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【バカルテット】頬ずりしたいな柔い少女

ルーミアとか。
不謹慎というか失礼な話ですが、
予定されているSSが進まないので自分を発破する意味で書き始めたものです。
首締めとか幼女屍姦とか好きなもの突っ込んでみました。
後は読んでそのまま「さよならを教えて」。
ほかにもこまごまとパクリですが、印象を引っ張るほどのものではないので割愛。



以下、アーカイブ。
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おお、おおお、お、あおお、あお

 それは隣の部屋から、毎夜聞こえてくる呪詛めいた「祝福」。
 狂気、という言葉は僕は好きではない、もしそれがこの世に実在するのであったとしても、その持ち主にとっては立派な理性なのだろうと思うから。それを理解できないとき、ただの諦めの証として、敗北の証として、安易で陳腐で軽薄な拒絶の証として、「狂気」という言葉を使うのだ。
 隣の部屋から響く呪わしい祝詞の響きもまた、恐らくはまだ僕には理解出来ないだけなのだ。だってそれは、僕の為を思って紡がれていて、僕の不幸をこれっぽちも望んでいるものではないのだから。

 それでもその地面を伝って僕の脚から入り込み僕の精神をどうしようもなく蝕もうとする音の波を、まだ、僕は理解出来ないでいた。いつかきっと、肯定的に捉えることが出来るのだ、それこそが、大人になるということなのだと、それ以外に辻褄の合う筋立てが僕には思い付かないから。

 お、おおお、お、あおお、お

 隣の部屋から漏れ入って来るその声は、嗚咽の様でもある。泣き声。
 「泣く」というのは、「行為」というには受動である。かと言って「反応」と言うには主動的で、「現象」と言うには能動である。「泣く」と言うことは、「自発」とは言い切れないが「他責」と言うには原因を内包し過ぎている。
 「泣く」は、最も原始的な「感情」であると言えた。喜怒哀楽に分化する前の、もっと根源的な、感情。然るに、「泣く」とは、Operationであると同時に、Stateなのだ。
 感情とは何か。それは、その精神的な変化を原動力とするとき、自分が確かに世界を変えられるという、根源的な学習に基づく処世術だ、自信の自覚と言ってもいい。
 赤子は、泣いて母を呼ぶ。泣いて、自分が求めるものを親に探らせ、見事その満足を得る。赤子は、泣くことによって自分の知覚する狭い狭い世界において、望みのものを手に入れる、その規模が小さいだけで、世界を変えたことと等価だ。自らの全能を知る。赤子は、「能動」と「社会」とを初めて結び付け、それを操作する手段として「泣く」のだ。
 泣いても母親の適切な反応を得られない、つまり卑俗に言えば親の愛を受けない、子育てに失敗した、etc、そう言った場合には、赤子は「世界を変えられない」ことを自覚する。感情を表現することに意味を見出さない。その子は無力感とともに生き、「世界を変えるられる力を自信する」極普通の隣人に対して大きな引け目と、或いは比較して明確な異常性を持ったまま、育って行くことになる。

 隣の部屋から響いて来る祈りの声は、まるで赤子に戻ってその未分化な欲求を誰かに掬い上げて欲しいと訴え続けている声にも聞こえた。つまり泣き声。それは、子供であるならともかく、いい大人が(つまり僕の母だが)、理性を手放して何者かに救済を求める、努力無しに世界を変えようと無謀する姿、感情、欲求と緩慢な諦観に違いないと、思えていた。

 何故、僕を差し置いて、あれが、泣いているのだろう。

 僕はその祈りの声を、耳を塞いで聞こえないようにして、過ごしていた。







 スイッチ?
 スイッチ!

 押し込んで、それは意思の発露。
 僅か1センチメートルに満たない押下が僕の安楽、夜の愉悦だった。

 かち、

 夜は黒ではない。縺れ絡み合い解けなくなって山間を横溢して這い出で、ぐねりとくねり宛もないどこかを無為に照らす街燈、泥を吐き続け草臥れた消火栓、もう眠らせてくれと正気を失い叫ぶビル、差し込む光にずるずるずると引き伸ばされて地面に擦り付けられ伸び切ったそれらの影、そして僕の、間を、温度の無い水みたいにずぶずぶずぶと浸して行って、宵闇は、その繋がる根っこの処を這い回る蛇か蚯蚓か、或いは彼女の髪の毛が、そのまま湖底にこの世を飲み込むみたいに光を遮った状態。だからこんなにも闇やいだ極彩色、夜という概念を僕は、

 かち、かち、かち、かち

 地下に潜り損ねた電線はこの町の血管が剥き出しになったみたいで弱弱しく、痛々しく、早くそれが千切れてだらりと力なく垂れてしまえばいいのにと、思う。きんっ、きんっ、と軽快な心音を降らせるのは取り残され死に損ないの電球、道路の白線はその心電図、途切れ途切れて、掠れて――消えていた。アスファルト≪皮膚≫は罅割れて醜い裂創、光に追われた闇は影の姿を借りて引き伸ばされ力なくそこに逃げ込んでいる。

 光に虐げられた影が色を謳うそうした夜には、この聖櫃が、僕を至福の時間に連れて行ってくれる。

 再生>
 スイッチ。
 巻き戻し。
 停止□

 押し込んで、それは意思の発露。
 僅か1センチメートルの押下が、僕のオーガズムだった。

 ヘッドに髪の毛を巻き込んで行く。カセットの歯車に噛み合って巻き取る回転に、毟った髪を巻き付けて。大昔、そうきっとこのラジカセが僕の手に渡る前、普通のラジカセだった時には磁気を読み取る眼であっただろうヘッドは、今は毛髪を食んでいる。とても、おいしそうに。


 再生。
 夜の色は黒ではない、赤の、青の、紫の、黒の、白の、桃色の、黄色の、緑色の、糸が織りなす帳。ざ
 奈落を思わせる漆黒なんかではなくて極彩色、その色は除光による真の名の発現。ざ、ざ
 羅針盤となって僕を誘うのだ。ざ、ざざざ
 音を、聞く、ざ、ざ、ざざ、ざ
 恐ろしくなんかない、目に見えないことは、単に光を媒介せねば像を結ばない人間の弱ざざざ、ざ
 漆黒の中に響く、ざ、ざ、ざざざざ
 えいえん、ざざざざ、ざざざ、ざざざ、ざ
 停止。








 記憶にあるのは、真っ赤な映像と――。

 熱い、という言葉は僕の中にはまだ無かったんだろう。ただ、不快、だった。或いは回避欲求。逃げ出したい、逃げるという言葉も僕の中にはまだ無かったから、ただ泣いていた。
 でも、その一面眩しい赤に染め上げられた世界は、少し前迄いた心地の良い場所と似ていたものだから、熱いと言う意味を持つ前の、不快感と危険と言う言葉を知る前の逃避と、懐かしい色の世界の混在に、僕は混乱していたと思う。
 来た場所に戻るだけなのだろう、前義性の意味感覚が、なんとなくあった。

 炎の中というのは、炎が目まぐるしく激しく動きまわる激流を成しているのに、音は驚くほど少ない。熱によって生み出された空気の波と、炎に飲まれたものが熱で変質する破砕音、それはこうして視界の中に広がる真っ赤の世界の脈動に比べれば、アンバランスなほど静かだ。

 誰の助けもないまま炎の中に置き去られた僕は……でも、奇跡的に助かったのらしい。

 余りにも幼かった僕には、その時の記憶はほとんど無い。
 ただ憶えているのは、炎に包まれた真っ赤な映像と――その炎の中にあって不自然なほど冷たい感触、青、女性の姿。
 覆いかぶさられて、見えたものを判ずる余裕はなかった。その一瞬前に、母親ではないというのにそれかそれ以上か安らぎを覚える顔。人の表情を解読する能力をまだ備えていなかった僕には、それが苦悶+笑顔という混色であったことは理解できなかった。

 そして彼女の唇は、………のカタチを描いて、こわばる。







 また、
 かち、
 スイッチ
 音量は最大

 がりさりがりがりざざざがりざあざざざっ、ぎゅ、ぎゅ、ぎりぎりいぎりぎり、ざっ、ざざっ

 このラジカセは、このカセットの口から、もう何百という世界を飲み込んでいる。最初は髪の毛一本が掠れた音を鳴らしてようやく通り抜けられる程度だったこの道は、今はもう、カセットの挿入口全体が、底知れない闇を湛えてぽっかりと開いた「向こう側」だった。歯車は世界を穿つドリルで、ヘッドは新たな福音を読み上げるデコーダ。ボリュームは最大、ホワイトノイズの奥に聞こえる掠れた喘ぎ声。

