならいいんじゃない?」
っていう「無関心」に対して「善意の表現」を恩着せて「祝福」と成す。

当然、そうしたムーブメントの中から時代のうねりが生じることもあるのかとは思いますし
そうしたものでさえ後押しの力として求めている同性愛当事者にとっては
実態なんてなんだって構わないのかもしれません。

でもなんだか虫唾が走った。

走ったんだけど、
だからといって、この虫唾の発生源が正確に何なのか
そうならないためにじゃあどんな対案があるのかということに対して
私は答えがもてていません。


そもそも私は何から何までアンチメジャーな思想に走りがちで
大切なものは大衆化を避けてアンダーグラウンドの紳士協定の中で
ひっそりと守られてリテラシの高い人の間でだけ愛されていてほしい
と思いがちです。

私は古いタイプのオタクで
漫画アニメゲームといった文化についても同様に考えていて、
今の「cool japan」と銘打ってメインカルチャーとしようとする動きを
育った山林に火を放つ行為だと感じていたりする節があって

だからもしかすると
同性愛というものについても同じ価値観にとらわれているだけなのかもしれない、
ただ、広く一般に認められてしまうことへの形のない恐怖を感じているだけで
「善意の形をした無関心」だとかなんだとかなんて
結局その思想に理由を後付しただけのものなのかもしれない、
とも思っています。

やはり答えはもてていません。
たぶん死ぬまで出ないんでしょうけど。

だから、SSにしてみました。


まあ、だからなんだ、という話ですが。

下らん自己語りに過ぎないSS、これもまあいつものことですね。


以下、アーカイブ
-----------------------------------------------------------
 プロジェクタは、顕微鏡からの像を受け取り、壁に向かってそれを映し出している。映像の解像度自体は良いのに、距離であったり反射材の具合でどうにも高精度と言える画像にならないプロジェクタ独特の映像は、どことなくその映像が虚構の向こう側にあるものだと思わせるものだ。

 もう、下半身が期待して疼いていた。濡れるほどではなかったけれど、いつでも対応できると私に伝える様に、揺れている。私は上半身裸で、下はショーツだけ。部屋の中は明かりが落されていて、プロジェクタの投光と顕微鏡の周辺だけが明かりを宿している。独特の冷却ファンの音、他に音はないはずなのに光を遮り舞う微細の埃が、ちらちらと音を立てているよう。

 プロジェクタの映像を見ながら、私は机の中でパンツを下ろし、椅子の上で股を大きく開いていた。
 指先を舐めて、濡れた指先であそこに触れる。あそこはまだ濡れてはいないが、すこし熱を帯びていた。唾液を塗した指先でなぞると、期待に鋭敏化してるのがわかる、ひゅくんと感じるものがあった。

 とく、とく、と鼓動が早まっている。これからすることを、私は知っているから。それが気持ちのいいことであることも何度も体験しているし、今ここで稼働している設備は、そのために電源が投入されているのだから。
 壁に映し出される映像には半透明の球体が映っているだけ。それを確認して、私は顕微鏡の接物レンズが覗き込む調整能スライドグラスの上へ、横にある別の容器から採った液体をスポイトで一滴、垂らした。カバーガラスを落としてから、壁の投影映像を見る。

 半透明の球体と、たった今垂らした液体、それは。







 猫。
 いつも思うのは、本当に猫の声のようだということだ。
 まあ、だから何だということもないのだが。
 今回に限っては、猫を鳴かせる必要がなくて済んだそのことを、有り難がっておこう。

 私は人肌に湿したタオルで優しく拭いてあげてから、それを見せた。

「生まれましたよ。元気な女の子です」

 こういう時に、誰でも聞いたことのある科白で聞かせるのは、母体のためでもある。
 母親は、少し疲れを残した笑顔で、赤ん坊を抱いた。難産だ、母子の命に関わるとのことで私が駆り出されたわけだが、72時間もかかった出産だった割には、産まれてみれば私が殊更何かをしてやる必要もない、元気な赤ん坊だった。
 私は傍で一連の出来事を見ていた父親に、何の問題もないこと、それから直近に必要なことを告げる。育児に必要なものは、大体実家にあるということだったし、父方母方共に祖父母も健在だというのだから特に心配はないだろう。
 二、三日の入院をして様子を見てもよかったが、早く家に戻ることも母体にとって良い場合もある。ストレスのありそうな家庭環境と言う様子もない。時間はかかったがこれ以上問題が起こることはないだろうことを説明し、私がこの母親が拒否しない限りは翌日には家に戻るべきことを勧めると、父親は笑顔でそうすると決めた。

 赤ん坊を取り上げたことは別に一度や二度のことではない。取り上げるだけなら難しいと思ったことだってない。一から十まで、いや十二まで、やり方は知っている。難しいことじゃない、人を殺すのに比べれば。人を生き長らえさせることの方が、人を育てることの方が、余程に難しい。

 事後はうどんげに任せても問題なかろうと、教育も兼ねて彼女に一任した。人を殺すために造られた兵器が、産後の世話をするというのを、人は皮肉と嗤うだろうか。それでも私は、彼女にはいずれ私が何一つ指示をしなくても人を救う医師になって欲しいと願っている。それが贖罪のつもりなのか、単に趣味の悪い教育なのか、私が決めることではないし、うどんげ以外の誰が言うことでもない。うどんげが決めることだ。

 大丈夫、命を作るのは、殺すのと同じくらいに、簡単なのだ。
 難しいのは、命を育てることの方。

「てゐも、うどんげのこと見て覚えておくといいわ」

 そう言うとてゐは、はーい、と返事してうどんげの後をついていく。うどんげには、産後の母体に何をすればいいのか、何に気を付ければいいのか、知識としては教えてある、覚えのいい子だ、何度か経験すればこれはモノにすることだろう。特に医療行為を伴うものではない、てゐという手も付けておけば、特に心配はない。
 後はこの子が面倒を見ますから、何かあれば何なりと言い付けてください。と、ナース姿のうどんげとてゐ(別に普段着でも構わないのだが、私の趣味だ)を指し、頷いた父母を見て私はその場を後にした。

 少し、疲れたな。
 陣痛の感覚が縮まってから72時間も出てこないとは、なかなか母親想いの子に育ちそうであるが、産む母親にしてみれば大変な時間であっただろうし、手伝った私もそれなりだ。
 私は白衣を脱いで手を洗いながら、溜息をついた。

「ご苦労様です」
「いいえ」

 手を拭いたところに現れたのは、守矢の巫女だった。
 そうここは、永遠亭ではない。お腹が大きくなってからどうもよくない兆候があったりと心配があって、母親の希望で守矢神社で私が取り上げることになったのらしい。生まれてきた子の大きな鳴き声と来たら、そんな心配をよそに、杞憂を思い知らされて苦笑いするほどだった。

「まさか八坂の神様や諏訪の神様に、させるわけにもいきませんから。あなたは、経験がないでしょうし」
「すみません……勉強します」
「それは、あなたが子供を産んだ後でいいの。産む前の娘が知ることじゃないわ」

 私以外にも人間社会には優れた産婆はいることだろう。それに私も別に、助産という「仕事」が嫌という訳でもない。

「毎日、と言われると困ってしまうけど、場合が場合なら、いつでも使って頂戴。その内、あの子にさせるつもりだけれど」

 あの子、とはうどんげのことだ。

「ありがとうございます」

 乾坤の神をして子を取り上げさせる訳にはいかないと言ったものの、この巫女だって、同時に神様でもあるのだが。やはり人であれば、自らの体で覚えてから、知ってほしいものだ。

 崇拝され尊ばれると同時に人間の生活からは幾らかの距離を置いて扱われる博麗神社と違い、守矢神社は民衆の生活に浸透し密着して受け入れられていた。どちらが信仰の在り方として正しいかと言うことはない、意識に深く入り込んでいるのなら、形式など問われないのだから。あの母親が出産の手助けを求めてきたことも、それに応じたことも、守矢神社の布教活動が上手くいっていることの証拠なのだろうが、そんなことより私が気になっているのは、先から、いや、もっと前、私がこの話を依頼されたその時から、この巫女神がずっとどこか陰のある表情を続けていることだった。

 元気いっぱい、というタイプの娘ではないが、こうした陰りを見せる暗い娘でもない……と、思っていた。
 様子を見るに、境内で、守矢の名の下に助産を行ったのは初めてのことらしい、それが気に入らないのだろうか。神社に対してどうあるべきとかこうあるべきとか、頑固さを聞いたことはないのだけれど。

(……深入りすることでは、ないでしょう)

 私は、どうしても虚ろに見えがちな巫女の表情を横目に見ながらも敢えて問い質すことではないと思い直し、ここをうどんげとてゐに任せて永遠亭に戻ることにした。







 産まれる、という言葉が受動の形をしていることに、今の私は気味の悪い作為しか感じていなかった。まるで子供は自らの意思で母親の胎内から這い出て来るのではない、勝手に作られて意思を与えられ無理やり子宮から引きずり出されるのだとでも、言いたげではないか。
 普通はそうは考えるまい。生命の神秘をこのような邪悪な思想で見てしまうだなどなんという冒涜だろうか。たとい子供が能動にてこの世に命を授かるのでないのを肯定するにせよ、そうした「出生の責任」を誰かに問おうだなどと言うのは、余りにも歪んでいるだろう。

 円く刳り貫かれ光に満たされた世界は、まるでこの星のようでさえある。月から見た時のこの星はまさにこのような美しい円であったし、ここから見る月もそうだ。ほんの小さな小さなそのなかに、もっと小さな弱弱しい者達がひしめいていた。でも、これは薄い膜に覆われた弱いばかりの者達ではない。コレはもっと尊いものである「べき」だ。本当に尊いもので「ある」かどうかなどは誰にもわかるまい、それは意識の問題でしかないし、それが出来ぬのなら法の問題である。

 正確に言えば私は医者ではなく薬剤師であるのだが、医者の真似事くらい、そこいらの医者よりもよほど巧くやってのける自信があった。必要に迫られて医者のようなことをやることが重なる内、そんな差はどうでもよくなったのだ。それは私を頼ってくる患者にとってもそうであるし、それを連れてくる藤原もそうであるし、何より私自身がそうであった。勘違いがあったわけではない、ただ、その境目と言うものは今円抜き窓の中に見ている薄膜の様に、区切りとしてみれば明確、しかし客観すれば酷く脆いだけのものだったのだろう。
 どこからが医者でどこまでが薬師なのか、だから、そんな境界に意味はないのかもしれない。ただ、それを踏み越えて越権行為を続けている以上、仮に99%の成功を保った末の失敗であったとしても、それを救い上げる網は存在しない。これは、法の問題ではないのだ。
 こうなるのであれば、月にいるときに面倒臭がらずに心臓外科医か何か(適当に難しければ何でもよい)医者の資格も取っておけばよかったと思う。医師免許など私にとっては紙切れでしかない、法律上は素人であったとしても実際には本物の医者以上に出来る自覚はあったし、結果もその通りに導き出されていたのだから。
 大層に難しい資格と言うものであってもそれは法律上のものでしかない、免許など技術を担保するものなどではなく単に意識ひとつと机上判断の基底でしかないという皮肉は、しかし、この期今の私に及んでは皮肉ではなくなっていた。ここは月ではない、月のほうはこの地球を射程内には捉えてはいないのだ。
 ここには医師法は無く、だから私がこの地球で医師免許なしに医療行為をいくら行ったところで誰も罰しはしない。なればこそ輝夜とこの星に、流刑の体を繕ってやって来たわけだが、この地で私が患者たちに外科手術なり投薬以外の処置を重ねるにつけ、そんな紙っぺらを、欲してしまうようになっていた。