 ぎーーー、ぎぎぎ、ざっ、ざざざっ、ざりざりざり、ぎゅぅぅぅううう、ぴいいいいいいいいいいいいっ

 巻き戻し。再生。早送り、巻き戻し。

 特に再生ボタンを押し下げっぱなしにしての早送りで描き出される向こう側の音は、僕のお気に入りで、僕はこれでもう何度も射精していた。

 夜の帳が世界を金色に照らし出し、赤の、青の、紫の、黒の、白の、桃色の、黄色の、緑色の、糸が、糸が糸が糸が、僕の視界の中で絡み合って織り上がって、金色と混色して夜になっていく。夜の闇は黒ではない、総ての色だ。全ての光を束ねると白になると言うが、それは真を歪める欺瞞だと僕は思う。だって光を遮られたその奥で、何もかもが愉悦するのを僕は知っていた。照らし出された理性と常識は、余りにも無機質で残酷だ。僕は光を媒介にしか世界を視覚することができないのを、呪った。夜の金闇が総てを抱き締めた後には、赤の、青の、紫の、黒の、白の、桃色の、黄色の、緑色の、糸が、うっすらと見える。それはくねくねと身をよじりながら僕を取り囲んでくる。命ある者の体温に引き寄せられ歓喜に舞うように僕を取り囲んで、同時に嘲笑う。
 息が、上がり続ける。スピーカーから漏れ出る喘ぎ声をオカズにして、僕はペニスを扱いていた。スイッチは再生+早送り。歯車に巻き込まれヘッドに擦れる髪の毛は、泣き叫ぶ声みたいな金切り音を僕の脊髄にぶち込んでくる。堪らない。彩度ゼロの極彩色、僕を飲み込む半蠟化した闇、肌を滑るたびに興奮が高まって行く。体の内側からマグマのようにドロ付いた熱が湧き上がって全身を支配する。髪の毛を食むラジカセが雄叫ぶ砂音の中に、法悦があった。
 ただのオーガズムじゃない、これは。宗教的恍惚、僕が何かの宗教の信者であれば神の啓示、同化、予言と神化を叫ぶだろう。光はちかちかという明滅ではない、視界と意識が境界を失いそれを巻き込むように光は洪水となって僕を呑み込み押し流す。
 この闇だ、総ての色を内包して塗りつぶす黒が、僕の、総てだ。それはどこかから、夜の冷たさに紛れて、少しずつこの世界に流れ込んで来る。どこかから?知れている、この、ラジカセだ。カセットの入れ口、世界を穿つドリル、歯車、福音読解ヘッド、聖櫃が求めるものを捧げ、溢れ出る祝詞。フラッシュフラッド。
 そしてこのラジカセはこんな金溶けの夜、髪の毛を食ませたときしか、僕を向こう側へイかせてくれないのだ。僕は、それを待っている。いつも、いつも待っている。
 毛羽立った音に耳を愛撫され体を内側から焼き上げられながら、こんな気持ちいい世界を圧縮していたそれを、僕は見る。その瞬間に、僕はまた、射精した。
 向こう側の音に意識を委ねて精神を揺蕩わせるオナニーは、信じられないほど気持ちがいいんだ。







「大事に育てるんだよ」

 ペットショップのおじさんが、そう言って、インコの入った紙箱を渡してくれた。僕が指さして、それがいいと言った子。鮮やかな黄色、羽に緑、それと青色が綺麗に配色された美人さん。声も硝子の鈴みたいに澄んでいて、凄く気に入った。

 おうちに帰って箱を開けたら、そのインコは僕に、なんて言ったと思う?







 夜だ。
 やっと、一日が始まる。解放された、時間が。
 僕は窓を開け放った。金色にはもう一歩足りない、澄んだ闇が広がっていた。満月ではない月も、口角を吊って笑っている。

 どうやら僕は天使様に助けられたのだと云う。

 僕が絶望的な火事を奇跡的に生き延びたのらしいことは有り難いことと思うけど、今だけを切り取ると、そのせいでこの家は何か気味の悪いものに憑りつかれた様になっている。
 母は日がな一日十字架を擦りながら暗い部屋の中で祈り続けている。朝出勤する父を見送ることもせず家のことも何もしない。ただ一日中嗚咽のような声で祈りの声を上げて立ったり倒れたり平伏したり転がったり。髪も伸ばしっぱなしで風呂にも入らず……トイレにも行かない。その部屋は悪臭が満たしていたが、それを上回る香の匂いだけが部屋の外には漏れ出ていた。あと、祈りの声。祈りの声の中には、時折、天使様という言葉と、僕の名前が混じっているのがわかる。そこに僕の名前が混じっているのがもはや、呪いにしか聞こえなかった。

 僕を救って下さった天使様への祈りだからと、父も母をどうにかしようとしない。いや、ただ、面倒ごとを避けているようだった。そういう父も、毎日決まった時間になると人の言葉とは思えない何か呪文を唱えて決まった方向に平伏していた。死んだ魚みたいな目で、朝家を出て夜帰ってくる。何して帰ってくるのかは知らない。

 昼間、僕の家の中はこの不気味な世界に変わり果てている。僕のせいで。
 僕は学校にも行っていない。行かせてもらえていない。外出することは出来るが、昔そうしたように、小遣いをこつこつ貯めてどこか遠くに行くような気力も、僕にはもう残っていなかった。八方塞の環境で、僕にはもう、意欲のようなものは無くなっていたのだ。

 だから、父も母も寝静まった夜だけが、僕が解放される時間だった。隣の部屋から祈りの声が聞こえることはないし、常に母に向けてカミソリのような気配を立たせてぴりぴりしている父親も寝ている。
 夜は、安心する。大好きなラジカセを抱いて、そこから聞こえる別の世界に思いを馳せて、僕は小さく生きていた。
 天使様に救われて火事を生き延びても、僕はこんな、ザマだ。

 夜のわずかな時間、この真っ黒の中にだけ、救いがある。あの呪詞も、死んだ魚も、救ってくれない僕を。宵闇と夜風と、そしてこのラジカセから聞こえる向こう側の音だけが、僕の安心だった。

 あれ、昔、小遣いをこつこつためて、僕は何に使ったのだったっけ?








 冴えわたる月影をまるでスポットライトに使役するように、その姿はあった。
 予感、した。僕にはそれが人間であるようには見えなくて、むしろそう、天使だと、思った。
 何がそうさせたか。
 楽に他人との意思疎通が出来ないこと?
 奥にしまいこんだままの異常性癖?
 同じ人間に対して全体論的な憎しみを持っているから?
 心身にどこか異常を来しているように見えるから?
 延々と同じことを繰り返してしまう自閉症的な症状のせい?
 手が、勝手に動いていたんだ。


 月の光の中に、まるでその黄色く輝くまんまるを頭に、夜の闇色を従えて体に、しているような背徳的な瑞々しさがあった。こんなに可愛らしい子を夜の底で見かけるなんて、それだけでエキゾチックだというのに、だってそんな子が、こんな人目の無い道を一人で歩いていたら。
 幼い女の子だ。お使いか何かにでも来たのだろうか。幼稚園か、行っていても小学校低学年かな。背丈はそれくらい。年相応にふっくらと丸い頬の輪郭はマシュマロか白桃、やわらかそう。鼻のてっぺんと両の頬にすっと差した薄紅が幼い子供の愛らしさを強調していた。大きな目は黒目がちで、やたらと二重瞼を求める年増女と違って一重瞼の目周りがあどけなくて可愛い、似合っている。黒っぽい衣服はスモックの様にストンと真っ直ぐに落ちるデザイン、襟とリボンがチャームポイントだった。その裾から除く脚はふわふわの感触を想像させる肉付きで、そして彼女の純潔を象徴するかの様な白のソックスに吸い込まれている。黒のスモックに対照的でまぶしい。
 どこをとっても美幼女なのだが、何より目を引いたのはその髪の毛だった。
 月の色をそのまま糸にしたみたいな、つやつやのブロンド。染めたり抜いたりしてる傷んだ髪とは違う、あんな薄い街燈の光で天使の輪が出来る位のキューティクル。ぽてぽてと音がしそうな歩みの度に、そのブロンドをまとめる赤いリボンが揺れている。