(ただ、何かの責任にしたいのでしょうね)

 この星の人々からは、感謝こそされても恨まれることはないようだった、仮に手遅れで助けられなかった患者の遺族からであっても、だ。だから、私は何も気に負う必要なんかなかったのだ、実際は。それでも本当に、立方体の心理の角隈に残る無形不安の残滓をこんな丸い理性スプーンでは灌ぎ切れない、そんなふうなもどかしく苛立ちさえ覚える不安を吐き出してしまいたくて、溜息が肺と気管と口の一直線で渋滞をなしていた。もっともっと鋭い理性が備わっていれば、こんな不安は掻き出してしまえるというのに。
 もし私が医師免許を月にいた頃に取得していたなら、手術をしようが輸血をしようが、それを気の支えに出来たかもしれない。もっとたくさんの患者を殺したとしても、避けようのなかった事故だと気に負うことももしかしたらないかも知れない。そうして、紙っぺらに責任を押し付けて、私は医者でいられただろう。







 月社会における「命」と言うものに対する印象は、この地球でのそれとは大きく違っていた。
 かつては月もこの地球と同じように、仕組みがわかりそうでわからない、手が届きそうで届かない、だからこそ誰もがその解明を望む、そして同時に畏敬の対象であり、神を感じさせる崇高なものであったが、今は違う。月では命は作り出せるものになっている。まるでブロック遊び。誰か気に入った人がいればそれが相手でもいい、自分一人でだっていい。昔は目には見えるのに操作できなかった生殖細胞と言うものを自在に操れるようになってからは、「誰とだって」子供を造れる。
 地球の神話の記述にある「自分の腋と交尾して子をなした」「足と手が結婚した」などと言う記述、あれは月の科学者が漏らした月の生殖技術の一端が当時の地球人の理解の範疇で伝わったものである。月では、生殖に関わる生命科学の技術は、その当時からとうにその段階にあった。
 それは今でも変わらず続いていて、月社会では女同士で結婚するのも何の問題もない。女同士で婚姻を結ぶ際に問題になるのは究極的には配偶だけだ。他は法制度の問題であって、いくらでも後手で整う。月では実際に、女性同士の夫婦は全く珍しくもない。男性の数が少ないのは月でも同じであるので、それは比較的レアケースだが、それも問題はなかった。
 ゲノム編集など全く常套であり、作り出す子供の形質は恣意的に操作できる。子供に対して様々自由な操作を行えるようになった結果、逆に個体の個性は失われ、極めて均質な群体がなす社会になっている。王族貴族については奇跡的に血統と言う盾が効果を持っているせいで多様性をとどめているが、一般庶民は工業製品の様に、等質の命で埋め尽くされていた。そうした状況がより一層王と貴族による世襲支配の背景となっていることに庶民は既に気付いているが、もはや手遅れのところまで至っていた。
 均質で安定した生命、それを良しとするか危機とするかは、月でも長年にわたって議論が続けられているが、答えは出ていない。事実、女性圧倒多数の力を帯びて世論の抑えがきかない、生命科学技術の利用に対する抑制政策は一部の科学者が提唱しても、自分たちの権利を脅かすものとして瞬く間に圧殺されるのだ。







 気分を陰鬱としていたのは守矢の巫女神ばかりでなかった、かくいう私の方こそ、そうであったのだ。仕事は仕事と私情を排除していたのもあるし、実際に母親が赤ん坊を生む場に立ち会うなら、理性よりも深い場所の喜ばしさが先行するものだからその時には感じないのだけれど、こうして一切を終えた後にどっと降りかかってくる。一人で永遠亭に戻ってきたのは、これだからだった。

(私に、まだこんなことを悩むだけの若さがあったなんてね)

 自分はかくいう月の支配者側の命である(あった)、まだ、一般人とはずいぶんと違う身体と、一般庶民ではアクセスを禁じられた遺伝子部分についての優位性を保った体で生きている。だがそのことは逆に、考えなくてもいいことを考えてしまうきっかけを自分に与えているようだった。

 今回の助産の一つ前の話ではあるが、あるお産を手伝ったのをきっかけに、私は随分この件に関して弱っているようだった。
 稗田の子を、取り上げたことだった。
 阿礼乙女と言う人間のようで人間ではない特殊な生物の出産と死を目にして、月でもう凝り固まって動くことはないだろうと思っていた自分の観念は、自覚よりも遥かにあっさりと揺らいだ。

 稗田という家の人間、正確には人間とは異なる種なのらしい、‟阿礼乙女‟という生き物の生態について、私が慧音と一緒にいるようになったことは、知るいい契機となった。むしろ慧音から聞かされるまでは、稗田とは全き人間の血族なのだと思っていたくらいだ。

 ただいま、小さい声で言って戸をくぐる。
 家には輝夜と慧音と藤原がいる。藤原は毎朝早い、もう2時間もすれば起きる時間であることを考えれば静かに寝かせておきたかった。輝夜は下手をすると"まだ"起きているかもしれないが。
 だが、私が廊下を歩いていると、襖が開いてひょいとこちらを見る顔がある。慧音だった。

「お疲れさま」
「ただいま。あら、来ていたの。」
「うん、や、永琳の顔見たいなと思って。長引いてるようだから先に寝ようかとも思ったんだが、その、寝そびれたというか」

 慧音は、阿刀ちゃんの子育てのために稗田の家にいる筈だった。といっても、しょっちゅうここにも来る。差し詰めここは「おじいちゃんち」のようなものだ。私もちょくちょくあっちへ行くようになっていた。
 だが、見たところ阿刀ちゃんは連れてきていないみたい。

「あら。ほったらかしで来たの?」
「黒田にお願いしたんだ」

 まぁそれなら確かに心配はないけれど、なんでこんな時間にわざわざ。

「ふうん。なぁによ、顔見たい、なんて。機嫌でも取ろうっていうの?」
「機嫌取りってわけじゃ……いや、そうかも、しれないな」
「ぇえ?なにそれ」

 私は笑って聞いたが、慧音のほうは少し渋い顔を見せる。

「その、あの件があった、ばかりじゃないか。それでまたすぐに、助産だなんて」

 あの件、と言われて思い当たるのは、慧音と稗田の子を取り上げたことだった。その稗田阿刀ちゃんは、今は自宅で大人しく寝ているだろう。

「別に、仕事だもの、私情でどうのこうのなんてことはないわよ。慧音だってあの翌月も普通に歴史編纂、していたでしょう?」
「まあ、そうだが」

 慧音は優しい、思慮深さもある。平気、なんて私の強がりはやっぱり嘘で、少しは揺らいでる。それを見抜かれたのか、それとも単に彼女自身の後ろめたさがそうさせたのかは、わからないけど。でも、そういう気遣いは、純粋に嬉しかった。

「でも、ありがと。ご機嫌取りは、大成功よ」
「そういう言い方をされてしまうと、なんだかな」

 長かったじゃないか、でも、その顔を見るに失敗と言うことはないんだろう?
 慧音は奥に引っ込んで、向こう側から声を投げてきた。

「ええ、お母さん想いの元気な子が生まれたわ。そら産まれるわよと言ってから、72時間もお母さんに甘えていた」
「脛っ齧りになるかな」
「そういう慧音は、心配?」
「心配と言うか、わからないな。どうすればいいのか。」

 まあ、子育てになれている人なんて、そう多くない。そのくせやり直しもきかない。こんな理不尽もないことだけれど、それは命と言うものが、個ではなく全としての試行錯誤でしか改善されないことを示している。この手で、都合よく変えることは、命の連鎖のシナリオの中には組み込まれていないのだ。
 仮に、一匹一匹が弱弱しく、だから群れて生きる鳥達を、一匹でも生きていけるほどに強くしたとしたなら、それは何か予測不能の影響をもたらすのではないか。蓬莱の秘薬も、その一例かも知れない。

 だが、生命神秘は、見事にそれに歯止めをかけてきた。私でも、想像できないことだったが。

「精一杯やる以外に、ないのよ。技術と言うか、方法は誰かに教われるけれど、大切なのは、慧音の心持の方だから」
「結局、永琳が育ての母親みたいなことになるのだろうな」
「でしょうね。」

 阿刀ちゃんにとって、私は半分だけ母のようなものだった。半分、とは、慧音が私に母親役の全権をゆだねるのを気兼ねしているからだ。
 彼女は一人で育てたいのらしい、が、個人的にはそれはやめさせたかった、片親など、いいことはない。一人でやろうとしているところに無理やり私の存在をねじ込んで、私はそれを家の中全体に拡大させている。うどんげもてゐもお姉ちゃんの様にしてくれているし、輝夜に至っては「えなにそれ、じゃあ私叔母さんみたいなものじゃない、いやよそんなの」とか言いながらも何かかにかと手伝ってくれる。稗田家の執事も、甲斐甲斐しいのだというから、あの子は幸せかもしれない。

「まあ、私もこんな小さい頃までしか育てたことはないけれど」
「えっ、そうなのか。その子はまだ月にいるのか?」
「さあ?死んだんじゃない?」
「死んだ、って穏やかじゃないな……」

 私は出産したことがある。月にいる頃、政略絡みだった。相手は皇族の男だったが、7歳で私の手から離れた。その後その子がどうなったのか知らない。知らされていないということは、ロクな結果にはなっていないのだろう。八意家も旧帝の側近一族だ、権力者の家が大体そうであるように、八意家も綺麗なばかりの家ではなかった。
 いとも簡単に、命など造れてしまうのだ。純粋な性衝動以外の何かをトリガとしてつくられた命は、ほぼ例外なくロクでもない結果になる。政治の道具になる。戦争で兵士として使用される。愛を語るための軽薄な証拠に利用される。そこに、どんな価値を求められるか。命のあるべき発端。誕生か、死、と言った「点」ではなくて、何かのプロセスをこそ命の起点とみるべきとすれば、それは子育てや教育かもしれない。でも人格形成という点では正しいと思うが、生命そのものの土台を決めるのには少々仰々しいと、私は考えていた。発生と言う観点でいえば、もっと、シンプルである筈だ。
 そう、だから純粋な性欲。肉欲に直結した愛情。セックス。
 私は、爛れているか。

「昔のことなんて、どうでもいいのよ。特に、月にいた頃の話なんてね」

 余り思い出したくないことが多いのは確かだが、それよりは、ここでの暮らしに邪魔なことが多すぎるからだ。こんな風に、余計なことも、考えてしまうし。

「頑張ってね、"パパ"」
「そう茶化してくれるなよ、おんなじことを因幡も言っていたぞ」
「子供をつくった責任って、あるのよ?善い悪いじゃなくてね。」
「……わかってる、つもりだよ」

 慧音は、台所から柚子茶を出してきた。

「ありがと」

 でもま、"仕事"が問題なかったのなら、よかったよ。これを飲んだら、帰る。夜泣きを寝かしつける回数を黒田と競っていてな、アドバンテージを握られたくない。
 私が、ちょっと疲れた体を座布団の上にのっけてちゃぶ台で柚子茶を啜るのを見て、慧音はそう言った。

「そっか」

 そういえば、慧音が稗田の家で阿刀ちゃんを育て始めてから、慧音と一息つくのは、久しぶりな気がした。子供が生まれたら、妻を取られたような気がして嫉妬する夫がいると言うが、ちょっと、わからないでもなかった。もっとも、私の子ではないのだから、それは少しは正当性を持っている気もする。

「すこしは、ゆっくり、していったら?」

 "ものほしそうな"声になってしまっていたかもしれない、すぐに察されてしまって、慧音は優しく少しだけ笑って、じゃあそうするよ、と答えた。

 柚子茶が空になったので慧音の分の湯呑も一緒に持って行き流しで濯いでいると、後ろから抱きすくめられた。慧音の大きな手が、腰をなぞってお腹を回った。
 吃驚して湯呑を落としたり、なんか、しなかった。そうしてくると思っていたし、ちゃぶ台を立つときに、ちらりと目を流したのだから、誘ったのは私だったのだから。
 腕が名残惜しそうに私に吸い付きながらも、一旦離れる慧音。私は湯呑を置いて、ゆっくり、ゆっくりと手を拭う慧音が何かをするのを、それとなく待つように、わざとらしくゆっくり。視線だけ慧音に向けると、慧音も私の方を見ている。

 出しっぱなしになっていた柚子茶の瓶を開けて、慧音はその瓶の口に指を入れた。大きく抉るように指に取った柚子茶を私の口元へ寄せてくる。私は迷いなくそれを口に含んだ。
 舐めるのは、柚子茶じゃない。口に含み、舌と唇を使って柚子茶味になった慧音の指。一本、二本、甘酸っぱく少し苦みのある味、慧音の手の温もり。私の口の中を優しく指で混ぜながら、慧音は私を抱き寄せる。慧音の腕の中に納まるのに、口から指を抜かなければならないのが酷く名残惜しかった。舌先を伸ばして、やだ、はなれたくない、って慧音に見せつけてやると、彼女も私を抱き締めるしぐさを急いたよう。
 もう一度後ろから抱き締められる形になって、私は慧音の手を取って私の唾液と柚子茶でてらてらと光る人差し指と中指に舌を這わせた。指の節をなぞるように、指の股を舌先でほじるように、爪の隙間を舌でこそいで、音を立てて唇で吸い付く。二本とも一気に口の中にいれたら、唾液をいっぱい塗して口の中でもう一度指を嘗め回した。私の口の中で、唾液で溶かして柚子茶をつくるっていうくらい。
 めいっぱい指フェラしていると、私も気分が高ぶってきてしまう。慧音にはペニスが付いてはいるけど、ペニスのない女同士であれば指は立派な女性器を刺激する、女の持つ唯一の男性器。だから指フェラって、ちゃんとしたオーラルセックスなのだ。私は慧音の指へ奉仕することに、没頭する。
 ただ、手を舐めているだけなのに、すごく興奮する。手は性器だ、と言ったが、全然性的ではないものを性器として扱うことへの倒錯も、もしかしたら含んでいるかもしれない。だってこの手は、普段は寺子屋で子供たちに手習いを教えたり頭を撫でたり教科書を持ったりしている、何気ない日常で何のこともない食器を運んだり服をたたんだり、阿刀ちゃんを慈しんだりしている、手だ。それを私は、性器と見立て、まるで変質者の様に嘗め回しているのだ。そうしている自分に、それをしたいようにさせたままにしている慧音に、私と彼女の関係性に、私は興奮していた。指フェラをしながら、股を濡らしている。入り口ももう綻んでいた。
 慧音の指は悪戯っこで、愛撫を続ける私の舌を意地悪く挟んだり、逆に撫でつけたりしてくる。でも、喉の奥まで入ってきたり、粘膜に爪が突き立ったりはしない。慣れてる……のは、主に私がこれが好きでよくしているからだった。柚子湯を指に取って私に差し出したのも、私とのプレイであるのを含んでのことだろう。

「永琳」

 指フェラを続けてどんどん高まっていくと、慧音は私を後ろから抱き締めた姿勢のまま、耳元で、低い声で言う。びりびりひびくやつ。鼓膜だけじゃなくて私のうなじやおなかの底、それに子宮までが、慧音の低い声でじくじくと震わされる。

「いい?」

 ここまで私を燃え上がらせて、いいもなにも、あったものじゃない。下半身は緩んでいたし、胸も頭も、そのことでいっぱいになっている。
 答える代わりに私は慧音に向き直り慧音の手を取って、今まで自分の口に入っていた指を、もう柔らかいビラが粘液を絡めるそこへ、運んだ。さっきまで私の口を優しく弄んでいた慧音の指は、今度は私の下の口を遊び場に切り替えた。

「ここで、して」

 慧音は私に覆いかぶさり、手で私の陰唇をなぞりながら、強く唇を吸ってきた。

「けい、ね」

 たったさっき、赤ん坊を取り上げてきたのに、こんな風に性行為。何だか後ろめたいけど、それもまた気持ちが高まる。
 柚子茶の瓶を蓋も締めないままほっぽりだして、慧音は私に「もっと甘いもの」を求めているみたいだった。当たり前、私だって、慧音に甘蜜を差し出して溺れさせる気まんまんなのだから。

「疲れてるときにえっちなスイッチ入っちゃうと、変なテンションになる、よね」

 私はそういいながら、キッチンシンクの縁に手を付いて、慧音にお尻を向けたまま脚を広げる。スカートを、焦らすみたいにゆっくり、ゆっくりたくし上げて、背中から振り返るように流し目をあげると、慧音の目はぎらついて、私の少しずつ上がっていくスカート、いや、その下から現れる雌の肉を睨み付けている。
 スカートをたくし上げきって、パンスト姿の下半身を慧音に晒す。太腿からお尻のラインを、わざと手首をくねらせながらなぞって、もう半歩、股を広げる。

「めちゃくちゃ、してほしい、キブン」

 手で輪郭を描いてヒップの丸みを強調しながらパンストの縁に親指をかけ、する、する、とこれも不自然にゆっくりと下ろしていく。慧音の脚が踏み出して、私が開いた脚の間に、太腿を入れてきた。来る、食べに、来てる。オスが、メスの肉を、食べに。
 濡れた、自覚するほど下半身がきゅっ、ってなって、自分でもわかるくらい、濡れた。

「はあっ、重くて、邪魔、ね」

 私は編んだ髪を解く。右へ左へ揺れて鬱陶しかった長い編髪が、極薄の織物生地のように波を打って広がった。その流れの上を滑るみたいに、肩越しに慧音を見ると、目が合った。可愛い、欲情したオスの顔。つい、唇を舌で舐めてしまう。潤した唇を強調するみたいに口の形だけで、声に出さないまま「きて」と言ってやると、慧音の大きな手が私の腰肉を掴んだ。

「そのまま、もう、準備、できてるから」

 私はそう言って、パンストを下ろそうとすると、後ろ向きに手を取られた。シンクの縁についた左手と後ろに引かれた右腕の状態でバランスを失って、シンクの縁に上半身の体重をすべてかける形になる。股の間には慧音の脚が入り込んでいて、上手く身動きが取れない。もう、慧音に自由を奪われていた。
 ぞくぞくする。服従させられて、貪られるこの感じ。ぱんつの内側に感じる湿り気は存在感を増し、吐息は熱くなる。私の腰に残っていた慧音の左手は、ぱんつとパンストを一緒に、乱暴にズリ下ろしてくる。ここからではよく見えないけれど、たぶん慧音の下半身はもう露わになっていて、‟照準‟を合わせているに違いない。だってほら、慧音の荒い息遣いが、ここからでも聞こえてくるのだもの。

 いつもは理性的な慧音が、私を抱くときは獣になりきる。いつもは優しい慧音が、私を抱くときは容赦のないオスになりきる。その変貌の原因が自分のカラダ、自分と言うメスのせいで、そしてそのオスの獣性に自分のメスが巻き込まれていくことが、快感だった。
 掌の上で遊ばせて、そのおもちゃが自分のカラダ。オスとセックスするのは、支配欲と被虐の相反する両方をくすぐられるのが、何よりも気持ちがいい。そして慧音は、まさしくそれをくれる、最高のパートナーだった。

 慧音に右腕を捻り上げられて、上半身は後ろを向くしかない。そうして見えた慧音の、切羽詰った切なそうな苦しそうな、頬は赤く染まって目の潤んだ、でも激しさと残忍さも重なり合った、つまり欲情した顔が、私の心臓をブン殴って来る。ドクン、興奮のあまりに爆発的に高鳴る鼓動、その拍動の度に臍の下あたりが捩れ上がるみたいにうねって、涎を垂らしている。後頭部がじんと熱い痺れを覚えて、頭でっかちで思考ばかり先行する私には、それが性欲の核なんじゃないかと思える。本当にそうなのかどうかはわからないけど、そうやってじりじりするうなじから後頭部に気を取られていると、剥き上げられた下半身の茂みとハミ出した肉ビラに触れるものがあった。それが慧音のオスの象徴であることはすぐにわかる。私は尻を突き出すように慧音に押し付け、開いた股の膝を少しまげて腰を落とし、肉棒と雌唇を密着させた。そして腰をゆっくり前後にくねらせる。

「焦らさないで、慧音ぇ……♥」

 焦らしているのがどちらなのかはナンセンスな問題だ。どっちももう、早く生肉の摩擦を望んでいる。こうなっては焦らしている方も焦れているし、焦らされている方も焦らしている。
 慧音が腰を押し出して角度をつけてきた。おっきい。慧音の凶悪なメス殺し肉棒の背が、ユルんだ肉ビラに押し当てられている。前に、後ろに、私が揺らす腰に合わせて慧音の腰は動いていた。重なっていく、動きと、想いと、性欲。

「はやく、慧音、いれてっ」

 堪らず漏らした声は、半分鳴き声みたいになっていた。これ以上焦らされたら私、慧音に誘い受け出来なくて、逆に押し倒して独りよがりでぱこぱこしちゃいそう。違うの、慧音とはもっと、お互いがいいの。
 でもっ

 理性のギリギリ、のところで、私は唐突に満たされた。

「ほぐっ♥」

 うわ、なんか変な声出ちゃった。でもヤバイ、いきなり7合目くらいまで、昇っちゃったぁ。
 その凶悪な太肉が、一気に私の膣を貫いた。求めて捩れてた膣肉がいきなりこじ開けられて、子宮口のとこまでミッチリ。
 上半身が上手く動かせなくて、でも上から覆いかぶさるみたいに密着してきた慧音の肩を後ろに引かれた腕で抱くみたいに、くっつく。結合部は後背位、でも相手との距離は側位。もう少し首を向けたら届くかな、と思っていたら、慧音の方からも来てくれて、結構苦しい体勢だけどキス。迎える時に浅ましく舌を伸ばしてしまって、でもそんな風にどうしようもなく性欲に流されていく感じは、私の好物だった。