 その姿を見た瞬間、僕の心臓は見えない大きな手に鷲掴まれた様に窮屈さを訴えた。呼吸が浅くなって、心拍は不自由。視野が狭まって点に向かって収束し周囲が見えなくなる。

――ほしい

 言葉は頭の中で考えるものと思っていた僕だが、そのメッセージは胸の辺りから生じて頭の中にある整然とした思考を粉々に破壊して、そこを陣取った。一瞬で支配、僕の頭は獣性で塗り潰された。目の前の、少女が、

――ほしい、ほしい

 とびかかっていた。
 そのとき、愚鈍な自動人形でしかなかった僕が、血の渇きのようなものに急かされて跳躍した。ぐるぐる、目が回るような精神錯乱の中、くっきりと見えていたのはその少女の口を塞いでだ自分の手。
 ぬいぐるみ程度の大きさしかない彼女が幾らかじたばたともがいたところで、こんなに小さな幼女の動きを封じるなんて、僕でも造作もない。僕はそれを抱えたまま公園のトイレの中に駆け込んだ。

「はぁっ、はぁっ」

 息が上がっている。それは、「これ」を抱えたまま走ったからというだけではない。期待が渇きに変化している。渇きが焦りに変化している。焦りが動悸と興奮に変化している。今、僕の腕の中にいる、少女。驚きと恐怖に見開いた目を僕に向けている。声は出せないが、叫ぼうとする声が塞がれて鼻から洩れる音が、小さく聞こえた。そのか細さが小動物の様で、興奮が余計に増す。血流が増して呼気が増して、「体積」が増す。
 彼女を洋式便器の蓋の上に抑え付け、僕は体重を更にその上から押し付けた。

「はぁっ、は、はは、っ、はぁっ、はぁっ」

 ずっと待っていた望みの物を手に入れたみたいな、ふつふつと湧き上がる歓喜。目の前で苦悶の表情を浮かべる幼気な少女、美しい金髪。肌を寄せると少し高い少女の体温が、伝わって来る。ぞくぞくする。

「ほしいんだ」

 少女の柔らかい頬に、舌を這わせる。顎のあたりから目尻のまで、唾液をたっぷりと含ませた舌で舐めると、青くて甘酸っぱい味がした。甘い香り。髪の毛から、ふんわりと果実のようなにおい。くんくん鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。堪らない。少女の匂いとはこんなにも甘美なのか。

「きみが、ほしい」
「んぐ」

 ちっちゃい耳を、唇で食む。少女が声を上げようとするがそれも叶わない。細い腕は人差し指と親指のわっかで二本ともを一緒に包むことが出来る。そうしたまま親指の腹で少女の二の腕の肌を撫でる。しっとりとしていて吸い付いてくる。これが、人の肌なのかと疑う位にやわらかくてあたたかい、人肌のマシュマロ。こんなもので全身が出来ているなんて。こんなふうに小さい少女の体は、なんてすばらしいのだろう。愛したい、愛したい、この愛欲はどうすることで満たされる。

「ああ、なんてかわいいんだ」

 靴と靴下を脱がせて足を露わにすると、豆みたいにちっちゃい指が可愛らしくくっつく足が現れた。真っ白の中に、あたたかな血色が透き通っている。半透明といっても過言じゃないくらいの柔らかい肉。思わずしゃぶりついた。足の指に舌を這わせる。幼い少女の汗は、臭くない、すこし酸っぱくて、まるで果物みたい。

「いいにおい」
「んうぅぅっ」

 スモックとその下のシャツをなるべくに優しくたくし上げると、ぷにっと柔らかそうなおなかと胸が現れた。真っ白な雪原、少し膨らんだおなかの真ん中にへこんだおへそが愛らしい、そのくぼみに鼻を突っ込んで匂いを嗅ぐ。ああ、少女の香り、堪らない。おなかに顔をくっつけたまま舌を出して、おへその下からぬるりと舐める。そのままおへその穴を舌先でほじって味わい、そのまま胸へ。ピンク色で少しも汚れのない胸の先端は、乳房が発達する前の性未分化な脂肪でだけ、ふわりと膨らんでいる。僕はそれを口に含んだ。余した方の胸を、手で撫でる。強くはしない、あくまでも優しく、撫でる、愛す。こんなにも可愛い人形を。
 すべすべの肌を掌と頬で、シャンプーとベビーパウダーと少しの体臭が混じった芳香を鼻奥いっぱいで、味わう。愛らしいという点でこれほどに完全無欠なものは他に無いように思える。
 逃げようと身をよじり手足をばたつかせる少女だが、僕に抑え付けられてそれは全く徒労。むしろ僕に抑え付けられて無力に落とし込まれている様は、より僕の劣情を掻き立てた。マシュマロと白桃の娘みたいなその頬に頬ずりする。ごめんね、こんなものを口に入れてしまって。でも声を出されると困るから。少女の口にはハンカチを押し込んであった。彼女の小さな口にはそれで十分だった。鼻から抜ける声は小さく、何かあったときには手で押さえれば十分だろう。それによって膨らんだ頬もまた、より彼女の幼い可愛らしさを際立たせている……涙に潤んだ大きな目も、どんな裏ビデオよりも、僕を興奮させるものだった。
 洋式便器の蓋の上で身動きが取れない少女の姿は、まるで昔捕まえて脚を捥いで放った、虫の様だった。僕に抗うことも出来ない、小さく弱い命。生かすも殺すも、僕の自由。いや殺す。足を全部捥いだのだ、どのみち死ぬだろう。歩くことの出来ない虫がその付け根を忙しなく動かしながらも動くこと叶わず、ただそこで蠢いているのを、僕は飽きもせず見ていたのを覚えている。

 今のこの子は、それと同じだ。

 ペニスが、ぎんぎんに、勃起していた。こんなに可愛い幼い少女が、僕の手の中にある。生殺与奪、全て、僕のものだ。僕のもの。ぼくのもの、ぼくのものぼくのもの。
 優しく愛でる余裕はすこんと欠落して失せていた。僕は何かに急かされるみたいに、彼女のぱんつをはぎ取る。まだ排泄にしか使ったことのないだろう少女のワレメは、無毛で白い。すじに沿って赤みがさしていて、年増女のそこみたいにグロテスクに肉がはみ出したりしていない。なんて、綺麗で、甘美か。思わずしゃぶりついた。すこしだけ、おしっこの匂いと味。美味。舌を出して柔らかなクレヴァスをほじる。女の子は声を上げて嫌がったがそれもか細く無力だった。弱弱しい様子にゾクゾクと背筋を興奮が駆け上ってくるのを感じた。つつましいすぼまりスジを上に下に舐め、固くなったことのない陰核を撫でる。小さな小さなワレメの間に鼻先を押し込んで大きく息を吸うと、得も言われぬ馨しい匂いが肺を満たした。
 窪みのない首と鎖骨、膨らみのない胸、くびれのない腰、なだらかな曲線だけで構成された幼女の体は世に熟れた年代といわれるババア共の体よりも、より一体感を持っているように見えて、完全性を宿しているように思える。丸みを帯びつつも細さを保つ様は、「小(さ)」という修辞でこそ美化するのが最も適しているように感じる。そうした淑やかでありながら甘い魅力は、こうした、幼い少女にのみ備わる宝石だ。僕は今、それを手にしていた、いや、口にしていた。
 唾液でべとべとに濡れた未使用の清廉陰部は、公衆便所の鈍い冷色灯光をてらてらと返す。こんなにも清純なのに、こんなにも艶めかしい。凹凸のない幼体の、完全な美。エロス。
 僕は乱暴に自分のズボンを下ろして、反り返ったペニスを曝け出す。それが何であるのか少女に知らせる必要はない。ただそれを、自分の臭い唾液でべとべとに濡れた白い筋に擦り付ける。びりびりと、ペニスから熱気と電気と歓喜がいっしょくたになった得体のしれぬものが競り上がってくる。腰を前後に動かしてペニスの裏側をヌラつく陰部と摩擦する度に、僕の股間は喜びの汁を垂らした!