「んっ、ちゅ、あいかわらずの、ガチブトぉっ♥」

 そういうと、もう一回唇を吸われて、舌で口の中を滅茶苦茶に掻き混ぜられる。脳みそに凄く近い粘膜、くちゅくちゅ音が立つくらいにされて、合わせた唇の間から唾が漏れる。どんどん、二人だけの、ちがう、二人が求めあう感覚だけの世界に没入していく。そうしてやっと離れた口からは湯気が立ちそうなほどの吐息、それに慧音の、私を貶める(そして昂らせる)言葉。

「そういう永琳は、ユルくなったんじゃないのか。」
「そんなこと、ないわよ。そんなデリカシーないチンコには、こうなんだからっ」

 私は下腹部と、お尻の穴辺りに力を籠める。右半分、左半分、明確にわかるわけじゃないけど、こうやるときっと中は。

「うっ、ぐ、はっ、締まって、しかも動いてっ♥男漁りし慣れたマンコ、だなっ♥」

 膣肉を締めてあげると、慧音の可愛い声。そう、それ、そんな可愛い食べられオスなのに、攻め方は女堕としを心得た動きで、ズルいっ♥

「そぉ~ねえ♥慧音のぶっ太いケダモノチンポ、堕とせるかなぁ♥えいっ、えいっ♥」

 膣圧を変えながら腰を揺らす。背筋の軸をぶれさせないまま、腰から下だけを左右上下に波打たせる。

「ふぅっ、んっ♥すっご、い、永琳のマンコ、やっぱ、すごいっ♥すぐ出ちまう、絞り取られるっ♥」
「そ、そんなこと言って、反撃スゴっ♥ガンガンきてるっ♥」

 私の膣に酔いしれるような言葉を吐きながらもしかし、慧音は容赦なく腰を打ち付けてくる。少しずつ角度を変えて、亀頭が擦り上げる膣壁の位置を微妙にずらしながら、強弱緩急も絶妙。慧音は私の弱いスポットを心得ているのだけど、そればかりを責めてこないのは、でも逆に興奮する。そこに欲しい、もっと欲しい、もっとして、という欲求は、いつの間にか口から漏れている。

「そこっ♥その下のところっ♥お臍突き上げるみたいにしたときの……そ、そこォっ♥そこ、もっとぉ♥んっ、奥も、イイっ、入り口ぐちゅぐちゅ音たててマン泡立てるのもイイっ♥ぁぁん、慧音ズルいっ♥私の弱いトコ知ってるのに、知らないフリするの、ズルイッ♥殺してぇっ♥ねえ、そのチンポで私のマンコ殺してぇっ♥弱点グリグリしまくって、私をアヘり殺してぇっ♥お願い、おねがぁぃぃっ♥」

 私は腰の高さと位置を調節して、自分の一番いいところに慧音の先端を当てようとするが、慧音の腰づかいはそれをぬるりと回避して、その周囲のじんわりいいところや一番奥を責め立ててきて、なかなかトドメをくれない。その嬲り殺し具合が堪まんなくて、膣はうねって愛液はダダ漏れ。それに浅ましい声も止められない。

「を、ぉをんっ♥奥まで、きてるっ♥私の弱点無視して、慧音のガチブトちんぽ、一番奥までカチコミきてるっ♥そのまま、私を、私を嬲り殺すんでしょ、朝まで私の濡れ豚穴にチンポピストンして、イカセまくるんでしょ♥朝までハメ倒して私を、泥水みたいにしちゃうんでしょ♥」

 慧音は何も言わない(いえない)まま両手で私の腰を左右から掴んで、より一層激しく腰を打ち付けてきた。膣肉の摩擦、生ごみ袋に手を突っ込んで掻き交ぜるみたいな不快で不潔な音を立てている。すごく、興奮する。

「っはっ、んっ、く、はぁっ♥そんなに、激しくっ♥せーし出したくて仕方ないのねっ♥こんな、普段から肉がはみ出た黒ずみグロマンにチンポ突っ込んで、射精にまっしぐら、いいの?こんなエロ豚マンコに射精して?私のマンコ、目の前で見たことあるでしょ?放送禁止レベルのグロ画像だったでしょ?そんなところにチンポ突っ込んでキモチイイの?」

 慧音は私に煽られながらも、もはや射精を目指して全力疾走するだけのケダモノ。言葉を発する余裕もなく、ただ私の色素沈着したマン肉との摩擦快感に溺れている。
 私をシンクに押し付けて潰すみたいに、滅茶苦茶にペニスを押し込んでくる。でもその摩擦と、密着感と、奥まで貫かれてる感じが、もう表面張力だった快感を一気に溢れさせる。
 ちかっ、ちかっ、目の裏側が光って一気に脱力してしまった。イッた。イキ告白も出来ないまま、打ち上げられるみたいな乱暴なアクメ、崩れかかる私の体を慧音は抱きとめて、優しく介抱、するわけがない。私の上半身の体重をシンクに放り込んで、ピストンを続けている。

 あぁっ、私、射精用の穴になってる。オナホになってる♥もっと、乱暴に、もっと道具みたいに、もっと、もっと、もっとお♥

 私が色キチガイのメスブタなら、今の慧音もただの射精ブタだった。
 そんな慧音が、堪らなく愛おしい。もっと、もっと慧音を性欲に溺れさせたい。もっと自分を、穴だけの存在に貶めたい。

「イカへて、もっとイカひぇてぇっ♥慧音のガチブトで、私のマンコ壊してっ♥もっとグロいタダレまんこにしてぇっ♥がっしがっし突きまくっへ、マンコ捲れるほどコスって、私をぶよ肉オナホにしてぇっ♥」

 私は台所に上半身を放り込まれて、同時に下半身はシンクにはりつけにされたみたいになる。脊髄が快感で腐って全身崩れ落ちそう。瞼が垂れてくる。半目の視界が二重になって、目が寄っている。シンクの底に、水が垂れている。自分の涎だった。

「お゛っ♥ん、ふぅっ♥へぁぁあ゛っ♥」

 力、入らない。快感が強すぎて、麻酔みたい。がくがくけいれん、あくめ。

「せ、せーし、せーしぃ、まら、ぁ…?♥」

 目の前に広がっている灰色の世界が、シンクの底のステンレスだということに、私はもう頭が追い付いていなかった。蛇口から水をぶちまけられたら、呼吸が出来なくて、それでさえもイけてしまいそう。
 アヘ顔でシンクの底にキスして、下半身をけいれんさせている私を、慧音はもう「女性の体」だとは思っていまい。ただの、穴、射精するための肉擦りを提供してくれるただのユルい肉穴だと思いながら、腰を打ち付けているに違いない。
 イキ続けている私の体。下半身は痙攣したり、変な汁を噴いたりして、制御が効かなくなっている。慧音はその下半身を捕まえては、なお穴用途に求め、欲望をぶつけてくる。だから私はまたイって、そしてイって、イって、イッた。障子紙の様に薄まった意識で、でも私はもっと慧音を求めてしまう。浅ましい、メスブタ。それを求めてくれる慧音がもっと愛しい。

「お゛……ん゛っ♥まんこ、こわれ……へ♥しゅご、おぉっ♥んぐ……へぁ、あぁっ♥けいね、すきぃっ♥せっくすしてくれるけーね、だいすきぃっ♥」
「永っ、りんっ♥ああ、っ、えいりんっ、私も、わたしも、だっ♥オナホ永琳、すきだっ♥」

 そう言って、機械の様に容赦なく無慈悲に私の膣粘穴をえぐり削ってくる慧音の肉鑿が、一際暴れまわり始めた。根元からびくびく跳ねながら、ピストンは深いところで細かく前後に揺れている。

 粘膜壁に意識的に擦り付けるみたいに、振動角度は調整されて、細かさの中に何度か深い突きが混じる。やがてそれも早い代わりに単調な動きに変わって、やがて。

「えいりんっ、私、イク、でるっ♥精子でるっ♥永琳のまんこ、ザーメンタンクにするからっ♥私が空っぽになるまで出したザーメン、ぜんぶお前のおなかのナカに溜め込ませるからっ♥はぁっ♥えいりんっ、えいりん、えいりんえいりんっ♥」
「ふぎゅっ♥……けーにぇぇっ♥」

 ずぶぼっっ、て音が膣肉を震わせて下半身全体に伝わってきた。すごい勢いで、慧音のペニスが爆ぜてる。先端から噴き出す精液の勢いと量ってば、まるでお風呂場の蛇口みたい。私のおまんこ、バスタブじゃないのよぉっ♥精子風呂用のバスタブじゃないんだから、そんなっ♥すごい量注がれたらっ♥ザーメンタンク、あっという間にぱんくするっ♥

「ん、ぎゅ……♥も、だめぇっ♥はいんないっ♥わらい、ザーメンタンク失格ぅっ♥ごめんね、ごめんねぇっ♥ダメオナホは、せっかく注いでもらった精子、もらしちゃう、こぼしちゃうぃっ♥」

 ぶしゅぅぅっ、ぶしゅぅぅっ、ってもはやギャグみたいな量の精液。とうに入りきらないでマン肉の隙間から逆流して床に零れてる。

「おっ……♥ん゛ぅ♥」

 パンパンに膨れ上がった水風船の口を放したみたいな射精は、それと同じように勢いを弱めて行って、やっと止まった。慧音のペニスはでも、それとは全然違って膨らんだままだ。床にぬるぬるの水たまりをぶちまけた私のヴァギナと慧音のペニスは、そしてやっと離れ離れになった。名残惜しく、以上に熱くなった体温で凝固しかけの精子が、マン肉とチンポの間に伸びて、それもべちょっと落ちて離れた。

「っは、ヒ……♥」
「えい、りんっ♥」

 慧音は私の体をシンクから引きずり出して、精液だまりの広がる床に腰を落とさせた。べちょ、ぬるっ、っと尻に冷たい感触が広がったので、それを指で掬う。指で弄ぶと糸を引いてのびるその姿が愛おしくて、口に運んだ。

「永琳、これっ」

 指から精子を舐め取っている私を見て、慧音はまだ大きいままのペニスを私の顔の前に出す。粘液でてらてらと光るペニスからは、私の愛液の匂いが立ち上っていて、精液が絡みついてる。見ているだけで、匂ってるだけで、また性欲が増していく。
 私は慧音の意図を酌んで、慧音のペニスを大きく口を開けて飲み込んだ。お掃除フェラ。勿論、後片付けのつもりなんかない、これから、第二ラウンド。もっと、もっともっとイカせてもらって、色バカ堕落、するつもりだった。

「したりない?」
「れんれんたりないわ……♥けいねも、まら、いけるれひょ?」

 上目でフェラしたり、ちんぽ頬ずりしたりしながらそういってやると、慧音は私の髪を乱暴に掴んで頭を押さえて、イラマチオ。喉の奥までペニスが侵入してきて、私はまた、下半身を熱くした。イラマチオをされながら、私の腕は勝手に慧音の脚に絡まって、もっともっとと体がねだっていた。
 久しぶりのセックスは、休むことなく続いていった。



 もう朝方になって窓から薄ら白じんだ光が見えるようになってきたところで、仕事の都合で一番早起きの藤原が廊下を通ったので凍り付いた。が、台所に入っては来なかった。気付いていないとは思えなかったが、きっと、気を利かせて素通りしたのだろう。でも、それでばつが悪くなるどころか、私も、それに慧音も、より燃え上がって、最後の一回はまたしても凄く激しい‟打ち合い‟になって……それでやっと、収まったのだった。
 最後に慧音に出してもらったのは、顔だった。べっとりと額から顎を伝って首まで、真っ白く濁ったゲル状の精液が(すごい、あんなに出したのに、まだこの濃度だなんて!)塊のままドロドロと流れ落ちていく。私はその一端を指で掬って絡め、窓から入り込んで来た光に透かす。
 当然見えるわけはない、だが、もう仕事でもプライベートでも数え切れないほど見てきた光景が、頭の中で再生された。うっすらと光を透く精液、この中で今、無数の精虫が、卵子を求めて動き回っている。これと同じものを、きっと薬缶一杯分も膣内に出された。子宮が捩れるくらい、興奮する。私は手に取った精液を口の中に垂らして飲み込む。

 この精液が、‟私‟を貫いてくれればいいのにと、心底思った。







 八坂の神様がわざわざ永遠亭くんだりまでやってきたのは、私が助産をして数日経った後のことだった。

「その節は、世話になりました」
「いえ、医者の仕事の内です、礼には及びませんわ。ご支援も頂いていますし」
「支援ではなく、互助です。お互いこの地に早く溶け込まなければ」
「神社で子を産みたいという声が上がるなんて、それこそ守矢神社がもうすっかりこの地の神社として受け入れられたことの証ではないですか」
「医者への信頼も含めて、ですね」

 いや、薬師か。八坂殿は言い直すが、私はどちらでも構わないと正しておいた。

 お通しした客間は、永遠亭としては「なけなしの」と言っても過言ではない。空間環境変数を弄って無理やり広くしているにせよ、今は平屋に5人が住む上に、輝夜の部屋は特上に設えてあるし、私とうどんげには個人用の研究室がある。病院も薬局も併設してあって行列ができる診療所というわけでもないが待合室もある。多くもない来客に備えての客室は、詫び寂を謳いつつ現実的な必要に迫られて、狭い。だが、この狭さは代表者同士が密談をするにはちょうど良い距離感だったし、この通りそのように使っている。遮音も完全だ。
 本来は輝夜が相手をして私は一歩下がったところで聞いているべきなのだが、寝ている。八坂殿も要件は私の方にあるのだというから、そのまま通したという訳だ。

 うどんげに茶を持たせ、彼女が下がったのを確認してから、私達は話を始めた。

「まさか本当にそんな礼を言いに来た訳ではないのでございましょう?」

 はい、と答える八坂神。しかしいつものような政治的な根回しのネタを持ってきたのとは違うようで、表情が硬い。話の切り出しも考慮に入れると、あの赤ん坊か家に何かあったのか、と心配になる。

「関係がない訳ではないのです。実は、うちの巫女のことで」
「東風谷様が、何か?」
「いや、結論から先に言った方が明快かもしれません、きっと八意さんはYESと答えるだろうとわかってのことなので卑怯かもしれませんが」
「……はあ」

 硬い面持ちのまま、八坂様は言葉を続ける。

「今後も、助産を手助け頂くことになると思います」
「え、ええ、構いませんけれど」

 確かにYESと言うだけのことだった。特に裏があるという訳ではない、そういうことはこの茶室では互いに禁じていた。

「正直、神社が子を産む場所として選ばれるとは想定外でした。私やすわk……洩矢神が直接助産をするわけにはいかない、実際、巫女が適任なのですが、巫女の方に、問題があるのです。彼女には、お産の手助けは少々荷が重い。巫女に"産んでから覚えろ"と仰ったようですが、全くその通りです。が、それがいつになるのか、わからないのです。あれも年頃だ、そうであっても不思議はないのですが」
「YES、は、もう言いましたし翻すつもりはありません。単刀直入にどうぞ。」

 まどろっこしいことはなしにしたい。私が促すと、八坂様は茶に口を付けてから、言った。

「あれは、満足に親の愛を知らぬままに育った子なのです、‟ここ‟に来る前の話になりますが。」

 守矢神社が神社ごとぽんと別のどこかからやってきたことは知っている。だがそれ以前の話は聞いたことがない。必要がないと判断してのことだったし、事実政治的にそれが関係したことはなかった。洩矢神に至っては、自身のことであるのにそれを覚えていないのだとも聞く。

「あまり、多くを聞く必要があるとは考えていません。助産でしたら、里の助産師で足らぬ時は先のように出向いてもよいですし、必要があれば藤原に迎えに行かせますのでここでと言う風に話を運んでもらっても構いません。言い難いことでお互いの利益に関わらぬのであれば、仰らなくても結構ですわ」
「気遣い、感謝します。」

 本当に、わざわざそんなことを言いに?私は少しばかり訝しんだ。
 言った通り、あまり深入りするつもりはない。ただ、あくまでも個人的――いや独善的と言った方が適切か――な興味で、つい。

「満足に知らない、というのは、虐待でも、受けていたのですか?」
「彼女は元々、洩矢の血を引いていません。彼女は、私のところで引き取っただけの、捨て子です。どこの子なのかは実際にはわかりません。ただ」
「ただ?」

 聞き返すと、それこそが一番私に伝えたかったことなのではないかと思うくらい苦々しい表情で、八坂殿言った。

「あの子は、新しい命が生まれることそのものを、快く思っていない節があるのです。自分のことも、余り肯定的に捉えていないところがあって」
「それは、穏やかでは……ないですね」

 そう返しはしたが、八坂殿の言葉は巫女神ではなく私を責めているようにさえ、聞こえてしまった。思わず少しだけ表情をしかめてしまったが、それは私が巫女神の状態を案じてのことだと八坂殿は勘違いしたようだった。

「彼女ももうおとなです、理性や知識で否定していますが、実際に出産に立ち会ったときにそれが如実に出てしまっていました。だから、八意さんが仰った通り、彼女が実際に子を産んで考えを改めるまでは、助産を手伝わせるべきではないと考えています。」
「なるほど承知しました。重ねてになりますけど、お返事に変わりはありません。遠慮なく仰せつけ下さい、協力は惜しみませんわ」
「感謝します」

 神様に頭を下げられては私も困る、しかもそれは結局はただ普段通りに仕事をしろと言うだけの話であったのだから、私は頭を上げてくれるよう頼む。
 とかく、守矢の現人神は過去に暗いものを背負込んでいるのらしい。ただ、あんな風に民衆に受け入れられた神社の巫女神として慕われていることは間違いないし、こうしてあいされているのだ。わざわざこんなことを私のところへに弁解に来るのも、その表れなのだろう。それは彼女にとっては癒しであろうし、その鬱屈が晴れる日は遠くないだろうと思う。

「用件は、それだけです。いや、随分回りくどく話してしまった」
「いいえ、お気になさらず。でも、早苗さんは、幸せですね、こうしてあいされているのですから。すぐに、立ち直ることと思いますよ。本物の家族愛は、どんなに優れたカウンセリングよりも、覿面の効果があります」
「……ありがとうございます」

 少し、笑う八坂殿。そうして、神社へと帰って行ったが、残された私は、しかし置き去りにされたような気分に締め付けられていた。
 新しい命に対する迷いを指摘されたような気がしていたし、その流れで言ってしまった「家族愛がカウンセリングに勝る」という言葉も、うどんげのことを考えると棚上げも甚だしく思えて、ただ苦い。

 私は八坂殿を玄関先まで送った後、客間へ戻った。案の定、気を利かせたうどんげが、湯呑と菓子の皿を片付けようと入ってきていた。

「あ、すみません、まだ御用が済んでなかったですか?失礼しました、すぐに」

 この部屋でのことはうどんげの耳にも入れないようにしている。聞くな詮索するなと言ってあるので、私が戻ってきたのを見て、まだ済んでいない用事を耳に入れてしまうのではないかと慌てたらしい。でも、そうじゃない。

「うどんげ」
「は、はい」

 私は、立ち去ろうとするうどんげを引き留めた。
 でも、何をすればいいのか、何と言葉をかければいいのか、わからない。
 私は、この手で生み出したこの命に対して、なにを。

「ありがとう。いつも、助かってるわ」
「え、あ、はい……あの?」

 用は済んでいるから、そう答えておく。
 結局気の利いた言葉は何も言えない。自分自身、答えを持っていないからだろう。彼女に対して、何をすれば贖罪になるのか。ただ、家族面していれば、それでいいのだろうか。

「なんか、変な師匠。これ、片しちゃって、いいですか?」
「ええ、お願い」

 うどんげは、呆れたような顔を作り直して、砕けた。彼女の過去を考えると、すっかりよくなっているように見えることに、逆に不安がよぎる。
 八坂殿が言うに、守矢の巫女神は知性すなわち常識に合わせる賢さを以て自分の不健全な思想を押し込めているのらしい。
 こうして、健全に振る舞っているうどんげも、もしかすると。

 うどんげが、未だに自分の生を、肯定的に捉えられていないのだとしたら。

(私の責任、ね)

 それは、生み出してしまった私があまりにも独善だったという話だ。兵器として作り出したのだから、そこに幸せを感じろと言うのは無理な話であるが、今こうしてこの家で‟家族をする‟ということが救いになっているのか、それとも根底ではまだ私を(あるいは自分を)よく思っていないのか。

 それは、命を造ることの責任が、通常の医療行為の責任とは明確に違うことを物語っていた。
 医療は、施した者と施された者の間で完結し、責任もこの両者の間で果たされる。満足も不満も後悔も成功も失敗も、その二者の世界でクローズしていて、だからこそ安心して受けることが出来る。家族や関係者は極端に言ってステークホルダーでしかない。
 しかし、親の意向を受けて意図的に子供という命を作る行為については、そうはいかない。産ませた者と産んだ者に加えて産まれた者が関わってくる上に、産まれた者が声を上げることが出来るのは実際に出産までプロセスが進み引き返せないところに至ってからで、しかも上げられるのは泣き声だけなのだ。まさに受動態としての「産まれる」を強いてしまう。むしろ、主体者は「産まれた」方の命であって、産んだ方と産ませた方は、関係者でしかなくなる。けだし、これから産まれてくるだろう子供、物言えぬ新しい命の方に責任を負わせる形で親の満足を満たそうとする行為に他ならないのだ――私の様に。月ではそれが横行し、今はもう、そうした反駁の思考は停止し、恣意的に命を生み出し責任を押し付けることについての良心感度は、マヒしている。
 うどんげを負の遺産と見るのは彼女の尊厳に対する侮辱であるが、彼女が自生に何らかの負の面を抱いているのが本当であれば、その‟製造‟に瑕疵があったと言える。守矢の巫女神もそうだ、八坂殿の言葉を鵜呑みにするのであれば、彼女たちがここへやってきた理由が、彼女自身望まぬ自らの命についての責任を製造者から放り出されたという事態が、もはや逃避によって彼女を取り巻く環境を一新しなければならないほどに進行したためと推すのは、難しいことではなかった。