「ああ、ああ、」

 意味を持った言葉はこの悦楽を形容するのに使い物にならない、ただ絞り出された魂みたいな音が、喉から漏れ出てくる。僕の手の四分の一くらいしかない小さな手で僕を拒絶しようとするけど、その仕草は愛らしさを増すばかりだ。たくし上げたスモックの下でのたうつ白く滑らかで凹凸のない体躯、その端っこにちょこんとついた、未成熟のヴァギナ。ペニスを擦り付けている。

「ああ、ああっ、はあっ、はあっ」

 じじ、じじ、と焦げるような音を散らす公衆便所の明かり、真白い幼躯はその光の下で捩れて蠢いている。外は固い甲虫の柔らかい腹みたい、頬ずりする。ヘソに舌を這わせる。赤い頬にキスして、恐怖の涙で潤んだ眼に、僕の姿を落とし込む。黒い瞳に僕の、醜い僕の姿が反射している。でも、その僕に、可愛い君は、何もかもを握られているんだ。逆らえないんだ。可愛いよ、そんな風に僕よりも弱い存在は、可愛い。
 また、陰茎を擦り付ける。また、腰を前後に振る。あ、出そう、出そう、凄い、気持ちいい、出そう。

「やめてええっ!」

 夢見心地だったのが、突如奈落の底にいたのに気付いたみたいに、はっ、引き戻される。それは少女の声だった、鳴き声、叫び声、見るとハンカチが口から外れていた。

「だぇか、たすひぇ、!」

 まずい、声を誰かに聞かれたら。
 咄嗟に僕がしたのは。

「く、ぐぇ、ゅぅぅっ……っ」

 口でも鼻でもなく、彼女の首を思い切り絞めることだった。
 声はすぐに止まり、何者かにこの行為を知られる危機は去る。それでも僕は、バレるかもしれないという恐怖と緊張から、彼女の首を緩めることができない。首を絞めて力んだまま弛緩できない。そうしている間、少女の息は詰まったままだ。

 僕が彼女の細くて白い喉を押し潰す様に締め上げたままでいると、ちいさなちいさな手が僕の手を払おうとする。ミニチュアみたいに小さい手、白い指、まだしっとり柔らかい爪が僕の手にかかったが、それは弱くて全然効かない。ぺた、ぺた、と僕の腕を手の甲を、二度三度触るだけ。足をばたつかせるけど、それも空を蹴るばかり。彼女の口の端から、泡が漏れて、唾液が垂れた。掌の中に、咳が握り潰されて消える感触があった。
 さっきまで恐怖の涙で塗れていた黒目がちの目、今はかっと見開かれて瞬きもしない、白目は血走りぎょろぎょろと動き回って、必死の形相で何かを目で探している。可愛らしく赤味がかった白だった肌も今は真っ赤。
 そして、それはやがて、紫がかってくる。

 少女の股間から、生暖かい液体が漏れた。おしっこを漏らしているらしい。無毛のワレメから溢れる小便はしょろしょろと音を立てて閉じた便器の蓋の上に注ぎ、床のタイルに水溜りを作った。トイレに入り自分で排泄するのとは違って窒息で意識を失い漏らしているだけだからだろうか、放尿はどこか勢いがなく噴出というよりは漏出といった感じ。汚い、とは思わなかった。それどころか、放尿する少女の姿が、一層エロチックでさえある。馨しい香りが、個室の中に立ち込めて、僕はその催淫ガスをもろに肺の中に吸い込んでしまう。

 首を絞められたままの少女はといえば、チアノーゼで顔全体が変色していた。可愛らしくぷるりとした唇も青紫に沈んでいる。逃げ出そうと動いていた手も足もやがては緩慢になり、そのうちに動かなくなった。自らの漏らした小便溜まりにべっちょりと濡れる幼い少女の瀕死体。

 目の前の少女が僕の手で、だんだんと生き物から物へ変化していくのを見ながら思い出したのは、インコだった。潰して殺すためだけに買ったインコ。ペットショップでおじさんは、きっと僕はそのインコを可愛がって大切に育てると思っていたのだろうけど、買ってきてすぐに、首を捻ってこの手で殺した。だって、彼女が、そうしろって、言ったから。きゅうっ、と、ほとんど抵抗もないまま首はあらに方向に曲がって、インコは死んだ。だって、そう言ったから。
 そう言った?
 インコは、僕に、何を言ったのだったっけ?

 充血した少女の目が、消えかける光の中から僕を見ていた。そして、酸素濃度が低下して真っ青になった唇が、ゆっくりと、動く。小さく、震えるように。何か、言葉を紡ごうとしていた。命乞い声だろうか。いや、何かそういうものではないと思えた。何かを僕に、言おうとしている。また、何かを僕に言うの?あの日のインコがそう言ったみたいに、また、僕に?
 でもその言葉を確かめるために手を緩めることは、僕には出来なかった。チアノーゼで青紫になった唇は、ほんのわずかにだけ、動いて。

「なんて、言ったの?」

 彼女の唇は………のカタチを描いて、こわばる。







「大事に育てるんだよ」

 ペットショップのおじさんが、そう言って、クワガタの入った紙箱を渡してくれた。僕が指さして、それがいいといった子。艶のある濃茶、角も立派で、活発に動き回ってる子。ケンカも強い男の子で、凄く気に入った。

 おうちに帰って箱を開けたら、そのクワガタは僕に、なんて言ったと思う?







 やっと力を抜くことが出来た時には、少女は決して声を上げないものになっていた。
 チアノーゼで彩色された肌。手足はだらりと便器の蓋の上から冷たいタイルに向けて垂れている。首には僕の指がめり込んだ跡が残っていて、口から舌がでろりと垂れていた。幼児に相応しく比重の高い頭。それを支える筋力は機能を止めていて、右へ左へとされるがままに転がる。
 死ぬ直前に大きく見開かれた目だったが、今は瞼が半分落ちていた。虚ろな瞳は半目のまま瞬きを止めてはいるが、まだ湿り気を残している。公衆便所の電灯の冷たい光と僕の姿を、無機質に返していた。

「……」

 僕は少女を持ち上げて、便器の蓋の上に座らせてみた。何者もバランスを取ろうとしないし、そこに留まらせようともしないのだから、それはすぐに倒れる。手足は無造作に重力に引かれて落ち、首もぐわんぐわんと安定しない。まだ体温を残した肉体だが、一切動かない。目は瞬きをしないまま。呼吸も心拍もない。ベロも収まらない。背筋を伸ばそうとすると頭が後ろにカクン、と落ちる。前に直すとお辞儀をするように体がくの字に折れた。便器につながる配管を背もたれのようにしてみるが、ラグドールな死体は右か左に重心がずれてズルリと転がり落ちた。さっきまでぴょこぴょこと動いていた足が、生気を失って逆様に床から生えている。掴んで持ち上げなおすと、掴んでいない方の脚と、両手、首、それに綺麗なブロンドが余りにも重力に対して従順に、垂れ下がった。
 もう一度、方向を正す。便器の蓋を上げてもたれさせ、便座に座らせてみた。幾らか安定感がある。ようやく安定して座位に収まった、少女。少女だったもの。紫色の顔と唇に虚ろな半目の人形が、そこにいた。顔以外の肌も、青白く染まっている。座らせたその少女と視線の高さを同じくして、僕は彼女と見つめ合った。色は少し変わってしまったけど、相変わらず可愛らしい。
 さっきは嫌がられたけど、今度は抵抗されない。物言わぬ人形になった少女に、口付ける。まだちょっとだけあったかい。収まりの悪い舌はあるけど、本物の彼女の唾液が、僕の口の中に広がる。舌を押し込んで、彼女の口の中を嘗め回した。そうしている間も、半開きの硝子目は瞬き一つしないまま僕を見続けている。少女へのディープキスを繰り返しながら、僕は彼女と視線を絡め合わせ続けた。両手で、両の肩を撫でる。抱き寄せるみたいにして、少女人形の体躯を腕の中に収めた。
 口だけじゃない、今なら、全身を好きなように、嘗め回すことが出来る。
 そう思ったとき、僕はもう彼女の体を、隅から隅までそうしていた。足の指の股。踝。アキレス腱。脹脛。膝小僧とその裏っかわ。太腿。お尻の肉、穴。腰骨のふくらみ。柔らかなお腹。おまんこ。わきの下。手の指。ヘソ。鎖骨。首すじ。耳の穴。鼻。目玉。乳首。ブロンドの髪の毛。何から何まで、僕のものだ。最初からこうすればよかった。最初からこうしていれば、愛おしい彼女を僕のものに出来ていたのだ。
 彼女が声を発した時に危機感で萎えたペニスは今、再び勃起していた。
 便座の上に座らされている彼女の肌は、今は青白く、粘膜は青紫に変色している。目は焦点の合わぬ様子で虚空に放り出されている。
 死体。死体だ。可愛らしい、ぬ絞い殺ぐ死る体み。僕は彼女の両足を掴んで無造作に左右に開く。
 失禁に濡れそぼった股間。恥丘が膨らんでさえいない幼いそこは排泄物に塗れているというのに余りにも美しい。そしてエロティック。僕は再びそこにペニスを擦り付けた。前後に何度か動かすと、あっという間に射精してしまった。摩擦によるより、目の前の余りにも可愛らしいぬいぐるみ人形への沸き立つ性的興奮と精神的な高まりによるものだった。

 生きている頃より、何倍も、エロティックだ。

 彼女の体に、自分でも驚くくらいに大量にかかった精液。短距離走の後みたいに切れ切れの息。急激に熱を持ち、まだ火照ったままの体。眩暈がするほどの興奮。それと、二度と手放したくないという執着。
 その世界で一番美しい人形を、僕は誰かにバレないよう自分の体で壁を作り、手早く洗面台で水洗いする。彼女を汚すことはこの上ない快感をもたらすが同時に、僕の精液が彼女の体に長く付着していることは後ろめたくもあった。全く人の体躯であるのに、どんなに扱っても二度と力に入らない、それは人形。僕はそれは都合よく持って来ていたスポーツバッグに詰めた。中身は、公園の植え込みの裏に捨てる。運がよければまた持って帰れるかもしれない。

 今は、この子が何より優先だった。







「……帰ろ」

 公衆便所の手洗い所で禊とは余りにも粗末ではあるが、彼女の体から僕の汚い精液を洗い流してハンカチで体を拭いバッグに詰め込みながら、僕はこれから戻らねばならない陰鬱な心境と向き合った。

 あの嗚咽の様な祈りが充満するアパート。天使様に助けてもらった命を更に存える揺籃であったとしても、それはもはや記憶に薄かった。他人事とも錯覚しかねないそれの前においては、あの揺り籠は檻の中にも等しい。今の僕ではそこから逃げることも叶わない。毎日毎日「僕のため」をかたって編織される気味悪色の祝詞に耳を塞ぎながら過ごす日々に、僕は有り体に言えば絶望を感じていた。所詮子供の狭量、幼稚な達観といわれるのだろうことがわかるくらいにはもう子供じゃない。でも、この檻を出られるかもしれない何年か先までの時間は、永遠にも思えていた。
 僕のため、僕が幸せになるため、僕の将来を願って、僕を、僕が、僕に。
 母の祈りは、本人の意図に反して呪いへ変容して僕の下に届くのだ。子供を思う母親だろう、それを差し引いても分別ある大人だろう、そんなことがわからないはずがないというのに、そこに全く理性など存在しないようで、僕は呪われたテグスで全身を巻かれている。
 もし、もし、この家の中の空気を「家庭の問題だから」という魔法を弾いて客観的に見る勇者が現れてくれるのなら、僕の不平は不平ではなくもっともな主張だと認められるだろうと、思うのに。

 「家の中の問題」とは、何故これほどに不治の病なのか。

 同じ男として若い頃に同じように思ったことがあるのかもしれない父親も僕の一縷の望みを抹消するのに十分、大人になるというのは過去を内包して成長するということと等価ではないのだと思い知らされた。それとも、僕のこうした窮屈な感情は、やはり異常なのだろうか。
 自分を「異常ではない」と主張するのには、それを自己否定するに十分な自覚があった。そうなれば、やはりこの家が平常で、僕の感覚が異常なのだろう。

 本当に?僕は異常なのか?こうして1+1がわかる程度には理性があって、その限りにおいては理性的に判断しているにも拘わらず、やはりその理性が迫す範囲は「ふつう」よりも狭いのだろうか?だが、そうでなければ、この状況に説明などつかない。そうでなければ、僕がこうして窮屈に感じている筈が、ない。

 僕が、異常なのだ。僕は、この感覚を持ったままここにいるのは、不適切なのだのに違いない。間違っているなら、誰か、否定してくれよ。

 母の呪いは、今、誰の制止も受けることなく僕にダイレクトに伝わって来ていて、僕の視界を暗く閉ざしていた。今の僕は、今を打開する何か偶然的な爆発、例えば恐竜を滅ぼしたかもしれない巨大隕石の衝突であるとかそういうものを望むしかないように思えた。祈りという点では僕の部屋の薄い壁を隔てて聞こえるものと変わりはないのかもしれない。そう思うと、やはり自分を正当化する意欲も削がれるのだった。やはり、間違っているのは、異常なのは、僕の方なのだ。

 僕は、彼女のもの言わぬ顔を真正面から見つめ、物言わぬからこそ愛おしい彼女の体を抱きしめる。手足はぶらりと僕の胸の中から零れ、首も座らぬままかくんと後方へ折れる。僕が、殺したから、に他ならないのだけれど、今の僕を支配するのは殺人への罪悪感ではない、ただ、こんな風に物言わぬ何者かにでなければ胸の内をひけらかすことが出来ない自分への不甲斐なさと、世界への呪いだった。

 スポーツバッグのチャックを閉めながら。その中に横たわる彼女の姿を見て、僕は向言葉をかける以外にないと思えていた。

「かえろう?」

 あるいは。

「それとも、どこかに連れて行ってくれる?」

 これがあれば世界と運命と過去を、違えるような気がした。







 唸声念仏が部屋に染み入って来ないようにぴっちりと戸を閉めて、僕はベッドに彼女を座らせた。しまむらで服を買い直してそれを着せてあげている。壁にもたれさせて、ちょうど僕の方を見るように。
 目が、乾いてきているようだったから、目薬を差してあげた。あふれた分をティッシュで拭き取ると元の瑞々しい瞳が蘇った。死斑が広がって来ていたし硬直も始まっていた。死斑はあっても彼女が可愛いことに変わりはないし、死後硬直はうまく使えば座りのいい状態を維持出来る。僕は彼女との数日間の生活を、心から楽しみにしていた。

 そのあとのこと?勿論、考えてるよ。

 僕はベッドに座り、彼女の横に並ぶ。すっかりと室温とな時にまで冷えてしまった彼女の体だけど、そのひんやりとした感触も愛おしさを誘う。肩を抱き寄せるとぽてりと僕の膝の上に倒れて来た。耳にかかるブロンドをかき上げて、まだ柔らかさを保っている頬を撫でる。唇に触れる。可愛い。
 死後硬直すると言われる丸一日位は、座らせたままにしておこうかと思ったけど、余りにも可愛くて我慢できない。そう、だって、こんな幼い子供なら筋肉量が少ない、どのみち強い硬直は起こらないかもしれないのだ、そう自分に言い訳して僕は名も知らぬ少女を横たえる。着せていた前ボタンのブラウス、そのボタンをは外して。さっき着せたのは僕なのだけど、こうしてボタンを外していく内に幼い体が徐々に露わになっていく過程は、僕を昂らせていく。ひとつボタンを外す度、我慢のボーダーが下がっていく。全てのボタンが外れたところでふわりとそれを払い、紫色の浮き始めたまったいらの胸に頬擦りした。
 冷たい肌は、少し弾力を欠いている。人形になってからしばらくして、彼女の体は掻き抱く僕の指の形を肌に残すようになっていた。残された時間は、そう多くない様だった。

 冷たくて愛しい人形を、抱きしめた。僕の、僕だけの。
 生れてはじめて「人間を」「思い通りに出来る」という恍惚。別のものに変える手段が、今は手の中にあった。そのことを最初に僕に教えてくれたのが、この子だ。あの日、突然僕の前に現れたのは、このことを僕に教えるために違いなかった。こんな僕でも、世界を変えられるって。