 今の私には、命を恣意的に作り出すことは、永遠の命の実現なんかより、もっと罪深いことに思えていた。







 あの一連の出来事で私は‟阿礼乙女‟と言う生き物の実態を調査する機会を得た。
 稗田という一族にとって性行為は配偶子交合の意味を持たず、ただ稗田自身の単為生殖のスイッチでしかないというその結果は、目を見張るものだった。そんな生物を、私は今まで見たことがなかったからだ。きっと‟阿礼乙女‟と言う人間の亜種は、人間の雄性配偶子をホルモンか何かとして受容するのだろう。それを受け取った阿礼乙女の子宮は、胎生単為生殖を始める。体内に侵入した精子が必死に卵を探そうとも、その門は閉ざされている。それを嘲うかのように、阿礼乙女の胚細胞は雄の手の届かぬ彼方で分裂を始めるのだ。
 慧音が妊娠させた(妊娠させるという言葉が持つ意味は、ここでは我々の想像と大きく異なる)稗田家9代目の阿礼乙女「稗田阿求」が産んだ10代目「稗田阿刀」は、だから、慧音の遺伝子を受け継いではいない。でも、恐らく、慧音も、そして出産と同時に亡くなった稗田阿求も、そして稗田阿刀自身も、慧音を父親と見ることだろう。私にはその「(血)縁」が、羨ましかった。

 稗田邸に、私は来ていた。

 阿刀ちゃんのことを見に来たのもあるが、阿弥さんが押し込められていた本棚の牢獄に、私は興味があったのだ。
 広い部屋じゃない、壁一面を本棚で塗り込めたとしても、ヴワル魔法図書館どころか私の書斎にだって遠く及ばない程度の数の本しかない。だが、ここに置かれている本は、その密度が違った。情報密度が、異様に高い。これは歴史を記す稗田(とハクタク)の持ち物に相応しい情報密度であったが、この空間的な容積に押し込められた情報量は、恐らく阿礼乙女であっても本を開き書かれている内容を読み込んでそれを展開しようとすると脳の容量を容易にオーバーフローさせることだろう。なんせ、この独自圧縮形式のアルゴリズムと、適切な処理方法を生得知っているハクタクでさえ開くのを嫌がるのだから。慧音自身、歴史情報を圧縮するときにこんな密度で圧縮はしない。恐らくこの図書牢獄は思兼のミニチュアのような存在にまで建造されていた、代々、たった一人の少女の手によって。
 この部屋を出たがらず事実この部屋の影響下を離れると衰弱していくというのに、そのせいで若い内に正気を失い自らの生命維持の方法を忘れて死んでいく阿礼乙女という生き物の、その短命の秘密はこの部屋にある。阿礼乙女は歴史を刻む度、ハクタクに差し出した歴史情報をここにも詰め込んでいくのだという。阿求ちゃんはそれを"ラブレター"と表現していたが、それは余りにも皮肉だった。
 この部屋は、歴史情報のブラックホール、ハクタクと歴史に関わるものを引きつけて止まず、そして内部で破壊してしまうのだろう。呑まれた本人は、気付かないかもしれないが。

「この部屋、入るだけで気持ち悪くなるわ。重い。」
「この本自体をどこかにやることは出来るけど、本の内容を分割したり情報希釈したりすることはもう私にもできないんだ。だから、誰かが不意に読むよりはここに置いておく方がましって状態だね。……恐らく、阿刀もすぐにここに来たがる。」

 それをやめさせることは、恐らくできない。歴史を書き記し続けることも、阿礼乙女にとっては呼吸と同じなのだろう、その呼気が瘴気に染まっていたとしても。無害化することもここから動かすことも出来ず、害を最小に押さえるためにここに蓄積していくしかない。
 まるで核廃棄物だ。

「阿求ちゃんとのセックスって、気持ちよかった?」

 私が唐突に聞くものだから、慧音はさすがにきょとんとしている。そしてすぐに、私に背を向けた。背中のまま、返事をする。

「なんだっていうんだ、急に」
「ねえ、気持ちよかった?抱いている時、どんな気分だった?愛する人とつながる幸せ?支配を完了した満足?ただの獣欲?」
「わからない、思い出したくもない」
「嫌だったの?」
「そんなわけあるか。でも、今は思い出すのは、いやだ」

 当たり前か。でも、そんな乾きかけのかさぶたみたいなものに触れるのを、慧音はよく黙って受け入れるものだ、最悪、平手でも貰うかと思ったけど。

「知りたいの。」
「どうして」
「子供をつくるためのセックスが、快楽を欲するだけのセックスとどう違うのか。ほら、私と慧音って、快感用のえっちしか、してないでしょう?」

 少しばかり茶化して答える。本音であることに間違いはないが、この感情を掘り下げられたくはない。

「阿求を妊娠させようとして、抱いてたわけじゃない。……お前を抱いてる時と、根本は変わんなかったよ。彼女に報いたかったっていうのもあるかも知れない。阿求も私を欲していたから、なんて私が言うのは、ただの、言い訳だな」

 言い難そう。

「妊娠自体が彼女の命を縮めたわけじゃ無いわ」
「わかってる」
「よかったのじゃないかしら、ちゃんとセックスして、子供が出来たのでしょう?」
「そうだが」
「子供をつくることの条件は満たしているじゃない。セックスしていれば、それだけで十分よ。私はそう思う」

 私がそういうと、慧音は少し困ったように顔をしかめた。

「そういう言い方をしちゃうと、不本意な性交での妊娠を肯定するみたいに聞こえてしまうぞ……好きじゃなくてもセックスはできるだろ」
「阿求ちゃんとは?」
「おいおい、好きじゃなかったって、言わせたいのか?生憎だけど、言わないぞ」

 あんまりにも私が嫌みたらしく突っ込んだから、穏和な慧音も流石にこの言葉を言う声色には少し棘があったが、私の方は慧音とは昔‟そんな風に‟関係したこともあるなと、思い出していた。慧音もきっと、思い出してるだろう。

「あはは、まさか。でも」

 否定は、しておく。でも、敢えて口にはしないが、そう思っている側面もあった。
 私としては、愛とセックスは直接に接続していて欲しいし、セックスと妊娠は既に接続されている。

 でも、愛と妊娠が、短絡してしまっていいのだろうか。

「でも私は、色キチだから。エッチは必須だなって」
「そう言うことじゃないだろう」
「そう言うことよ。セックス至上主義なの、知ってるでしょ?セックスが愛の証明であって、セックスが子供を作る最善の手段であって、セックスが種の継続の理知的な方法だと思ってる。セックスなしに子供を作るのが合理の旗を振るのを許すなんて、敗北思想にしか思えない。こんな考え、月では異端だけれどね。」
「不妊に悩む夫婦はどうするんだ」
「ま、残念ね」
「医者らしからぬ言葉だなあ」
「可能性があれば、"治療"はしてもいいと思っているわ」

 でも、恣意的に造ることには、迷いが生じていた。

 私の、不妊に関する考えと、妊娠は性交を前提にするべきであるという実質的な同性配偶の否定は、正義感が強く人情に厚い慧音には腑に落ちない部分があるらしい、やはりどことなく複雑な思いの色が浮かんでいる。慧音も、私も、もっといえばうどんげやてゐだって、配偶行為と性行為が等号であるという考えは原始的な思想だと、知っている。でも私はそれを承知の上で、その原始的な考えを支持しているのだ。慧音の疑問も理解できる。
 でもだから、言ってやるのだ。私がこの剣を持っていることに気づかない、慧音が余りにも……鈍いのが、悪い。

「阿求ちゃんは、あなたの遺伝子を受け取らなかったわ。そう言う種類の生き物だから。阿求ちゃんは一人で子供を作って、一人で産んだの。私が少しばかり手を貸したけれど、父親なんか、要らなかったのよ。慧音、あなたの精子をスポイトであの子の膣に垂らしてやれば、いいえ、精子でなくても良かったのでしょう、何かトリガとなる成分の水溶液でいい、そうすればあの子は身籠もったわ。あなたの遺伝子なんか必要なかったの。」
「何が言いたい。阿求と私の関係を、侮辱したいのか」

 慧音の視線が私から外れる。きっと、私を見ていることで感情が膨らむのを避けてのことだろう。どこまでも、理性的なひとだ、感情を制御できなくて知識で補正しようとして失敗している私とは、大違い。

「逆よ。慧音と阿求ちゃんの関係が、その答えよ。阿求ちゃんは慧音から何も受け取らなかった。妊娠も出産もすべて一人で抱え込んで、そうやって種をつないでいく、阿礼乙女はそう言う生き物。でも、セックスは、必要だったのよ。生殖メカニズムを考えれば、膣に陰茎を入れて摩擦するだけの行為がmustとは思えない。そんなものをスイッチに据えた生態をしていたのは、セックスが、必要だったからに違いないわ。ウィルスとか虫とか植物と、私達"アイ"を謳う者が違うという証拠。」

 だって慧音、あの子を抱いて、愛おしかったでしょう?阿求ちゃんだって、そうだったはずよ。それに慧音、阿刀ちゃんのこと、本当の子供みたいに可愛がっているじゃない。

 そう付け足すと、慧音は逸らした視線を一旦私に戻し、再び逸らした。今度は、きっとさっきのそれと意味合いが違うだろう。少しきつく、握られる手。あの、大きな手が、どんな風に激しく♀を求めて女を抱くのか、私は良く知っている。その手が、私へそうしたように阿求ちゃんに女を求めたことに対しては幾許かの嫉妬はあったが、それはさほど強く私を締め付けるものではなかった。
 だって私と阿求ちゃんは、対極にいたのだ。同じ風に並ぼうだなんて、考えもしない。

「阿求ちゃんは、幸せだったのよ」

 慧音は何も答えない。知っている、慧音は阿求ちゃんの一件で阿礼乙女という存在そのものに対する後ろめたさを強くしている。幸せだった、の一言を確信できないでいる。

「ねえ慧音。私、慧音と随分セックスしたわよね。阿求ちゃんと‟比べて‟どうだった?」
「……え、ええと」
「冗談。若い子の方がいいに決まってるわよね」
「いや、そんなことはだな」
「浮気とかいちいち言わないわよ、この世界じゃ雄性は貴重なのだから、文化ってことにしとく」
「う、ん」

 ばつが悪そうに苦く言う慧音。いじめすぎたかしら。
 だったらもう少し私のことを可愛がってよ?と意地悪く茶化してやると、冗談を巧く受信できなかった慧音は真顔で、わかった、なんて。その様子を見て私は鼻で笑ってしまったが、慧音は私が責めているのだと受け取ったらしい。責めてないわけじゃあないから、否定しない。
 私は話の歩みを進める。気付きなさいよ、頭がいいのか悪いのか、本当にわからないひと。

「そう言えば、輝夜と藤原も、よねえ」
「あいつらは、凄いな。壮絶に殺し合ってるかと思って目を背けたら、いつの間にか乳繰り合ってる、なんなんだあれは」
「デートの後でえっちするのは、普通だと思うけど?」
「‟それ‟が凄いと言ってるんだよ」

 呆れ顔で言う慧音の頬を、私は少し強く突っつきながら、言葉を添える。

「何よ、自分が"凄く"ないと思ってるの?」

 スワッピングしたときに痛感したが、傍目から見ていると慧音のそれはまさしくオスの獣だった。阿求ちゃんが実はレイプ死だったと言われれば割と信じそうなくらい。自分が抱かれてる時も、ああなのかしら。