「愛してる、天使様」

 彼女は僕の全てだった。世界の単純な法則を教えてくれた。自信の種になる全能感というものを、くれたのだから。彼女は誰よりも僕の母親であって、誰よりも僕の教師であって、誰よりも僕の恋人であって、誰よりも僕の救世主だった。隣であてもなく泣きながらただ不平の祝福を謳い続ける母よりも、僕の方が余程に「うまくやれている」。そう思った。

 ベッドに彼女を横たえて、覆いかぶさったまま、僕は高まる性的興奮を抑えることが出来なくなっていた。こんなこんなちいさな女の子、僕のすることに抵抗できない無防備、僕に全てをくれたひと。抱きしめて、口付けて、愛撫したい。
 僕は膝立になって、彼女を見下ろした。彼女は、僕の目の前で固くなりかけている裸体を投げ出している。虚空を見つめる半開きの目。黒目は何処も見ておらず、だからこそ自分を見ているようにも思える。閉じていない口、その中に納まる舌、小さい歯が愛おしい。なだらかな曲線だがほとんど凹凸を描きもしない彼女の未熟なボディラインを、両手で撫でた。青紫に沈着する表面に、更に死斑の浮いた肌。冷たい、でも、その無反応と小ささと、死体故の無抵抗は、僕にとっては何のマイナスでもない、むしろ、興奮材料だった。

「ああ、可愛いよ、天使様」

 目の前に横たわる小さな裸体。生前透き通るほど白かった肌は青白く変色し、暗紫色の血管が浮いて見える。両手で腰を掴んで引き寄せた。興奮が高まってしまう。性徴を考慮から外しても決して濡れることのないあそこにペニスを添え何度か擦り付けると、やはりあっという間に達してしまった。愛液など滲むはずもないワレメに、精液を塗り込める。体温のない体では精液が凝固せずぬめりを保つ。
 奥の、方まで。
 生唾が、喉を下った。僕は自分の精液を指に取り、未開拓の筋裂の奥へ、それを送り込んだ。指一本でもきつい。受け入れの準備をしてくれるわけでもなく、剰え死後硬直が生じているのだ。でも、指から伝わるそのきつい締め付けが、堪らなく興奮を誘う。白いワレメの両端にも念入りに精液を塗り付ける。ぬめりが足りなくなったら彼女の細い太腿に亀頭を擦り付ければあっという間に追加の精液が出てくるのだ、それを使って、幼女死体の陰裂を十分に潤した。そしていよいよ挿入。相手に了解を取る必要もない、僕がいれたいと思った時に、何の遠慮も気遣いもなく挿入出来るきるのだ。こんな風に精液塗れにすることにだって、彼女は嫌悪感を示したりしない。僕の、自由。

「はあっ、はぁ」

 亀頭をワレメに押し当てるが、穴が小さ過ぎて入りそうにない。さっき指一本でもきつかったというのに、その穴に、指二本か三本分はある太い肉を押し込もうというのだから無理もない。でも、そのきつい合わさりをこじ開けて押し込む征服感。
 ここだ、と思った場所に穴はあったが、入り口が小さい。興奮でがちがちに固くなったのに任せて、僕は腰を押し出す。無理矢理幼い穴に捻じ込む。強い圧迫感、前後に揺らすと強い摩擦。幼児の小さな体は膣が浅い、先端はすぐに最奥に当たった。そこが行き止まりだとわかったら、それからはもう、乱暴だった。被いかぶさり、めちゃくちゃに腰を動かす。許容量を超え、潤滑液の分泌のない挿入、僕が腰を引いても抜けない。彼女の腰を掴んでまるで人体サイズのオナホール、奥まで押し込んだ時の圧迫感は亀頭をぎゅうぎゅう締め上げて、腰を掴んで引っこ抜けば雁首が捲り上げられそうなほど。

「っ、く」

 射精はあっという間だった。彼女の狭い膣の中に大量にぶちまける。勃起はまだ収まらない、そのままピストンを再開すると中に出した精液がぶちゅぶちゅと押し出されてきた。精液で潤滑が増して、抜き差しが楽になる。凶暴なほどの締め付けはぬめりを伴い粘膜同士のコスり合いらしさがようやく醸し出されてきた。それでも、セックスの相手は二次性徴さえない幼子、しかも死んでいる。でもそれだからこそ、僕みたいな人間でもセックス出来る。
 でも、命を失ったのは欠損だとは思っていない、ただの変化だ。生体から死体になっただけ。彼女は彼女だし、セックスはセックスだ。冷たく紫がかった肌の小さな体躯が、エロティックなのだ。

「もっと、もっと」

 腰を掴んでがつがつ乱暴に穴を使う。半瞼でどこにも投げられていない黒目が、僕が打ち付ける腰の衝撃で右に左に前に後ろに、めちゃくちゃに揺れる。腕もそうだ。腰を押し出すと彼女の頭はベッドに押し付けられて僕の手跡がくっきりと残る首を曝け出す。思わずしゃぶりついた。僕の指の後を押し返す弾力を失った首筋を嘗め回しながら、狭くてきつい肉穴を無慈悲な乱暴さで蹂躙する。小さなワレメはキャパシティを超えた抜き差しのせいで、縦に更に裂け目が広がっていた。どす黒い色に変わった血液が、溢れていた。それでも気にしない、気にする余裕なんかない。セックスがこんなに気持ちいいなんて。
 また、射精した。今度はおなかの上にぶちまける。ぷにぷにだったおなか、今は少し硬いけど十分だ。白い水溜りがヘソを中心に出来上がる。それを塗り広げるように擦り付けていると、また射精欲が高まる。際限がない。彼女のラグドールボディを見ているだけでも興奮は収まらない。半開きの口、半開きの目のままの顔にも、精液をたっぷりかけた。

「かわい、い、かわいいよ」

 彼女の体を抱き上げて、今度はベッドの端に腰を下ろした僕の膝の上、いやペニスの上に座らせる。まだ屹立したままのそれが、壊れかけの女陰に突き刺さる。両腕を回して抱き付くみたいにして、腰を揺らして彼女の体を揺らした。刺さったままのペニスに摩擦が生じる。僕はそのまま無心で腰を上下に揺らす。がくんがくんと暴れる彼女の首。舌が口からはみ出ている。余りにも愛らしい。大きな円柱形のオナホであるかのように乱暴に上下させたのち下へ打ち付けるように。同時に腰は上へ打ち上げる。

「くぁ……」

 再び、膣内出しした。
 さすがにこれだけ射精を繰り返すと、虚脱感が襲ってくる。彼女からペニスを抜き去って、再び。

 可愛い、可愛い。
 可愛い。
 可愛い、可愛い。
 可愛い。可愛い、可愛い。
 可愛い。
 可愛い、可愛い。可愛い、可愛い。
 可愛い。
 可愛い。
 可愛い、可愛い。
 可愛い。

 可







 散々に汚してしまった彼女と、一緒にお風呂に入る。湯船に入れると躊躇なく沈んでしまうので、彼女は洗い場で椅子に座らせることにした。壁にもたれさせて、湯船につかった僕の方を見るように。
 虚ろな目がこちらを向いている。僕は彼女と、飽きもせず、見つめ合った。

 湯船を出て彼女を抱き寄せて、精液で汚してしまった肌を丁寧に洗ってあげる。裂けてしまった股間は痛々しかったけど、それも仕方がない。血を洗い流して出来るだけ綺麗にしてあげた。シャンプーもしっかり。きれいなさらさらブロンドを洗って、トリートメントもしてあげる。お顔も洗ってあげた。洗顔料が目に入ると痛いだろうと慎重に。泡を洗い流した後は、タオルで眼鼻や口を避けて水気を拭ってあげる。綺麗になった体を、再び座らせて僕はまた、湯船から彼女を見つめる。
 
 こうしてお風呂で洗ってあげられるのも、ここ数日の間だけだ。きっとそれ以降は、皮膚が裂けてしまったりいろいろ損傷してしまうだろう。
 僕が思うに、これは、愛情だろう。幼女への?死体への?両方かもしれない。どちらにせよ、ただのダッチワイフ、ではない。死んでいるだけで人間である。人間であるし、同時に人間であるより彼女は僕の――