 私は慧音に抱きついた。これからセックスするって時みたいに、シナを付けて、腕や腰を揺らして、抱きついて触れるとことが全部ゆるく擦れるようにくねらせて、そしてキスしてキスして、キスしてから凄く近い距離で慧音の後ろめたい目をほじるように見つめて、真正面から聞いた。いえ、言った、訴えた。

「ね、"私たちの子供って、いつ出来るのかしら"?あの子達も、そうだけれど」

 最初は、そう、だな、と歯切れの悪い答えを返したが、すぐに凍り付く。鈍感、遅いっての。

「オスってほんと、ヤルことしか考えてないのね」
「そんなことは」
「うそうそ、そんなことで責めたりしないわよ。私だって、そういうプレイの方が、気持ちいいもの。」

 慧音は女でだってあるのは、私もよく知ってる。ただオスだけの存在だったなら、私だって惹かれはしなかっただろう。輝夜だってきっとそうだ、藤原の雄性に、惹かれてる部分は間違いなくある。
 わかる、輝夜のことは、何でも、悲しいくらいに。

「でも、ひとの体に、"不死"を察知する受容機能があったなんて、驚きだわ。生命の神秘ってやつよね。不死存在が子供を生すことが出来れば、決定的に生態系が崩れる。生命っていうか、宇宙の意思を感じる。」
「だって、避妊、しろって言ったこと、あったじゃないか」
「蓬莱人の不妊を知ったら、純粋にセックス楽しめないでしょ、慧音の性分じゃ?」
「……わからないよ」
「だったら、今から、シましょ?」

 抱き付いてゼロ距離のまま、私は慧音の耳たぶを甘噛む。だが、私が手を運んだ慧音の股間は、全然反応しなかった。

「お、おい」
「出来そうにないって、この子は言ってるわよ?もう私には欲情できない?」
「気持ちの整理が出来てないだけ、だ」
「ほうら、ね」

 そういって、私は慧音にキスをする。慧音は熱烈に答えてくれて、面倒くさい考えを舌で押し出すようにしていると慧音のそこはすっかりオスに戻っていった。

「をを~、がんばったね!♥」
「お、ま、え、な、あ!」
「やん♥」

 昨日の今日で、またえっちしてもらった。
 抱き方は激しくて、昨日よりも余計に激しかったのはきっと押し流そうとしてるからだったのだろうけど、私は内心、すごくほっとした。

 ほんとに、もう、慧音に抱いてもらえないんじゃないかと、思ったから。
 でも、大丈夫そう。




「こんなこと、永遠に黙ってればよかったわね。ごめんなさい」

 何も言わないで、汗ばんだ額にキスをくれる慧音。"動き"が止まってクールダウンしていく物悲しさが嫌いで、冷めたくなくてもっとと腕を絡めてしまう。
 秘密を明かすのが誠意とは限らないことは、わかっているつもりだった。それはただの甘えで、慧音はただその甘えを受け入れてくれたのだった。








 プロジェクタが映し出す液球は、今はただ静か。最初はたったひとつ、球体の中に油を包んだようなものが見えるだけだ。
 でも、その泡の中で、変化は劇的に進んでいる。その変化のもたらす熱、それを知る私の意識は、未分化で名前のない「快」を覚えて、強烈な多幸感に溺れていた。

 あつい、あついあついっあつい!
 体が燃えるように熱い。感覚がどんどん研ぎ澄まされていく。
 体の熱さはそのまま、恍惚感だった。高まっていく、でもそれが性欲なのかはわからない。ただただ形のない快楽が、閃光の洪水になって押し寄せて来る。

 あ、ぁああぁあぁあっ……♥あひぁ、あ、ああぅぅうあぁあああああぁああ………♥

 部屋の中に響くのは自分の声、溢れ出す獣のような喘ぎは常軌を逸しているようにも聞こえる。

 私は自慰に興じていた。性器に触れることもない、粘膜どころか皮膚への摩擦ひとつ行っていない。快感を得る手段は、ただ、目。プロジェクタに映し出された映像を見ている。


 ぷつん、その光球の中にある柔らかそうな透明が、割れた。

 ふたつ。

 外側の球体の中で内側に押し込まれて二つに割れたその球体が、ふるふると震えている。私の感覚は大きく太くなっていく。一つが膨らんで爆ぜるのではない、快感受容体そのものが増える。

 あっん、んううぅぅああぁああっ♥はっ、はーっ♥はっはっはっ♥ふぁああああ、あぁあああああっ!
 あっん、んううぅぅああぁああっ♥はっ、はーっ♥はっはっはっ♥ふぁああああ、あぁあああああっ!

 この世に感じる快感振れ幅は、倍々ゲームで増加して、私を恍惚の羊水に漬け込んでいく。
 性的興奮なのか、それとももっと別の感覚なのか、わからない。ただ、とにかく快感だった。幸福だった。ずっとその中にいてここから出たくないと思えるほどの充足感。
 触れてもいない肌が、粟立つ。意味を持たない不明の喘ぎが口を閉じさせてくれず、食みだした舌の脇から泡立った唾液がだらだら溢れた。目は焦点を失いかけている。眼球が痙攣して、視点を合わせられずにいるのだ。それでもプロジェクタに映し出された液球の映像を漏らさず捉えようと必死に正面に止めようとする。がくがく震え焦点が合わないぼやけた視界の中で、外郭球の内側の双球が、更にそれぞれ二つに分かれた。

 よっつ。

 んん゛~~~~~っ♥あ、あああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああーーーっ♥あぁああっ♥
 んん゛~~~~~っ♥あ、あああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああーーーっ♥あぁああっ♥
 んん゛~~~~~っ♥あ、あああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああーーーっ♥あぁああっ♥
 んん゛~~~~~っ♥あ、あああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああーーーっ♥あぁああっ♥

 脳みその中で暴れまわる「快」が更に倍に増える。
 この意識のない球体の発する不明の波動を神経信号に変換して受容出来ることに気づいたのは、実は比較的最近になってからだった。
 椅子に座ってその映像を見ている(いや、もう見ているかどうかもわからない、ただ送信されてくる波動をのうで解像しているだけかもしれない)いるだけなのに、背筋が反り返って椅子から落ちかける。ひじ掛けをぎゅっと握って転落を免れたが、股は勝手に開こうとしていた。膝は笑って言うことを効かない。腰も、ゴムまりが跳ねまわるみたいに落ち着かないでいる。
 何より騒がしいのは、頭の中だった。意味を解読できない、記号化さえ許されない電気信号のままの「快」が、私の未知の、いや忘れ去ってしまったはずの、伝達回路をぶち抜いて走り抜けていく。
 球体内部を東西南北に分割していたそれが、さらにそれぞれ二つに割れる。

 やっつ。

 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥
 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥
 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥
 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥
 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥
 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥
 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥
 あ゛ぇ゛……おぉぉ゛っ♥んっぅ゛ぅう゛っ♥ンッンッンッ゛ンッン゛ッ♥ぃあぁっぁあぁあァア゛ぁあ、ぁああああ゛あぁア゛ああっ、ぁーーーーっっあっ、あっ♥んぅ゛ぅっ♥

 もう壊れかけていた視界が、きゅぅっと狭まる。壁に映し出された青白い球体の映像の他に視界の隅に入っていたものは、排除された。網膜を通り抜けてくるのは、もう、その姿だけ。送信されてくる信号波動は強烈で、視界以外にも他の感覚はどんどん蝕まれて行っていた。

 目の裏から、熱くなって、プラスチックがどろりと溶けるみたいな感覚。頭の奥が形を失って何か境目を失った一つのモノへ向かっていくような、破壊。でもその破壊がとてつもなく気持ちよかった。快感受容は倍増を続けているのに、それを解き明かす感覚は溶けて溶けて溶けて分化を失い巨大な一つの何かへ退行していく。
 しあわせ。この快感は、誰にも逆らえない。私はこれを性感ととらえているが、人によっては神の啓示ととらえるかもしれない、守護霊の守りと、絶望の世界を終わらせる核爆弾の光と捉えるかもしれない。いずれにしてもそれは知識によって無理にレッテルを付けただけのモノ、個の頭の中で爆発と反射、反響と潰滅、赤、赤、赤、青、白、赤、黄、白、白、白、不規則変化で閃き暴れるこの「快」は、どのような愉悦でもどのような快感でもどのような幸福でもなく、だが同時にあらゆる愉悦でありあらゆる快感でありあらゆる幸福でもある。
 分裂。
 じゅうろく。

 あ゛!ああア゛あっあ゛あ゛アアぁあァっ!♥ああア゛あ゛っああァああっァぁアっァァァ♥んっんぁぁあっ、うぁ、うぁァああァひ゛ァ♥あふあ゛あァァァぁあああっく♥へえああ、あ、あ、あ、あ、あああぁあっ♥
 あ゛!ああア゛あっあ゛あ゛アアぁあァっ!♥ああア゛あ゛っああァああっァぁアっァァァ♥んっんぁぁあっ、うぁ、うぁァああァひ゛ァ♥あふあ゛あァァァぁあああっく♥へえああ、あ、あ、あ、あ、あああぁあっ♥
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 あ゛!ああア゛あっあ゛あ゛アアぁあァっ!♥ああア゛あ゛っああァああっァぁアっァァァ♥んっんぁぁあっ、うぁ、うぁァああァひ゛ァ♥あふあ゛あァァァぁあああっく♥へえああ、あ、あ、あ、あ、あああぁあっ♥
 あ゛!ああア゛あっあ゛あ゛アアぁあァっ!♥ああア゛あ゛っああァああっァぁアっァァァ♥んっんぁぁあっ、うぁ、うぁァああァひ゛ァ♥あふあ゛あァァァぁあああっく♥へえああ、あ、あ、あ、あ、あああぁあっ♥

 その快感の種類を言葉に出来ないのは、あの球体がそもそもそれを知らないからだ。快感が倍増し、強い幸福感であったものが、今は身をバラバラにしそうな強烈な快感が、16もの入力を以て与えられてる。狂う、この幸せは、人の尊厳でありながら、それを破壊するものだ。
 私の体はいつの間にか床にあった。床の上で、悪霊に取りつかれ正気を失っているように、跳ねまわり、転げ、涙と唾液をまき散らしながら、不気味な甲高い声を上げている。
 人の言葉として出力されていないのに、それは誰の耳にも喜びの色を帯びている。性交の喘ぎと同種の声だ。性行為で得る快感は、高度に発展した社会的快楽とはその深さが違う。より原始的で、未分化で、本能的で、誰にも否定できるものではなく、最も真実に近く、そして、いま私に送られてきている信号に近い。
 だがいま16倍音で反響する意味を持たない絶対快楽は、そんなものとは比べ物にならない「快」だった。

 ぶるん、球体の中で、それはまた倍加した。外角のサイズは変わっていないのに、中にある粒の数は増えていく。内球の一つ一つのサイズは小さく、粒揃いになり、今は外膜にそって広がり並んでいる。それは更に増える。