「きみが、あの時、助けてくれたんだよね」

 答えはない、ただ、濁り始めた目玉が、半開きの瞼の向こうから、僕を見ていた。







「そろそろ、かな」

 僕は本来の目的を、思い出した。それから、これはきっと、最後になるだろう覚悟も決めていた。彼女と一緒なら、それも悪くないかもしれないと。
 実のところ、彼女を略取したのはぬいぐるみ人形にして愛することが目的ではなかった。それは単に余りにも可愛い彼女を前にしてつい出来心でやってしまった事故にも等しい。本当の目的は別にあった。
 彼女を家にお迎えしてもう五日になる。さすがにもう腐敗が進んできていた。お風呂に入れてあげても匂いがきつくなってきたし、肌はボロボロ。おなかの中にもガスが溜まってるみたいで膨らんできていた。いつも僕を冷たく映していた目玉はいくら目薬を差しても潤いを保つことが出来ず乾燥しているし、眼孔も落ちくぼんできた。何度も口付けしている内に唇は固くなっていき、ついには破けてしまった。死斑の拡大は止まったけれども、寝かせているうちに背中の辺りの紫色はがすっかりと濃くなっている。
 つまり、僕は髪の毛が欲しかったのだ。自分の髪の毛をちまちまとラジカセに食わせ続けるのも、もう飽き飽きだった。だから僕は、そうじゃなくてもっと素晴らしい世界を編み込んだ、綺麗な髪の毛を求めていたのだ。そこに、あんな、想定を大きく逸脱する美女が現れて、髪の毛だけじゃ飽き足らなくなってしまったのだ。美容室のゴミでももらえば済んだかもしれないのに僕は、この世で一番素敵な人形を手にしてしまった。愛おしい彼女、運命的だった、だからきっと、彼女とは昔に会っている。僕がまだ幼かったころに、きっと、僕を救ってくれた天使様。でもこの五日間、彼女は結局一度も僕に言葉くれないままだった。
 僕ははさみを使って、死後五日たった今でも全く光沢を失わないブロンドヘアをひと房だけ切り取った。大人の髪の毛と違って細く、ふわふわ。晒されと指通りのいい美髪の束を得て僕は、それが再生してくれる音に胸を躍らせた。
 髪の毛を歯車に絡め、ヘッドを通し、もう片方に歯車へまわしてカセット入れ口を閉じた。
 あの日のことを、ミニチュアライズ、そして、再生。彼女に出会わなければ、僕の変質性は本当にただの妄執で済んだのかもしれない。だけど、そうはならなかった。僕は彼女を見付けてしまい、得、再生を試行するチャンスに恵まれた。

 再生?
 それは、停止の間違いじゃないのか?








 紙箱から出したインコは、まっくろの目で僕を見上げた。まだ幼鳥だ。足がもたもたと心許なくてそれが可愛い。飛んでいかないように風切り羽を少し切ってある。羽ばたくが飛び上がらず、もたつく足でテーブルの上を歩いていた。僕は、手を出す。まだ警戒心の強いインコは手に乗ってくるようなことはなかったが、可愛らしさは十分すぎる。手を伸ばして頭をつんつんと触るように撫でてやると、ふるふるふると頭を振ってから、少し、非難がましく僕を見た。ちゅん、硝子鈴を思わせる綺麗な声。もう一度手を出すと、今度はおずおずと足を乗せて僕の手の中に納まった。僕の手の中に納まるほどの小さい幼鳥、きっと可愛がって育てよう。

――そう思っていたのだ、その瞬間までは。

 僕は何かに突き動かされていた。そうしなければならないという、そうしなければ僕が殺されるというのっぴきならない強迫感だ。「だって!そうしなければ、いけないにきまっているじゃない!」毎日毎日朝から晩まで不可思議な祈りを唱え続ける母は、そういってそれを続けている。それが何かに「させられている」のであればきっとこれもそうしたものと同じ類のものだったに違いない。
 たった今まで可愛いいとばかり思って、一緒に過ごす日を楽しみにしていたというのに。

 僕はそのインコを、"握り潰した"。

 ギュルルル、硝子の鈴ばかりの綺麗な声が、細い管の中で水が暴れるくぐもった音に変わっている。僕が、押し潰しているからだ。羽を、足を、ばたつかせて、何とか逃れようとしたに違いない。これはこんな小さな鳥ではなくて、大人たちであったのならば、僕のこんなことを達成はさせなかっただろう。まだ子供の僕の力なんてたかが知れている。大人にとっては痛くなんかなくて、ただの悪戯か何かだと思われて終わるだろう。でも、彼女は、違った。僕が、殺したいと思ったその欲求を、素直に受け止めてくれたのだ。僕は前にもこうしたことがある。角を折り、足を捥ぎ、羽を毟って首を取った。それでもしばらく動いていたクワガタのことを思い出す。でも、インコは違った。握り潰して首を捻るともう、動かなかった。
 やっと、すべきことをうまくやり遂げた。そう思っていたのだけど、僕の中には今もって拭いきれない不安があった。僕は、十分に壊せただろうか。爽快感はない。僕は、僕自身がますます憎くなる。それでは……この子が救われないではないか。僕には、そう、僕にはまだすべきことがあった。

 まだ、すべきことが、いくつか。

 彼女の唇は、………のカタチを描いて、こわばる。







 サイレンが鳴り響いている。消防だ。どこかで火事があったのだなど、知れている、僕だ。いま、ぼくがいる、ここが、かじなのだ。
 炎の中というのは、炎が目まぐるしく激しく動きまわる激流を成しているというのに、音というものは驚くほど少ない。熱によって生み出された空気の波と、炎に飲まれたものが熱で変質する破砕音、それはこうして視界の中に広がる真っ赤の世界の脈動と奔流に比べれば、アンバランスなほど静かだ。
 見慣れた部屋も煙と炎に満たされれば、それなりの非日常を演出してくれるのだな。僕自身その炎煙に包まれ首を絞められながら、どこかさめざめと部屋の中を見回して、思った。僕の腕の中には、ラジカセ、聖櫃がある。僕は、再生ボタンを押した。カセットの挿入口には、あの金色の髪の毛を、食ませてある。
 1秒ごとに僕の肌を焦がし、熔かし、抉り取っていく猛烈な熱。静けさの中で再生される祝詞。ボリュームは最大で、炎で出来た神殿を、満たしていく、音。

「見せて、もう一度、その姿を」

 あの日の再現であると言えば、その通りだったが、それと同時に、これはピリオドのつもりだった。
 デコードしてみたら、結果は最高だった。最高、の他に言葉はない。言葉というメーターはもう、僕の中の喜悦を全量示すには振り切れてしまっていて役に立たなかった。やはり、彼女は、天使だった。
 スピーカーから溢れ出す音は、もはや世界を塗り替えるほどの万能色だった。埋めつくす炎の赤を飲み込むほどの闇、全ての光を重ね合わせて密合して崩壊した、残り香。それがこの闇だ。ハウジングの骨の合間から煙のように漏れ出る闇色の喜悦を、僕は溢さないように耳から飲み込んでいく。

 父と母の折り重なる死体に、残りのガソリンをかける。あっという間に周囲の炎を引き込んで燃え上がった。危うく、僕にまで炎が及びそうになる。僕は死にたくなかった、というわけではない。ただ、残り数分の間を存えて、確かめなければならないことがあったから。そのあとで、あの異臭をまき散らして燃える死体に+1するつもりだった。

「てんし、さま」

 もう腐り始めている少女人形を、炎の祭壇の上に祀る。祭壇は、後生大事に母の部屋にとってあった、僕が幼いころに収められていたベビーベッド。その中に、彼女の体を納めて儀式の準備は完了した。

「さあ、あの日の、再生」

 炎の巻き上がる中に、デコードされた異界音。ざりざりざりとざらついた大音量の祝詞が、祭壇を彩った。あんな嗚咽の呪いでは、天使様は振り向いてくださるはずがない。「泣く」という前意味的な訴えでは、天使様に願いは届かない。だから、僕はこうしたんだ。

「今一度、天使様。いや、氷の、女王」

 それを炎の中に見出そうとするのは、一見間違いである。だが僕は知っていた。思い出した。あの日僕を炎の海から救い上げてくれたのは、折り重なる氷の壁だった。何故そうなったのかなどわかりはしない。ただの気紛れであったのかもしれない。何故、なんて今はどうでもよかった。