 さんじゅうに。

 はーっ♥あっ♥ふあ゛あぁアああ゛、あぁああ………♥あああ、あ、あ、あ゛ア゛あアあひ、ひ、はひ、ひぃぃいっ、あーっ、ああ゛ア゛ぁああ~っ♥お、ひぅ、あ、あああ、あっ♥ン、ン゛、うぅンっ♥
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 ろくじゅうよん。

 ひゃくにじゅうはち。

 にひゃくごじゅうろく。

 倍に増え、倍に増え、更に倍に増えた入力で容赦なく入り込んでくる「快」。私の頭はそれを受容し切れずに、ぷつん、と意識を途切れさせた。







「やっぱ、だめかぁ」

 少しの気怠さを残して、私は体を起こした。

「何個くらいまで、耐えていられたのかしら」

 全然記憶できていなかった。

 床は、いろんな液体でびちゃびちゃに濡れている。小便の悪臭もまじっていたが、これがオナニーであることを考えると別に嫌悪感ばかりのにおいではない。

 細胞一つ一つが、自分を増やしていく「快」。人間の体は37兆個ほどの細胞で出来ている。それら全てが生きることへ欲を働かせているとは限らない(死に誘う細胞もあるのだから)が、多くは自らを増やすことに機能を費やして命をかけて増殖していく。ならば生まれることは幸せなのだろうか。

 だが、あのオナニーを続けてるときに得る多幸感は、外界へ出ることを望んでいない気がした。言葉を持たず形のない快の海で揺られながら、ただただ意味を持たない幸福の中に浸っていたいというあの悦楽は、母親の胎内から出ることを恐れていやしないだろうか。言葉を持ち、善悪を知り、分別を得て、不快を知る不幸を望まないのではないか。
 ならば、産まれるとは、やはり、「産まれる」ことなのではないだろうか。

 生きていくことに何等かの幸福を求めそれに縋っていくしかない有情の者は、産まれいでた責任を他人に課してしまったとき、何かを狂わせてしまうのではないか。

 人の手で、命を作り上げ、命を産むということは――

「……ばかばか、しい。」

 まだ巧く動かない体をなんとか持ち上げて、もう不快感に変わってしまった湿り気を脱ぎ捨てて椅子に体を投げる。
 オーガズムの快感はあるが、この自慰は、アクメの快感と同時に後ろめたさをくれるものでもあるのだ。

「こんなこと、やめなければいけないのに」

 月にいる頃、蓬莱の薬に不妊の作用があると知り、まだ卵巣内に生存していた卵を幾らか冷凍保存していた。私が手淫に供いていたオカズは、何を隠そう自分の卵だ。……もう、ほとんど残っていない。

 スライドグラスには、私の卵と、そして輝夜の髪から取り出した細胞核から作った雄性"卵‟が、接合して育った胚が載っている。彼(女)には、自らを抱くものが、母親の胎盤であるのか、ガラスの台板であるのか、わかっているのだろうか。

 卵と精子には手を加えてあり、分裂の速度が恣意的に加速させられている。いまも、成長を続けていた。
 明かりを消した部屋には、私と輝夜の子が産まれようとしている過程を晒す、映像。胚はもううっすらと魚のような形を形成している。青白い光が、プロジェクタと、それに接続された顕微鏡の傍から溢れ出し、部屋の中を寒々と照らしている。黒魔術の儀式の光景、それよりもなお寒気と吐き気を催す、ここは禁忌の現場ではないのか。

 こんなことをしてまで、私は、子供を欲しいと思うのだろうかと、自問する。
 月では、至って普通のことなのに、私はこの地球で毒されただろうか。いや、私だけじゃない。輝夜だって、漠然とあの社会に対して反感を持っていたのだ、だから、私に命じて薬を造らせこれ見よがしに永遠の命を身につけて、地球へ出奔した。この地球にいるから感じるようになった不安感ではない。命を操作することを覚えた命自身の根底から滲み出る恐怖心が、そうさせているに違いない。

 命なんて簡単に造れる。創れる、ではない。感情のない作業と、定型化された管理と、鉄と硝子の工場によって、容易に製造できるのだ。月ではその技術はとうの昔に実用化されている。うどんげ達玉兎もその産物だ。命なんて、工業製品のように、大量に、容易に、生み出せる。命の発生になんらかの重みを与えるとするなら、それはそのプロセスしか残されていないと、私は考えていた。
 慧音が阿求ちゃんにつくらせたものと、私がこうしてつくろうとしているもの、だから0と1ほど別物なのだ。遺伝子の交配が、新しい命の祝福なんかではないのだ。

 私は、自分の下腹部を、撫でる。器官は全て揃っている。ただ、機能をやめてしまっているだけだ。冷凍保存してある卵はもう、数えるほど。それに、冷凍してあるとしてもどれほど保存に耐えられるかは疑わしかった。
 私の‟ここ‟が子を生せないのは単純に薬の副作用だと片付けてしまえば、治療の対象となるだろうか。蓬莱人は、阿礼乙女と同じく、種を分かつ存在なのだと私は思っている。より純粋な人間に近い人間だと、藤原は思い切りの皮肉を込めて言ったことがあったが、その通り、私達は恐らく人間の亜種として存在を分かつものだ。

「行為自体は、できるのにね」

 スライドグラスの上のものを、シャーレに戻す。
 部屋を青白く照らす映像は、顕微鏡よりは拡大率の低い拡大カメラ、シャーレ内を映すものへ自動的に切り替わる。胚だけが拡大されていた画像は、今はもう少々広域を捉えている。これを、幻想郷と同じと揶揄した私は、正しかったと思うし、同時に愚かだとも思う。私一人の問題なのだ、仮に幻想郷と言う脆い世界がこれと同じであったとしても、その責任を自分以外の何かに投影するのは、おこがましい。

 先日、慧音に抱いてもらったのは、そういえば久しぶりのことだった。阿求ちゃんへの嫉妬や輝夜への未練がなかったかと言えばうそになるけど、やっぱり、慧音のことを求めて止まらなかった。セックスは気持ちよくて、抱いてもらって幸せだった。
 でも、ここにあるのは子を生すことを忘れた卵巣、子宮、私の体は雌だろうか。それを惜しく思うこともあるけれど、シャーレの中で分裂を続ける胚を見て、余りにも「つくりもの」であるそれが、私の雌性の代わりだと思うことは出来そうにない。

 私は、輝夜の子供が欲しいと思っては、過去にも何度もこれを"やろう"として、しかし、何度もやめていた。

 子供が愛の結晶だなんて比喩を、私は憎んでいる。愛があれば出来るような軽い物じゃない。でも、愛がなければ簡単に造れてしまう。この差は、何だ。

 セックスしか、それを分かつものはないじゃないか。

 輝夜と私は、どちらにも雄は備わってなくて、セックス出来なくて、だから、そういう関係を望むのを諦めたのに。この手で簡単に造り出せる命を以て、愛の証明だなんて、仮にプロセスが逆行すれば、それは余りにも軽薄が過ぎる。それは、お互いの言外の同意だった。でも、辛いものは、辛い。それが得られぬことは、渇きにも近い苦しさを伴っていた。

「だからって、セックスが出来ればその罪が浄化されるとでも?そんなわけがないでしょう、ばかばかしい」
 まさに命が製造されている映像が、しん、と映し出された暗い部屋で、私は独りごちながら顕微鏡を前にして乾いた笑いを止められない。倫理観など持ったつもりはないけれど、作り出した命に宿ってしまう"意識"が不幸を自覚するのを考えて、その不幸を知ってなお求める自分の独りよがりを自嘲するしかなかった。

 遺伝子の交合はなくとも、愛とセックスと妊娠をプロセスとして持つ、阿刀ちゃん。もし私がこのシャーレの中の‟もの‟を手順通り飼育するとしても、そのセックスを欠いたプロセスを、私の"女"は許さなかった。きっと、輝夜も嫌がるだろう。蓬莱の秘薬を己が身に受けてみれば、わかる。それは本能的な嫌悪感によるものだとしか説明が出来ない、誰かに共感を得ようだなどと考えてはいなかったが、何より、産まれてきた子のことを考えると倫理がどうのと言うより一人の人間をどう扱うのかと言う問題がどうして解決できない。こうして作られた子は、あんまりにも受動態ではないか。
 まさしく「産まれた」子、それが、命と子にとって幸せだろうか。
 子供を作りたいという独善が行き過ぎた責任を、子供に着せることになりやしないか。出来上がった命にだって、人格が宿るのだ。そうしたときに、何をどう説明すればいい。ただ、愛の結晶だと、教えればよいのだろうか。

 だから、セックスしか、それを分かつものはないじゃないか。レイプを肯定するものではないけれど、レイプを否定してデザイナーベイビーを否定しないのは、筋が通っていない気がする。だったら、セックスが、やはりエビデンスであるべきなんだ。
 だったらこうして造ろうとしている命の片割れを、輝夜ではなく慧音に求めるのなら、よいのだろうか。薬の副作用で失った生殖能力を補うという大義名分は、医療の名の下に正当化されるかもしれない。でも、その正当性さえ、もし輝夜との双雌性配偶を認めてしまった後ならば、それも穢されてしまう気がしていた。

「やっぱり私は、色情狂ね、セックスなしじゃ、ダメみたい」

 私は、シャーレの中へ、手近にあったじあを乱暴に放り込んだ。
 ばさり、音がするほど沢山だ、別にこれでなくても環境が変わって胚が死ぬのなら塩でもせっけん水でも、なんだってよかった、手元にあったからそれを使っただけ。恐らくほんの少量でよかったはずなのに、冷静さを失ってこんな風に大量に投入してしまった。生み出すのは簡単なのに、ほら、殺すのはこんなにも頭の中がぐちゃぐちゃになる。
 命を造るのなんて、殺すのに比べれば、簡単なことなんだ。

 もはやただの廃棄物でしかなくなったシャーレの中。
 中絶した、という言葉を使っていいのかさえ分からない。それが命だったのか、まだ誰も決めていない、決めることなど出来ないだろう。

 そしても、もう今迄に何回これをやったのかさえ、私は覚えていなかった。

(行き止まりの逃避先を、慧音に求めているだけ、ね)

 輝夜を愛し、永遠の命を成し遂げ、うどんげを造り、そして今は慧音に逃げている私。そのどれも、まだ私は償っていない。地球に来て、罪を上塗りしているだけだ。

 残された卵を、慧音の精子と受精させることに、しかし私は恐れを抱いていた。治療だと言えばそれで済む、だが、それで済むのだろうか。
 それに、私はもうこんなことを疑ってしまった。これを疑ってしまったものは、恐らく人工授精を、救いの魔法だと信じて綺麗な心で受けることは、二度と出来ないだろう。それに、その穢れが産まれてきた子供に降りかかってしまいそうで。

 じあをぶちまけたシャーレを画角に捉えているモニタには、もう何も映し出されていない。もしかしたら生まれてきたかもしれない、私と輝夜との子供は、何も知らぬ内に、死んだ。
 何も、映っていない。
 何も、いなくなった。
 何も、残っていない。

 無性に、涙が出てくる。悲しみか、悔しさかも、わからなかった。
 一体何に対する感情なのかさえ、把握できない。

 涙が目に染みて、開けてられない。
 そうして目を閉じて浮かんできたその顔は――

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