 炎が、広がる。父親や母親だったたんぱく質が焼ける嫌なにおいが充満し始めた。家財や建築材が燃えて生じる有毒ガスが、炎とともに僕を追い詰めていた。逃げるつもりはない、あの日を再生出来るのか、それが僕の命題だった。おそらくそうはなるまい、僕はここで無意味に焼身自殺を完了するだろう。ただ一つだけ、聞いておきたいことがあったから。

「ばかな男」

 ベビーベッドの中から、声が聞こえた。
 ずる、ずる、腐敗しかけの少女の死体が、まるで溶け出すように形を失った。腐敗液のようにベビーベッドの柵の合間それぞれから流れ落ちる。手の一部であるとか、顔の一部であるとか、どこかの臓器の一つであるとか、そういう中途半端な崩壊を経た塊をところどころに含んだその液体は、意思を持ったように動いて僕が座り込んだ目の前に、水たまりを作る。その肉塊を含んだ腐敗液の蠢きは、不思議なことに周囲を取り囲む炎の赤を一切照り返していない。徹底的な黒、他の色さえ吸収して飲み込むほどの黒。浮いた指の破片、骨の切れ端、目玉、頭蓋の一部は液体の黒に飲み込まれて黒く変色していく。血肉骨を内包していた液体は、やがて真っ黒の水溜りにまで解け切っていた。コールタールのような荒っぽく細かい凹凸を残した黒水の溜まり。
 僕は予感した。成功だ、天使様は、氷の女王は、きたる。

 コールタールは高い位置からコップを逆さにして注がれる滝を、逆再生するように空中へ隆起していく。盛り上がっていく中で、ぶくぶくと泡立つように枝分かれを生じて、樹木の生長の映像を早回しで見ているような光景へ。そしてそれはいつしか人の姿に変わっていた。
 僕の目の前に作り上げられた人の姿は、そう、僕が首を絞めて殺した少女が大きく成長したのならこうなるだろうと思える、白皙、ブロンドは長く伸ばされて、憂し気の目は切れ長、黒をまとう衣服。折りたたまれた大きな翼は鴉のそれのように黒い。随所に飾られた赤は、ただの装飾というよりは血液、いや魂の生身思わせた。
 「それ」は、聖櫃≪ラジカセ≫から響く聖歌を従えるようにして、僕を見下ろして言葉をつないだ。

「チルノはもうあなたを助けたりしないわよ。」

 ちるの、そう言うのか、あれは。
 いや、そう言ったのか。

「ミスティアはもうあなたに懐いたりしないわよ。」

 みすてぃあ、そういうのか、あれは。
 いや、そう言ったのか。

「リグルはもうあなたの友達には戻らないわよ。」

 りぐる、そういうのか、あれは。
 いや、そう言ったのか。

 ちがう、僕が聞きたいのは、彼女たちの名前ではなかった。
 彼女たちは、僕に何を言いたかったのか。何を伝えようとして、僕の前に現れたのか。

「私は」
「いや、やっぱり、いいんだ、名前は」

 僕が制止すると、天使様は言葉を切った。きっとこの人は、昔僕を助けた天使様じゃない。でも、あの時僕は、僕や僕の家族は、天使様と接触してしまったせいで何かの歯車が決定的にずれてしまったのだろう。その接触を持ってしまったから、今こうして僕は、新たな天使様とまみえている。真っ黒の、闇色の、天使様。
 黒衣の天使様は、一滴だけ、悲しさを滴らせた険しい顔で僕を見る。

「本当に、ばかな男」
「いいんだ、もう。僕は、ただ、そっちに行きたい。それに、知りたいことは"それ"じゃないんだ」

 僕がそう言うと、真っ黒な天使様は僕を見下したまま何も言わずにいた。

「おしえて、教えてくれ」

 君は僕に何を、あの時、こと切れる前、その小さな口をふわりと動かして、彼女達は憐れむように僕に何を、言っていたんだ。

「あなたのすべきことはもう、幾つもない。それはもう、してしまったから。それはことごとく、違っていた。そうでしょう?だからこうして、諦めようとしている。」

 私の首を絞めたりね。愉快そうに、この火の海がまるでその応報であると言わんばかりに、愉快そうな声で。

 ラジカセは、燃えて爛れ落ちる僕の肉の接触、脂肪の焦げる匂い、炎に焙られた組織から注ぐ血と細胞液を受けながらなお、世界を紡いでいた。歯車は、回り続けている。だが高温に形を歪め、再生される世界のピッチは狂い、断続し、ノイズを乗せ始めていた。終わりは近い。
 煙は僕の肺を満たして意識を阻害する。聖櫃の破損と僕の終わりと、どちらが早いだろう。どちらにしても、終わりだ、僕は。

「あなたに許された言葉ももう、そう幾つもあるものではないわ。本当は私、それが欲しかったの、あなたの口から。でも、くれなかった。わからなかった?わからないはずはないわよね。だって、ほら、今あなたが手に持っているもの、それがスイッチなのだから」

――大丈夫ですか!?返事をしてください!

 消防隊の声が聞こえた。手につく燃えていない家具を出鱈目に、ドアの前に放った。窓もそうだ。そのバリケードが、冒涜者の手によって破壊されようとしている。いや、十分、間に合うだろう。そろそろ、終わりが見えてきた。ラジカセが奏でる福音も、最終ページを破り取られたまま、終幕を迎えようとしていた。

「だから、ヒントをあげる」

 天使様は僕の胸の中にあるラジカセを指さした。やはり、これはやはり、向こう側への道なのだ。通れるか?通れないなら僕は、単にここで焼け死ぬだけだろう。でも、どちらの結果になったとしても、かまわないと思っていた。
 僕は今一度、ラジカセに耳を傾けた。



 さいせい。ざざざざっ、ざっ、びーーーーーーずざ、っぎゅり、ざりっざざっじいいっ、さーー

 ようやく、僕はこのラジカセの奥から繋がる向こう側と

「なぜ」

 らンダムに離散する雑音

「を願いだから」

 おとが

「しんでしまう」

 えいえんに

 ていし、した。



 ラジカセの音が、途切れた。元々古かったこともあるだろう、もう、熱にやられて動きを止めていた。
 物言わなくなったラジカセのカセット入れ口を開き、僕はその中を覗き込む。今まで何度も捧げ続けた天使様の贋物は、そこには一本も残っていない。それどころか、歯車も、福音の解読器も、何も。ぽっかりと開いた、そこは、真闇。炎に照らし出されても何も照らし返さない。そこから溢れ出すのはひんやり冷たい風。繋がっている、向こう側に。だから。

「わかったよ」

 到底入る筈もないそこに、僕は額を押し付ける。
 もう、体の大半は火傷していて、感覚もない。動く部分もほとんどない。体全体をひねってそうしたつもりだけど、うごいたのは多分首くらいだった。僕自身がいきているのかだって疑わしい。だからまともな思考なんかそこにはなくて、ただ、だれかに僕自身を粉々に引きさいてほしいと願う悔恨、こんな風にしかせかいを解析することができなかった不全な理性への自嘲だけが、真っ黒に燃え残った炭みたいにくすぶっていた。
 こんな恥ずべき体をもって、もういちどこの世を回り続けるのなんか、まっぴらだ。

「天使様」

 真っ黒の翼を広げて炎のなかで僕を見下ろしている。真っ黒に焦げていく僕の体を、汚いモノを見るような目で、でも、どこかに憐れみを含んだ目は鬼灯みたいな真赤で、赤色のやみが僕を見下ろしていた。ほのおの赤を四方から受けているのに、あかの照り返しのいっさいない真っ暗の存在。……ぼくにはほんとうに見えているのか、彼女が?

「わかったよ」
「そうね、やっと」

 とおり抜けたかった、向こう側に、ぼくは、闇の中に。
 こんな風なじぶんでなくて、もっと、せめて、もう少しだけでもまともな自分になれる別の計算式が支配するばしょに、それが、この入口のむこうにあるのだと、僕は思っていた。おもうしか、できなかった。

 ちがう、ほんとうはただ、消えてしまいたかったんだ。
 さよならと、誰かにいいたくて、いってほしくて。
 たったそれだけのことに、理由を求めて。
 ぼくは ならなくなった らじかせを だきしめる

 かちり
 □

「……adieu」

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